24・知りたくなかった現実
気づけば、クリスマスが近づいていた。
私は父さんもいるから、クリスマスはホグワーツで過ごすことに決めていた。
親戚と仲が悪いハリーは、毎年クリスマスは学校に残るのだという。
ハーマイオニーとロンも、残ることにしたようだ。
クリスマス前最後の週末、ホグズミード行きの許可が出た。
外が寒そうだったので、私は耳当てを着け、コートを着込み、マフラーもきっちりと巻く。
そして、ハーマイオニーとロンと一緒にホグズミードに向かった。
ハリーと一緒に行けないのは、心苦しかったけど、仕方ない。
ホグズミードは、すっかり真っ白な雪景色だった。
店先にはリースやツリーが飾られ、街にはクリスマスキャロルが流れていた。
私は手芸店で、毛糸と図案集を買った。
「レイ、君、編物するのかい?」
ロンが尋ねた。
「うん。今年のクリスマスプレゼントは、父さんにセーターを編むつもりだよ」
「いいわね。きっとお父様もお喜びになるわ」
ハーマイオニーは目を輝かせた。
それから私達はいつものように、ハニーデュークスで、ハリーへのお土産を選ぶことにした。
私達は「異常な味」のコーナーで、立ち止まる。
「ねえ、これなんか面白いんじゃない?」
私は血の味キャンディーのお盆を指したけど、「ハリーはこんなもの欲しがらないわ」と、ハーマイオニーに却下された。
「じゃ、これは?」
今度はロンが、ゴキブリ・ゴソゴソ豆板の瓶を持ち出し、私とハーマイオニーに突き付ける。
「絶対嫌だよ」
その時、いないはずのハリーの声が聞こえた。
空耳かと思ったら、なんと本当にハリーがいた!
ていうか、君は何でここにいるんだ!?
ロンは豆板の瓶を落としそうになったし、ハーマイオニーなんて金切り声を上げている。
するとハリーが、フレッドとジョージに「忍びの地図」をもらったことを説明した。
あの双子、余計なことを!!
ブラックが捕まってないのに、ハリーがホグズミードに行くのを止めるどころか、煽(あお)るなんて!
私はハリーに学校に戻るように言ったんだけど、ハリーは嫌がる。
すると、ロンが不満そうな顔でこう言う。
「フレッドもジョージも、何でこれまで地図を僕にくれなかったんだ! 弟じゃないか!」
「ロン、君は怒るポイントがズレてる。問題はハリーが学校を抜け出したことだってば!」
私はすかさずツッコむ。
一方、ハーマイオニーは「忍びの地図を、マクゴナガルに渡すべきだ」と主張した。
いや、だけど、マクゴナガルは、ちょっとNGだな。
地図の製作者の1人はうちの父さんだから、それがバレると父さんの立場がないもんなぁ。
ハーマイオニーのお説教は続く。
「地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ! 先生方はそのことを知らなければならないわ!」
これにハリーが反論した。
「ブラックが抜け道から入り込むはずはないよ」
私はたまらずハリーに釘を刺す。
「おいおい、その自信はどこから来るの? 私はその考えは甘いと思う。ブラックは抜け道を知っている……と考えなきゃダメだ」
ここで私はハリーに「ブラックも地図の作者の1人だ」とハッキリ言うべきだったのかもしれない。
けど、さすがに言えなかった。
でも結局「クリスマスだぜ。ハリーだって楽しまなきゃ」というロンの一言で、4人でホグズミード休暇を楽しむことにした。
店をを出ると外は吹雪だ。
しっかり着込んだ私達に対し、防寒具なしのハリーは寒そうにしていた。
かわいそうなので、私は耳当てとマフラーを貸す。
「とりあえず、どっか暖かいところに行こう。このままだと、ハリーが氷漬けになる」
私がそう言うと、ロンが「三本の箒」に行こうと言い出した。
三本の箒はお客さんでごった返していた。
みんなでバタービールを飲んでいると、店のドアが開いて、新しいお客さんが入ってきた。
マクゴナガルとフリットウィック、ハグリッドと、もう1人の別の男……イギリス魔法大臣のコーネリウス・ファッジだ。
実はファッジとは昔、日本のお祖父ちゃんの家で会ったことがある。
するとそれを見たハーマイオニーとロンは、見事な連携プレーで、ハリーをテーブルの下に押し込んだ。
ハリーがここにいるのを知られちゃマズイもんね。
さらに念の為、ハーマイオニーが近くのツリーを魔法で移動させ、先生方から私達のテーブルを隠す。
先生方とファッジ大臣は席に着き、店主のマダム・ロスメルタと話を始めた。
先生方とファッジは、シリウス・ブラックがアズカバン行きになった理由や、脱獄するまでの流れについての話をしていた。
それはハリーにとって、非常に残酷な話だった。
私はほとんど知っている内容だったけど、何度聞いてもいたたまれない話だ。
けど、ブラックが脱獄直前、アズカバンを視察に来たファッジに「クロスワードパズルが懐かしいから、読み終わった新聞をくれ」と言ったことには驚いた。
10年以上吸魂鬼だらけのアズカバンにいるのに、ブラックはファッジと普通の会話をしたらしい。
有り得ない!!
アズカバンは、並の魔法使いなら1日もたたずに正気を失う場所だっていう噂なのに。
やがて、先生方とファッジの長い話は終わり、彼らは店を出て行った。
それを見計らって、私、ハーマイオニー、ロンは、テーブルの下のハリーに声を掛ける。
するとハリーはサッと立ち上がり、唇を真一文字にして私達を見た。
そして、勢いよく店を飛び出して行ってしまった。
私達は慌ててマダムに代金を払い、ハリーを追ったけど、猛吹雪がハリーの姿をかき消していた。
クリスマス休暇前の浮かれた気分は、完全に吹っ飛ばされた。
ハリーを追いかけるのをあきらめた私、ハーマイオニー、ロンはとぼとぼと、ホグワーツへ歩きだした。
「私、知ってた。ブラックがハリーの名付け親だって。あいつがハリーのご両親を裏切ったって。父さんから聞いたから」
私は重たくつぶやいた。
「そういえば、レイのご両親は、ハリーのご両親と同級生だったわね」
たぶん、ハーマイオニーの頭には、父さんの顔が浮かんでいるに違いない。
「うん……。特にうちの父さんは、ハリーのお父さんやピーター・ペティグリューさんと仲が良かったし」
そこへロンが噛み付いてきた。
「レイ、どうして黙ってたんだよ! ブラックがハリーの名付け親だって!?」
「言えるわけないじゃん!」
私は思わず怒鳴ってしまった。
「『君の名付け親はシリウス・ブラックで、君のご両親の居場所をヴォルデモートに密告した』なんて!! そんなことハリーが知ったら、どれだけ傷つくか考えたら、言えるわけなかったんだ!!」
「レイ、『例のあの人』の名前を言わないでくれ!」
ロンが「ヴォルデモート」と聞いて縮み上がる。
そうだった、普通のイギリスの魔法使いは、ヴォルデモート卿の名前を聞いただけで、恐怖で震え上がるんだっけ。
私は少し冷静になった。
「ごめん。うちの家族は、みんな普通にそう呼ぶもんだから、つい。怖がらせて悪かったよ」
それから私達は一言もしゃべらず、寮へ帰った。
談話室に着くと、ハリーは既にそこにいて少し安心した。
けど、さっきの話のダメージが大きく残っているようだった。
私はとりあえず、さっき買った毛糸を編み棒に絡ませ魔法をかけて、編み物を始めた。
一応、魔法なしでも編むことはできるんだけど、魔法を使った方が早いし、仕上がりがキレイだ。
ハーマイオニーは、時々ハリーの様子を気にしながらも、動く毛糸と編み棒を興味深そうに眺めていた。