バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第1話 最逢

明久SIDE

「――――であるからにして……起きろ吉井!」

「ん……」

懐かしい声に目を覚ますと、そこは僕が高校一年生の頃の教室だった。

ついでに教科書を片手に持ってなんらかの解説をしている鉄人もいる。

どうやら僕は無事に十年前に戻ってこれたようだし、身体の方も当時のものである。ただ、問題が一つある。それは――――

「雄二、今日って何月何日だっけ?」

あのタイムマシンでは細かい日付設定ができないということだ。

「はぁ?

明久、ついに頭までいかれたか?」

「いや、こっちは割と真面目なんだけど…」

「………………………………1月15日だよ」

隣に座る雄二は一瞬なにかを考えるような素振りで応える。

「吉井に坂本、俺の授業中に私語とはいい度胸だな?」

そして、鉄人の怒りも一緒にかってしまった…

「廊下に立ってろ!」

「「はーい…」」

〜廊下〜

今日の日付が1月15日。

あの事件の日が3月13日だから、約2ヵ月の猶予がある。

それはそれまでに姫路さんの運命を変えて、あの日のことをなかったことにしなればいけないということなのだ。

そのためにはまずはなるべく姫路さんと親しくなっておかなければならないのだが、どうやって接点をつくろうか…?

姫路さんが僕のことを好いていてくれれば、いきなり話しかけても問題ないのだが、高々同じ小中学校で家も比較的近所………って、意外に近い存在!?

そんな意外な事実に内心驚いていると、一つの引っ掛かりがうまれる。

なにが原因で姫路さんが死んでしまったかわからないのだ…

いや、わからないんじゃない。

記憶にすっぽりと穴が空いたように忘れてしまったのだ……

日付は思い出せる。

事件の直前までも思い出せる。

だけど、なぜか姫路さんが死んだ理由だけは思い出せないんだ……

なんでだ!

どうして!

あんなに大切なことなのにどうして思い出せないんだ!

これじゃあ、姫路さんが助けられない!

姫路さんをまた死なさせてしまう!

イヤだ…

イヤだ……

「そんなの絶対にイヤだぁぁぁ!!」

「うるせぇぞ明久!」

隣に立つ雄二が指で耳栓をしながら迷惑そうな顔で言う。

「貴様らぁぁぁ!

廊下でくらい静かにできんかぁぁぁ!」

「「すみません…」」

一番本人が叫んでいるのではないかと言う疑問はおいといて素直に謝っておく。

「ちゃんと静かにしとけよ」

がらがら

それだけを言うと、鉄人は教室に戻って行ってしまった。

「なぁ、明久…」

それを確認すると、雄二が真剣な面持ちで話しかけてくる。

「なに?」

「もし、助けられる誰かの命を助ける。

そのために誰かを犠牲にするとしたらお前はどう思う?」

「っ!?」

自分でも動揺が隠しきれていないのがわかる。

なぜ雄二がこんな質問をしてきたのかわからない…

僕が過去と違う行動をして本来とは変わった行動をとる人がいるとしても不思議ではないのだが、雄二の質問はあまりにも的確過ぎたのだ。

僕だって姫路さんを助けるために自分を犠牲にしてきた。

だけど、それを後悔なんかしてないし、したこともない。

それはたぶん、僕の中でいつまでも変わらない事実としてあるだろう。

しかし、雄二の質問はそんな僕の想いの核心を的確についてきた。

それに動揺が隠せないでいるのだ。

「いいんじゃ…ないかな……

その人にできる全力で助けられる人が限られててもそれでも……」

それは僕の偽ざらる本心であると共に、全てを捨ててきた僕への言い訳でもあった。

「そうか…

変なこと聞いて悪かったな」

「気にしないでよ…」

今まで何度も僕のバカな行動についてきてくれたんだからさ。

そう言えたら楽だろうが、この時の雄二は親しくなってまだ一年も経っていないのだ。いきなりそんなことを言われても困るだけだろう。

そう考えると再び窓に視線を移す。

グラウンドでは体育の授業なのか、体操服の男女が走っていた。

目を凝らしてみるが、そこに姫路さんの姿は見えない。

おそらく、別のクラスなのだろう。

「明久、探し人か?」

「うん、ちょっとね」

相変わらずの雄二の観察眼に関心ながらも流すように返事をする。

「もしかして、この前の試験召喚の時にお前が目で追ってた姫路か?」

雄二の言う試験召喚とは一年が召喚獣の扱いに慣れるために体育館で行ったアレのことだろう。あの時の姫路さんは体操服でまた可愛かったなぁ……

「うんうん……って、なんで知ってるのさ!?」

「そりゃ、体育館でガン見してりゃ誰だって察しぐらいつくだろうよ」

当時の僕はこっそりと見ていたつもりだったが、どうやら凝視していたらしい…

姫路さんにバレてて退かれてたら余計に近づきにくいなぁ…

「安心しろ。姫路の方は気付いてなかったみたいだぞ」

「よかったよ…」

なんとか最悪の事態だけは逃れられたことに安堵するとほっと一息つく。

それからというもの、僕と雄二はなにを話すわけでもなくただボッーと授業が終わるのを待ち続けた。

〜放課後〜

さてと、放課後になったことだし早速姫路さんと接点を作らなきゃいけないわけだけど、なにもいい案が浮かんでこない…

頭が良くなっても、こういうところで使えないと宝の持ち腐れの気がしてならないなぁ……

「明久、手を貸してやろうか?」

僕が悩んでいるところに雄二が人当たりの良い笑みを浮かべてやって来る。

「自分でなんとかするから大丈夫だよ」

しかし、なんと言って姫路さんと接点をもちたいか説明できないので雄二の誘いを断っておく。

 

さすがに過去を変えにきたなんて言えるはずもないしね…

「いいのか?

お前にとっては最後のチャンスかもしれないぞ?」

「最後の……チャンス…」

その一言は僕を突き動かさすには十分だった。

僕の造ったタイムマシンは片道専用だ。もう使うことはできない。

それは同時にもうやり直せない可能性があることも表しているのだ。

こちらでもう一度タイムマシンを作ってやり直す?

そんな手もあるだろうが、それを行わなければならない時に僕が自分を保っていられる保証もない。

もう一度、姫路さんが僕の目の前で死んでしまうことがあるならいっそ僕も……

「大丈夫だ。俺に任せとけば必ず姫路とお前に接点をつくってやる」

「……ありがとう雄二」

雄二がなにを考えているかわからないが、僕一人でもがくよりも雄二が協力してくれた方が遥かに成功率は上がるだろう。

「決まりだな。

じゃっ、今すぐ家に戻ったら着替えてここに戻ってこい」

「私服でいいの?」

「姫路に見せても恥ずかしくない格好でな」

「うん!ありがとね雄二!」

「おう!任せとけ明久!」

雄二にお礼を言うと、僕はカバンを肩に提げて教室を飛び出した。

と、その時―――

「うわぁ!?」

「きやぁ!?」

廊下を走っている誰かとぶつかってしまう。

いや、誰かなんてわかっている。

忘れもしない。その声は―――

「姫路さん…」

「よ、吉井君!?」

君のものなのだから…


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