バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第4話 得るべきはずの日常

明久SIDE

「じ、実を言うとわ、私と吉井君は明日から一緒なんでしゅ!」

「ひ、姫路さん!?」

雄二達に観念して説明をしようとした直前にとんでもないことを口走った姫路さんに僕は驚きの声をあげる。

たしかに『明日から一緒(に登校)』ではあるが、『明日から一緒』ではない。

と言うか、こんな言い方では確実に誤解を――――

「(明日から同棲とか明久のやつ、手早すぎだろ…)」

受けていた…

どうやら、僕の10年間の付き合いである親友も処理が追い付いていないようである。

「……雄二、私たちも同棲する」

んでもって、親友の未来の妻はこの状況に格好つけて雄二に言い寄り始めていた…

「ふざけるな翔子!

なんで俺がお前と同棲なんかしなきゃならねぇんだよ!」

「……協力してくれた「あー、わかったわかった!前向きに検討してやるから黙れ」

突然、雄二が慌てたように霧島さんの言葉を遮るがどうしたのだろうか?

協力がどうとかこうとか聞こえた気がするけど、なにか企んでないといいなぁ…

「……雄二、新婚生活の話なんて気が早い」

そう言って霧島さんは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

ん?

雄二たちって新婚生活の話なんてしてたっけ…?

「いや、お前の頭はどうなってるんだよ!」

「……だって、雄二は前向きに検討してくれるって言った」

「それは同棲の話だ!」

どうやら、ただ夫婦漫才を繰り広げていただけのようである…

だけど、そんな下らないことも僕にとっては新鮮だったから――――

「二人とも仲がいいんだね」

自然と笑みがこぼれてしまったんだ。

思い返せば、あの日を境に僕は笑っていなかった。

学生ならば本来はこうやって、友達と笑いあうのが普通だというのに……

だけど、その普通を自ら手放して拒絶したのは僕の方。

誰にも罪はない。もちろん君にも……

その先に……僕が願い、追い求めたものに辿り着ければ後悔なんてないから………

「ふふっ、翔子ちゃんは坂本君のことが本当に好きなんですね」

そうやって無邪気に笑ってくれている君が傍にいてくれるだけで何も辛くないから……

だけど、そう思っているのに感じてしまった一つの違和感。

ほんの些細なことだ。気付かなくて普通。

むしろ、気付いた方がおかしいくらいだというのに僕はそれを感じ取ってしまった。

そして、同時にそこから導き出される一つの可能性にも気づいてしまったんだ……

「……うん、私と雄二は夫婦だから」

「んなわけあるか!」

「……雄二は照れ屋さん」

「羨ましいです。私もいつか……」

いや、だけどそんなはずがあるわけない。

だって、君が僕のことを――――

「明久、浮かない顔してどうしたんだ?」

「あっ、いや、なんでもないんだ。あははは…」

考え事をしていて話に加わらないのを雄二は不審に思ったのか珍しく僕を気遣ってきた。

だけど、僕はそんなたった一人の親友に嘘をつく。

僕の考えは他人に話せるものではないし、なにより僕はその一つの可能性を否定したかったんだ。僕はなにも失敗なんかしてないって……

「そう言えば雄二は霧島さんと知り合いだったんだね」

話をそらすために話題をかえようと比較的雄二が答えづらそうな話題をふる。

「………………………………あぁ、翔子は俺の幼馴染みなんだ」

まただ…

また、雄二はあの微妙な間をとった。

いったい何を考えているのだろうか?

「じゃあ、私と吉井君と同じなんですね♪」

「……瑞希たちも私と雄二と同じでお似合い」

「あははは…

霧島さんはお世辞がうまいなぁ…」

僕は乾いた笑を浮かべることしかできない。

僕が姫路さんと釣り合わないのは傍目から見ても一目瞭然なんだからさ……

「そうですよ翔子ちゃん…

そんなこと言ったら吉井君が困っちゃうじゃないですか」

そう言って姫路さんは僕の方をチラッと見てきた。い、今目があったよ////

まずい、まずい、緊張し過ぎて考えてたこと忘れちゃいそう…

「そ、そう言えば姫路さんは霧島さんと知り合いなの?」

「はい♪

クラスで仲良くしてもらってるんですよ」

苦し紛れにでた言葉だったが、これは予想外の収穫だ。

おそらく、雄二はこの喫茶店で僕が姫路さんと親しくなるために一芝居打つつもりなのだろう。それで、自分と姫路さんの双方に接点のある霧島さんに姫路さんを連れて来てくれるよう頼んだ。

これならばさっき霧島さんが言いかけた『協力』という言葉にも納得がいく。

雄二は僕のために……なにも伝えられない僕なんかのために……

今までの怪しい節もそれを隠すためだったのかもしれない。僕に気を遣わせまいと……

「雄二…ありがとう」

「な、なに急に言ってんだ!?」

自然とでてしまった僕の言葉に雄二は柄にもなく狼狽している。

いくら、当時の僕が常日頃から雄二を陥れようとしていたとしても、それはあんまりではないだろうか?

「なんでもない…なんでもないけど、ありがとう」

後で伝えよう。

いつまでも変わらない僕の一番の親友に、感謝の気持ちを。

今はできない。

してしまえば、せっかくの気遣いがムダにしてしまうから……

「そうか…

じゃあ、なんでもないその言葉受け取っておくぜ」

そう言う雄二は僕から一瞬目をそらした。

そして、その一瞬のほんの一時、なにかを悩むような顔をしたんだ…

だけど、言葉が察するに雄二は僕の言わんとしたことを理解してくれたのだろう。

「……そろそろ何か頼むべき」

「おっ、そうだな。お前らはなにを頼むんだ?」

霧島さんに続くように雄二が僕たち三人を見回す。

「……私はショートケーキ」

「私はクレープです」

「僕は水でいいや」

というか、手持ちの金銭的にそれ以外無理である。

はぁ…貧乏って、本当にイヤだなぁ……

「ご注文はお決まりでしょうか?」

そんなことを心中で嘆いていると先程のグルグルツインドリルの女の子が注文をとりにきた。

「俺はコーヒーだ」

「……ショートケーキ」

「クレープを二つお願いしますね」

姫路さんはクレープを二つも食べるんだ…

意外に食いしん坊なのかな?

「水をちょうだい」

そう考えながらも僕は注文を締め括る。

「ご注文を繰り返します。

コーヒー、ショートケーキ、クレープ二つ、水でよろしいでしょうか?」

「あぁ、間違いない」

雄二がそう言うと女の子は厨房へと戻っていってしまった。

それにしても、水が普通に受け入れられるとは思わなかったよ……

「そう言えば姫路と明久はいつからの付き合いなんだ?」

「小学生の頃だよ」

「家も比較的近所なんです♪」

そう弾んだ声で話す姫路さんが視界の隅に映る。

姫路さんは本当にいつも楽しそうに話すなぁ…

僕なんかといても、そんなにいいことなんてないはずなのに……

「……私の家はじきに雄二の家になる」

「あのなぁ、翔子…」

霧島さんの猛アタックに呆れる雄二。

そんな普通(?)の学生の話をして待つこと数分後。

「お待たせしました。まずはショートケーキとクレープになります」

「ありがとさんっと」

僕の向かいの通路側席に座る雄二が二人の注文品を受けとる。

「ほらよ」

「……雄二、ありがとう」

「ありがとうございますね坂本君」

そう言って雄二から注文品を受けとる二人。

そして、姫路さんは二つ頼んだ内の一つを僕の口元に差し出してきた。

「はい、どうぞ吉井君♪」

えっ…?

なにがおきているんだ!?

姫路さんが僕に『はい、あーん』だと!?

いやいや、待て待て!ここは冷静になって考えるんだ…

姫路さんが僕に『はい、あーん』なんてありえるはずないんだからさ!

そ、そうか!雄二だな!雄二が仕掛けた――――

「ドッキリ?」

「吉井君はそんなに私から貰うクレープがイヤですか……」

そう言う姫路さんには明らかな落胆の色がみてとれた。

例えるなら、それは長い耳を力無く垂らしたウサギのようで……

護ってあげたい、悲しませたくない、そういった庇護欲すら掻き立てられるその姿。

「も、もらうね姫路さん」

それは僕から羞恥を捨てさせるには充分過ぎた。

僕は姫路さんが差し出したクレープを一口含む。

クリームとチョコの甘さの中に混じる違った甘さ。

少しでも気を許せば、それに堕ちてしまいそなくらい誘惑。

不思議な感覚だ…

今まで味わったことのない不思議な感覚。

それは研究に明け暮れていた十年間、いや、僕が生きてきた中で一度も味わったことのないものだった。




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