次に魔法生物飼育学の授業で会った時、ハグリッドはすっかりしょげていて、授業もボロボロだった。
ハグリッドは「ビーキーに残された時間を思いっきり幸せなもんにしてやるんだ」と言いながら、巨大なハンカチで顔を覆って泣いていた。
授業の後、マルフォイはハグリッドを馬鹿にして、ヘラヘラとこう言った。
「見ろよ、あの泣き虫! あんな情けないものを見たことがあるか? しかも、あいつが僕達の先生だって!」
ハリーとロンはマルフォイにつかみかかろうとした。
私は冷たい目でマルフォイを二らんで、ボソッとつぶやく。
「マルフォイ、どの口がそれを言うのかな? ハグリッドが、ああなったのは、全部君のせいだ」
「黙れ、キサラギ。そもそもあんな野蛮なヒッポグリフを授業で扱うこと自体が、」
パンっ!
マルフォイの台詞をさえぎったのは、ハーマイオニーの鋭い平手打ちだった。
引っ叩かれたマルフォイは、バランスを崩してよろける。
私、ハリー、ロンは固まった。
後ろで、マルフォイの手下のクラッブとゴイルも固まっている。
ハーマイオニーが、再びマルフォイを引っ叩いた。
ロンが慌ててハーマイオニーを止めようとした。
けど、ハーマイオニーはロンの制止を振り払って、今度は杖を取り出し、マルフォイに突きつける。
うわ、さすがにコレはヤバイ!
私は杖を取り出し、呪文を唱える。
「Expelliarmus!」
ハーマイオニーの杖が宙を舞い、私の手に収まった。
顔を真っ赤にさせてハーマイオニーは叫ぶ。
「レイ! 杖を返して!!」
「ハーマイオニー、もう充分だ」
私はハーマイオニーの肩に手を置いた。
見ると、マルフォイ達はワナワナ震えながら、地下牢の方へ去っていくところだった。
気付けば、次の呪文学まで時間がない。
私達4人は必死で教室へ続く階段を駆け上がった。
教室のドアを開けると、授業はもう始まっていた。
「3人とも、遅刻だよ!」
フリットウィック先生が、教卓に積み上げた本の上から叱る。
あれ……今、先生は「3人」って、言わなかった?
ロンが振り返る。
「ハーマイオニーはどこに行ったんだろう?」
私とハリーも辺りを見回したけど、姿は見えなかった。
この日の授業は「元気の出る呪文」だった。
元気の出る呪文といえば、授業初日にフレッドとジョージが父さんにかけようとして、返り討ちにあっていたのを思い出すな。
それにしても、ハーマイオニーはどうしたんだ?
まあ、いくらなんでも昼食には出てくるかな?
ところが授業が終わり、昼食の時間になってもハーマイオニーは現れなかった。
心配になった私達は、とりあえず寮に戻ってみた。
談話室にハーマイオニーはいた。
数占い学の教科書を枕にして居眠りをしている。
ハリーがそっと突ついて起こすと、ハーマイオニーは目をパチクリさせた。
「今度は何の授業だっけ?」
私はマグル学、ハリーとロンは占い学だと答える。
すると、ハーマイオニーはいきなり「呪文学に行くのを忘れた」と言って慌てだした。
けど、妙だな。
私達は呪文学の教室のすぐ側まで一緒にいたのに、どうして呪文学に行くのを「忘れる」んだ?
ロンもそのことが気になったらしく、ハーマイオニーに尋ねていた。
「ちょっとミスしたの。それだけよ! 私、今からフリットウィック先生のところへ行って、謝ってこなくちゃ……じゃあ、ハリーとロンは占い学、レイはマグル学で会いましょう!」
そう言ってハーマイオニーは、バタバタと談話室を出て行った。
その後、ちゃんとハーマイオニーは、マグル学に出てきた。
ただし、相変わらず落ち込んだ様子だった。
いつもならガンガン手を上げて点を稼ぐのに、今日の授業では一言も発言しなかったんだ。
そんなハーマイオニーを見て、晶やアーニー・マクミラン、そしてバーベッジ先生までもが、首をかしげていた。
「後で欠席した呪文学の内容を教えてあげるから、元気出して」
マグル学の授業が終わって寮に帰りながら私がそう言ったら、やっとハーマイオニーの顔が少し明るくなった。
だけど、角を曲がって寮の入口に着くと、ハーマイオニーは消えていた。
「あれれ? ハーマイオニー?」
キョロキョロとあたりを見回す。
すると、何故か私が歩いてきたのと反対の方角からハーマイオニーが現れた。
え、今のどうなってんだ?
「レイ、私はここよ! 私、占い学を辞めたわ!」
ハーマイオニーは、妙にスッキリした顔で言う。
「え、占い学、辞めた? 大丈夫なの?」
私が声を上げると、ハーマイオニーはとびっきりの笑顔で「ええ」とだけ答えた。
もしかすると、ハーマイオニーは、占い学のシビル・トレローニー教授と揉めて、辞めたのかもしれない。
ハリーやロンによれば、ハーマイオニーとトレローニー教授は犬猿の仲だっていうし。
放課後、私とハーマイオニーは部屋で「元気の出る呪文」を練習した。
まずは私がお手本を見せる。
ハーマイオニーと向かい合った私は、杖を真上に向け、大きく時計回りに3回、円を描くように動かす。
自分の中にあるエネルギーを、杖先に集めていくイメージだ。
そして呪文を唱え、呪文を掛ける相手の頭へふわりと乗せてあげるように杖を降ろす。
この時、杖を勢いよく振り降ろしちゃうと、呪文が効き過ぎて笑いが止まらなくなるんだよね。
「ハーマイオニー、気分はどう?」
「なんだか、体がじんわり温かくなった気がするわ!レイ、私もやってみていい?」
やっとハーマイオニーに、いつもの調子が戻った。
早く呪文を覚えたくてたまらないという顔だ。
よっしゃ大成功だ!
さすが学年首席。
ハーマイオニーはたった2回の練習で、元気の出る呪文を完璧にマスターしてしまった。
私なんて4回目、ハリーは7回、ロンは8回目で、やっとできるようになったのに!