独物語~ゆきのフォックス~   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

最近パソコンに向かってキーボートを打っていると、頭の中で『おっぱい』という単語が乱舞しています。また断面図という単語を見たときに、好きな声優さんが断面図を絶叫しながら言っているのが、脳内再生されました。

何か悪い病気にかかっていたのかもしれません。
そのせいか、テレビを見るとやたらと女性の胸部に目が行ってしまいます。


それでは、ご覧ください。




ゆきのフォックス 其之拾陸

 

 自転車は高校生の必需品である。

 

 

 日本で多くの人間が移動手段として使うものに車がある。長距離を移動できるかつ小回りが利くこともあって、多くの人間が利用しているが、高校生が乗っているようすは見られない。

 

 

 日本国では十八歳までは車の免許がとれないが、そもそも免許の取得を禁止している高校も多い。ならばバイクはどうだという話になるが、学生の小遣いでは原付でも十分高価であるし、バイトをするならば、残りの時間を遊びに使った方が有意義だろう。

 

 

 そこで話が出てくるのが自転車である。安価なものなら一万円以下で購入できるとともに、ガソリンもいらない。車検に金をとられることもないし、その気にならば何十キロも走ることができる。

 

 

 そもそも、公共交通機関が発達していたり、娯楽施設が集合していたりする場合は、バイクや車を使うよりは交通機関を使ったり、自転車を漕いだ方が経済的なメリットが大きい。

 

 

 故に高校生にとって公私に渡り自転車に乗ることが、最も合理的な選択なのだ。

 

 

 そんな便利な自転車であるが、大きな弱点が存在する。……疲れるのだ。自転車を漕ぐときに使う筋肉は、日常生活ではあまり使わない部分を使うせいもあり、日常的に自転車に乗っていないと大変な思いをする。普段から腿を上げて運動している運動部の連中ならばともかく、千五百メートル走っただけでヘトヘトになるような俺にとっては、自転車に長時間乗り続けるというのは、かなり筋肉に負担をかけることになった。

 

 

 どこかの誰かと違って、若さ溢れる俺の場合、筋肉痛は即日中にやってくる。もの凄い速さで並走する阿良々木先輩と、一晩中に渡りあちらこちらで走り続けた俺の筋肉たちは、現在進行形で有給休暇を申請してくるともに、「もう疲れたよ、パトラッシュ」と言って勝手に昇天しそうになっている。もう少し働けよ、俺の筋肉……。まだ十八年しか生きてないが、階段を上るのがこんなにつらいのは初めてだ。

 

 

 何よりも怖いのが、歩くだけで筋肉が深いところで、「やべぇよ、やべぇよ。オレもう筋肉痛になっちまうよ!」と訴えていることだ。明日どころか、今日の午後が心配である。

 

 

 おまけにあまり寝てないせいか、頭がふらふらして、廊下や教室が歪んで見えるので、歩きにくいことこの上ない。

 

 

 満身創痍な身体を引きずりながら、いつもの倍以上の時間をかけて教室に入ると、たくさんの瞳が一斉に俺の方へ向く。

 

 

 

「おい、ヒキタニ来たぞ、ヒキタニ」

 

 

「やっぱ、ほら、ヒキタニ君も疲れてるし」

 

 

「あの目の腐り具合は、絶対呪われてる。私には分かるね」

 

 

「いや、もしかしたらもう死んでいて、今はゾンビかもしれないぞ」

 

 

「腐った蜜柑理論によると、ヒキタニ君により、俺たちも腐り始める可能性が……」

 

 

「腐った! ねえ、誰が腐っているの? そして誰と誰が、マジで恋する五秒前なの? ヒキタニ君? 隼人君?」

 

 

 ……このクラスって、こんなに変な奴が多かったか? あと俺の名前を正しく言えるやつは居ないのかよ……。

 

 

 こそこそと話をしているクラスメイトをすり抜けて席に着くと、すぐさま机に突っ伏す。……眠たくて仕方がない、このまま午前の授業は全て寝てしまおう。

 

 

 

「ヒキタニ君、ヒキタニ君」

 

 

 

 ヒキタニなんて奴は、このクラスに居ただろうか。ほら、あれだ、アインシュタインと司馬遼太郎とグレゴリウス七世を足して、因数分解したみたいな顔をしている奴だ。ああ、あいつね。この前少しだけ話したが、酒を飲んで、薬をキメてレイブによく行ってたな。パンクロックが大好きで、二十一世紀にパンクなんて時代遅れなんて言ったらぶん殴られて、説教されたな。

 

 

 

「おい、ヒキタニ君」

 

 

 

 それにしても、いやな世の中になったものだ。世界は金と暴力にまみれ、嫌なことがあっても何も言えない。戦争はなくならないし、世間は働け、働けとシュプレヒコールをしてくる。その癖働いても、ボロボロに使われて捨てられる。……しかしたら働いて生きるよりも、適当に生きた方が幸せなのかもしれない。女と薬に溺れながら金切り声で歌って、最後にはライブ会場で死ぬ。……嗚呼、最高じゃないか。

 

 

 

「ヒキタニー」

 

 

 

 ならばさっそく、バンドを組まなければ。楽器の練習? そんなものはどうでもいい。ロックに必要なのは怒りだ。世間への不満をぶちまけることを第一に考えればいい。だから演奏の巧さなんて二の次だ。俺たちは叫び続けることが大事なんだ。……それでも担当だけは考えた方がいいな。そうなるとやはりベースか。ベースこそバンドの心臓で、曲に血液を送り出す役割だ。こんなに格好いいものはない。とりあえず、そのヒキタニをギターかドラムにしよう。

 

 

 

「おいっ」

 

 

 

 首筋に鈍い痛みを感じて顔を上げる。

 

 

 とりあえず正面を見ると、手を手刀に形に構えた戸部と、どこか呆れた表情の葉山が立っていた。武道館の夢は破れ去ってしまった。

 

 

 

「悪いな、戸部。このバンドのベースは既に埋まっている。ベースがやりたいのなら、どこか別の所へ行け」

 

 

「いや、バンドの話なんて全然してねーべ」

 

 

 

 どうも意識がはっきりせず、頭の中が浮遊感で満たされている。どうやら寝ぼけているらしい。

 

 

 

「あ? 一緒にバンドを組んで、武道館で楽器をたたき壊す話じゃなかったのか?」

 

 

「いやいや、もうその話はいいべ。……それより」

 

 

「それより、ヒキタニ君。昨日、あの後、何か変なことでもなかったか」

 

 

 

 葉山が戸部の言葉を遮って、俺に聞いてくる。

 

 

 

「変なこと……ね」

 

 

 

 あったと言えば、会ったような。垂直跳びで三メートル以上跳ぶ吸血鬼とか、狐に憑かれたのに呑気にラーメン食ってる女とか、ロリコンとか。

 

 

 

「夢で狐に追われたとか、階段から足を滑らせて落ちそうになったくらいだな」

 

 

 

 そう返すと、戸部は得心が行ったように「だべ、だべ」と繰り返している。一方で葉山は少し俯きながら「やはり、比企谷もそうか……」と考えに耽っている。

 

 

 

「やっぱヒキタニ君もそうけ? オレも夢であの白い女の子を見たり、夜中に狐の鳴き声が聞こえてきたり、朝学校に来たら、教科書が血塗れになってたり」

 

 

 

 「隼人君や優美子も、同じようなことがあったんだよなー」、戸部はそう続ける。

 

 

 

「特に教科書の方は優美子が怖がっていてな、今は結衣と日菜が付き添って保健室にいる」

 

 

 

 三浦には悪いことをしたな。案外打たれ弱いんだよな、三浦は。というか猫を被っているときより、素の方が可愛いのは、女子の宿命なのだろうか?

 

 

 

「比企谷、何か心当たりはないか?」

 

 

 

 葉山がその双眸をこちらへ向けて、はっきりとした口調で聞いてくる。

 

 

 

「知らねえよ、あれじゃないのか? あそこは神様の住処じゃなくて、妖怪の住処だったんじゃねぇのか? だから藪をつついて蛇が出てきたんだよ」

 

 

「いや、ヒキタニ君。それは違うんじゃねーの。あそこ神社だったし」

 

 

「そうでもないだろ、あそこにあったのは、狐の地蔵だろ。神様だとは限らないわけだ。……そもそも狐なんて悪さしかしないだろ。妖狐なんて、よく言われているもんだし」

 

 

 

 割と穴だらけな論理な気もするが、自信を持って言う。

 

 

 

「じゃあ、どうすんべ。マジで呪われてるじゃん、俺たち」

 

 

「ほっときゃいいだろ、ほっときゃ。妖怪だって暇じゃないんだ、一ヶ月くらいすれば、自然となくなるだろ。しばらくは不運な出来事が続くぐらいだ、大したことはない」

 

 

 机から数学の教科書を一冊取り出て開く。適当にぺらぺらとめくっていると、やはりというか、様々なページが血塗れになっている。こうなってしまってはもう数学を学ぶことはできないな。仕方がないな、全く。俺としては受験に向けてこれから数学をしっかり勉強していこうと思っていたが、これではどうしようもない。全くもって残念だ

 

 

 ……まあ、知っていたが。

 

 

 

「ほれ見ろ。絶対やばいって」

 

 

「知るか……、悪いがこんなのには、慣れてるんだよ」

 

 

 

 そう言って、再び机に突っ伏して眠りに入る。既に脳が睡眠体勢に入っているのか、眠りにつくまでに大して時間はかからなかった。

 

 

――――――― 

 

 

 旨そうな卵焼きのにおいで目を覚ます。

 

 

 目を開いて状況を確認しようとしたが、強烈な光が射し込んできて、上手く周りを見ることができない。軽く目を細めて目に入る光の量を調整しながら、だんだんと目を慣らしていく。

 

 

 まだ窓から入る光は強烈なままだったが、それでも教室内を確認が出来るようになってきたので、身体をひねるついでに教室内を見渡す。所々空席があるが、大多数が机をくっつけて、のんびりと弁当を食べている。

 

 

 どうやら昼休みまで寝ていたらしい。ということは四つほど授業をスルーしたわけだが、授業の挨拶をどうやって切り抜けていたか気になるが、まあいいだろう。

 

 

 

「もう、マジでやばい……。オレら呪われたかもしんねえ」

 

 

「いやいや、偶然だって」

 

 

「そんなことないべ、普通走り幅跳びで、手首なんて折らないべ」

 

 

「いや、そもそも大和は戸部のこととは関係ないだろ」

 

 

「だってほら、オレがその話をしたときに大和は大爆笑してたじゃん。きっとあの狐が起こって、大和に祟ったんだべ」

 

 

 

 話し声だけで戸部が会話しているのが分かる。話している内容が内容なので、ぼうっとする振りをして見ていると、現場にいるのは二人しかいない。あのでかい奴―-ラグビー部の大和がいない。どこかの屋根にでも上っているのだろうか。

 

 

 

「戸部は教科書以外、大したことが起きてないじゃん」

 

 

「でもさー、ヒキタニ君見てみ。あれ絶対呪われてる目をしてるよ……」

 

 

 

 どうやら大和がけがをしたらしい。……というかちょっと待て、体育があったのかよ。あれ出席しないとそれだけで、マイナスなんだよなー。しかも大体サッカー部が「ヒキタニ君はさぼりましたー」などと言って、勝手に俺の評価を下げてくる。あいつら何であんなに、積極的に人の評価をさげようとするだろうな。しかも体育でサッカーやってると、やたらとキレるし。

 

 

 

「なあ、ヒキタニ君」

 

 

 

 戸部たちを眺めていると、葉山が真後ろから声をかけてくる。

 

 

 別のクラスに顔を出していたのか、教室の入口から歩いてやってくる。ただいつもの葉山と違い、顔に浮かべている笑みが少し疲れているように見える。

 

 

 

「率直に聞くが、今回の件、お前はどこまで噛んでいる?」

 

 

 

 話しかけてきたときの気軽さが全く反転した、責めるような言葉で葉山は聞いてきた。

 

 

 

「ほとんど何もやってねえよ。きっかけをつくっただけで、あとは勝手に起こっただけだ」

 

 

「……本当だな」

 

 

 

 特に葉山を怒らせることを言ったつもりはないのだが、段々と言葉と目つきが険しくなっていく。そんな葉山の様子を察した近くの女子たちが、こちらを見て、ひそひそと話をし始める。

 

 

 

「本当だよ……。お前らが勝手に、良くわからないものを幻視しているだけだ」

 

 

「分かった……。だがな、もしそのことが嘘だったら、俺はお前を絶対に許さない」

 

 

 葉山はきっぱりと、周りに聞こえるような大きさで宣言する。

 

 

 それだけ言って葉山は、来た道を引き返して廊下に出ようとする。

 

 

 

「最後に一つだけ言っておくぞ。世の中は俺みたいに良い奴ばかりじゃないんだよ。悪い奴もいれば、普通の奴もいる。他人が嫌なことを平気でできる人間や、ばれなければ裏で何かやる人間もいる。お前が思っている以上に、世界は混沌としていて、誰も彼も楽しそうにしている裏で、誰かを疎ましく思っているんだよ」

 

 

 

 去りゆく葉山の背中に向かって声を掛けるが、葉山は何も答えずにそのまま廊下へ出て行った。

 

 

 まあ……、こんなものだよな。俺の場合。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

久しぶりに『化物語』を見ました。

あいかわらずガハラさんのデレと性格とおっぱいは素晴らしかったです。
また、あのように可愛らしくキャラクターを書きたいと思い、やる気が上がりました。

それでは、また次回。


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