月曜日の放課後、私は父さんの部屋を訪ねた。
私は一昨日のハッフルパフ戦について話す。
父さんは、私が試合に出場して、点を入れたことは喜んでくれた。
でも、試合中に大きな黒犬を見たことを話すと、父さんの表情が険しくなった。
さらに、ハリーが吸魂鬼に襲われこと、ハリーの箒が壊れてしまったことを話すと、父さんはとても気の毒そうな顔をした。
「ハリーは、ホグワーツ急行に吸魂鬼が出た時も倒れた。そして一昨日の試合……ハリーは相当気にしてるようだよ。周りにいた私達は、吸魂鬼の影響をあまり受けてないのに、自分は気絶しちゃったから」
「伶。それは、きっとハリーが、目の前で両親を殺されたからだと思う。1歳の時だから、はっきりとした記憶は残っていないだろう。だが恐らく、彼の心の奥底に恐怖がこびりついている。ハリーが吸魂鬼の影響を受けやすいのは、そのせいだろう」
じゃあ、ハリーはこのままブラックが捕まるまで、吸魂鬼に怯え続けなきゃいけないの?
ここで私はふと思いつく。
「父さん、ハリーに吸魂鬼を追い払う呪文を教えたらどう? ほら、ホグワーツ急行でやった!」
あの時の父さんは、最高にカッコよかったな。
「『守護霊の呪文』のことだね。だが、大変難しい呪文だ。大人の魔法使いでも、使える人は非常に少ない」
「けど、父さんは使えるでしょ? なら、教えることはできるんじゃないの?」
私がそう言うと、父さんは腕組みをして考え込んだ。
ドンドンドンドン!!
その時、けたたましく部屋のドアがノックされた。
「キサラギ! やはりここにいたのかっ!」
怒鳴り込んできたのは、スネイプだ。
しめしめ、そろそろ来ると思ってたんだ。
父さんが「セブルス、どうしたんだい?」と尋ねる。
「ルーピン! 貴様、娘に一体どういう教育をしている!?」
スネイプはそう言うと、丸めた羊皮紙を突き出した。
それを受け取った父さんは、広げて読み始める。
「ん? これは伶のレポートだね。テーマは『人狼の見分け方と殺し方』か。ああ、君が僕の代わりに授業をした時の……」
[狼人間にとって、もっとも弱いポイントは眉間だ。だから狼人間に襲われたら、眉間をねらって失神術をかけるとよい。どうしても殺さなければいけない場合は、純銀製のナイフを、眉間又は心臓に突き刺す。純銀製のナイフを使う理由は、銀の持つ魔力が人狼にとって有害なためで……]
レポートを読み終えた父さんは、ニヤリと笑った。
「うん。よく書けている。何か問題でも?」
「問題大有りだ!」
スネイプの鋭いツッコミが入る。
「これは日本語で書かれているではないか! しかも翻訳魔法防止加工の羊皮紙に書くとは、一体何のつもりだ!? 読める訳ないだろうが!」
スネイプの眉間に深いシワができていた。
私はヘラっとこう返しす。
「すみませ〜ん。父は日本語が読めるので、先生もてっきり日本語が解るかと思ったんですが。それに『日本語でレポートを書いてはならない』なんて規則はありませんよね?」
「ここはイギリスだ!!」
スネイプはカンカンだけど、そこはスルーする。
「あ。一応、英語で書いたのもありますよ?」
私が鞄から羊皮紙2巻を取り出して渡すと、スネイプはひったくるように受け取って広げた。
レポートは日本語版も英語版も内容は一緒だ。
スネイプはしばらく文章を読んでいたけど、やがて羊皮紙から目を離し「ふん!」と鼻を鳴らす。
そしてちらっと父さんを見て言った。
「まあ、ルーピンの娘なら、これぐらい書けて当然だ」
これって褒めてるの?
こりゃ、明日は雨じゃなくて飴でも降るかな?
そして、スネイプは読み終えたレポートを丸めた。
ポンっ!
その瞬間、スネイプの髪が鮮やかなエメラルドグリーンに変化した。
それと同時に、おなじみの黒ローブもエネラルドグリーンのエナメル革のジャケットに変わる。
「きっ、キサラギ、お、お前は、今、何をした……」
「くっ、セブルス。その髪っ、よく似合っているよっ、鏡を見るといいよっ!!」
父さんは笑いをこらえるのに必死だ。
スネイプは部屋に立てかけてあった姿見で、自分に何が起きたかを確認した。
先に日本語のレポートを提出しておいたのは、もちろんワザとだ。
羊皮紙に仕掛けがしてある英語版のレポートをスネイプに手渡して、確実に読ませるためにね。
この仕掛けはフレッドとジョージがしてくれたんだ。
「レイ・アルメリア・キサラギ・ルーピン!!」
スネイプは地をはうような声で、何故かフルネームで私を怒鳴りつけた。
「元に戻せ! 今、すぐにだ!!」
「わかりました。でも、条件があります」
ふっふっふ、そう簡単には戻らないんだよ。
「人狼のレポートを撤回して下さい」
「断る」
即答かいっ!
まあ、予想通りの台詞だけどね。
「じゃあ、その頭とローブは、ずーっとそのままですね」
「何だと!?」
スネイプが呪い殺しそうな目で私を睨む。
ありゃありゃ、怖い怖い。
「実はそれ、先生が『レポートを撤回する』って言って下さったら、元に戻る仕掛けなんです」
「断る。何が悲しくて、お前なんぞの言うことを聞かなければならないのだ!」
父さんがクスクス笑いながら口を挟む。
「伶、他にセブルスを元に戻す方法はないのかい?」
「残念ながらありません」
私は即答する。
「だ、そうだよ」
父さんはおどけて肩をすくめて見せた。
「きっ、キサラギ、お前という奴はっ!!」
スネイプは私を睨みつけ、輝くエメラルドグリーンの頭を抱えた。
しかも、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきた。
カシャ!
「今の表情イイよ。セブルス」
ふと見ると、父さんがカメラを構えていた。
ていうか父さん、いつの間にカメラなんて用意してたの!?
間もなく、ジジーっと音がしてカメラから写真が吐き出された。
父さんが出てきた写真を取り上げてパタパタと振ると、だんだんエメラルドグリーンのローブを着て、緑の髪を抱えたスネイプの姿が浮かんできた。
「セブルス、よく撮れているよ。せっかくだから、他の先生方に見てもらおうかな」
父さんはへらりと言ってのける。
「Accio!」
するとスネイプは素早く杖を振り上げて、父さんから写真を奪った。
「Lacarnum Inflamarae!」
そして、あっという間に燃やしてしまった。
父さんは「あ〜もったいない」と残念そうだ。
スネイプは大きくため息をつき、再び頭を抱えながら言った。
「ええい! 良いだろう。キサラギの望み通り、レポートは撤回してやる。だがその代わり、グリフィンドール20点減点! 」
スネイプが渋々宣言すると、頭がいつもの整髪料付け過ぎの重苦しい黒髪に戻る。
ローブも真っ黒に戻った。
そして、スネイプはバタン! とドアを開けて出ていった。
スネイプが部屋を出た途端、私と父さんが爆笑したのは言うまでもない。
ちなみに、あのカメラは、マグルのインスタントカメラだったらしい。
父さんが授業で使うために、マグル学のバーベッジ先生に借りたんだって。
元ネタは全身緑のレディ・ガガです。