バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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下衆な明久に耐性をお持ちでない方は回れ右をお願いします。
今回の彼らはそれですので…


第8話 僕が僕であるということ

明久SIDE

最悪だ…

走り去る姫路さんの後ろ姿を茫然と見つめていた僕の中に絶望と怒りが込み上げてくる。

誰のせいでこんなことになった…?

そんなのわかりきってるじゃないか…

こいつだよ……

僕の目の前にいる、ことある毎に僕に暴力をふるうこいつだよ!!

たしかに僕の浅はかさのせいで暴力をふるわれたことはあったが今回は違う。

関係ないこいつが僕に絡んできたからだ!!

「ふざけるなよ…」

低くドスのきいた声で島田さんを脅しつけるように言う。

「な、なによ!

秘密をつくってる吉井が悪いんでしょ!」

こいつはいったいなにを言ってやがるんだ…

僕がわるい…?

勝手に関わってきたのはそっちだっていうのに僕が悪いだって?

僕に最後までついてきてくれた雄二なら多少のことは許せるとしても、途中で僕の前からいなくなったお前がなに言ってやがるんだ……

「調子にのんなって言ってんだよ!」

バンッ

「きゃぁ!」

壁に拳を叩きつけて脅せば、驚いたのか悲鳴をあげながら後退りする。

ったく、なにビビってやがるんだよ?

テメェは散々僕を痛め付けてきただろ?

そして、たった今僕からもっとも大切なものを奪いやがった…

「タダで済むと思うなよ…」

恐怖からかこいつは逃げようともしない。

逃げねぇなら好都合だ。

二度と邪魔なんてする気がおきないほどにぶちのめしてやる!

そう考え、僕は怒りに身を任せると拳を振り上げる。

「やめて!」

防衛本能からかこいつは目をそらす。

だが、僕の拳がそこまで届くことはなかった。

「雄二、なんのつもりかな?」

そう、雄二が僕とこいつとの間に割り込んできたのだ。

それも、ご丁寧に僕の手首を掴んでいる。

ただてさえ僕と雄二では力に差があるのに手首を掴まれたとあってはお手上げである。

「やめろ明久。

事情は知らないがお前らしくないぞ」

「僕らしくない…?

そんなのどうだっていいんだよ!」

僕はとっくの昔に自分を捨てたんだ…

今さら僕らしいとからしくないとかはどうだっていい。

僕自身ですらなにが僕らしいかわからないのだから…

すべてを捧げた目標を見失った僕に残ってるものなんてなにもありはしないのだから…

「僕に構うな!」

それだけを言い残すと、僕は雄二の腕を振りほどき教室を出ていく。

そして釘を刺すようにすれ違い様、あいつを睨み付けてやった。

『二度と僕に関わるな』

そう目で脅すように…

「明久!」

雄二は僕を呼び止めようと叫ぶが、怯えているあいつが心配なのか追いかけては来なかった。

〜屋上〜

特に行くあてもなかった僕は屋上に来ていた。

今は放課後なのだから帰宅しても問題はないのだが、どうもそんな気にもならずにボッーと景色を眺めているだけだ。

放課後のグランドで部活に勤しむ野球部の面々。

文月学園の沿道を歩く大人や学生たち。

僕が気にも止めなかったものだが、たしかに僕はこの景色も見てきたのだろう…

「もう…どうしようもないのかな……」

しかし、その景色もここから見たものではない。

過去に介入すれば、こうなることだって容易に想像できていた。

だが、あまりにも唐突すぎたのだ…

それに、今になって冷静に考えればなにも目標へ到達できなくなったわけではない。

姫路さんに嫌われることによって多少遠回りにはなるが、あの日のあれをなかったことにできないわけではないのだ。

「僕は……バカだね…」

本当にバカだ…

自分ではとっくに過去の自分を捨てたと思っていたのに結局は捨てきれていない…

捨てきれたのなら、こんなにも後悔や失望を味わうこともないはずだから……

いっそ、その方が楽なのかもしれない。

そうすれば、僕のつまらない感情に左右されることなく姫路さんを助けられるのに…

そう、沿道で言い寄られ、困っている君を助けるように……

「っ!?」

それに気付いた瞬間、勝手に動き出す僕の身体。

理屈や理論じゃない。もっと大切ななにかが僕を突き動かしている。

そして確信する一つの事実。

どうやら……

僕はまだ僕のようだ

 


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