森番の小屋に着くと、魂が抜けたようなハグリッドがいた。
ヘドウィグが言ったとおりだった。
バックビークは、かぼちゃ畑につながれているらしい。
「ハグリッド、誰でもいい。何でもいいから、できることはないの? ダンブルドアは……」
ハリーが尋ねた。
だけど、ダンブルドア校長の力でも、判決をひっくり返すことはできなかった。
その代わり、校長はバックビークの処刑に立ち会ってくれるのだという。
「ハグリッド、元気出して。これあげるから」
私はポケットに入っていたチョコレートを取り出し、テーブルの上に広げた。
「みんなで食べましょう。私、お茶をいれるわ」
ハーマイオニーはお茶の支度を始めた。
「ハグリッド、私達もあなたと一緒にいるわ」
お茶をいれながらハーマイオニーがすすり泣き、私も静かにうなずく。
けど、ハグリッドは、私達に寮に戻れと言った。
その時だった。
「ロン! し、信じられないわ、スキャバーズよ!」
ハーマイオニーが叫ぶ。
そこには確かに、前脚の指が1本欠けたロンの鼠、スキャバーズがいた。
クルックシャンクスに食べられたんじゃなかったんだ!!
ロンがスキャバーズを捕まえた。
スキャバーズは、前よりいっそう痩せこけ、ボロボロになっていた。
しかも、私と目が合うと、ロンの手の中でいきなり激しくジタバタもがきだした。
「大人しくしろ!」
ロンはスキャバーズをポケットにねじ込もうと四苦八苦する。
その時、ハグリッドが急に立ち上がった。
「連中が来おった」
窓の外に、ファッジや魔法省の人、ダンブルドア校長が小屋の方へ来るのが見えた。
ハグリッドに急かされ、チョコレートとティーセットを片付けた私達は、しぶしぶ透明マントをかぶって、小屋を離れた。
その間もスキャバーズは、ずっとロンのポケットで暴れていた。
私達は小屋の方を気にしつつ、校舎を目指した。
しばらくの間、小屋の方からは男達の話す声が聞こえていたけど、ふと急に静かになった。
そして。
シュッ、ドサッ!!
それは、死刑執行人が重い斧を振り下ろす音に違いなかった。
「…………あの人達、やってしまったんだわ!」
ハーマイオニーが声をつまらせ、私もハリーもロンもその場に立ちすくんだ。
夕焼けが空を血のような不気味な紅に染めていた。
ハリーはハグリッドが心配になったみたいで、引き返そうとした。
だけど、ロンに止められた。
私達がハグリッドに会いに行ったことが分かれば、彼の立場が悪くなるからだ。
やがて、日はすっかり暮れ、暗くなってきた。
「スキャバーズ、じっとしてろ」
ロンのポケットで、スキャバーズはいまだに暴れ続けていた。
そこへ不気味に光る2つの黄色い目が忍び寄った。
クルックシャンクスだった。
道理で、スキャバーズが逃げたがるわけだった。
ハーマイオニーがクルックシャンクスを追い払おうとした。
けど、クルックシャンクスは近づいてくる。
そしてスキャバーズは、とうとうロンの手をすり抜けて駆け出した。
クルックシャンクスがそれを追いかけ、ロンが更にその後を追う。
格闘の末、ロンはどうにかスキャバーズを捕まえることに成功した。
けど、そこへいきなり巨大な黒い犬がロンを目掛けて飛びかかってきた。
あのホグズミードの野良犬だ。
私、ハーマイオニー、ハリーは、3人がかりでロンに食らいつく犬を引き剥がしにかかる。
けど、無理だった。
犬はロンの腕をくわえて引きずっていく。
するといきなり頭上から、ビュン! と音がして、何かが飛んで来た。
私は、とっさに地面に伏せた。
って、ここ、暴れ柳の真下じゃないか!!
暴れ柳の枝がバシッと、思いっきり私の左腕にヒットした。
うぅ、痛い、痛すぎる……。
私は痛む腕をかばいつつ、よろよろ立ち上がる。
骨は折れてなさそうだけど、腕に力が入らない。
そうこうしているうちに、黒犬は柳の根元の穴にロンを引きずり込んでいった。
それを追うように、クルックシャンクスがするりと柳の下の穴に入り込む。
「助けを呼ばなくちゃ!」
ハーマイオニーが叫んだ。
「ダメだ。あいつはロンを食ってしまうほど大きいんだ。そんな時間はない」
ハリーが止めた。
待てよ、暴れ柳といえば……私の記憶が確かなら……。
「これでどうだ!!」
私はムチのように飛びかかってくる枝をかいくぐって、根元にあるコブを杖で突いた。
柳はピタリと動きを止めた。
「レイ? 今、あなた何をしたの?」
「どうして、暴れ柳の止め方がわかったんだい?」
ハーマイオニーとハリーは不思議そうに私を見た。
「説明は後。とにかくロンを助けなきゃ!」
私はそう言って、暴れ柳の根元の穴に入り込んだ。
ハリーとハーマイオニーも後に続いた。