剣の丘に花は咲く   作:五朗

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シエスタ 「わたしのターンっ! フィールドカード『風呂場』をセット、『奔放な少女』を攻撃表示で召喚っ! 『主人公補正の男』へ攻撃っ!」
士郎   「くっ。ならば、魔法カード『過去の思い出』を手札から発動っ! 『奔放な少女』の攻撃を無効化っ!」
シエスタ 「……やはり一筋縄ではいきませんか……。カードを一枚伏せてターン終了」
士郎   「ふぅ……。『過去の思い出』のカードのため、このターンは攻撃は出来ない……なら、装備カード『紙の理性』を『主人公補正の男』に装備、ターン終了」
シエスタ 「……『紙の理性』? 一体……」


 迫るシエスタ、躱す士郎。追い詰められた士郎は『紙の理性』を『主人公補正の男』に装備させるっ! 『紙の理性』とはっ一体どんな力があるのかっ! 手に汗握る戦いは佳境を迎えるっ! 士郎はシエスタの猛攻を耐え切れるのかっ!?


 小劇場Ⅰでした。
 それでは、本編をどうぞ……。




第四話 錯綜する思い

 魔法学院の東の広場、通称“アウストリ”の広場のベンチに腰かけ、ルイズは一生懸命に何かを編んでいた。春の陽気が、いつしか初夏の日差に変わりつつある今日だが、ルイズの格好は春の装いとあまり変わらない。この辺は夏でも乾燥しているのだ。

 アルビオンから帰ってきて、十日ばかりが過ぎていた。今はちょうど昼休み。食事を終えたルイズは、デザートも食べずに広場にやってきて、こうやって編み物をしているのだった。ときおり手を休めては“始祖の祈祷書”を手に取り、白紙のページを眺め姫の式に相応しい詔を考える。

 周りでは、他の生徒たちがめいめいに楽しんでいる。その光景をちらりと横目で眺めたルイズは、せつなげにため息をつくと、作りかけの自分の作品を見つめた。

  

 

 

 さてここでなぜルイズが編み物をしているかというと、それには深い? 理由があった。

 アルビオンの一件で、ルイズは士郎への恋心を自覚したことから、魔法学院に帰ってきてからずっとルイズなりに士郎にアプローチをかけていったのだが、士郎の反応は芳しくなかった。それでも出来るだけ士郎と一緒にいようとルイズは思い、特に用事が無い時は、ほぼ士郎と一緒にいるようにしたのだが、その結果とあることが判明した。

 

 

 

 それは、士郎は狙われているということだったっ!!

 

 そう、士郎は狙われていた……少なくとも3人の相手から士郎は狙われていることにルイズは気付いた。

 

 

 

 一人はロングビル――大人の色香を香らせる、大人の女性。魔法学院学院長の秘書を務める程の才女であり、魔法の腕もトライアングルクラスと素晴らしい。なにやら昔、それなりに高貴な貴族だったという噂があり、なるほど、どこか気品を感じさせるミステリアスな雰囲気を持つ女性である。

 

 二人目はキュルケ――言わずと知れたツェルプストー家の女だ。ツェルプストー家は代々、わたしの家、ヴァリエール家の恋人を奪う仇敵である。そのツェルプストー家の女であるキュルケが士郎にコナをかけてきているのだっ! ……でも最近は、なぜかおとなしいのだが、どうしてだろう? ちょっかいをかけてこないのはいいことなんだけど、何故か嫌な予感がするのよね……気のせいだといいんだけど。

 

 三人目はシエスタ――魔法学院にいるメイドの一人なのだが、最近士郎にちょっかいをかけてきているのだ。食事を持ってきたり、稽古をする士郎にタオルを持って行ったり……わたしがしようと思っていたのに……。しかも、あの子は、こ、こともあろうに、士郎の身体にじ、自分の胸をわざと押し付けたりっ! 何あれっ! 当てつけっ!? 当てつけなのっ!!

 

 

 

 そういうわけで、わたしは焦っていた……あの三人と違ってわたしには何も無い……ロングビルのような知性も、キュルケのような色気も、あのシエスタっていう子のように料理の腕だってない……。

 何かないかと思って、趣味の編み物をやってみてはいたものの……

 

 

 

「はぁ……ほんっと、わたしって才能ないなぁ……」

 

 わたしが自分の“作品”を見つめてため息を吐いていると、急に肩を叩かれたわたしは、ビクッと体を震わせ、手に持った“作品”を胸に押さえつけるようにして隠しながら慌てて振り返った。

 振り返ると、目の前には、わたしの大げさな反応にびっくりした顔をしたキュルケがいた。

 

「なっ、何よキュルケ。何かよう?」

「え? えっと、別に特に何かっていうわけじゃないのだけど。ちょっと聞きたいことがあっただけよ」

 

 わたしが“作品”をキュルケから見えないようにゆっくりと移動させていると、キュルケの視線がわたしの隣り、“始祖の祈祷書”に移った。

 

「? 何よこれ?」

「あっ」

 

 キュルケはわたしが止める間もなく“始祖の祈祷書”を取り上げると、パラパラとページを捲っていく。

 

「何なのこれ?何も書かれてないじゃない? ゴミ?」

「なっ! なんて事言うのよキュルケっ。これは“始祖の祈祷書”よっ、聞いたことぐらいあるでしょっ! 国宝よ国宝っ!」

「えっ?」

 

 わたしの言葉に驚いたキュルケは、持っていた“始祖の祈祷書”を手からポロリと落としてしまう。

 

「っっっ!!??」

 

 キュルケの手から落ちた“始祖の祈祷書”を、何とか地面に落ちる前に確保したわたしは、流れる汗を拭うと、キュルケに食ってかかろうとした。しかし、いつの間にかキュルケは、“始祖の祈祷書”の代わりにわたしの“作品”を手に持っており、それに気付いたわたしは、思わず体が固まってしまった。

 

「きゅっ、キュルケ……」

「何でそんなものルイズが持っているのよ?」

「い、いや、それよりも」

「あっ……そう言えば、トリステインの王家の結婚式で始祖の祈祷書を使うって聞いたことがあるわね」

「だからキュルケ」

「あなた、確かトリステインの王女と仲が良かったわね? もしかして、今度の結婚式であなた何かやるの?」

「いやだからっ! わたしの話を聞けぇぇぇっ!!!!」

「何よ?」

 

 キュルケは、いつの間にか手に持っていたルイズの“作品”を弄びながら、ルイズが始祖の祈祷書を持っている理由を推理している。しかし、自分の隠していた“作品”を、いつの間にか手に入れていたキュルケに戸惑っているルイズには、その言葉は届かなかった。

 何度もルイズがキュルケに話しかけるも、全て無視されたルイズは、ついに切れて叫び声を上げてしまった。そこでやっとルイズの言葉に気が付いたキュルケは、突然大声を上げたルイズに、訝しげな表情が浮かんだ顔を向けた。

 

「そ、それ……どうしてあなたが持ってるのよ……」

「ん? これのこと? どうしてって、あなたが落としたから拾ってあげたのよ」

「落としたって……あっ! あの時」

 

 キュルケの言葉でルイズは理解した。先程、落ちる始祖の祈祷書を掴むために咄嗟に動いた瞬間、落としてしまったのだ。

 

「でも何なのこれ? ……ヒトデ?」

「セーターよっ!! なんでヒトデなのよっ!?」

「何でって……はぁ……これのどこがセーターなのよ……」

 

 キュルケはわたしの作品を持ち上げ、まじまじとそれを見ると、疑問の声を上げる。それにわたしが怒鳴りつけると、キュルケは目を丸くしたあと、呆れた顔をしてため息を付いた。

 

「セーターねぇ……どうせシロウに編んであげてたんだろうけど……これは渡さない方が無難じゃない?」

「むっ……わ、分かってるわよそのくらい……」

「ならいいんだけど」

 

 わたしはキュルケから顔をそらしてむくれていたけど、キュルケが話しかけてきた時のことを思い出し、ふくれっ面のままわたしはキュルケに声をかけた。

 

「そういえば、わたしに聞きたいことって何よ?」

「えっ! ええ~と……それは……」

「? どうしたのよキュルケ?」

 

 わたしが声を掛けると、キュルケは急にもじもじとし始めた。

 

「は、本当にどうしたのよキュルケ?」

 

 わたしが今までに見たことがないキュルケの態度に戸惑っていると、キュルケはもじもじとしながら、赤く染めた顔を背けてわたしに話しかけてきた。

 

「その……シロウのことなんだけど……」

「はぁっ!! シロウのことっ! 何よキュルケ……シロウがどうしたのよ……」

 

 キュルケの口から士郎の名前が出た瞬間、緊急警戒警報が頭の中に響きわたる。急速に嫌な予感が高まりつつあるのを感じ、思わず手に力が入り、ミシミシと国宝である“始祖の祈祷書”から嫌な音が聞こえてくる。しかし、キュルケはそんなわたしの様子に気づくことなく話し続ける。

 

「ほらっ、最近よくシロウに話しかけてるメイドの子がいるじゃない? あの黒髪の」

「……シエスタのこと?」

「そう……シエスタっていうの。ま、まあ、その子がさっきシロウと一緒に外の物置の方に行くのを見たんだけど。ほら、最近あの子、よくシロウと一緒にいるじゃない」

 

 別に気にしてなんかいないわっ、とでも言うようにそっぽを向いて話していたキュルケだが、バッ、と唐突にルイズに振り向くと一気にまくし立て始めた。

 

「べっ別にっ! ふっ不安になったわけじゃないわよっ! そっそれに! 一人で確かめるのが怖いからルイズに聴きに来たわけじゃ……あれ?」

 

 しかし、振り向いたキュルケの目の前には、ルイズの影も形もなく。ただ、巻き上げられた砂だけが舞っていた。

 

「……ルイズ?」

 

 キュルケの呆然とした声が広場にぽつんっと響いたが……それに答える者は、今の広場にはいなかった……

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 キュルケがルイズに話しかけていたその頃、士郎はとある危機の真っ只中にいた。

 

 そこは学院の塔の外にある、人気がない場所に建っている物置小屋であった。物置小屋であるが、高さは三メイル以上あり、普通の一軒家ぐらいの大きさはあるが、中は埃くさく、明かりといったら壁の隙間から漏れる光以外の明かりがない。そんな薄暗い物置小屋の中、士郎は……シエスタに押し倒されていた。

 

 

 

 士郎の服は捲り上がり、その傷だらけの浅黒い肌が露わになっている。そして、仰向けに倒れた士郎の上には、顔を上気させ、どこか惚けた……というよりも完全に『イっちゃっている』目をしたシエスタが、息を荒げまたがっていた。

 シエスタはちょうど士郎の下半身……ぶっちゃけ股間の上にまたがると、士郎の服をまくり上げた状態でその傷だらけの身体を見下ろしていた。

 

「っぁ……ゴクッ」

「し、シエスタ……ちょっ、ちょっと待て」

「はっ……ぁっ……はぁっ……」

「い、息が荒いぞ。だから落ち着――」

「はぁ~っ! はぁ~っ! はぁ~っ!」

「だから落ち着けぇ!!??」

 

 

 

 

 

 

 どうして士郎がこんな状況に陥ってしまったのかいうと、この日のお昼過ぎ、士郎がシエスタに声を掛けたのが切っ掛けであった。その頃、士郎が学院の廊下を歩いていると、廊下の向こうから、ふらふらとガラクタの山が歩いているのを見つけた。その光景にどこかデジャヴュを感じた士郎は、歩く歩調を上げて近づくと、やはりというか何というか、そこには、以前見た時と同じように、大量の荷物を抱えたシエスタがいた。

 

「シエスタ。一体何なんだこれは?」

「あ、あれ、えっ!? シロウさんっ! 何でここに?」

 

 士郎が苦笑いしながら、ガラクタをシエスタから取り上げて声を掛けると、シエスタは一瞬呆然とした表情を浮かべた後、顔を真っ赤にさせながら驚きの声を上げた。

 

「いや、特にこれといった理由はないんだがな。ところでシエスタ、これはどうするんだ?」

「えっ? あ、それですか? それは外の物置小屋まで持っていって大きさごとに分けるそうです」

「物置小屋までか……遠いだろ。俺が持っていくよ」

「そっそんなっ! 大丈夫ですっ! シロウさんに迷惑をかけてしまいますっ!」

 

 士郎はシエスタから、ガラクタの行き先を聞き出すと、そのままそれを持って行こうとしたが、シエスタは士郎の外套を掴んで引きとめ、顔を左右に振って士郎を止めようとした。しかし、必死に士郎を止めようとするシエスタの様子を見下ろした士郎は、ガラクタの山を器用に片手で持つと、もう一方の手をシエスタの頭に置いて笑った。

 

「いや、このぐらいで迷惑なんて思ったりしないぞ。反対にシエスタを手伝わずにここから去ったら、シエスタがコケて怪我をしないか心配になってしまって、落ち着かなくなってしまう」

「あっ……は、い」

「それにこれ、所々先が尖ってるからな、下手したら体を傷つけてしまうぞ」

「だ、だったら尚更シロウさんに持たせられませんっ!」

 

 士郎の言葉に慌てて士郎が持つガラクタを取り返そうとしたシエスタだが、その前に士郎が頭に置いた手をぽんぽんと叩き、シエスタを落ち着かせる。

 頭を軽く叩かれたシエスタは、片手を頭に乗せて、おずおずと士郎を見上げると、苦笑いした士郎がシエスタを見下ろしていた。

 

「落ち着けシエスタ。そのセリフは俺のセリフだぞ」

「で、でも……」

「ったく。せっかく綺麗な身体なのに、傷がついたらどうするんだ」

「へっ!」

 

 士郎がシエスタに後ろを向け、物置へ向かって歩きだしたが、シエスタは呆然と立ち尽くすだけだ。

 シエスタの頭の中では、先程の士郎の言葉がぐるぐると回っていた。

 

「き、綺麗……わたしが……綺麗……」

 

 

 

 

 二十分後、シエスタが我に帰って士郎に追いついた時には、既に士郎が物置の中に入ったところだった。

 シエスタは申し訳なさそうな顔をして物置の中に入り、士郎に近づいていくと、シエスタに気付いた士郎は、ガラクタを片付ける手を止めてシエスタに話しかける。

 

「ん? シエスタ来たのか? ここは俺がやっておくから、シエスタはもう戻っておいてもよかったんだが」

「そんな……そこまでしていただかなくても」

 

 遠慮の声を上げるシエスタに、士郎は首を振る。

 

「大きいものは結構な重さがあるし置く場所が高い場所もある、シエスタだと怪我するかもしれないからな。俺がやっておくからシエスタはいいぞ」

「そんなっ……それこそ出来ませんっ! この仕事を頼まれたのはわたしですし、さっきシロウさんが言ったことじゃないですが、ここでシロウさんに任せてしまったら。罪悪感で今日の仕事がはかどりませんっ! だからっ」

「ははっ、わかったわかった。別に困らせようと思ったわけじゃないんだ。結構重たいものが多いからな、シエスタがやるには危ないと思ったんだ」

 

 シエスタの慌てた様子を見て笑った士郎は、一度頷くとシエスタに背を向けてガラクタの片付けを再開する。そして肩越しにシエスタを見ると、ニヤリと笑いかけた。

 

「それでは、シエスタの精神衛生の安全のため、手伝ってもらおうかな?」

「っ! はいっ!」

 

 士郎の言葉に勢い良く頷いたシエスタは、物置小屋に積もった埃を巻き上げながら、小走りに士郎に近づいていく。

 その時、シエスタは浮かれる気持ちのまま、周囲を確認せずに歩き出したため、足元にピンッと張っている状態の紐に気づかずそれに足を引っ掛けてしまった。

 

「えっ?」

 

 歩き出した時の勢いが良かったためか、シエスタは体が前に倒れそうになり、そのため、引っ掛けてしまった足を咄嗟に前に出してバランスを取ろうとしたことから、足に引っ掛けてしまった紐の先にあるものを動かしてしまった。

 

「あっ?」

 

 急に顔に影が落ちてきたことから、顔を上に上げると、沢山のガラクタが詰め込まれた棚がシエスタに向かって倒れていく。

 シエスタは自分の今の状況が全く把握出来ず、呆然と倒れてくる棚を見つめていたが、何か温かいものに包まれたかと思った瞬間、まるで雷が落ちたような轟音と共に衝撃が走り、ホコリが天井まで舞い上がる。

 

 

 

 

「っ! ……あ……あれ……痛くない?」

 

 覚悟していた衝撃がやってこず、不思議に思ったシエスタは、おずおずと顔を上げると、いつかのように士郎に抱きしめられた状態になっていた。その今の自分の状態に気付き呆然とするシエスタを、士郎が心配そうに見下ろして声を掛けてきた。

 

「っ……。シエスタ無事か?」

「………」

「シエスタ?」

 

 士郎は何も反応しないシエスタを訝しげに見て、もう一度声を掛けると、シエスタは慌てて返事をした。

 

「はっ、はいっ! わっわたしは大丈夫ですっ……あっ! しっシロウさんのほうこそ大丈夫ですかっ!? ああっ!!??」

 

 慌てて士郎から離れたシエスタだが、士郎が怪我したかもしれないと思い直し、離れた時以上の速さで士郎に駆け寄った。だが、そのせいでまたも足元がおろそかになったシエスタは、足元に転がっていたガラクタに足を取られ、勢いそのままに士郎に向かって飛び込んでいく。

 

「っ!? しっ、シエスタッ!」

「きゃあっ!」 

 

 士郎は飛び込んできたシエスタを抱きとめようとしたが、先程シエスタを助けた際、体勢が崩れていたことと、飛び込んできたシエスタの勢いが思っていたよりも強かったことから、シエスタを支えきれずシエスタに押し倒されるような形で倒れてしまった。

 

「っ……大丈夫かシエスタ?」

「ほっ、ほほ本当にすみませんシロウさんっ! けっ、怪我とかしていませんかっ!? え……」

「ちょっ! ちょっとシエスタっ何してんだっ!?」

 

 士郎を押し倒すような形になったシエスタは、度重なる失態にパニックに陥ったのか、慌てた様子で士郎の服を捲くりあげながら怪我がないか確認し始める。しかし、パニックに陥っていたシエスタは、士郎の服を捲り上げた瞬間、目にしたものに驚き我に返った。

 

「な、なんですか……この傷……」

「ん? あっ、ああ。まあ、今までいろいろあったからな……まあ、俺の未熟ゆえの傷ばかりだがな」

「シロウさん……」

「しかし、シエスタ。この前風呂で俺の傷に気付かなかったのか?」 

「あ、あの時は、その暗かったので……それに……そんなにじろじろ見れなかったし……」 

「ん? 何だってシエスタ?」

「えっ!? いっ、いえっ! 何でもあり……ま……せ……」

 

 士郎の疑問に俯いてぼそぼそと答えたシエスタだが、声がよく聞こえなかった士郎が聞き返すと、慌てた調子で顔を上げて士郎に向き直った。しかし、真っ赤な顔をしたシエスタが士郎に何かを言おうとしたが、シエスタは士郎の上にまたがって服をまくり上げている今の自分の状態に気付くと、言葉は尻すぼみに消えていった。

 

「シエスタ?」

「あっ……」

 

 シエスタの様子がだんだんとボーッとしていくのを見た士郎は、その様子に何故か嫌な予感を感じ、出来るだけシエスタを刺激しないよう、穏やかな口調で声をかけたが、シエスタは全く何の反応を示さなかった。

 その様子に、ますます嫌な予感が大きくなった士郎は、若干焦った様子でシエスタに声をかける。

 

「し、シエスタ……す、すまないがちょっとどいてくれないか?」

「シロウさん……」

「ちょっ!? ちょっとシエスタっ! ぎゃくぎゃくっ!!?」

 

 士郎はシエスタが段々と自分の方に向かって倒れて来るのを見ると、焦った様子で声を上げたが、シエスタは士郎の声に何も答えずゆっくりと士郎に向かって倒れていく。

 その様子に慌てた士郎は、近づいて来るシエスタの肩を慌てて掴むと、必死な様子でシエスタに声をかけた。

 

「おっ落ち着けってシエスタっ!! ちょっと目が尋常じゃないぞっ!!?」

「……っ……はぁ……」

「お、おいおい……」

 

 

 ここから冒頭の場面に繋がるのだが、本当に士郎は今、かなり真剣に焦っていた。

 確かに今の状況に焦るのは分かるのだが、しかし、士郎はシエスタに押し倒されていること事態そのものではなく、他のことに焦っているのだ。

 それは……士郎は今までの経験で、こういう時に限ってやってくることを知っているからだった……

 

「……っゴクッ……」

「し、シエスタ……ちょっ、ちょっと待て」

「はっ……ぁっ……はぁっ……」

「いっ息が荒いぞ……だから落ち着けって……」

「はぁ~っ! はぁ~っ! はぁ~っ!」

「だから落ち着けってっ!!??」

 

 士郎が声を張り上げた瞬間、物置小屋のドアが爆発した様な勢いで開いたかと思うと、ルイズが弾丸のように飛び込んできた。

 

「シロウっ!! ……何……やっているのかな?」

「る、ルイズ……」

「あっ……ミス・ヴァリエール……」

 

 ルイズが物置小屋に飛び込んでくると、今まで士郎の声に全く反応しなかったことが嘘のように、すぐに正気を取り戻したシエスタは、士郎の上から起き上がると、服をいそいそと整え、ぺこりとルイズと士郎に交互に頭を下げると、ルイズの脇を通り過ぎ、そのまま物置小屋から出て行ってしまった。

 物置小屋に残されたのは大量の崩れ落ちたガラクタと……服がめくり上がったまま呆然とした表情でルイズを見る士郎と…光が全く見えない目を士郎に向けて、無表情で入口に立つルイズの姿だけであった。

 

 ギィギィと段々とルイズが開け放ったドアが閉まっていく中、それに合わせ入口に立つルイズの顔に影が差していく。

 

 ―――ゴクッ―――

 

 ドアがギィギィと鳴って閉まる中、士郎の唾を飲み込む音が異様に大きく響き渡る。

 

 バタンっ! とドアが締まる音が鳴り響くと、ルイズは顔を俯かせた状態で士郎に近づき始めた。

 

 カツカツとルイズの足音が近づくごとに、士郎の直感が逃げろと金切り声を上げるのだが、士郎はまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

 

 カツンッ! と士郎の目の前で立ち止まったルイズは、顔を上げて士郎を見ると、にっこりと可愛らしく笑ったあと、士郎に向けて杖を構える。

 可愛らしく笑いながらも、先程のシエスタとはまた違った『イっちゃった』目をしたルイズを見た士郎は、力なく物置小屋の汚れた天井を見上げると、諦めが混じったため息を吐きながら呟く。

 

「ははっ……はぁ……なんでさ……」

 

 士郎がため息を吐くと同時に、ルイズがボソリと呪文を唱えた瞬間、物置小屋の半分が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 その後士郎は、物置小屋にやってきたキュルケが発見するまで、ズタボロになった状態でほったらかしにさせられていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……だから誤解だと言っているだろルイズ」

「ふ~ん」

「だから聞いてくれよルイズ……」

「ふ~ん」

「はぁ……」

 

 その日の夜、ルイズの部屋で士郎が必死にルイズを説得していた。

 しかし、ルイズは士郎の説得に曖昧な返答をするだけだった。その様子を見てため息を吐いた士郎は、どうしたらルイズを説得できるのだと考えていると、ルイズの部屋にキュルケが入ってきた。

 

「なっ! 何よキュルケっ! ノックもなしに入ってくるなんて礼儀知らずねっ!」

「まあ、いいじゃないルイズ。それよりルイズ、あなた宝に興味ない?」

「? どういうこと?」

 

 急なキュルケの言葉に、ルイズは訝しげな顔をすると、それを見たキュルケは懐というか胸の谷間から羊皮紙の束を取り出してルイズに見せる。

 

「これよこれ、実は宝の地図とやらを手に入れてね、今度探しに行こうと思って……それで今度一緒に行かない?」

「残念ね。わたしには大切な用事があるから行けないわよ」

「そう、それは残念ね……じゃ、じゃあっ……」

 

 ルイズに断られたキュルケは、全く残念な顔をせずに頷くと、バッと士郎に振り向き、頬を染めて士郎に話しかける。

 

「なら、し、シロウはどう? 行かない?」

「ん? 俺か、いや、遠慮しておこう。俺はルイズの使い魔だからな。ルイズから遠く離れるわけにはいかないからな」

  

 士郎がそう言うと、キュルケは一瞬寂しげな表情を浮かべたが、何かを思いついたのかニヤリと笑うと、ルイズに近づいていく。

 ルイズの横まで来たキュルケは、戸惑うルイズに顔を近づけると、士郎に聞こえないように小さな声で囁きかけた。

 

「あなたシロウと喧嘩したんでしょ。で、今はどうやって仲直りしようか考えているところよね? どう、外に出てみたら気分も変わって自然と仲直り出来るわよ」

「……そんな都合良くいくわけないわ」

「なら、あなたこのままでいいの? このままだとシロウをあの子に取られちゃうわよ?」

「むっ……」

 

 ルイズは何か考え込むように顔を俯かせると、渋々といった感じで顔を上げてキュルケを見上げる。

 

「ま、まあ。気分転換も大事よね。別に詔を考えるのはどこでも出来るし」

 

 どこかわざとらしく声を上げるルイズを、何か不思議なものを見るかのような目で見た士郎は、苦笑いしながらキュルケに振り向いた。

 

「すまないなキュルケ。どうやってルイズを説得したのかわからないが、ルイズが行くと言うのなら俺も行きたいんだが、いいか?」

「えっ、ええっ! もちろんよっ!! 頼りにしてるわシロウっ!」

「……そう言えばキュルケもシロウを狙っていたわね……くっ迂闊だったわ……」

「? ルイズどうかしたか?」

 

 キュルケが士郎の問いに、妙にハイテンションな調子で答えるのを見たルイズは、そこでキュルケも士郎を狙っていることを思い出し、苦虫を噛み潰したかのような苦々しい声を上げる。その様子を見た士郎がルイズに声を掛けてきたが、ルイズはそれに曖昧に笑い、首を振って答えただけだった。

 キュルケは浮き浮きとした表情を浮かべて士郎たちに振り返ると、士郎たちに指を突きつける。

 

 

 

 

 

 

「出発は2日後の朝よっ! しっかりと準備しておきなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シエスタ 「『紙の理性』がどんな効果を持っていても関係ありませんっ! これがわたしの奥の手ですっ! 装備カード『痴女の覚醒』を『奔放な少女』に装備っ! 状態異常になる代わりに攻撃力が三倍にっ! 『奔放な少女』で『主人公補正の男』に攻撃っ!!」
士郎   「ふっ……。甘いなシエスタ」
シエスタ 「えっ!? ……攻撃が効か、ない?」
士郎   「……装備カード『紙の理性』の効果発動。状態異常のカードによる攻撃を無効化する」
シエスタ 「な、なんて力」
士郎   「ふっ……正面からの攻撃だったらやばかったな」

 驚きの『紙の理性』の力。どうするシエスタ? 士郎に勝てるのか? 何か手があるのかっ!! 切れそうで切れない士郎の理性を初めに破るのは一体どこの誰だっ! 
 次回、「搦手でダメなら正攻法ですっ!」士郎の『紙の理性』を破りっ! 頂きを目指せシエスタっ!

 予告はガンダム風味にしました。
 
 感想ご指摘お願いします。

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