ところがその後、事件が起きた。
真夜中にハリー達の部屋に、シリウス・ブラックが侵入したのだ。
グリフィンドール寮は、大騒ぎになった。
ブラックは、ハリーと間違えてロンのベッドを襲ったのだという。
しかも、ロンのベッドのカーテンをナイフで切り裂いたらしい。
ロンが叫び声を上げたので、ブラックは手が出せず、慌てて逃げたそうだ。
部屋のみんなが無事で、本当に良かったよ。
それにしても、ブラックはどうやって入ったのだろう?
そう思っていたら、なんと門番のカドガン卿が通してしまったらしい。
彼は、シリウス・ブラックが1週間分の合言葉が書かれているメモを読み上げて、寮に入ったと証言した。
カドガン卿の役立たず!
いくら合言葉を知っていたからって、イギリス全土で指名手配中の脱獄犯を通すなんて!
門番の意味が無い!
もちろん、カドガン卿は速攻でクビになった。
そして、太った婦人がグリフィンドール寮の門番に復帰した。
で、1週間分の合言葉を紙にメモしてたのは、ネビルだった。
ネビルには、マクゴナガル先生から特大のカミナリが落ちた。
彼には、ホグズミード行き禁止という罰が与えられた。
そして、ブラック侵入の2日後。
朝食の席で、ネビルの前に梟が真っ赤な封筒を落としていった。
梟は【大奥様がお怒りだ~っ!!】と叫びながら、もの凄い勢いで飛び去った。
ネビルは赤い封筒をつかみ、猛ダッシュで大広間を出て行く。
間もなく、玄関ホールから、どえらい剣幕で怒鳴る老婆の声が聞こえてきた。
「……なんたる恥さらし!! 一族の恥!!!!!」
【あらら、『吼えメール』を受け取ったのね】
ちょうどハリーへ手紙を持ってきていたヘドウィグが、ネビルに同情した。
「うわあ、吼えメールだ。それにしても、あれが噂のネビルのお祖母さんか。なんというか……強烈だね」
【『吼えメール』はできれば、私達梟もあまり運びたくないのよね】
ヘドウィグは遠い目をした。
「ところで、手紙を持って来たんじゃないの?」
私に言われて、ヘドウィグはハッとしたように、ハリーの手首を甘噛みした。
手紙はハグリッドからで、いよいよヒッポグリフの裁判の日程が決まったという話だった。
そしてまたホグズミード休暇がやって来た。
今回、ハーマイオニーは大量の宿題を片付ける為、学校に残ることにした。
私はハリーの訓練に使うチョコの買い出しがあるので、1人で出掛けることになった。
出発前、ハーマイオニーが私に耳打ちしてきた。
「気をつけて。ロンがハリーを連れ出そうとしているみたいなの。きっと『透明マント』と、あの『忍びの地図』を使うつもりよ」
彼女によれば、ハリーはジェームズさんの形見の「透明マント」を持っているらしい。
マントについては、うちの父さんの昔話に度々出てくるので、私も知っていた。
学校を出た私はハニーデュークスに直行した。
途中、大通りでマルフォイ、クラッブ、ゴイルの3人組を見かけた。
ハニーデュークスに着き、いつものように大きな紙袋2つ分のチョコを買って出ると、店先にロンが1人で立っていた。
「あれ、ロンどうしたの?」
ロンは、まるで待ちぼうけを食らっているみたいに退屈そうに見えた。
私は半信半疑で尋ねた。
「ロン、君1人?」
「僕以外に誰か見えるっていうのかい?」
ロンが口を尖らせる。
「レイこそ。ハーマイオニーは一緒じゃないのか?」
「ハーマイオニーは、宿題で忙しいから残るんだって」
私がそう言うと、ロンは「ふーん」と何だかうわの空のような返事をした。
一応、辺りを見回したけど、怪しい感じはしなかったので、そのまま私は学校に戻った。
そして、いつものようにチョコを父さんの部屋に届けに行く。
その途中、禁じられた森のあたりに、クルックシャンクスとあの黒い大きな犬が一緒にいるのが見えた。
あの2匹、何だかいつも一緒な気がするなぁ。
部屋に着いた私は、父さんにチョコレートを渡してから、一緒にお茶を飲むことにした。
「ところで父さん、さっきハーマイオニーの猫と大きな黒い犬が一緒にいたのを見たんだ。あの2匹、前も一緒にいたのを見たんだよね……」
父さんの顔が凍りついた。
「伶、今『黒い大きな犬』って言ったかい?」
私がうなずくと、父さんは一気に顔をしかめた。
「まさか、やはり…………。伶、聞いて欲しい。あの犬は、」
しかし、父さんの言葉は、最後まで続かなかった。
「ルーピン! 話がある!」
突然暖炉の火が強くなり、スネイプの怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
父さんは疑わしげに、私の顔を見た。
人狼レポートの撤回騒動を思い出したらしい。
「え、今回は私、何もしてないよ?」
本当に身に覚えはないんだってば!
「伶に心当たりが無くても、何となく君も一緒に来た方が良いような気がする。これは僕の『勘』だけどね」
そう言って、父さんは私を暖炉に引っ張り込んだ。