バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第7話 惑いの中に求めし記憶

明久SIDE

「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

僕のせいで姫路さんが死んでしまったという事実に僕は狂ったように叫んでしまう。

「静かにしろ吉井!」

ズバゴッ

「いたっ!?」

図太い声と共に脳天にはしる強烈な痛み。

見上げれば、そこにはなんのへんてつもない教室にしかめっ面の鉄人がいた。

「体調でも悪いのか?」

「いえ、そういうわけじゃなくて…」

周りを見渡してもなんら変わりないいつもの教室である。

さっきまで僕がいたような暗闇ではないし、もう一人の僕も姫路さんもいない。

「夢でも見てたのか?」

「夢……」

たしかに、先程のことまでは現実ではないだろう。

しかし、夢で片付けてしまうにはあまりに現実味があった。

そう、まるで僕が通ってきた道で―――――――

「そうか……

そうだ……たしかに僕は…あの時…」

夢なんかじゃない。

忘れていたことを…

あれは記憶から抜け落ちていた、『あの日』の記憶なんだ……

だけど、それではもう一人の僕はどう説明付ける?

当然だが、僕の記憶の中にもう一人の僕がいるなんてありえるはずがない。

「おい吉井、大丈夫か?」

それにあんな取り返しの付かない時の記憶ではどうしようもない…

もっとそれよりも前の記憶に遡り、事前にあの事態を防がなくちゃいけないんだ……

「返事をしろ吉井!」

ズバゴッ

「いたっ!?」

本日、二度目である鉄人のゲンコツ。

殴られた脳天を中心にじんじんと痛みがはしる。

とてもじゃないが、そう何度も受けられた代物ではない。

「いったい、なんなんですか…」

「なんなんですかじゃない。

授業中に寝るな!人の話をしっかりと聞け!」

「はーい…」

たしかに鉄人の言っていることは正論だが、なにも殴らなくてもいいではないだろうか…

僕は未だに痛みの残る脳天をさすりながらそう考えるが、これ以上の痛みは勘弁願いたいので口に出さないでおく。

「まぁ、いい。授業を再開するぞ!」

僕が反応を示したことで、幾分かはよしと見たのか鉄人は授業を再開する。

それが僕にとってはわかりきった退屈な時間となったのは言うまでもないだろう。

〜放課後〜

「よぉ、明久。

それにしても、さっきのあれは傑作だったな」

「からかわないでよ雄二…」

帰りのHRが終わるや否や真っ先に僕の元までやって来てからかう雄二に僕は苦笑する。

いいやつなんだけど、人の掘った墓穴を抉る癖は昔からであるためしょうがないと言えばそれまでであるが、なんとも腑に落ちないものだ。

「どんな夢を見てたんだ?」

「悪夢だよ。それも取り返しのつかないね……」

これくらいだったら話しても差し支えはないだろう。

「また姫路絡みか?」

「うん…

だけど、なにがあったかは聞かないでくれるかな…」

雄二に説明してもわかってもらえないだろうから…

なにより…あれを思い出すだけでも僕にとっては耐え難い苦痛だから……

「俺だって、んな野暮なことはしねぇよ。

それよりも、姫路の弁当には驚いただろ?」

「たしかに驚いたよ。

あんなに美味しい料理が作れるんだからさ」

昼休みに姫路さんと共に食べた弁当のことを思い出すだけでお腹が減ってきそうだ。

あんなに美味しいものはそうそう食べられるものではないから、貴重な経験をしたといっても差し支えないだろう。

「うまかった…

そ、そうか…それならいいんだけどよ……」

「???」

なぜ雄二は露骨にひきつった顔をしているのだろうか?

昼前の話から察するに、霧島さん絡みでなにかあったようであるが拒否反応をおこしすぎな気がしないでもない。

「まぁ、それはおいとくとしてだ。

お前は来週の日曜日って空いてるよな?」

「空いてるもなにも、予定がまったく入っていない悲しい身なんだけどね…」

自分で言っておいてなんだが、とてつもなく虚しくなってきた…

ここで「その日は姫路さんと予定が入ってるからさ」とか言えたらどれだけいいものだろうか……

「なら空けたままにしとけよ。

とびっきりのイベントを用意してやったんだからさ」

それだけを言うと、雄二はすれ違い様に僕の肩に手をおき帰っていってしまった。

いったいなんだったのだろう…?

雄二が読めないやつなのは今に始まったことではないが、過去に戻ってきてからの雄二はわからないことだけすぎる…

まるで、僕の知らないなにかを隠しているかのように……

って、まさかね。

多少なりとも変わっていても、ここは僕が通ってきた過去を基盤としてつくられている世界だ。

そこで雄二が知っていて僕が知らないことなどあるはずがない。

『本当にそう言えるか?』

当たり前じゃないか。

僕は一度通ってきた道を修正しているのだから、僕が知らないことがおきたとすれば、それは僕がなんらかのかたちでその事象に介入したということになるんだからさ。

そう、自分でだした問い掛けに僕は答える。

『ならなぜ自身が予期しないことばかりおきてるんだ?』

それは僕が過去とは違った行動をとっているんだから過去が変わって当然だと思うよ。

それに予期しないといっても悪い方向には進んでいない。

むしろ、姫路さんとの関係だって良好なんだからなにも気にすることないよ。

『たしかに表向きはそうだな。

だけど、事が上手く運び過ぎているとは思わないか?』

それは……

いや、間違いなく上手く運び過ぎているだろう…

やけに協力的な雄二。

数年間関わりあいがないのに友好的な姫路さん。

そして、一切の邪魔すら入らない状況。

たしかに状況ができすぎている気がする。

過去を変えようとしているはずの僕が、まるで誰かのひいたレールの上を走っているかのように…

「吉井、さっきから難しい顔してどうしたのよ?」

そう自問自答を繰り返していると同じクラスの島田さんが話しかけてくる。

入学当初はそうでもなかったが、なぜだかこの頃の僕への間接技が多くなっているという恐ろしい人物でもある。

「な、なんでもないよ」

下手気なことを言って間接技をかけられるのは勘弁願いたいため適当にごまかそうとする。

「なんでもないことないでしょ。

吉井が難しい顔してるなんてタダ事じゃないんだかさ」

ったく、僕をバカにするのもいい加減にしてほしいものだ。

今度の期末テストで目にものを見せてやる。

「いいから教えなさいよ」

「だからなにもないって…」

「吉井がなんにもなくて難しい顔するなんてありえないわ。素直に白状しないと痛い目にあわせるわよ?」

「………………………………」

我慢しろ…

ここで反抗してもなにもないんだ。

今まで積み重ねてきたものをそう簡単に捨てちゃいけない。

こんなところで騒ぎなんかおこしちゃダメなんだ。

「もしかして昼にあんたのところを訪ねてきた姫路とかいう人となにかあったの?」

「だ、だからなんにもないって…」

島田さんの探るような視線にたじろきながらも僕は極力平然を保とうとする。

別に姫路さんと昼食を一緒に食べたことをバラしてはいけない訳ではないが、なにかと説明しづらいのだ。

「嘘ついてないで正直に話しなさいよ!」

「いや、だからさ…」

弱ったなぁ…

島田さんがどんどんと詰め寄ってきている……

研究で人付き合いが乏しかったため、僕はこの状態をどのように回避したらいいか皆目見当がつかないのだ。

「もしかしてなにか脅されてたりするんじゃ…」

「それはないって…」

と言うか、姫路さんを誰かを脅すなんてことはありえないだろう。

でも、あくまで憶測の範囲だが芯はしっかりとしているように感じることはあるけどね。

「いいから教えなさいよ!」

更に詰め寄ってくる島田さんに対して僕は一歩退き……

カツンッ

「うわぁ!?」

一歩さがったところで僕は机の角にかかとがつまずきバランスを崩してしまう。

僕はほぼ反射的になにかに掴まろうとして――――――

「きゃあ!?」

島田さんの手をひいてしまった…

当然、僕に巻き込まれるかたちで倒れる島田さん。

「つぅ……」

僕は床に頭を打ち付けた痛みを我慢しながら目を開けると目の前には島田さんの顔があった。

どうやら島田さんは寸でのところで床に両手をついて耐えたようである。

しかし、この状況は事情を知らない人が見たら確実に勘違いをおこすだろう…

「ご、ごめん島田さん…」

そんなことを考えながら僕はやけに大人しくなった島田さんから離れるように起き上がろうとする。

バサッ

「よ、吉井君…」

だけど、遅すぎたんだ…

君に……誰よりも見られたくなかった君に見られてしまったから…

カバンを落として走り去る姫路さんを、僕はただ開いた教室の扉から見つめることしかできなかった……

最悪だ………

 


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