翌朝、魔法省の車でキングズクロス駅まで送ってもらった。
ホグワーツ急行が出発するのは、9と4分の3線。
ホームへ行くには、9番線と10番線の間の柵に突っ込まないといけないらしい。
父さんから聞いてたけど、柵に突っ込むのはちょっと怖いよ。
まず、ハリーとアーサーおじさんが通り抜ける。
アーサーおじさんは、ハリーのカートを押し、9番線のマグルの列車を興味深そうに見ていた。
そして、ハリーに目配せし、何食わぬ顔で柵に寄りかかり、ハリーもその真似をした。
2人の姿がスーッと柵に吸い込まれて消えた。
「レイ、わかった? 私も初めての時は、とても怖かったけど、一度やればコツはつかめるわ」
ハーマイオニーが荷物のカートを確認しながら言う。
「うん、わかった」
私は深呼吸して、9番線と10番線の間に向かって、カートを押す。
【えらく人が多いな。9月1日やけん、仕方ないけど】
カートに載せた鳥籠で、ヒキャクが目をキョロキョロさせていた。
「ついて来て。怖かったら走ってもいいけど、立ち止まっちゃダメよ」
私は壁に吸い込まれるハーマイオニーの背中を追って、壁に突っ込んだ。
次の瞬間、赤いSLが停まるプラットホームに出た。
よし、看板は「9と4分の3」と書かれている!
荷物を列車に積みこんだあと、モリーおばさんは子供達と別れのキスをし、私、ハーマイオニー、ハリーをギュッと抱きしめてくれた。
その後、ハリーはアーサーおじさんに呼ばれて少し話し込んでいたようで、発車寸前になり、ハリーは列車に駆け込んできた。
ハリーはロンとハーマイオニーを呼んで言った。
「君達だけに話したいことがある」
その言葉を聞いて、ロンはジニーを追い払う。
「その話って、まさかシリウス・ブラックのこと?」
私が尋ねたら、3人は固まった。
「あ、話を聞いちゃマズイんなら、私、席外すよ」
そう言うと、3人は顔を見合わせてから、一緒に居てもいいと言ってくれた。
それから私達は、人がいない客室を探して、とうとう最後尾までやってきた。
で、やっと空いている場所を見つけたんだけど……。
「《うわっ、父さん!!?》」
ホグワーツ急行に乗るなんて、聞いてない!
ていうか、ホグワーツにいるんじゃないの!?
「レイ、どうしたの。急に大きな声出して?」
ハリーに尋ねられ、慌てて何でもないと答えたけど、内心冷や汗モノだ。
危ない、危ない!
叫んだのが日本語で良かった。
英語だったら一発で親子だってバレてたぞ。
父さんは窓側の席でグッスリ眠っていた。
にしても、もう少しマシなローブはなかったの?
なにもこんなツギハギを着なくてもいいのに。
「この人誰だと思う?」
ロンがひそひそ尋ねた。
「ルーピン先生」
ハーマイオニーが、トランクの名札を見て答える。
彼女は父さんが新任の「闇の魔術に対する防衛術」の教授だと気づいたみたいだ。
「ま、この人がちゃんと教えられるならいいけど。強力な呪いをかけられたら一発で参っちまうように見えないか?」
ロンがさり気なく失礼なことを言うので、私は「人は見かけによらないよ」と抗議した。
落ち着いたところで、ハリーはアーサーおじさんとの話の内容を教えてくれた。
やはり、シリウス・ブラックの狙いはハリーらしい。
そういえば、父さんもこの前電話で、同じことを話してたな。
その時、ハリーのトランクからヒューヒューと音が聞こえてきた。
鳴っていたのは、スニーコスコープだ。
きっと私に反応したんだ。
そこで寝ているのが、自分の父親だってこと隠してるからだよね。
そのうちスニーコスコープの音が酷くなって、父さんが起きるんじゃないかと心配になった。
だから、スニーコスコープをハリーにしまうように頼んだ。
今度はホグズミードの話になった。
ホグズミードはイギリス唯一の魔法使いだけの村だ。
3年生以上は休暇の時にそこに行く許可が出るけど、ハリーは許可証に保護者のサインがもらえなくて行けないらしい。
あ、私もまだサインもらってないや。
私の場合はいつでももらえるから、まあいいか。
するとロンが、ハリーが許可証にサインをもらえないなら、フレッドとジョージに学校から抜け出す秘密の道を教えてもらえば良いと言い出した。
「ロン! ブラックが捕まってないのに、ハリーは学校から抜け出すべきじゃないわ!」
ハーマイオニーが、ピシャリと言った。
「私も同感だ。ブラックは13人を一瞬で吹っ飛ばしたんだ。1人ぐらい殺すのは朝飯前だよ。もし、奴の狙いが君なら、学校を抜け出すのは自殺行為だよ?」
私の言葉にうなずいて、ハーマイオニーはクルックシャンクスの入った籠の紐を解こうとした。
ロンが嫌がったけど、クルックシャンクスは籠から飛び出し、ロンの膝の上に乗っかった。
ロンのポケットが、ブルブル震える。
きっとスキャバーズが入っているに違いない。
「どけよ!」
「ロン、やめて!」
ロンとハーマイオニーが激しく言い争った。
しばらくして、車内販売の魔女がやってきた。
ハーマイオニーが、何か食べた方がいいと、父さんを起こそうとしてくれた。
だけど、父さんはやっぱり眠ったままだった。
まあ、新学期の準備とか、ブラック対策で忙しかったから疲れてるんだろう。
それに満月は、もうすぐだったっけ。
「ところで寮は、どうやって決めるの?父さんに聞いても教えてくれなかったんだ」
私はチラッと父さんの方を見て言ったら、ハリーが教えてくれた。
「帽子をかぶるんだ。そしたら帽子が寮の名前を叫ぶんだよ」
帽子をかぶるだけか。
良かった、難しい試験とかじゃなくて。
ちなみに青龍学院には、国語と算数の入学試験がある。
でもクラス分けは、単純明快にクジ引きだった。
ホグワーツだと寮は7年間変わらないらしい。
けど、中高一貫の青龍では、高等部に進級した時に一度だけクラス替えがあるんだ。
しばらくして客室に人が来た。
ハリー達3人が、心底嫌そうな顔をする。
顎の尖った青白い少年が、がっちりしたゴリラっぽい奴を2人引き連れている。
「へえ、誰かと思えば。ポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃないか!」
うわ、何だコイツ。
後ろで、お供のゴリラ2人もトロールみたいに笑っているし。
「ところで、そいつらは誰だ?」
青白い少年は、父さんと私を指差して言った。
「こちらで眠っているのは新任のルーピン教授。で、私は如月伶。日本の青龍学院魔法学校からの編入生。ちなみに私は日本人だから、苗字は『如月』の方。それと君、人を指差すのは失礼だと親に教わらなかった?」
私がイライラと答えると、青白い少年は一歩引いた。
「キサラギ……? まさか日本の魔法大臣の孫娘が編入するって!?」
「うん、それは私のことだね。それが何か?」
「父上が仲良くするようにとおっしゃった。僕と向こうに行こう。こんな連中と一緒にいるのはダメだ。傷モノのポッターに、純血とは名ばかりの貧乏ウィーズリー、穢れた血のグレンジャー……」
は、「穢れた血」って、有り得ない!
「断る。さっきから君は本当に失礼だね。この3人は私の友達だよ。友達を悪く言う奴とは、仲良くできない。特にハーマイオニーに謝れ。マグル生まれを侮辱するなんて魔法使いの風上にも置けない」
すると失礼少年は顔を真っ赤にした。
「それに私は、まだ君の名前を聞いてない。親に教わらなかった? 人に名前を尋ねる時は、自分から名乗れって」
すると、やっと失礼少年はドラコ・マルフォイと名乗り、ゴリラ2人を連れて出て行った。
ハリー、ハーマイオニー、ロンはその様子を楽しそうに見ていた。
「マルフォイの奴、いい気味だ!……それにしてもレイ、何で教えてくれなかったの!? お祖父さんが、日本の魔法大臣だって!」
ハリーが私に尋ねた。
「ああ。別に隠してたわけじゃないけど、特に言う必要もないと思ってさ」
そう私が答えると、ハーマイオニーは得意げに言った。
「あらハリー。私はレイの苗字を聞いて、すぐそうかなって思ったわ。日本のカオル・キサラギ大臣って、とっても有名な方よ。元々は魔法薬学者で、数々の成果をあげているの。ベアゾール石の解毒作用に関する研究とか、トリカブト系脱狼薬の開発とか……」
ちなみにお祖父ちゃんの名前は、漢字では「如月薫」と書く。
「もういいよ、ハーマイオニー。とにかくレイのお祖父ちゃんは、エライ人だってことはわかった。けど、本当にスカッとしたよ! 見たか、あのマルフォイの顔!」
ロンがすごく嬉しそうだった。
どうやら、あのドラコ・マルフォイは、ハリー、ロン、ハーマイオニーの天敵のようだ。
家が純血の旧家っていうのを鼻にかけるお坊っちゃまで、寮はスリザリンらしい。
けど、あんな騒動があったのに、まだ父さんは眠っていた。