バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第2話 近付く想いは誰の距離?

明久SIDE

「姫路さん…」

「よ、吉井君!?」

なんと僕が教室を飛び出し衝突してしまったのは姫路さんだった。

僕が作り出した虚像ではなく、本物の姫路さん…

確かにここで……僕の目の前で生きている姫路さんなんだ……

「よ、吉井君すみません!」

「ぼ、僕の方こそごめんね」

うぅ…

恥ずかしくて姫路さんの方を直視できないよ…

「そ、その…吉井君もなにか用事ですか…?」

「あっ、うん…

その、家にちょっと用事がね…」

視界の隅であたふたとしている姫路さんにそう応えてから気付くが、僕はその内容を応えられるだけの術を持ち合わせていない。

かと言って、「姫路さんと近づくために今から私服に着替えてくるんだ」なんて言ったらドン引きされること間違いなしである……

「ひ、姫路さんはなにか用事があ、あるの?」

「ひゃい…

じ、実は私も家に少し用事がありまして…」

「そ、そうなんだ。偶然だね、なんてあははは…」

まずい…

なに言ったらいいかわからなくて空笑いし始めちゃってるよ!?

あ、あれか!これも雄二の考えてた作戦の内ってやつか!?

「………………………………」

そう思って雄二の方に視線を向けるが、無言で「やっちまったぁ…」って顔をしている…

って、ことはだ。これは天然物の偶然ということになる……

いや、本当にどうすればいいの!?

もう10年単位で姫路さんと話してないのになに話したらいいかなんてわからないよ!?

「よ、吉井君!」

「は、はいっ!」

姫路さんの絞り出したような声に、ついこちらまで背筋が伸びてしまう。

それと共に、再度視界の隅に入る姫路さん。

その顔は羞恥からか赤く染まっており、目尻には涙が浮かんでいた。

………………………………泣いてるの…?

僕が泣かせちゃったの…?

僕がいるから…

僕が未来から来て、今いるはずもないのに君の前にいるから……

「………………………………ごめん…姫路さん……」

それだけを言い残すと僕は立ち上がる。

僕なんかが姫路さんの前にいちゃいけないんだ…

僕がいたら泣かせちゃうんだ……

大丈夫。

親しくならなくたって助ける方々くらいいくらでもあるから…

なにも問題ない。

僕の目的は姫路さんと親しくなることじゃなくて、助けることなんだからさ……

「吉井君!」

そう考えて踏み出そうとした僕の足は姫路さんの言葉によって止まってしまう。

「待ってください吉井君!」

振り向けば、その顔はさっき以上に赤く、涙もより一層溢れていた。

「そ、その…

よっかたら一緒に帰りませんか…?」

「えっ…」

伏し目がちに言う姫路さんの言葉に僕は自分の耳を疑ってしまう。

なんで…

どうして…?

僕が姫路さんを泣かせちゃった筈なのに……

「そ、その…私たちって近所ですから……途中までどうかなと思いまして…」

「……………僕で……姫路さんは僕なんかでいいの…?」

「こうして折角久しぶりに話し合えたんですから一緒に帰りましょ?」

そう言う姫路さんの顔は相変わらず赤いままだし涙も浮かんでいたけど、確かに笑っていた。それは10年前に失ってしまった僕の護りたい笑顔だったんだ。

「…………そうだね。

姫路さんと話すのも久しぶりだし一緒に帰ろうか」

僕にとっては本当に久しぶりなんだよ…

「はいっ♪」

僕の差し出した手を姫路さんが掴み、僕たちは立ち上がる。

「じゃぁ、雄二また後で」

「………………あ、あぁ…」

「???」

「行きましょ吉井君♪」

「あっ、うん」

雄二の妙な歯切れの悪さが気になるが姫路さんの時間をとるわけにはいかないので、僕と姫路さんは家に向かって歩き始める。

「(本当に俺はできるのか…

あいつらを…明久と姫路を……)」

後ろで雄二が何かを呟いていた気がしたが、それは放課後の喧騒に掻き消され僕の耳に届くことはなかった。

〜帰り道〜

「じゃあ、吉井君は今一人暮らしなんですか?」

帰り道、当時の僕も姫路さんとはしばらく疎遠だったため近況を話しながら僕たちは歩いていた。

「うん。

一人暮らしって自由でいいけど、食費がね……」

「もしかしてあまりご飯食べられてないんじゃ…」

僕のことを哀れんだのか、姫路さんは僕を心配そうに見上げてくる。

なんだか、罪悪感が半端ない……

「だ、大丈夫だよ。昨日もちゃんと塩と水を食べたからさ」

事実、当時の僕の食生活はこんなものだっただろう。

まぁ、ゲームやマンガ等の遊びに使ってしまった自分が悪いのだから仕方ない。

「さすがにそれは食べてるとは言いづらいんじゃ……」

「あははは…

たしかにそうかもしれないけど、気にしなくて大丈夫だよ」

「………………………………決めました!」

僕の空笑いから数秒間、姫路さんは思案顔からなにかを決心したように真剣な顔付きになる。

「明日から私が吉井君のお弁当作ってきてあげますね♪」

「………………………………」

おかしい…

どうやら僕の耳は相当おかしくなってしまったようである……

じゃなかったら、頭がイカれてしまったのかもしれない。

どちらにせよ、姫路さんが僕の弁当を作ってくれるなどという都合のよいことを言うはずがないのだから。

「やっぱり、こんなの迷惑ですよね…」

しかし目を潤まして言う姫路さんを見る限り、どうやら聞き違いでもないらしい…

「もしかして、それって僕のお弁当を作ってくれるってこと?」

「さっきから、そう言ってますよ?」

「だけど姫路さんに迷惑なんじゃ…」

「だ、大丈夫です!

私、料理には自信がありますし早起きも得意ですから!」

なんで姫路さんはこんなに必死になっているんだろうか?

まさか僕に少しでもアピールしたい……って、そんなわけないよね。

きっと、姫路さんは優しいから僕がかわいそうだとでも思ってくれたのだろう。

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「はいっ♪

じゃあ、明日の朝から吉井君の家に持っていきますね」

「さ、さすがにそれはいいよ。学校で受けとるからさ」

そうでもしないと姫路さんにあらぬ噂がたって迷惑をかけてしまうだろう。

あのバカの家に毎朝寄っている哀れな人と…

「学校じゃ渡しそびれちゃうかもしれないじゃないですか。それに……」

「???

それにどうしたの?」

姫路さんが途中で言葉を途切ってしまったので僕は首を傾げるが続く気配がない。なんだか落ち着きなくそわそわしてしまっているが、どうしたのだろうか?

「姫路さん?」

「と、とにかくです!

明日から毎朝吉井君の家に行きますから!」

「いや、それは色々とまずいって!」

さすがにここで退けば僕の二度目の青春もあっけなく終了してしまうだろう。

それだけはなんとしてでも阻止しなければならない。

僕がそう逃げ道を探していると姫路さんと僕の家との分かれ道が見えてくる。

………………………………そうだ!

「ねぇ、姫路さん。朝、ここで待ち合わせにしない?」

「ここって、吉井君と私の家の分かれ道ですよね?」

「うん。そうすればどちらも手間をとらないと思うけど、どうかな?」

「そうですね。

ここからでも吉井君とは登校できますからそうしましょう♪」

そう言うと姫路さんは少し小走りで僕の前にでると笑顔で振り向く。

「明日の朝から楽しみにしてますね♪」

「えっ……

ちょっと待ってよ姫路さん!」

しかし姫路さんは僕の制止も聞かずに自分の家に向かって走り出してしまう。

僕はそれをただ呆然と見つめることしかできなかった。

僕から遠ざかって行く姫路さんを……

その姿はどんどんと小さくなっていき、ついには見えなくなってしまった。

「………あんなこと言われたら勘違いしちゃうじゃないか…」

姫路さんの笑顔を思い出しながら僕も自分の家へと歩き始める。

さてと、早く着替えて雄二の所に行かないとね

 


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