今回は少し短めでお送りします。久しぶりにドラゴンボールを段ボールから出したら、久しぶりに本気ではまりました。
スラムダンクもあったよなぁ……、そういえば。
それでは、ご覧下さい。
学校から徒歩で十分程、通学路としてよく使われる大通りから入り、細い道を何度か通り抜けた先、近くには青々とした竹林と古びた住宅しか見当たらない所に、件の神社はあった。
外から眺めても、神社の周囲に植えられた松と、小さな鳥居ぐらいしか見つけることができない。ただ、本来鮮やかな朱色で彩られているはずの鳥居は、所々が禿げ上がるとともに、残りの大部分も色あせてしまっている。
率直な感想を言ってしまえば、神様が住んでいるというよりも、妖怪か何かが住んでいた方が納得してしまうほどのみすぼらしさだった。雪ノ下は一体どうやったら、こんな場所に辿り着いたのかと思ってしまう。
「ここが、ゆきのんがお参りした所で合ってるんだよね?」
由比ヶ浜も、俺と似たような感想を抱いたのか、この場所に対してあまり良い印象を持っていないようだった。
俺が提案した策については、細かい部分を詰めなければならなかったものの、思いの外あっさりと、近日中に実行することが決定した。俺が奇策士として活躍する日も近いのかもしれない。
そのため、その詳細を詰めていくために、俺たちは白狐さんの元々の住処へと足を運んだ次第である。
鳥居をくぐり、がたがたしている参道を突き進む。本来ならば真ん中は神様の通り道になるため避けて通らなければならないそうだが、持ち主がいないのだからこの際関係はないだろう。
境内には、石造りの参道の他には、朽ちかけて、今にも崩れそうな本殿と、設置されてから随分経ったのか、全体的に黒ずんでいる稲荷地蔵があるだけで、人工物は他に何も見当らない。
こうやって境内に入ってしまえば、周囲の音は、秋風が松を揺らす音によってかき消される。これだけ退廃していても、神聖さ生み出す要素はなくなっていないらしい。
このまま本殿を見てみようと思い、足を進めようすると、阿良々木先輩が近くに居ないことに気づく。
「なぁ、由比ヶ浜。阿良々木先輩を知らないか?」
「阿良々木先輩でしょ? 知ってるよ」
……会話がどこか噛み合わない。
由比ヶ浜は、俺の質問の意図が伝わっていないのか、首を傾げながら疑問符を浮かべている。
「そうじゃなくて……、阿良々木先輩が、どこへ行ったか知らないか?」
そう言うと由比ヶ浜は、辺りをきょろきょろと見渡すと鳥居を指さす。俺も目を凝らしてみると、阿良々木先輩は入り口で鳥居を眺めていた。何か思うところがあるのだろうか、そのまま動く気配が全くない。
「仕方ない、俺たちだけで、本殿を見に行くか」
由比ヶ浜が頷くので、本殿へと向かう。
木造の本殿は、雑誌で見るように塗装をされているわけではなく、むき出しのままだった。長年吹きさらされていたからだろうか、ヒノキのような、明るい色合いではなく、朽葉色になっている。まだ木が死んでいないからか、触ってみると若干湿っている。ただ、触ってみても、これが何の木でできているかは、さっぱり分からなかった。
せっかく来たのだから、賽銭でも入れようかと思ったが、賽銭箱も鈴もなく、建物の中が多少みることができるくらいだった。
そういえば神社の場合は、本殿と拝殿で分かれていたんだった。神様を祀るのが本殿で、人が参拝をするのが拝殿だったはずだ。そうすると、そもそもこの場所は、参拝客を対象としたものではないのかもしれない。
なんとなく振り返って、境内全体を見渡す。神社仏閣というと、落葉樹が植えてあり、秋には狂い咲く紅葉で溢れかえっているイメージが強かったが、ここには青々とした松の葉しか見えてこない。
だからきっと、ここは何も変わらないのだろう。春の包み込むような暖かさも、夏の降り注ぐ暑さも、秋の吹きすさぶ涼しさも、冬の突き刺すような寒さでも何も変わらない。百年前も百年後も変わらず在るのを想像すると、自分が遠くへ置き去られるような感覚にかられてしまう。
「特に、何もないね」
由比ヶ浜は俺と同じように辺りを見渡すと、そんなことを呟いた。
「まぁ、廃れていた神社わけだしな。それに主は今、留守しているからな」
主である白狐さんは、人間である雪ノ下に憑いている。いくら信者を増やすにしても、ここを留守にするようでは、何かダメなような気がするが、大丈夫なのだろうか。
ふと、阿良々木先輩が目に入る。今度は、稲荷地蔵の前でぶつぶつと独り言を言っている。
「阿良々木先輩、何やってるんだろうね?」
「……何だろうなぁ。何回か話して分かったが、あの人相当変わってるから、何をしててもおかしくないんだよな……」
「そうなんだよねー。影と話してたり、独り言を言ってたりしてるし。……あんまりヒッキーと変わらないね」
俺と阿良々木先輩を、交互に見ながら、なにやら不穏なことを言ってくる。
阿良々木先輩の独り言は、おそらく影に吸血鬼幼が住んでいるからだろう。創作での二重人格を現実にすると、おそらくこのような感じなのだろう。……あれ? そうなると俺の方が、重傷じゃないか?
「だ、大丈夫だよ! ヒッキーだって友達ができたし、真人間への道を歩いていけるよ!」
「友達って言ったって、人数はピッコロ大魔王の片手の本数以下なんだぜ」
あの「五秒で息の根を止めてやる」のシーンは、指が四本のままだったら、相当格好悪かったんだよな。片方の指を一本だけ立てているのは、想像するだけで笑いがこみ上げてくる。
そんな馬鹿な想像をしている内に、阿良々木先輩が俺たちの元へとやってくる。
「そうだっ、阿良々木先輩にも聞いてみよ? そうすれば、ヒッキーとの違いが出てくるかもっ」
おい、馬鹿、ヤメロ。それはお前以外、誰も得をしない。
「阿良々木せんぱーい。先輩って、どのくらい友達いるんですか?」
その瞬間、時が止まった。
こちらへ向かっていた阿良々木先輩は、由比ヶ浜の言葉によって、足を釘付けにされる。少し離れた所に棒立ちしているのを眺めていると、「だるまさんが転んだ」をやっている気分になる。
由比ヶ浜は、自分の言葉の威力をようやく知ったのか、口角が上がったままの表情で固まっていた。声を掛けたときに伸びた手が、行き場をなくしたままでいる。
さっきまでの吹きかけるような風も、いつの間にか止んでしまっている。そうすると、この場所から雑音が一切なくなり、聖域としてのふさわしい雰囲気になる。
女子の言葉が時を止めるというのは、本当だったのか。そういえば俺も、何回か止められたことがあったな。「はぁ?」とか「何言ってんの? チョーウケるんですけど」とか「キモっ!」とかな。男はいつか魔法使いになると言うが、女子はすでに魔法使いなのかもしれない。魔法少女とかあるし。
「ご、五人くらい……かな」
いち早く時間停止の鎖から抜け出したのか、阿良々木先輩がそんな寂しいことをおっしゃる。
その瞬間、俺の身体の縛りが解けるとともに、頬に何かがつたう。泣いてはいない、涙はすでに枯れている。首を巡らせると、由比ヶ浜の目から涙がこぼれるのが見える。五人という数は、俺からすれば途方もない数字だが、世間からみれば米粒ほどの小ささだろう。
「あ、安心してください……。ヒ、ヒッキーなんて女の子しか友達いないですし! それに比べると全然問題ないですよ」
「おい、人をさりげなく貶めるな」
友達が女の子しかいないなんて、そんな寂しいことをいうなよ。死にたくなるだろうが。俺だって男の友達くらい……、くらい……。
……笑えよ、ベジータ。
「ああ、そうだな……」
何故か阿良々木先輩も傷ついていた。なんかもう、地雷しか踏んでないな。
「そ、そうだ! 阿良々木先輩は、この神社を見て、どうでしたか?」
「……まぁ、いいか。比企谷、お前の案は、どうやらこの場所には最適だぞ」
微妙に引きずった表情のまま、阿良々木先輩はそんなことを言った。それとともに、俺の策が実行に移されることが、この瞬間に決定した。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次回からは解決編というか、名探偵コナンであれば麻酔銃を用意し始める段階くらいです。
一つ書きたいテーマができまして、せかせかとプロットを作っております。
二作品を同時に上げるかわかりませんが、それでも書くことは自分の中で決定しました。
それでは、また次回。