俺ガイルと物語シリーズのクロス小説になります。両方とも私の好きな作品で、ぜひクロスオーバーさせたいと常々思っていました。
時系列としては九月の新学期が始まってから一週間くらいです。俺ガイルだとこの後文化祭が始まりますが、そちらは物語シリーズに合わせて六月にやってしまった設定です。
拙い文章ですが、喜んで頂けたら幸いです。
「『走れメロス』を読んだ私の感想」
『走れメロス』の最大の教訓は、いくら友人とはいえ、都合良く使われるときは、使われるということである。メロスの身代わりとなったセリヌンティウスは、その後三日間に渡り、死の恐怖と戦うことになった。それは如何なる罪だろうか。いやセリヌンティウスは何もしていない。罪を犯したのはメロスであり、必死になって走り続けたのは、自らの都合だ、言ってしまえば当然のことである。
この話を美談としてよく使われているが、真相は全くの逆だ。セリヌンティウスの友情を、親切心を、覚悟をメロスが使ったのだ。自らが負うべきものを、セリヌンティウスに押しつけたのだ。真に相手のことを思うならば、そもそも巻き込まない。擦り付けられる程度の友情だからこそ、この物語は成立したのだ。
偉大なる太宰先生はもしかしたら、セリヌンティウスのような、都合の良い友人を作れと言いたかったのかもしれない。
追伸 妹の結婚式なんて存在しない。存在しないのだ。
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「私も新学期そうそうから、呼び出しはしたくなかったのだがな……。世の中には、言わなければいけないことが多々あってだな」
俺が提出した読書感想文を、一字一句違わず読み上げ、机の上に大雑把に置いた後、平塚先生はそんなことを言った。
季節は九月。夏休みも明け、様々な理由で憂鬱になっている俺とは違い、クラスの奴らはいつもと変わらず騒がしい。日焼けがどうだの、海に行っただとかをいつまでも話しやがって。あいつら何でそんなに外出してるんだ。夏休みって基本家にいるものじゃないのか。
新学期が始まってから一週間、ぎりぎりになって終わらせ、滑り込むように提出した宿題も、特に問題はないのかと安心しきっていた所で、昼休みに呼び出しを受けた。上げて落とすとは、平塚先生もなかなかやる。
「今回は多少控え目であることが、それでも酷いことには、変わりない。弁明があるなら言ってみろ」
「あ、あれですよ。世の中この話を美談で語ることが多いから、そこに一石を投じると言いますか……」
「一石を投じたいなら、然るべき所に提出しろ」
平塚先生は机の引き出しから書類を出すと、こちらへ見せてくる。えっ、もう一回書かなきゃいけないの。
あからさまに嫌な顔をしていたのか、わざわざ書類をこちらに渡してくる。
「こちらとしては残念だが、再提出をさせることはない。安心しろ、これは感想文とは別件だ」
「部活動申請書?」
渡された書類をよく見てみると。すでに部活動名に、奉仕部の名前が書かれている。部長の欄には、女子特有の丸文字ではない、丁寧な楷書で雪ノ下の名前が書かれている。いかにも雪乃下らしく、飾っている形が一つもない綺麗な字だった。
「奉仕部の部員が三名になったが、副部長をまだ決めてないことを上から言われてな。比企谷か由比ヶ浜のどちらかにやってもらわなければならない。まぁ、社会に出たら、意味の無い肩書きなど幾らでもある。これも社会勉強だと思え」
「うげぇ……」
だから社会人にはなりたくないんだよ。役職をもらってしまったら、死ぬほど残業するんだろ。そのくせ給料は変わらないし、責任も負わされる。良いことなんて、ほとんどないな。……やはり俺には専業主夫になるしかないな。働くこと、ダメ、絶対。
副部長といっても、おそらくやることは今までと変わらないとだろう。そもそも申請関連ならば、雪ノ下が知らないうちにこなすだろう。由比ヶ浜なら、副部長の肩書とか好きそうだ、部活の時に話をしてみるか。
それで平塚先生の用事は終わったらしい。平塚先生は机の上に置いてあった、ビニール袋から焼肉弁当とコーラを取り出し始まる。……男前すぎて、自然と涙がこぼれてくる。
壁に掛かっていた時計を見ると、昼休み後の五限までにはまだ時間がある。まぁ教室で寝ていれば、簡単に潰せる程度の時間だ。
ちなみに、ぼっちで最も必要なスキルは、体内時計のみで起きることである。これがなければ移動教室や体育の時に遅刻することになる。つまりぼっちは、自己管理の能力が高いということである。故に、ぼっちとは世界で最も、己と戦っている生き物と言えるだろう。……あまり敵がいないしな。
「比企谷君。携帯電話を落としたよ」
職員室を出る直前で、知らない声が聞こえた。というか今、俺の名前言ったのか。見知らぬ他人に声をかけられるとは、ステルスヒッキーの名が廃るな。麻雀をやったら、簡単に振り込みそうだ。
振り返ると、やはり見知らぬ女子が俺のスマホを持っている。というかスゲーこっちの目を見ている。何なの? 好きになりそうだから、やめて下さい。
肩まで軽くかかる位の、ふっくらとしたショートカットに、整った顔立ち。雪ノ下とは正反対で、見るからにこちらを和ませるような雰囲気を持っている。全く着崩していない制服もその要因の一つだろう。何より、服の上からでもはっきりとその大きさが分かる胸が素晴らしい。巨乳というと、多少形が悪いイメージがついていたが、むしろ印象としては全く逆であった。もしかしたら、この世にブラジャーなんて必要ないんじゃないのだろうか。どうしても必要な時には、この僕が支えれば問題な・・・・・・。
・・・・・・とてつもない変態の電波を、受信してしまったらしい。一瞬意識が飛んでしまっていた。
「あ、ありがとうございましゅ」
スマホを渡される時に、一瞬だけ手に振れてしまい、驚いた拍子に噛んでしまった。本気で恥ずかしくて、顔を見れない。
「今度は気を付けてね」
その人は優しく言うと、平塚先生の所へ向かっていってしまった。向こうが全く気にしていないことが、余計に悲しい。
「おぉ、羽川か。借家の方は見つかったのか?」
「はい。なんとか落ち着くことができました。何日間か休んでしまって、申し訳ございません」
そんな会話を聞きながら、俺は職員室を後にしたのだった。どうやら、恋というのは簡単には生まれないらしい。
ゆきのフォックス 其之壱を読んで頂いてありがとうございます。
基本的に、八幡視点で進めるため、物語シリーズのキャラクターは常に出るわけではありません。
本格的にクロスするのは其之參になると思います。
P.S
完結がどのくらいになるか全然分かりません。漢数字足りるのかな。