バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第10話 嘘と優しさと偽りなき想い2

それだけを言うと、僕はそっと姫路さんを抱き締める。

姫路さんがしてくれたように、僕も少しでも姫路さんの悩みを拭いさってあげたいから。

僕なんかの温もりでも、姫路さんの助けになることを願って…

そんな見えすいた偽善、だけど僕の偽らざる想いで抱き締めていると、姫路さんがこちらに身を預けてくるのがわかった…

「すみません吉井君…」

今にも泣き出しそうなその声。

それだけで、今までどれだけのものを溜め込んでいたのか解るほどに上擦った声…

「私、イヤだったんです…」

微かに顔をあげながら、だけれどより一層僕に身を預けるようにしなが姫路さんは呟く。

イヤだった…か…

僕も姫路さんがいなくなるのはイヤだよ……

きっと、君と僕の気持ちの意味は違うだろうけれど、それでも僕らは今繋がっている。

勘違い、嘘、独り善がり、どれだって構いやしない。

君といられる。その事実が…嘘偽りない今が大切だから…

「ありがとう…ございます……」

そう言うと姫路さんは僅かに僕から離れると、僕をまっすぐに見上げてきた。

その目にはまだ微かに涙が残っている。だけど、さっきのような悲しみの涙ではない。

そう思え、正しいのだと確信できた。

少しは……僕でも役にたてたかな…?

「吉井君、私も言いたいことがあるんです…」

「な、なにかな…?」

正直な話、上目遣いでのそれは反則ではないだろうか?

そんなまっすぐに僕を見詰められたら、また勘違いしちゃいそうになるのに……

「私がイヤだったのは、吉井君が……」

まるで姫路さんは告白するかのように真っ赤になっている。

まっ、まさかね…

どうせ、いつもの僕の『バカ』な勘違いに決まってるさ……

「私とじゃなくて、島田さんと……」

あれ…?

これじゃあ、まるで姫路さんが僕のことを好きみたいじゃ……

もしかして、勘違いじゃない…?

「吉井君が…私のだいす「ひゅーひゅー、お熱いねお二人さん」

「…………………………………」

「…………………………………」

ここできて、まさかのクラスメイトである須川君の登場である。

姫路さんの言葉を遮り、僕らの脇を走っていく須川君…

僕らはしばらく、それを呆然と見つめているしかなかった……

って、ちょっと待ってよ!?

今の言葉の続きすごく気になるよ!

結構、いい雰囲気だったよね!?

「えっと…その……姫路さん?」

「はっ、はい…?」

「さっきの続きは……」

「な、なしです!

さっきのは、なしなんです!明久君の空耳なんです!」

僕からとっさに離れた姫路さんはあたふたしながら、ごまかしならないごまかしをする。

たしかに姫路さんがなにを言おうとしたか気になる。だけど今はそれ以上に―――――――

「ねぇ姫路さん、その明久君っていうのは…」

そう、姫路さんを助けにきた時にも姫路さんは僕を吉井君ではなく、明久君と呼んでいた。

それが僕の感じていた疑問。なぜ急に僕のことを名前で呼ぶのかが疑問なのだ。

「そ、それはですね…

す、すみません!昔のくせでつい呼んじゃったんです!」

「姫路さんって昔から僕のことを吉井君って呼んでたよね…」

「あぅ…

そ、それはですね……」

泣いてみたり、慌ててみたり、困ってみたりと本当に目まぐるしく変わる表情である。

どうやら姫路さんは僕に隠したいことがあるようだ。

「もしかして、僕の名前を呼ぶ練習をしてて、ついでちゃったとか?なぁんてね」

そう冗談を言いながら僕は笑ってみせた。

たぶん、今の僕は普通に笑えているだろう。

嘘でもなく、無理をしてでもなく、心からの笑顔で…

きっと、姫路さんだ……って……?

そう考えてた僕の世界が一瞬止まる。

冗談を言い合うように笑ってくれると思っていた姫路さんが、頬を染めながら恥ずかしそうにモジモジしているのだ…

ありえない…

ありえるはずがない。

僕の諦めていたはずの現実が……僕の望んだ世界への入口が目の前に広がっているのだ。

「笑わないで……くださいね…」

姫路さんはそう言うとしばらくの間を空けた。

それがどれだけの時間なのか僕にはわからない。

ほんの一瞬なのかもしれないし、気が遠くなるほどに長かったのかもしれないのだ。

「私…吉井君に……明久君に少しでも近付きたかったんです!

だから、まずは名前で呼ぼうと思って家で練習していたんです!」

「そ、それって…」

僕は……僕らは…同じ想いだとでも言うのだろうか…

決別により一層大切さを実感し、諦めていた僕の想いが……

「そ、それに私と明久君は恋人なんですから名前で呼んでもなにも問題ないんです!」

「こ、恋人!?」

「あっ、明久君から言ったじゃないですか。僕の彼女…って///」

たしかに僕はそう言った…

言ったが、あれはあの場で必要な行動であったのだ。

「と、とにかく!

私は明久君のことを明久君って呼びますから!」

「えぇ!?

ちょっと待ってよ姫路さん!それは色々と周りの目が…」

特に雄二には何を言われたかわかったものじゃない…

別れ際と呼び方が違うなんて、どれだけ問いただされることか……

「ダメです!明久君は明久君なんですから!

そう呼ばせてくれないなら明日からお弁当なしです!」

「わ、わかったよ…」

さすがにここで姫路さんとの数少ない接点を失うわけにはいかない…

そう考えた僕は仕方なく承諾するが、いったい明日からどうなってしまうことだろうか……

「ふふっ、ではこれからもよろしくお願いしますね明久君♪」

「う、うん、よろしくね姫路さん」

陰りのない微笑みを向けてくれた姫路さんに僕はほっと一安心すると笑みを返す。

まぁ、結果的には一件落着なのかな…?

「じゃあ、帰りましょう明久君♪」

「うん、帰ろうか♪」

互いに笑いあいながら自然と繋がれる手。

僕らはそれに疑問をもつこともなく歩きだす。

こんなにも愛しい温もりに疑問なんていらないから…

大切なものに理論や理屈なんていらないと僕は知ったから……

いつまでも歩き続けよう。君と共に…

新たに回り始めた僕らの歯車を止めぬようにと……

 




いきなりですがSAOのフェアリーダンス編のOP、明瑞madに使えそうな気がします。
まぁ、作る時間はないんですが作りたいなぁと…

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