剣の丘に花は咲く   作:五朗

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第九話 デルフリンガーとの出会い

キュルケは昼前に目を覚ました。

 今日は虚無の曜日である。寝ぼけ眼のぼうっとした視線で窓の向こうで朝日が昇る様子を眺めながら、額に手をやり昨晩の出来事を思い出していた。

 

『―――キュルケ……君はなかなか可愛らしい声で鳴くんだな』

 

「……ぅ」

 

 長風呂でもした直後のような、赤らんだ顔でベッドから起き上がると、普段の姿からは考えられないのそのそとした動作で化粧を始めた。未だ思考が定まらない頭で、今日はどうしようかと考えていた時、それが目に入った。たまたま偶然視線が窓の外へと向けられた瞬間、見覚えのある二人が馬に乗って学院の門の向こうへと駆けていく姿が見えた。

 見覚えのある二人―――士郎とルイズであった。

 

「ふ、ぅん……二人でどこへ行くのかしら、ねぇ」

 

 つまらなそうに呟いたキュルケは、不満気に頬を膨らませると、眉間に皺を寄せ何かを考え込むと、一つ頷いて部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 その時、タバサは寮の自分の部屋で読書を楽しんでいた。青みがかった髪とブルーの瞳を持つ彼女は、メガネの奥の目をキラキラと海のように輝かせ本の世界に没頭していた。

 タバサは年よりも四つや五つも若く―――と言うよりも幼く見られることが多い。身長は小柄なルイズより五センチも低く、体も細いからだ。しかし、彼女はそのことを全く気にしていなかった。そんなことよりも、今最も彼女が気にしていることは―――ルイズが召喚した使い魔のことだった。

 虚無の曜日は、タバサは本を読むことに没頭することにしている。本を読む際には、彼女は何時も『サイレント』によって周りの音を遮断していた。

 そんな風に何時もの如く静かになった部屋で一人本を読んでいると―――突然ドアが勢い良く開いた。 突然の闖入者の姿を本から顔を上げないまま横目でチラリと確認すると、タバサは視線を元の本の上へと戻した。

 タバサの部屋に侵入してきた人物。その正体はキュルケであった。駆け寄ってきたキュルケは、タバサに向かって二言、三言、大げさに何かを喚いたが、『サイレント』の呪文が効果を発揮しているためその内容は全くタバサに届かない。

 どれだけ大声を上げてもピクリとも顔を上げないタバサに業を煮やしたキュルケが、タバサが持つ本へと向かって手を伸ばした。タバサから本を取り上げたキュルケは、その勢いのままタバサの肩を掴みくるりと自分の方へと強制的に振り向かせる。無理矢理身体を動かされたタバサは、しかし何の感情を見せない無表情でキュルケの顔を見つめていた。完璧なポーカーフェイス―――その顔からはいかなる感情も窺えないが、歓迎していないことは確かであった。

 じっとキュルケに向かって抗議の視線を送るが、全く効果がないことを知るとタバサは仕方なく『サイレント』の魔法を解いた。

 

「タバサ。今から出かけるわよ! 早く支度をして頂戴」

 

 突然の要求に対し、タバサは短く己の主張を告げる。

 

「虚無の曜日」

 

 それで十分であると言わんばかりに、タバサはキュルケの手から本を取り返そうと手を伸ばす。それに対しキュルケはその長身を利用し高く本を掲げた。これだけで背の低いタバサには魔法を使わなければどうすることも出来ない。

 

「ええ、わかっているわよ。あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ。でも、今はね、そんなこと言ってられないのよっ!」

 

 いつも以上にハッスルしている友人の姿に、思わずタバサは首を傾げた。

 

「ああ、そうね。説明しないと。ほら、ルイズの使い魔にシロウって男の人いるでしょ! その人が今日、あのにっくきヴァリエールと出かけたの! あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの! わかった?」

 

 キュルケが口にした士郎と言う名を耳にした瞬間、タバサの目に鋭い光が過ぎった。

 ―――衛宮士郎。

 只物ではない雰囲気を醸し出しながらも、料理が上手でルイズの世話を甲斐甲斐しくしている不思議な人物。

 “ドット”とは言え貴族であるギーシュを手玉に取りながら、その実力は未だ計り知れず未知数。

 同年代―――否、歴戦の戦士すらも超える修羅場をくぐり抜けてきたタバサでさえ、その真の力を見極めることが出来ないでいた。

 

「出かけたのよ! 馬に乗って! あなたの使い魔じゃないと追いつかないのよ! お願いだから助けて!」

 

 キュルケはタバサに泣きついた。自分には無い巨大な胸に挟まれながら、タバサはのろのろと頷く。

 自分の使い魔じゃないと追いつかない。

 なるほど、と思った。

 タバサはもう一度頷く。

 キュルケは友人である。友人が自分にしか解決できない頼みを持ち込んだ。ならばしかたがない。面倒だが受けるまでである。

 それに……。

 

 ―――彼のことも気になる。

 

 タバサは窓を開けると、空に向かって口笛を吹いた。ピューっと、甲高い口笛の音が、青空に吸い込まれる。空へと消えていく口笛の音を追いかけるように、二人は窓枠によじ登ると一気に外へと身を投げ出した。

 ちなみに、タバサの部屋は五階にある。

 何も知らない人間が見たら、おかしくなったとしか思えない行為である。 

 タバサは、外出の際あまりドアを使わない。何故ならばこちらの方が断然早いからだ。確かに階段を一段一段降りるよりも、窓から一気に落ちる方が断然早いだろう。だが、普通はしない。何故ならば死ぬからだ。五階から落ちればどんな受身の達人であれ重傷を負ってしまうだろう。

 だが、二人は何の躊躇もなく窓の向こうへと身を投げ出した。

 何故?

 魔法を使えるから?

 確かにそうだろう。

 だが、違う。

 彼女たちの安全を確保するのは魔法ではなく―――一匹のドラゴンであった。

 落下する二人を受け止めると、青い身体のウィンドドラゴンが空へと向かって飛び上がる。

 

「いつ見ても、あなたのシルフィードはほれぼれするわね」

 

 キュルケが突き出た背びれにつかまり、感嘆の声をあげる。

 そう、タバサの使い魔はウィンドドラゴンの幼生なのであった。

 タバサから風の妖精の名を与えられた風竜は、寮塔に当たって上空に抜ける上昇気流を器用に捕らえ、一瞬で200メートルも空を駆けのぼった。

 

「どっち?」

 

 タバサが短くキュルケに尋ねる。タバサの問いに、キュルケは顎に指を当てて思案すると、『あっ』と何かに気付いたように小さく声を上げた。

 

「―――わかんない……慌ててたから」

 

 タバサは別に文句をつけるでなく、自身の使い魔であるウィンドドラゴンに命じた。

 

「馬二頭。食べちゃダメ」

 

 ウィンドドラゴンは短く鳴いて了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始めた。

 高空に上り、その視力で馬を見つけたのである。草原を走る馬を見つけることなど、この風竜にとっては容易いことであった。

 自分の忠実な使い魔が仕事を開始したことを認めると、タバサはキュルケの手から本を奪い取り、尖った風竜の背びれを背もたれにしてページをめくり始めた。

 

 

 

 

 

 トリステインの城下町を、士郎とルイズは歩いていた。

 魔法学院からここまで乗ってきた馬は町のモンのそばにある駅に預けている。

 

「シロウって、本当に何でも出来るね」

「そうか?」

「そうよ、まさかあんなに馬に乗るのが上手いなんて。どこで習ったの?」

 

 ルイズの問いに士郎は、右手で頬を掻きながら昔を思い出すように青空を仰いだ。

 

「そう、だな。あれは何時だったか。まあ、とある人に教えてもらってな」

「……ふーん。でっ、どうせその人も女の人なんでしょ」

 

 その言葉に士郎は苦笑いしながら頷いた。

 

「まあ、否定はしない。ちょっとした諸事情で執事の仕事をしていた頃があってな。その時に仕えていた人に教えてもらったんだよ」

「……何で執事?」

 

 その言葉に士郎は渋い顔をして唸った。

 

「……まあ、払いが一番だったからな。それを見て勝手に応募した奴がいたんだよ」

「そ、そう。た、大変だったみたいね」

 

 ルイズの困惑した顔を見て、士郎は苦笑いして過去を思い出した。

 

 ……あの頃はちょっと思い出したくないことが多いな。執事を辞めさせる辞めさせないで凛と喧嘩して時計塔を半壊させるわ。酒に酔って二人してロンドン橋を落とすわ、婚約を破談にするために俺を恋人役にして相手と決闘をさせるわ……ああ、思い出しただけでも頭が痛くなる。まあ、だが……。

 

「だが、結構楽しめたぞ」

 

 士郎は優しい笑顔をルイズに向けた。

 

「む~」

 

 そんな士郎を見てルイズは不機嫌そうに唸った後、士郎を置いて先に行ってしまった。

 

 

 

 

 

 さて、士郎とルイズがなぜこんなところにいるのかというと。

 それは、ギーシュとの決闘を終えた後、士郎がルイズにこの世界の武器が見てみたいと伝えたところ、それでは次の虚無の日に武器屋に行ってみようとのことから、この日二人はトリステインの城下町に来たのだった。

 そして今、士郎とルイズは武器屋の中にいる。

 

 

 

 

 

 武器屋の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの灯りがともっていた。壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。

 店の奥で、パイプをくわえていた50がらみの親父が、入ってきたルイズを胡散臭げに見つめている。

 紐タイ留めに描かれた五芒星に気付く。それからパイプをはなし、ドスの利いた声を出した。

 

「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

 

 ルイズは腕を組んで答えた。

 

「客よ」

「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」

「どうして?」

「いえ、若奥さま。坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」

「使うのはわたしじゃないわ。わたしの使い魔よ。ほら、そこにいる」

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣を振るようで」

 

 主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言った。それから、士郎をじろじろと眺めた。

 

「ほお、剣をお使いになるのは、この方で?」

 

 ルイズは頷く。

 ルイズが店主と話をしている間、士郎は店内にある刀剣類を片っ端から解析していた。

 

 質はあまり良いとは言えないな。ここでの武器にはあまり期待は持てそうにない……か。

 

 顎に手を当て、落胆の息を小さく漏らす士郎に、ルイズは声を向ける。

 

「シロウ。わたしは剣のことなんかわからないから。適当に選んで頂戴」

「了解した」

 

 主人はそんな士郎たちを置いていそいそと奥の倉庫に消えた。店主は聞こえないように、小声で呟いた。

 

「こりゃ、鴨がネギ背負ってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」

 

 店主は立派な剣を油布で拭きながら現れた。

 

「そう言えば最近、このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして、宮廷の貴族の方々は下僕に剣を持たすのが流行っておるようですが、若奥様もそうで?」

「盗賊?」

 

 ルイズが尋ねると、店主はわざとらしく恐ろしげな表情で頷いた。

 

「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へぇ」

 

 そう言いながら店主は持っていた剣を差し出した。

 

「それで、剣なんですが。若奥様の使い魔はガタイが良いようなんでこの剣はいかがですかい?」

 

 店主が差し出した剣は見事だった。

 一.五メートルはあろうかという大剣である。柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えだ。所々に宝石が散りばめられ、鏡のように両刃の刀身が光っている。見るからに切れそうな、頑丈な大剣だった。

 

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。まあ、やっこさんならぎりぎり腰に下げれるかな」

 

 差し出された剣に近寄った士郎は、剣を見下ろしながら店主に問いかける。

 

「これが本当に店一番の業物なのか?」

 

 店主は不思議そうな顔をして答える。

 

「えっ、ええ。そうだが、それが?」

 

 ため息を吐いた士郎はルイズに顔を向ける。

 

「ルイズ、帰ろう。ここに居ても意味がない」

「へっ、ちょっ、ちょっとどうして? その剣すごそうじゃない。それじゃダメなの?」

「そっ、そうですぜ、この剣を鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ほら、ここにその名が刻まれてるだろ。この剣があるってのにここに居ても意味がない?」

 

 士郎はもう一度装飾高の剣を一瞥する。

 

「たしかに見た目だけはな。芸術性は高いが、剣としては三流以下だ」

「さっ、三流以下?」

「ちょっとあんた! 何言ってんだ! いいかっ! この剣はだなぁ……」

 

 士郎の言葉に店主が反発しようとした瞬間、三人とは別の声が上がった。

 低い男の声だ。

 

「おうおう、よくわかってんじゃねぇか兄さん。確かにその剣は三流だねぇ」

「だっ、誰よ?」

「ここだ、ここ」

 

 士郎は乱雑に剣が積んである場所に行き、その中から錆がの浮いたボロボロの剣を取り出した。

 

「お前が喋ったのか」

「おおっ、そうだ! おれっちだよ!」

「へえ。それってもしかしてインテリジェンスソード?」

 

 ルイズが当惑した声をあげた。

 

「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ。剣を喋らせるなんて……。とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客に喧嘩は売るわで閉口してましてね。やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」

「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」

「やってやらあ!」

 

 主人が歩き出した。しかし、士郎はそれを遮る。

 

「いや、少しまてくれ。これは」

 

 主人に食ってかかっていた剣は唐突に黙り込むと、柄がカチャリと音を立てて微かに動いた。まるっで、士郎を仰ぎ見るような形となった剣は、歳ほどとは一変し黙り込んだまま何も喋らない。

 だが、押し黙った時と同様に、また突然話しだす。

 

「――おでれーた。おめ“使い手”じゃねーか」

「“使い手”?」

「んん? 知らねえのか? まあいい、てめ、俺を買いやが―――」

「ああ、分かった」

 

 言い切る前に士郎は申し出を了承する。

 

「ルイズ。これを買うぞ」

 

 猫騙しをくらった猫のようにピクリとも動かなくなった剣を見せると、ルイズはいやそうな声をあげた。

 

「え~そんなのにするの? もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」

「いや、これがいい」

 

 士郎のかたくなな態度を見てルイズはため息をつきながらも店主に尋ねた。

 

「あれ、おいくら?」

「あれなら、百で結構でさ」

「へぇっ、安いじゃない」

「まあ、こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんですからね」

 

 店主は手をひらひらと振りながら応えた。

 許可を取った士郎は、事前に預かっていたルイズの財布を上着のポケットから取り出すと、中身から剣の代金分を取り出し店主に渡す。

 

「毎度」

 

 代金を受け取った店主は、士郎に渡した剣の鞘を指差す。

  

「どうしても煩いと思ったら、鞘に入れときゃおとなしくなりまさあ」

 

 店主の言葉に頷き、こうしてデルフリンガーという名の剣は士郎の物となった。

 

 

 

 

 

 武器屋から出てきた士郎とルイズを見つめる二つの影があった。キュルケとタバサの二人である。キュルケは路地の影から二人の様子を見つめながら、唇をギリギリと噛み締めていた。

 

「ルイズったら剣なんか買って気を引こうとしちゃって。いつの間にあんな手を使うようになったのよ」

 

 地団駄を踏むキュルケ。相撲取りの土俵入りの如く地を踏めるキュルケの横で、タバサの小さな身体が上下に揺れている。視界が上下する中、学院を出た時に持っていなかった剣を士郎が腰に差しているのを確認したタバサは、懐から本を取り出すと読み始める。

 そんな二人の真上には、ウィンドドラゴンのシルフィードが高空でぐるぐると回っている。

 二人が見えなくなるまで待った後、キュルケは本を読み続けるタバサの襟首を掴むと引きずりながら武器屋の戸をくぐった。カウンターに肘をついて何処か惚けたような顔をしていた店主が、来店してきたキュルケたちの姿を見て目を丸くした。

 

「か~、こりゃ今日は剣の雨でも降るってか? まったく今日はどうかしてるわな。またまた貴族さまとはね」

「ねえご主人」

 

 主人の視線を感じたキュルケは、殆んど条件反射に髪をかきあげると色っぽく笑った。むんっ、と溢れかえるような色気が一気に吹き上がり、年甲斐なく店主は思わず顔を赤らめる。まるで真夏の熱気のように色気だ。

 

「さっき貴族の客が来たでしょ。で、その貴族が何を買っていったか教えてもらえるかしら? 勿論覚えていらっしゃるわよね」

「へ、へえ。剣でさ」

「やっぱり剣ね……で? それで一体どんな剣を買っていったの?」

「へえ、ボロボロの大剣を一振り」

「ふぅん。やっぱりボロボロの剣を―――ってボロボロぉっ?!」

 

 店主の言葉に目を丸くするキュルケ。半開きになった口元から『ボロボロ、ボロボロ』とうわ言のように呟く。

 

「ぼ、ボロボロ……? あの子まさかお金をケチって……。い、いやいや、まさか……。ねぇ、ご主人はその貴族がどうしてそんな剣を買っていったのか理由はわかるかしら?」

「さあ、あんな剣の一体何が気に入ったんだか?」

「そう……」

 

 ボロボロの剣……なら、私がもっとイイ剣を買ってあげると喜んでくれるかしら?

 

 話を聞き終えたキュルケは、精一杯背伸びをして上から自分の胸元を覗き込もうと努力を続ける店主の姿をチラリと見るとニヤリと笑い思った。

 この男なら色気で釣って安く買い叩けるわね―――と。

 キュルケは艶然と笑うと店主にしなだれかかるように近づくと―――。 

 

「ねぇ、おじさま。少しご相談があるんですけど……」

 

 ―――その後、新金貨四千五百枚もする剣をたった千枚で買取り、悠々と寮にもどるキュルケの姿と、色気に溺れ大損をし、店をそうそうに閉めて酒を浴びるように飲む店主の姿があったそうな。

 

 

 

 

 




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