独物語~ゆきのフォックス~   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

書いている最中にいつも、「これ、クロスオーバーしてなくね?」と思ってしまいます。
実際に、今回も俺ガイルメンバーのみです。

あんなキャラとか、こんなキャラの絡みをたくさん書きたいんです。本当です。


それでは、ご覧下さい。


ゆきのフォックス 其之拾壱

「ただいまー」

 

 

「お兄ちゃん、お帰りなさい。正社員になる? 派遣社員になる? それとも、ア・ル・バ・イ・ト?」

 

 

 

 ……家に帰ったと思ったら、非常な現実を妹から突きつけられた。言った本人である小町は、「やだっ、小町的にポイント高い?」なんて呟きながら、両手を頬に当てながら照れた素振りをみせる。たぶん社会的にポイントが高いと思うぞ。

 

 

 

「お兄ちゃん、最近帰ってくるのが遅いねー。社会人になる予習でもしてるの? それとも、彼女でもできた?」

 

 

「お兄ちゃんは、小町がいる限り彼女なんて作りません」

 

 

 

 妹がいるのに、彼女を作る時間なんてあるわけないだろ。アニメを見て、本でも読んで、妹と仲良していれば、残りの時間なんて寝るぐらいだ。

 

 

 

「小町としてはー、早くお兄ちゃんの面倒見てくれる人が居てくれるとうれしいなぁーって思うんだけどね。結衣さんとか、雪乃さんとか」

 

 

 

 小町が愛猫のカマクラを撫でながら、実の兄の介護を拒否していた。お兄ちゃん、ちょっと泣いてもいいかな?

 

 

 あと、なぜその二人を例に上げる? 

 

 

 

「でもね、ホントにどうしたの? もう七時半だよ」

 

 

 

 小町はカマクラを撫でる手を止めて、こちらを見上げてくる。長年兄妹をやっているだけあって、小町は俺の変化には目敏い。いきなり背中に触れる手がなくなったカマクラを小町の方を向くと、何かを察したのか、どこかへ行ってしまった。

 

 

 

 どう言うべきか迷う。小町は雪ノ下に世話になっているし、お見舞いくらいは行かせるべきか。一応、雪ノ下に確認を後でとっておこう。

 

 

 

「雪ノ下が体調を崩していてな、由比ヶ浜と見舞いに行ってたんだよ」

 

 

「えっ、雪乃さん具合が悪いの? 雪乃さんは大丈夫なの?」

 

 

 

 小町の目尻が下がり、悲しげな表情に変わる。

 

 

 

「そこまで重くはないから、安心しろ。後で、お前がお見舞いに行って良いか聞いとく」

 

 

「うん、ありがとお兄ちゃん。でもね、お兄ちゃん、そんなことする勇気はないと思うけど、身体の調子が悪いのに、そこにつけこんだらダメだよ」

 

 

「大丈夫だ。これを機に、雪ノ下の弱みを握ることしか俺はしない」

 

 

「……ホント、捻てるね。お兄ちゃん」

 

 

―――――――

 

 

 夕飯を食べ、小町と一緒にテレビを見て、風呂を上がって部屋に戻るときには、すでに時計は、十時を回っていた。

 

 

 普段なら何か本を読むか、ゲームをして時間を潰すが、雪ノ下の件もある。多少なりとも宗教ついて、調べておかないと、明日は何もできなくなる。

 

 

 そう思って本棚を眺めてみるが、宗教関連の本なんて、今日日の高校生が持っているはずもなく、すぐに諦める。

 

 

 近くの寺か、教会に行って、話を聞けばいいのかもしれないが、見知らぬ人間と、宗教について話を咲かせる自信もない。

 

 

 

「八方手詰まりだな……、いや、まだ三方くらいか」

 

 

 

 思わず独り言を言いながら、ベッドに倒れ込む。白狐さんが要求してきたことは、俺たちの短い人生経験の外に位置していて、手を伸ばしたことがないからこそ、距離を掴むことができない。

 

 

 そういえば、雪ノ下に小町のことを確認していなかったな。

 

 

 ベッドから起き上がり、机の上に置いていた携帯電話をとり、メールの画面を開く。雪ノ下のアドレスは知っているが、今までメールを送ったことはない。

 

 

 少し悩んだ後に、指を動かし文章を紡いでいく。

 

 

 

『小町がお前のことを心配している。怪異の件は小町に話してもいいか?』

 

 

 

 一度内容を見直して、変なところがないのかを確認する。その後、送信のボタンを少しだけ躊躇して、そっと画面を指で押す。無機質な携帯電話の画面は、送信完了のアイコンも出すことなく、ただ明るい緑色のふきだしを、ホップアップするだけだった。

 

 

 なんとなく気恥ずかしくなってしまい、思わず本棚のマンガを一冊手に取る。机と一緒に備えられている、木製の椅子に腰掛け、マンガを開く。

 

 

 ページをめくり、絵と文字をなぞっている手を、ふと止める。

 

 

 机の片隅に置いていた携帯電話から、着信音が流れている。雪ノ下から返信が来たのかと思ったが、すぐに途切れず、そのまま流れ続ける。

 

 

 あまり聞いたことがないから、覚えていなかったが、そういえば電話着信の音楽は、こんなものだった。

 

 

 携帯電話を取り上げ、画面を確認すると、雪ノ下の名前が無機質に表示去れている。

 

 

 

「……もしもし」

 

 

『もしもし、比企谷君の携帯で正しいかしら?』

 

 

 

 雪ノ下とメールのやりとりをしたことはないし、電話なんてもってのほかだ。電話で聞く雪ノ下の声は、いつもよりも少しだけ高く、聞き取りやすい声だった。

 

 

「ああ、比企谷八幡で合っている」

 

 

『……そう。先ほどのメールの件だけれども』

 

 

「小町はお前の世話になってるし、できればお前のお見舞いくらいは、させてやりたいんだが……」

 

 

 

 雪ノ下が電話越しに考えているのが、息づかいで分かる。そういえば、俺たちがお互いの呼吸が聞こえるほど近くで会話をしたことがない。いつもある程度の距離をクッションにしながら、話をしていた。

 

 

 俺たち二人は、物理的な距離は遠く離れているのにも関わらず、今まで一番近づいて言葉を交わしている。そう考えると、どこか不思議な気持ちに包まれるとともに、心臓の鼓動が早まっていくのを感じる。

 

 

 

『そうね……。小町さんが心配をしてくれているなら、私も直接お礼を言いたいわ。けれども、怪異のことを話すことはやめておくわ。怪異に行き遭った人は、その後も怪異に惹かれるそうじゃない』

 

 

 

 臥煙さんも、似たようなことを言っていたな。噂が噂を呼ぶ。怪異を知ってしまえば、話さずにはいられない。人の口に戸は立てられないように。

 

 

 

「そうだな……。悪かったな」

 

 

『いえ、小町さんが心配をしていると聞いて、嬉しかったわ』

 

 

 

 そこで会話が途切れ、俺も雪ノ下も黙ってしまう。リビングから漏れてきたテレビの音声が、左耳から良く聞こえてくる。

 

 

 

『……ねぇ、由比ヶ浜さんは何か言っていた?』

 

 

「心配をしていた以外には、特に何も……」

 

 

『あなたにも、由比ヶ浜さんにも迷惑を掛けたわね』

 

 

「あいつは別に、迷惑なんて思ってないぞ。ただ、心配をしているだけだ」

 

 

「それでも、負担を押しつけたことには、変わりないわ」

 

 

『お前だって言っていただろ。自分の痛みは、自分だけのものだって。だからあいつは、勝手に手を出して、自分の意志で背負ったんだよ』

 

 

 

 由比ヶ浜は、そういうことを無意識に分かっているやつだ。自分が心配だから、手を貸して、一緒に泣いて、次の日に仲良く笑えるやつなんだ。そこで自分が傷ついても、誰かのせいにしたりしない。

 

 

 だが、それ以上の言葉は紡がない。雪ノ下ならば、残りは行間で理解できるはずだし、そもそも雪ノ下が自分で気付くべきだ。

 

 

 再び俺たちの間を沈黙が支配する。どういうわけか、今度はリビングから響く声は、俺の耳には届かなかった。

 

 

 

『……小町さんと、喧嘩をしたことはある?』

 

 

 

 少し躊躇した、ささやくような声が、俺の耳に流れてくる。

 

 

 

「めちゃくちゃあるぞ。高校に入ってからはしなくなったが、俺が中学の頃なんて、週に一回は喧嘩してたな」

 

 

『どんな風に仲直りをしたの?』

 

 

「大体は俺から謝ってたな。喧嘩のきっかけなんて小さなことだったから、俺が謝って、小町もそれに合わせて謝って、喧嘩両成敗みたいな感じだ」

 

 

『……そう、やっぱり仲が良いわね』

 

 

 

 その声音は柔らかく、電話越しに雪ノ下が優しく微笑んでいるのが想像できた。

 

 

 

「お前は、陽乃さんと喧嘩をしたことがあるのか?」

 

 

 

 いつものように、ここで話を終わっても良かったのかもしれない。ただもう少しだけ、雪ノ下と話をしてみたくなった。

 

 

『比企谷君と小町さんのように、喧嘩したことはなかったわ。いつも姉さんが私をからかって、それを私が無視していただけよ』

 

 

 

 それ光景は、俺が初めて陽乃さんに会ったとき近いものだろう。

 

 

 ただ、この前に陽乃さんの性格の一片に触れたときに感じたが、陽乃さんは雪ノ下のことを嫌ってないと思う。少し歪んではいるが、それでも姉として、妹のことをしっかりとみている。

 

 

 

『だから、姉さんと仲直りをしたこともないわ。そんな関係が当たり前だったから、喧嘩にもなっていなかったのかもしれないわね』

 

 

 

 雪ノ下は、自虐的に呟いた。

 

 

 深く椅子に腰掛けていたのを、浅めに座る。それまで背中に当たっていた、堅い木の感触が首筋へと移り、視線が天井へと向かう。

 

 

 

「陽乃さんと、怪異について何か話をしたのか?」

 

 

『えぇ……。ただ、姉さんは私を責めることをしなかったわ』

 

 

 

 そういえば陽乃さんは、雪ノ下が原因だと気付いていながら、雪ノ下を手伝って欲しいと言っていた。ならばきっと、そんな対応をしていてもおかしくない。

 

 

 

『だから……、兄妹でしっかりと仲直りがことが、羨ましいと思ったの』

 

 

 それは、雪ノ下にしては珍しく、羨望の色が混じった言葉だった。

 

 

 ならば、たまには俺も、柄には無いことを言ってみようと、どういうわけか思った。

 

 

 椅子から立ち上がり、ベッドの上に腰を下ろす。そして背中を壁にべったり付けて、体育座りをする。そうしてやっと、早まっていた心臓が落ちつき始める。

 

 

 

「……むしろ俺は、お前に憧れていたぞ」

 

 

『それはどういうこと?』

 

 

 

 雪ノ下の声が、険しいものに変わる。その声に一瞬、身がすくんだが、それでも続ける。

 

 

 

「お前の正しさに、惹かれていたんだよ。だから勝手に理想を重ねて、憧れてたんだ」

 

 

『……あ、あなた、自分が何を言っているのか分かっている?』

 

 

「……ほっとけ。でもやっぱり、違うんだよな。お前だって、普通の人間なんだよな。普通に怒って、当たり前に笑って、たまに人を羨んで、時々嘘をつくんだよな。……勝手に神様みたいに、思っちゃいけなかったんだ」

 

 

 

 雪ノ下は、俺が何について、言及をしているのか気付いているだろう。

 

 

 これはある種の懺悔だ。過去をやり直すことはできないから、ここで雪ノ下の許しを得ようとしている。

 

 

 

『そうね、私も隠してはいけなかったし、もっと比企谷君と話し合えばよかった。そうすれば私たちはもう少しだけ、優しい関係になれたかもしれないわね』

 

 

「そうかもしれないな」

 

 

 

 これはもしかしたらの話だ。覆水は盆に返らないし、起こしてしまったことは、どうしようもない。お互いにそのことを分かっていながらも、話さずにはいられない。

 

 

 

「だからね、比企谷君……。もう一度、私たちの関係を始めましょう?」

 

 

 

 雪ノ下が、一度大きく息を吸うのが聞こえる。

 

 

 

「比企谷君。あの時はごめんなさい。謝るのが遅くなったのも、本当に申し訳ないわ」

 

 

 

 ……その声は、俺が知っている雪ノ下の声で、もっとも真摯だった。

 

 

 

「俺の方こそ悪かった。雪ノ下に俺の理想を勝手に押しつけていた」

 

 

 

 雪ノ下の言葉に押されたのか、ずっと言わなければいけないと思っていた言葉は、すんなりと口から出た。

 

 

 そうして俺と雪ノ下は、ようやく向き合うことができたように思える。

 

 

 いろいろまちがえて、すれ違って、迷って、ようやく俺たちは、お互いの姿を捉えることができたのだ。

 

 

 

『……私思うのだけれど、たぶん私たちが友達同士であったのなら、こうはならなかったと思わない?』

 

 

「そうだな……」

 

 

 

 雪ノ下が何を言いたいのかは、とっくに分かっているが、それを指摘しない。というかあいつ、人を誘うのが下手すぎるだろ……。

 

 

 

『だから比企谷君、……私と友達になってはくれないかしら』

 

 

 

 それは、俺がずっと誰かに言ってもらいたくて、でも誰にも言ってもらえなかったから、色々な理由をつけて、いつの間にか諦めていた言葉だった。

 

 

 心臓が早鐘を打っているのが分かる。頬を触ってみると、火傷しそうなくらいに熱かった。鏡を見れば、きっと真っ赤な顔をしているだろう。

 

 

 

「お、俺も……、お前と友達になりたい」

 

 

 

 上擦りそうになる声を抑えながら、俺もその言葉を口にする。言葉というのは大事だから、しっかりと雪ノ下に伝わるように言う。

 

 

 

「そう……。これで、私たちは友達ね」

 

 

 

 ずっと望んでいたことは思ったよりも簡単で、しかし心の中に温かく、ふわふわしたものが広がっている。

 

 

 

『早速で悪いけれども、一つお願いをしてもいいかしら?』

 

 

「できる限り、簡単なやつで頼む」

 

 

『ふふっ、あなたの身体一つあれば足りるから、安心しなさい』

 

 

 

 一体何をやらされるんだ? 俺を生贄に捧げて、何か召還でもするのか? 

 

 

 

『ねぇ、比企谷君。私に憑いた怪異を祓うのに、手を貸してはくれないかしら?』

 

 

「……ははっ」

 

 

 

 雪ノ下の言葉に思わず、笑ってしまう。

 

 

 

『何がおかしいの?』

 

 

「い、いや、やっぱりお前は、雪ノ下だなって思ってな」

 

 

『ごめんなさい、あなたが何を言っているのか、全く分からないわ』

 

 

 

 相手に全てを任せるわけではなく、本人の問題は、自分で解決させる。それが奉仕部の、いや雪ノ下の考えだった。

 

 

 誤解をしている部分はあったけれど、それでも、しっかりと雪ノ下を知ることができていたことが、嬉しかったのだ。

 

 

 色々とまちがえていた俺たちだったが、それでもその中にも、正しいことがあって、俺たちの約半年間は、全てすれ違っていたわけではなくて良かった。

 

 

 

「大丈夫だ。俺の勝手な感想だ」

 

 

『そう、ならいいわ。また今度、その感想とやらをしっかり聞かせて頂戴』

 

 

 

 ……やっぱり間違えたかもしれない。

 

 

 

『……それで、返事はどうなのかしら』

 

 

 

 そういえば、まだ言ってなかったな。ここまで雪ノ下に色々言っておきながら、正直に言うのはどこか恥ずかしい。

 

 

 

「それじゃあ、また明日」

 

 

 

 きっと雪ノ下なら、この意味を理解してくれるだろう。

 

 

 

『おやすみなさい、比企谷君。また、明日』

 

 

 

 雪ノ下は優しく、慈しむような声で挨拶をした後、通話を切った。

 

 

 

 俺の意識が眠気によって奪われるまで、その声はしっかりと携帯電話をあてていた、右耳に残り続けていた。

 

 

 




ご覧いただき、ありがとうございます。

なんというか、ようやく一つの区切りがつけられた気がします。まだ全然完結してないですけど……。

最後のセリフは、俺ガイル原作六巻から軽く引用させてもらいました。
原作を読んだ方は分かると思いますが、見てない方は是非、小説かアニメを見るか読んで下さい。個人的に凄く萌えたセリフです。


それでは、また次回。

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