剣の丘に花は咲く   作:五朗

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第十話 土くれのフーケ

 “土くれ”の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊がいる。

 曰く“土くれのフーケ”。

 フーケは北に南に西に東、そこにお宝があると聞けば何処であろうと喜び勇んで頂戴にやって来る。

 まさに神出鬼没の大怪盗。メイジの大盗賊。それが土くれのフーケであった。

 そしてフーケの盗み方は、繊細に屋敷に忍び込んだかと思えば、別荘を粉々に破壊し、大胆な盗みを行い。白昼堂々王立銀行を襲ったかと思えば、夜陰に紛れて邸宅に侵入する。

 余りの多彩さに行動パターンが読めず、トリステインの治安を預かる王室衛士隊の魔法衛士たちも、振り回され、しまいには“土くれのフーケ”は複数いるッ!? 等と言う輩が出る始末。

 そも、ここまで一盗賊である筈のフーケが“土くれ”と言う二つ名で呼ばれ、ここまで注目されるのには理由(わけ)があった。

 フーケは盗みを行う際、主に『錬金』の魔法を使い、貴族が強力なメイジに“固定化”をさせたはずの壁や扉を只の土くれに変えてしまう程の力を持つメイジであったからだ。

 貴族のかけた“固定化”でさえ只の土くれに変えてしまう力や、力任せに屋敷を破壊する際に使うという身の丈三十メートルはあろうかという巨大な土ゴーレム。

 身の丈三十メートルと言えば、城でも壊せそうな大きさである。フーケを捕らえようと集まった十人以上の魔法衛士たちを蹴散らし、白昼堂々とお宝を盗み出したこともあったそうだ。

 土くれのフーケの正体を見たものはいない。

 男か女かもわからず、数少ないわかっていることは、おそらくトライアングルクラスの“土”系統のメイジであること。

 犯行現場の壁に“秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ”と、ふざけたサインを残していくこと。

 そして、いわゆるマジックアイテム―――強力な魔法が付与された数々の高名なお宝が何より好きということだけであった。

 

 

 

 

 

 夜陰に響く求愛の音さえ寝静まった時間。動くものは風に揺れる木々だけ―――そんな時間、巨大な二つの月が五階に宝物庫がある魔法学院の本塔の外壁を照らしだす中に動く何かの姿があった。

 二つの月の光からサーチライトのように照らし出されたそこには、壁に垂直に立つ人影。

 街を騒がす大怪盗―――土くれのフーケであった。

 長い、青い髪を夜風になびかせ悠然と佇む姿には、国中の貴族を恐怖に陥れた快盗の風格が漂っている。

 ジャリっ、と塔の壁を足底で踏みつけたフーケは、足から伝わってくる壁の感触に舌打ちをした。

 

「―――流石は魔法学院本塔の壁と言ったところだね……。これは一筋縄じゃいかないか……。ここまで強力な“固定化”は初めてだね……」

 

 フーケは足の裏で、壁の厚さや魔法の強度を調べていた。

 

「あ~……こういった強力な“固定化”がかけられた壁は、物理衝撃が弱点なんだけど……この厚さじゃ、わたしのゴーレムの力でも、壊せそうにないね……」

 

 腕を組んで悩むフーケ。

 どうやって侵入するかと何にか良い方法はないかと考え込む。そんな中、以前宝物庫に侵入する方法を調べるため、図書館から借りた本のことをふと思い出す。図書館から出た際に出会った男を……。

 

「―――エミヤシロウ……か」

 

 妙に女慣れした様子で『綺麗』やらなんやら言ってからかってきたかと思えば、何やら警告じみた言葉を残して去って行く。

 どう見ても只物では無い雰囲気を纏う男。

 

「『やめておけ』……か、はぁ……全く無理な事を言う…………残念ながら、わたしにはこれ以外の方法なんて……」

 

 無意識に口から漏れたのは、言い訳染みた言葉。歪んだ視界を数度の瞬きで回復させたフーケ。

 

「哀れに泣いても誰も救ってなんかくれない……だから私は……あの子のために……」

 

 マントを翻し、フーケは本塔の壁を蹴る。本塔から離れたフーケの姿は月明かりから外れ、あっと言う間に見えなくなる。

 フーケの独白は誰にも聞かれることなく夜の闇に消えていった……。

 

 

 

 

 

 フーケが本塔の壁に足をつけて何やら悩んでいた頃……。

 ルイズの部屋ではとある騒動が持ち上がっていた。

 部屋の真ん中で、ルイズとキュルケがお互いに睨み合っていた。

その様子を士郎は、壁に寄りかかりながら、キュルケから渡された剣を見つつも、キュルケとルイズの言い争いを横目で見てはため息をついていた。

 一方、何故かこの場にいるタバサはベッドに座り、本を広げて読んでいた。

 

「で、どういう意味? ミス・ツェルプストー」

 

 腰に両手を当てて、ぐっと不倶戴天の敵を睨んでいるのがルイズである。

 噛み付かんばかりに睨みつけてくるルイズに向かって、キュルケは悠然とした微笑みで迎え撃つ。

 

「だから、さっきから言っているでしょう。とってもいい剣を手に入れたから、そっちを使ったらって言ってるのよ」

「おあいにくさま。シロウの使う道具なら間に合ってるの。ねえ、シロウ」

 

 ルイズにいきなり話を振られた士郎は、苦笑いしながら答えた。

 

「すまないがキュルケ、これは使えないな」

「えっ! どうして!」

「ほら見なさい!」

 

 士郎の言葉に驚きの声をあげたキュルケは、士郎に問い詰めた。

 

「ねえシロウ。この剣のどこがダメなのよ! すごく綺麗で太くておっきくて、しかも、あのシュペー卿の作品なのよ!」

 

 詰め寄るキュルケを抑えながら士郎は答えた。

 

「まあ、落ち着けキュルケ。この剣は観賞用としてはいいかもしれないが、実用には耐えられん」

「ええっ、実用に耐えられないなんて……どうして? この剣にはシュペー卿が『固定化』をかけているから鉄でも切れるって……」

「確かに『固定化』をかければ、強度や耐久度が上がるが、この剣には余計なものが多い。例えばこの装飾だ。戦いにこんなものが必要な理由がない。それどころかあっては邪魔になる。特にこの装飾は剣の重心がバラバラで、そもそも剣としての完成度が半端なものだ」

「そ、そんな~。じゃっ、じゃあ、その剣はどうなのよ? 錆が出てボロボロじゃない」

 

 士郎は壁に立て掛けているデルフリンガーを指差して、文句を言ってくるキュルケを見て言った。

 

「まあ、一見そう見えるが。……造りがしっかりしているいい剣だ」

「それが~?」

 

 キュルケが疑わしげな目を向けると、デルフリンガーが文句を言った。

 

「おうおう、言いように言ってくれるがよう、おれっちはすげえんだぜ。まさに伝説の剣と言ってもいいぐらいなんだぜ!」

「ふ~ん、インテリジェンスソードなんだ。でも……それだけじゃねぇ」

「おいおいなんだよその目は、なあ相棒も何か言ってやってくれよ」

 

 デルフリンガーに頼まれた士郎は、顎に手を当て少し考えた後に言った。

 

「まあ……この剣なら壊れても問題がないしな」

 

 ―――ぶっ!

 

「あっ、相棒そりゃひでぇぜっ!」

「……まあ、それは冗談として」

「冗談かよ……笑えないのは止めてくれよ相棒……」

 

 デルフリンガーの震える声に、軽く笑った士郎は、小声でデルフリンガーにのみ聞こえる声で呟いた。

 

「ま、それが嫌なら、さっさと本当の姿(・・・・)になることだな」

「あん?」

 

 士郎の言葉に疑問の声を上げるデルフリンガーを無視して、士郎はキュルケに説明した。

 

「まあ、見た目はボロボロだが、ごちゃごちゃとした余計な装飾もなく、造りも意外としっかりしてるしな」

「シロウがそう言うなら……」

 

 シロウの言葉に落ち込んだ様子のキュルケを見た士郎は、微かに笑ってキュルケに近付き、その燃えるような髪に手を置き、優しく撫でた。

 

「あっ…」

「すまんな、だが気持ちは本当に嬉しかった。ありがとうキュルケ」

 

 頭を撫でながら優しく笑う士郎を見たキュルケは、普段の華やかな様子ではなく、まるで初心な少女のように頬を染め、上目遣いで士郎を見上げた。

 

「あの……」

「ああっ、すまん、嫌だったよな」

「あっ」

 

 キュルケが声をかけてきたのが、嫌がっているものと勘違いをした士郎は、キュルケの頭から手を離してしまった。キュルケは離れていく手を物欲しそうな顔をして見つめている。

 そんな様子を見たルイズは、顔は笑顔でありながら、しかし、額に青筋が浮かばせながら士郎に詰め寄る。

 

「シロウ? なにやってるのかな? かな? かなかな?」

「ルッ、ルイズ……何か怖いぞ」

 

 ルイズの底知れない恐ろしさを感じ、恐怖しながらも、士郎はキュルケに伝えた。

 

「ま、まあそう言うことで、すまなかったキュルケ」

「シロウの言うことはわかったけど……でも、やっぱり納得出来ないわね」

 

 そう言って、キュルケは、士郎に詰め寄っているルイズを睨みつけた。

 

「な~にいっちょまえにシロウにヤキモチ焼いてんのよアンタは。あんたなんてシロウがいないと何も出来ない癖に」

「なっ、何も出来ないって何よっ!」

 

 キュルケの言葉に激高したルイズは、髪を振り乱しながらキュルケに詰め寄った。

 そんなルイズを見て、キュルケは鼻で笑って言い放つ。

 

「だって、本当のことでしょ? 魔法一つまともに使えない癖に」

「うっ、そ、それは……でもっ! いつまでも昔の私じゃないんだからっ!」 

 

 キュルケに痛いところをつかれたルイズは、しかし、胸を張って言い返した。

 

 そんな風に言い争う二人を見て、士郎は二人の争いを我関せずとでも言うように、じっと本を読み続けているタバサに声をかけた。

 

「タバサ」

「―――なに?」

 

 声をかけられたタバサは、本から目を離すと士郎を見上げた。

 

「あれ、何とかならんか?」

「ムリ」

 

 士郎の頼みを、タバサは一言で切り捨てた。

 タバサの言葉を聞いた士郎は、ため息を吐くと、言い争いを激化させている二人に目を向ける。

 

「へぇ、言ってくれるわね。ヴァリエール……」

「そっちこそ本当に理解してる? 何言ったのかわかっているのツェルプストー……」

 

 士郎が二人に視線を戻すと、互いに何か致命的な言葉を言い合ったのか、いつの間にか二人の間には一触即発の空気が流れていた。

 まるで、決闘をするガンマンの様に睨み合った二人を見て、どこか懐かしい光景だなと、士郎は場違いに思い出に浸っていた。しかし、流石に洒落にならない状況にまで事態が進行しかけていたことから、士郎が止めに入いろうと二人の間に入ろうとした瞬間―――二人は示しあわせたかのように、同時に自分の杖に手をかけた。

 

 直ぐに士郎がそれに気付き、二人から杖を取り上げようとしたが。

 しかし、士郎が二人から杖を取り上げるより早く、それまでじっと本を読んでいたタバサが自分の杖をふった。

 

 つむじ風が舞い上がり、キュルケとルイズの手から、杖が吹き飛ばされた。

 

「……室内」

 

 タバサは淡々と言った。

 ここでやったら危険であると言いたいのだろうか?

 しかし、士郎は、どちらかと言うと、読書の邪魔になるからだと思った。

 

「そう言えば、さっきからミス・タバサがいるけど、なんで彼女がここにいるのよ?」

 

 ルイズが邪魔をしたタバサを憎々しげに見た後、疑問の声を上げた。

 すると、その疑問にキュルケが答えた。

 

「それは……あたしの友達だし」

「いやいやっ、だからぁっ、あんたの友達がっ、どうしてわたしの部屋にいるのかを、聞いているのよっ!」

 

 それにキュルケは、その大きな胸を張って、堂々と言い放つ。

 

「あたしが知るわけないじゃないっ!」

「はぁ? あんた何言っているのよ。馬鹿なの? 死ぬの?」

「何ですって!?」

「何よっ!」

 

 タバサに杖を吹き飛ばされた二人は、今度は肉体言語による会話を行おうとでも言うように構えを取った。

 どこぞのストリートファイトが開始される直前のような二人の姿。どこぞから『roundⅠ―――ファイッ!!』といった声が聞こえてくる前に、何とかしなければと士郎がタバサに期待を込めた視線を向ける。だが、タバサは魔法じゃなければいいとでも言うように、本に目を落として我関せずの状態。

 その様子に、士郎は深いため息をつくと、覚悟を決めて二人の間に割って入った。

 

「―――そこまでだ。外を良く見てみろ。もう直ぐ日が暮れる。このまま暴れると周りの部屋に確実に迷惑をかけるぞ」

「―――シロウそこを退いて」

「―――シロウ、退いてもらっていいかしら。ルイズとはそろそろ決着をつけないといけないのよ」

 

 ―――ッツ! こっ、恐い……これは、このまま成長すれば、遠坂たち並みになるな…。だがっ! 今はまだ遠坂たち並みでは無いっ! ならばっ、やれるはずだっ!

 

 士郎はどこかデジャブュを感じるルイズたちのやりとりの間に入り、現状を打破する策を必死に考えた。

 

「シロウ、いいから……」

「シロウ、ちょっと邪魔……」

「―――外だっ!」

 

 いつまでも動かないシロウを見て、痺れを切らしたルイズたちが、シロウに言いよった瞬間、士郎は突然声を上げた。

 

「「……外?」」

 

 士郎が突然上げた声にルイズたちは、声を合わせて疑問の声を上げる。

 ぐるりと士郎はそんな二人を見て言った。

 

「どうしてもやると言うなら、外でやれ。ここでは迷惑になる」

「まあ、そうね」

「……確かに。キュルケはともかく、他の人には迷惑はかけられないわね」

「―――何よ?」

「―――何?」

「「ああんっ!?」」

「―――だから止めろと言っているだろ」

「「……は~い」」

 

 士郎の提案に同意した二人は、杖を拾い上げ、外に向かって歩き出したが、ドアの前で二人同時に振り返ると、部屋に突っ立ている士郎に言い放った。

 

「「シロウも来なさいっ!」」

「なんでさ」

 

 二人に呼ばれた士郎は、肩を落として二人の後を付いていく。そんな様子を横目で確認したタバサは、本から目を上げずに片手だけ上げると、士郎たちに向けて手を軽く振った。

 

 

 

 

 

 本塔の外壁の周りをぐるりと見回していたフーケは、近付いてくる何者かの気配に顔を向けた。

 確実に近付いてくる様子に、フーケは中庭の植え込み向かって駆け出し、その中に姿を消した。フーケの姿が消えて数分が経つと、四つの人影が姿を現した。

 中庭に現れたのは、ルイズとキュルケと士郎、そして最後尾に『ライト』の明かりで本を読みながら付いてくるタバサ。

 

「―――それで、どうやって決着を着けるのよ?」

「はんっ。何言っているのよルイズ。あたしたちは何? 貴族でしょ。なら、やっぱり最後は魔法で決めなくちゃ、でしょ?」

 

 キュルケの言葉に『うっ』と小さく呻き顔を歪めたルイズであったが、それでも胸を張って堂々とした姿を見せる。

 

「え、ええっ! 良いわよ! じゃ、じゃあ、ルールはどうする?」

 

 ルイズが同意の声を上げると、キュルケは鼻で軽く笑い、ルールを説明するために口を開こうとしたが、それは士郎の声に遮られた。

 

「待ってくれ、ルールは俺が考える」

「えっ? 士郎が? ま、まあ、わたしは良いけど……キュルケは?」

「うっ、まっ、まあ、良いけど……」

 

 士郎の突然の声にルイズたちは驚いたが、ルイズは驚きながらも同意し、キュルケはどこか不満そうな顔をしながらも同意した。

 士郎はそんな二人の様子を見て苦笑しながらもルールを説明した。

 

「ルールは簡単だ。あそこに丁度良く、今にも倒れそうな木が二本あるだろ。俺から見て、右にあるのをキュルケが、左の本塔の近くにある木をルイズが、それぞれの魔法で倒す。あの木を少ない回数で倒した方の勝ちだ」

「わかったわ」

「ええ、それでいいわよ」

 

 士郎の説明に頷いた二人は、早速杖を構え、呪文を唱え始めた。

 

 

 先に呪文を完成させたのは大方の予想通りキュルケであった。

 キュルケお得意の『ファイヤーボール』が木に当たったが、木は一部が吹き飛び、火が着いただけで、まだ倒れる様子は見えない。

 遅れて、ルイズもキュルケと同じく『ファイヤーボール』の魔法を放ったが、火球は出ずに、代わりに、木の後ろにある本塔の外壁が爆発し、ヒビが入っただけであった。

 

 

 

 フーケは、中庭の植え込みの中から一部始終を見守っていると、ルイズの放った魔法で、宝物庫の辺りの外壁にヒビが入ったのを見届けた。

 

 なっ……、いったい、あの魔法は何なんだい? 唱えていた呪文は『ファイヤーボール』だったのに、火球が出ずに外壁が爆発した? あんな風にモノが爆発する呪文なんて見たことが……。

 

 フーケの頭の中は瞬時に疑問でいっぱいとなる。しかし、それでも冷静に頭を働かせ、チャンスを逃すことは無かった。

 フーケは一度頭を振ると、呪文の詠唱を始めた。

 詠唱が完成すると、地面に向けて杖を振る。

 すると、地響きを立てながら地面が盛り上がり出す。

 盛り上がる大地が段々と何かの形を成していくのを見ながら、フーケはポツリと小さく―――

 

「……これで、さよなら、か」

 

 ―――どこか寂しげに呟いた。

 

 

 

 

 

「―――これはっ!」

 

 異変に気付き、士郎が本塔の方角に顔を向けると、そこには全長三十メートルはあろうかという、巨大なゴーレムが立っていた。

 

「なっ! ゴーレム、だと? なんてでかさだっ!」

 

 警告のため士郎がルイズたちへと振り返った時、そこでは、未だにルイズとキュルケが言い争いをしていた。

 

「はぁ? ルイズ、もしかして今の『ファイヤーボール』のつもり? っぷくく、とんだ『ファイヤーボール』もあったものね」

「ふ、フンッ。そう言うキュルケこそ、自信満々だった癖に、ほら、見なさい当たっても倒れてないじゃない。っふふ、所詮ツェルプストーはその程度なのね」

「何よっ!」

「そっちこそ何よっ!」

 

 ルイズたちは、互いに罵り合っていることから、周りの様子に全く気付いていなかった。

 士郎はその光景を見て一瞬呆けたが、すぐに頭を振り頭を切り替えると、言い争っている二人を一喝する。

 

「馬鹿がっ! 何をやっているっ! 周りを見ろっ!」

「ひゃっ!」

「にゃっ!」

 

 突然の士郎の一喝に驚いたルイズたちは、まるで驚いた猫の様に飛び上がって悲鳴をあげた。

 二人はいきなりの怒声に、涙目になりながらも士郎を睨み付ける。

 

「ちょっとシロウっ、いきなり何よっ!」

「びビッ、ビッ、ビックリしたじゃないっ!」

 

 二人の意識が自分の方へ向いたのを確認して、士郎は本塔の外壁を壊しているゴーレムを指で指した。

 

「はぁ……あれを見ろ」

「何よ、あれって―――って、なっ、何よあれっ!」

「は? ……ゴー、レム?」

 

 二人は士郎の指先の延長線上にある、ゴーレムに気付き驚きの声を上げた。

 

 

 

 呆然と見上げる三人の目の前を悠然横切ったゴーレムは、本塔の前に立つとその外壁目掛け、何度も巨大な拳が打ち下ろした。石壁に拳が振り下ろされる度に、鉄と鉄とがぶつかりあうような金属音に似た音が何度も響き―――一際大きな音と共に本塔の外壁に拳がめり込み。拳が石壁に刺さった場所から、鈍い音と共に外壁が崩れ始めた。

 

 

 

 フーケは巨大なゴーレムの腕を伝い、外壁に空いた穴から、宝物庫の中に入り込んだ。

 中には様々な宝物が。しかし、フーケの狙いはただ一つ―――『破壊の杖』。

 宝物庫の一角に、様々な杖がかかった壁があった。

 その中に、どう見ても魔法の杖には見えないものがあった。全長は一メートルほどの長さで、見たことがない金属で出来ていた。もしやと思い、フーケが杖の下にかけられた鉄製のプレートを見つめた。

 『破壊の杖。持ち出し不可』と記されている。

 ニヤリと笑いフーケは『破壊の杖』を取った。

 手に取った『破壊の杖』の軽さに驚きながらも、今は考えている暇はないと、急いで宝物庫から出るとゴーレムの肩に飛び乗る。

 フーケが乗るとゴーレムが動き出し、本塔から離れていく。離れる間際、フーケは背中越しに杖を振る。

 すると、壁に文字が刻まれた。

 

 

 

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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