バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~ 作:唐笠
なお、この話に明久×○○の○に当てはまるのは瑞希しかありませんので、ご了承ください
「どうして…こうなっちゃったんだろう……」
僕こと吉井明久は今は亡き彼女の墓の前で誰へとなく呟く。
全ては僕の責任で、あの時傍にいたのが僕でなければ結末は変わっていたのかもしれない。そんな後悔と自責の念に包まれていた。
みんなは口を揃えて僕のせいじゃないと言う。
誰も僕を責めることはなかった。
雄二も…姉さんも……姫路さんの両親ですら………
だけれど、それが姫路さんはもうこの世にはいないということを尚更僕に知らしめる結果となった。
「やりなおそう…」
なにもかもすべてを…
僕のすべてを捧げてでも……
〜数年後〜
「やっと…できた…」
目の前にある球体を見つめて僕は今までのことを思い返す。
すべてを捧げてでもやり直すと誓った10年前。
あれから僕は必死に勉強した。
それはFクラスとは思えないほどに……
気がふれたという人もいた。
壊れたという人もいた。
それはなにも間違っていない。
事実、僕はそれまでの僕とは変わってしまったのだから……
それでも僕は進み続けた。
三年になるころには学年主席。
それも次席である霧島さんを総合科目で2000点も上回るほどの点数でだ。
大学はハーバードに留学し、そこでも学年主席―――いや、一部では教師すら凌ぐと言われてた気がする。
だが、そんなことはどうでもよかった。
僕が欲しいのは地位や名誉じゃない。
未だ誰も造ったことのない空想上のもの……タイムマシンだ。
「明久、本当にいくのか…」
「うん…
そのために今までやってきたんだからさ」
僕が完全に変わってしまった今でもなお、以前と変わらず接してくれている最後の友にして最高の親友である雄二にこくりとうなずく。
「みんなはお前が変わったと言って離れちまったけど、俺はそうは思わないぜ。
今も昔もお前は変わってなんかいない。
ずっと誰かのために頑張ってきたんだからよ」
「ありがとう…
そう言ってくれるのは雄二だけだよ……」
もう永遠に聞くことのないであろう友の声をしっかりと耳に焼き付ける。
この球体に入ってしまえば、もう『目の前にいる雄二』と会うことはなくなるかもしれない。
それは僕も雄二もわかっていることだ。
「できれば俺も着いていってやりたいが、今の翔子をほっとくわけにはいかないんだ。すまないな…」
一年前にはれて結婚した雄二の奥さんのお腹には赤ちゃんがいるのだ。
僕はそれを知ってるし、初めから雄二を巻き込む気などない。
「気にしないでよ。元々、僕一人でやる予定だったんだ。
むしろここまで付き合ってくれて感謝してるくらいだよ。霧島さ――いや、奥さんによろしく」
「必ず…戻ってこいよ」
「うん」
果たされることない約束をし、僕は球体に乗り込む。
これが僕のすべてを捧げて造ったタイムマシン。
過去のたった一つの……僕が僕自身を捨てたあの日をやり直すために造られたもの。
成功すれば僕は10年前に戻ることができ、身体もその時のものになる。
そして、僕は過去の僕としてやり直せるんだ…
「姫路さん、次は必ず助けてみせるよ」
これは数ある可能性から最悪の一つを選んでしまった者の物語。
そして、この世の理すらねじ曲げてしまった者の愚かでまっすぐな想いの物語である。
一日一話、移転します