力なら負けません。それだけです。   作:中棚彼方

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しっかりフラグ回収することになってしまいました。

中棚彼方です。

もう前回の前書き紛いのことは絶対言いませんぜったいに。
そしてよくわからない心情で書いたのが今回。
結論、伏線投下は難しい。以上。


愛慕う違和感

 現状把握ぅぅぅううううんんっっ!!?

 

「……ふんふん」

 

 ただ今ワタクシ宍戸相馬は傍若無人にして飽くなき探究心の超ドレッドノート級連合大隊ヤゴコロこと八意永琳元でェェェェァァァああああああんあッッッ!!?

 

「……へぇ、なら出力2割増しで…」

 

 検査という建前の元、滲み出る嗜虐趣向を意のままにゅぉぉォォオオホォオオッッ!?

 

「ちょ、マジ、タンマオウフンンを入れれれのおじさんんん頼むから本気ェエエ!!」

 

「はいちょっとチクッてしますけど痛くないですからねー」

 

「ピャアアアアアアアアアそこはらめなのぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!???」

 

「はい力抜いてくださいねー」

 

「GEEEYAAAAAAAAAA――――ひゅ」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――少年夢遊中――――

 

 

 

 

 

 

 

 ……!?

 

 

「ヒヤリハットッ!?」

 

「お疲れ様、作っておいたから飲みなさい」

 

「へ? ……あぁ、はい。サンキュうぇ」

 

 ――死ぬ気で死ぬ覚悟を決める手前だった。

 

 なんか神秘的な河が流れてる世界にトリップしてた気がする。

 そこで赤い髪のでっかい鎌持った女が小舟で鼻提灯(はなちょうちん)出して寝てたのを見たら訳もなくイラッとしたから眉間に石投げた所で眼が覚めた。

 今思えばアレは俺にここを渡ってはいけない事を暗に身体張って教えてくれてたのかもしれない。そうに違いない。今度あったらお礼言っておこう、うん。

 

 そして覚醒早々差し出されたのはライトの光も反射しないくらい毒々しい色した液体が並々に入った容器。使用済みの湿布と絆創膏とガムテープ練り混ぜたようなスメルが良い塩梅を醸し出して……え、成り行きで手に取ったけど飲むのこれ――ってうわすッごい良い笑顔。後光が見えますよ永琳さん!

 当然そのニパー☆に勝てる見込み零もいい所の俺に選択肢はありゃしないんだけどね。

 

「うぼぁっ……、苦い……」

 

「言うと思った。安心なさい? 劇物とか殆ど入ってないから」

 

 殆ど? 眼から鱗の代わりに血涙出るわ。

 

「……微量は含有してると?」

 

「必要だから混ぜたんです。あなたの言うカガク(・・・)に基づくなら、悪い物を入れて調合したら必ずしも悪い物が生成されるとは限らないでしょうに。何よりも――」

 

 右手に持ったペンを器用にくるくる回しながら、彼女は言う。

 

「八意永琳特製の――、それも、『能力』を惜しみ無く活用した気付け薬に、不備があるとでも思って?」 

 

「――それもそうか」

 

 なら良し、と彼女は頷く。

 次いで、さらさらとカルテらしき用紙に文字を刻んでいく。

 

 俺が夢の世界に逝っていた間に(誤字にあらず)書いとけばよかったんじゃないかそれ? なんて思っていたがデスクがあった方に顔を向ければあら不思議。ホワイトなビル郡が悠々と建設されているではありませんか。まさかと思わなくとも全部紙の山ですね分かります。持ってきたのかあれ? あ、今の内に終わらせといた書類ですか、そうですかそうですか。え? アレ全部俺が寝てる間に? ええそうよって……そうですかそうですか。仕事できるタイプの女性なんですねハハッ。化け物め。痛い痛い打たないで下さいお願いしますあなただけには言われたくないって何それ意味不ぎゃああああそのどこから出したか分からない煌く弓矢をこちらに向けないでアーッ!♂

 

 

 

 

 

 

 

   ▼   ▼   ▼

 

 

 

 

 

 

 八意家に居候の身となり幾ばくか。

 

 郷愁心はホームシックと共に過去へ置いてきました。

 

 大丈夫、妹やパピーは幅広い分野で総じて強いから俺がいなくても……うん、胃がキリキリする。

 

 あの後――世間一般でいう事情聴取が終わった後、永琳が部屋を退出してから暫く経ち、うつらうつら頭が船を漕ぎ始めた頃に再び戻ってきた彼女だったが、その際紡いだ一言はなんと「ここに住みなさい」だった。

 テラ青天の霹靂である。藪から「アタイッタラサイキョーネッ!!」って連呼しながら飛び出てくる妖精とか「オマエハタベテモイイジンルイナノカー?」なんて聞いてくる●←コレ並みに唐突であ――――自分で言っててアレなんだけど何の事言ってるかさっぱりだ。

 ともかく、当然理由を聞いてみた。

 

 

『言ってなかったと思うけど、ここ《月の都》以外に、世界中のどこを探そうと、走り回ろうとも、私達やあなたと同じ意思の伝達方法をこなす(人の言葉を話せる)生き物は実在しないのよ』

 

『何故分かるか? 実際に()()()()()。私ではないけど、そういう《能力》を行使できる者がね。あなたを仮にとはいえ異世界人と認められたのは、その答えが主だってるもの。妖異幻怪は世界中に数有れど、八雲紫はおろか、言葉を話せる妖怪すら視た事例はなし。なのにそれが出来る者がいるとしたら、それはもう妖怪ではなく――まあ、今はこの話は置いときましょう』

 

『ここ? ここが他と違っているのは、時間に手を加えているから。《能力》でね。そうすれば進化の過程を二段三段飛躍して……どうしたの? 変な顔して。……あぁ。ま、気持ちは分からなくもないわ。なんせ外界と時間軸を分断して新たに時間軸を都合良く詰め入れるなんてね。本当はもっと色々ややこしい原理ではあるけど、今は割愛させてもらおうかしら? 説明してたら時間もあなたの頭の引き出しももったいないから。ほら、だから呆けてないで早く戻ってきなさい。さもないとうっかり手が滑ってあなたの脳髄をこれが貫いて――――』

 

『よろしい。聞き分けの良い人は優遇されるから覚えておくように(ウィンク☆)。能力とかも追々説明するとして――――ああ、そうそう。ここに住む理由ね。でも大体察してるんじゃない? え、分からない? これだけ言ったのに? ホントに?』

 

『はいはいごめんなさい。私が悪かったわよ。だから部屋の隅で拗ねてないでこっちにいらっしゃい。もう、仕方ないわね』

 

『いい、考えて御覧なさい? もしこのまま結界の外に出た所で、地上は妖怪だらけで周りに話の通じる者は一つとしていない。食料だって探せばあるだろうけど安定しない。そうじゃなくても今ここら一帯に蔓延る妖怪達は理由はどうあれ気が立ってて危険なの』

 

『確かにあなたは強い。でも、何が起こるか分からないのが何よりも危ないでしょう? これはあなたの事を思って言ってるの。あなたが万が一、億が一にもな場面に出くわしたとして、あなたはどうする? 距離が遠ければ尚更、どうしようもない。そうなった場合、()()()()は間違いなくあなたと手を切るし、助けようともしないでしょうね。残酷な話だけど、民の保守を率先するのは統制する者の責務。あなたを助ける為に危険をおかして軍を割くのは出来ないし、言い方は悪いけど、異邦人を守るに相応の絆や利益が不十分なのに負担を課していてはこちらもやってられないのよ』

 

『それよりなら、食料の供給も近辺の防備もあなたの手の届く位置にあった方が安定してると思わないかしら?』

 

『分かってくれた? ……そう、分かればいいのよ分かれば――え? なんでそんな必死なのかって?』

 

『……、』

 

『……あらあら、何かしらそのさめざめとした眼差しは? どこもおかしくは無い筈だけど? 私はわざわざあなたを現状の判断材料に組み込んであげて、それでも利害や打算を入れた上で最善を淡々と述べてるだけなのだから必死も何も――いやいや違うのよ? 別にあなたの肉体だとか生態だとか能力だとか住んでいた世界に興味なんて無いのよ? べ、別にあなたの身体弄繰り回そう何てこれっぽっちも――いやだから違……ああもう! とにかく、あなたはここに住むべき! いい!? 異論は認めませんけどね!!』

 

『ツンデレ!? 何のことか知らないけど多分断じて遍く違う!!』

 

 

 以上、世にも不条理なダイジェストでした。

 

 気づいたら理由聞くだけのつもりがなし崩し的に滞在する形で話が収拾してた件については大いに異論を唱えさせていただきたかったんだ。

 けどアイアンクローで体宙ぶらりんのまま振り回されてたなら仕方ないね♂

 

 でも、彼女の言う通り『月の都』に居座った方が外よりは楽なんだろうね。無駄な殺生はしたくないのさ。

 そんな風に自分へと陳弁努めて言い聞かせつつすぐ楽へ走ろうとするのは我らが人類共通の性なのだろーか。

 もういいや、そこは見ざる言わざる聞かざる我関せざるってことで。臭い物には蓋をしとこう。

 

 でもって、半強制とはいえ出るとこ出てらっしゃる知的系美肌お姉さんと、同じ屋根の下でキャッキャウフフな甘色ヌフフ生活が始まるとドキをムネムネさせてhshsしてた訳だったが、安心していい。そんな事はなかった。

 てか大体予想付いてた。

 ドジッ娘ツンデレーりんが身体弄くるとか自分の思惑ポロッと漏らしてたのを聞き逃さなかった俺に死角なんてないのです。そしてそれを聞き逃さなかった上で住むと決断した俺にマゾヒストのケは決して無いのです。

 

 そうして(どうして?)居候生活がスタートしたのはいいんだけども、しばらくは俺について色々聞かれた。やっぱ知りたかったんじゃんと思ったのは言うまでもない。

 俺としては永琳の顔がコロコロ変わるから見てる分にも話す分にも楽しかったけども。

 その際に俺の服装が学生服から手術衣みたいなのに変わってたのに気づいて一悶着あったが例の如くキングクリムゾン。痛い記憶はナース形態しまっちゃうお姉さんに(しま)われました。

 

 それからしばらく起床→飯→聴取→飯→聴取→飯→就寝の堕落サイクルが続いた後、彼女はこう告げた。

 

『頭と身体持て余してない?』

 

 はい、狼煙が上がったと直感で理解。

 永琳の瞳が少女漫画バリの星入ってて、傍目からでも分かる程ソワソワしてたらそりゃ鈍い奴でも気づいちゃうだろうね。

 私、気になります! 的な心情なのだろう。猫耳と尻尾があったらさぞ荒ぶるに違いない。

 

 で、何を強要させられてたかって言うと、今回のように八意家御用達の広大な地下施設の一端に移動した後、彼女の行う検査(全身にコードの付いたテープを余す事無く貼り付けられて電流流されるだけの簡単な拷問)に付き合ったり、新薬開発に貢献(ゲル状だろうが固形化してようが問答無用で喉に流し込まれるだけの容易な拷問)したり、勉学に励んだり(いとも容易く行われるえげつない行為)など。

 

 地下にあるとは思えない構造が甚だ疑問なドームの形をした部屋に連れてかれ、正方形の馬鹿でかい何かを殴ったりもした。永琳に聞いたら「耐久力の試験的な意味合いがあるから思いっきり奮っちゃって」とお許しもあったので、粉砕して玉砕して大喝采したら永琳顔真っ青になってました。

 だってしょうがないじゃん。周りに壁殴り代行さんが不在で毎日煮え切らないストレスが沸々募るのなら、自分が壁殴るしかないじゃん。擦り切れた理性で何とか力抑えただけマシだろうよ。

 

 上にまで被害が及んだとか地下なのに空が見えるのは何事かとか説教されたが後悔はしていない。そもそも思いっきりとか言ったの永琳じゃんと言ったら今度は顔を一転させ、顔真っ赤にしてドロップキックが飛んできたが尚の事後悔はしていない。寧ろあの赤青サインポール服の内側が拝めて万々歳だったね。黒とは誰が予想していたか。ある意味度肝ぬかれたわ。

 ツンデレーりんさん案外大胆なのね?

 

 ストレスもそうだけど、何よりも一番辛かったのはやっぱりというか、勉強だった。

 英語でスタディ。

 アゼルバイジャン語でÖyrənmək。発音が知りたい君はWebへゴーしてスタディなさい。

 

 主な内容は、ここの真上にドンと置かれた小規模だけど某学園都市も真っ青なエクストリーム入ってる超時空要塞都市(永琳から聞いた情報を総合した俺のイメージ。見たことなし。つまり地上に上がったことなし)のピンからキリまで。後、能力や度々耳にはしてた結界や妖怪についても少々。

 ここで言うピンとは即ち、都の歴史や特質に風土とか生活水準やらよくわかんないのに加え、官僚制にも似た政治体制とか幾つかに枝分かれした宗教組織やらはたまた民衆の階級に見合った住居区分ふぁーな感じで+αのやっぱりよくわかんない科目のdeathパレーション。

 キリはキリで、一つの食卓の平均エンゲル係数だの特産だの、やっぱりどーでもいいものばかり。ここ以外に人が住む街とかがないのに特産なんてあったもんじゃない。

 

 能力とかについてはまだ軽く触れる程度しか教えてもらっていない。永琳が言うには追々教えてやるとのこと。その前にここの事をしっかり頭に入れておきなさいとも言われた。

 

 んなこと言われたってもう正直、まったく頭に入ってない。

 

 以前から勉強に関して良い心当たりが乏しい自分にとっては、住んでる場所とは言えど、地上の()()()()を覚えるのはただただ右から来たのを左に受け流すだけ。流れ作業に他ならない。

 

 ……だが、コレを頭に詰める際に教鞭とってた永琳とのマンツーマン家庭教師はずばり、役得だったと言わせて頂く。

 めがねーりんまじ天使。

 

 

 後は……なんだろう? なんかあったか?

 他に目立った変化って言っても、精々行動範囲が最初の部屋から地下一帯まで拡大したとか、制服とポケットに入れてた機能しない携帯電話がどっか行っちゃったから、代わりに民族衣装みたいな奇抜な服着て生活してるとか、気になったのはそれくらいか?

 

 携帯電話に関しては永琳は関与していないらしい。制服を分解する際に中を物色したがそんなものは無かったんだと言うのは永琳の言葉だ。

 ……分解したり物色したりと我が道を突っ走るお構いなしの永琳ではあったが、そこは嘘じゃないと断言していたのは信じるに値するとは思う。

 

 んー、まあ、ね。壊れてたからそんな気にしてないけどさ。大方逃げてた時にでも落としたんだろうよ。

 そりゃあんな跳ね回ってたらポロポロどっかに飛んでっちゃうに決まってる。

 

 でも、これであっち側の世界を証明できる物は最早この身一つとなってしまってたわけだ。

 永琳の実験願望がこちらへ一極集中してしまってる故、これからもさらに実験は熾烈を極め、永琳の探求は激化することは確定的に明らかだ。

 ヒモ生活してるとはいえ、楽ではないな。

 

 以上が俺の近況報告であり、現状把握である。

 

 ……ま、思いの外充実した生活を送ってるって自覚はしてるつもりだ。

 順応とは実に恐ろしい。

 

 ――そして、実に好ましいものである。

 

 

 

 

 

   ▼   ▼   ▼

 

 

 

 

「能力……ねぇ」

 

「あらどうしたの、お尻なんかさすって」

 

「まれに見るすっとぼけだぞ永琳」

 

 一段落し、近くの椅子に腰掛け――ようと思ったが激痛が走ったから結局立つことにする。痔は不可避か。

 

「……にしても、不思議なもんだ」

 

 どんな薬も作れる……だっけ? 某スキマのおねーちゃん風に言えば『あらゆる薬を作る程度の能力』って所か。凄いのか凄くないのかの線引きはいまいち付けにくいとはいえ、効果を実証されればやっぱ秀でた物なんだなぁって思う。

 

「医者泣かせも大概だな。飲んで即効、効き目も絶大となれば匙もメスも投げちまうだろうよ」

 

「わざわざ切開して体の中掻き分けられるよりはよっぽど信頼性のある療法でしょ?それに私がいればそもそも医者が不在だろうと補えるし」

 

 ほんとだからおそロシア。

 しかもその能力に頼らずとも、それに勝らずとも劣らない効能を持った良薬を作り出せるのだからこのお姉さんはすんなり常識に収まろうとしない。

 

「だが忘れないでおいてほしい。その信頼性のある療法の安全性向上に、すべからく尊い犠牲がでていることを」

 

「あら、忘れてなんかないわ。これでもあなたには感謝してるのよ? 薬の効力を確かめるなら体で試飲するのが手っ取り早いもの。かといって、中途半端な肉体だともしもの場合に耐えられるのかって言ったら難しいし」

 

「自分で飲めばいいじゃんか」

 

「『ぽりしー』に反する」

 

「そう答えれば許されるとでも思ってるのかこの天才!」

 

 椅子に腰掛ける永琳の胸を鷲掴みしようとルパンダイブする。が、逆に頭を鷲掴みされた。強い。頭脳派えーりんは思いの外武闘派えーりんだったようだ。

 

「痛いよえーりん」

 

「やかましいわよ変態。全く……、前から思ってはいたけどあなた、出会った初めよりも行動が大胆になってる気がするんだけど?」

 

「そうか?」

 

「そうよ。最初なんて顔真っ赤にしてたじゃない。自覚ないの?」

 

 全く無いな。そこに胸があれば揉みに行くだろうに。当然のことだろ?

 

「全くもって当然ではありません」

 

「読心術か。腕をあげたな永琳よ」

 

「何でそんな達観した眼差しで私を見るのよ……はぁ」

 

 そうひとつため息をつくと、彼女はキリキリと俺の頭を締め上げにかかっていた右手を離す。またあの鼻提灯のねーちゃんが体張るところだったな、いかんいかん。

 

 ――八意永琳と共に過ごして分かった事がひとつある。彼女は天才だと言うことだ。

 この世界では流通していない言葉――《科学》や《ポリシー》等の意味をこちらから説明していないにも係わらず、明確とは言えないにしても理解し、知らず知らずのうちに使いこなしている。

 恐ろしいのはそれをどうやって理解したのか聞いた際、

 

『相馬がその言語を使った時の前と後の言葉や《いんとねーしょん》、それから表情やその言葉が使われた状況から、感情とか文章の大体の意味を予測するの。大抵はこれだけでも会話は成り立たせられるから問題はないと思ってるけど』

 

とか何でもないように言われた。さりげなく『イントネーション』なんて横文字をなんてこともなく使われたときには永琳の目を気にせず舌を巻いたもんだ。

 

 そしてやはり、頭がいい。聡明である。

 知力云々じゃない。もっと高位な何かが彼女のなかにはある。頭の良さだけで人間じゃないと思ったのは生まれてこの方永琳が初めてだ。

 

「……なあ、前に一度聞いたことあったけど、永琳絶対ただの権力振りかざす誰かさんとか金持ちのボンボンじゃないよな」

 

「あら、どうして?」

 

「――いや、何でもない」

 

 あまりにも白々しいが、これすらも彼女の頭脳と話術をもってすれば論破されそうだ。最早暗示の域だな。詐欺師も尻尾巻いて逃げ出しちゃうよ。

 ――これが、八意永琳。

 今思えば、俺は凄い人物と関係を持ってしまったんだな。

 

「さ、そろそろ次の段階にいきましょ。今度はさらに3割増しで」

 

「さっすが永琳! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる(物理)憧れヌゥッ!!(否定)」

 

後悔後先たたず。しかし後悔はしていない。絶対にだ。

 

 俺はマゾじゃなあい!!

 

 

 

   ▼   ▼   ▼ 

 

 

 

「なあ永琳」

 

「何、相馬?」

 

 目が覚めたらただいま永琳の膝枕中。体が焦げ臭い、夢ではないようだ。なんか知んないがデレ入ってるってことで黙って太ももを堪能させてもらうことにしよう。そうだ、これは日頃の感謝を体現したに違いない。

 時たまに見せるデレーりんマジ天使。

 

「久々に外の空気が吸いたいんだが?」

 

「この地下の空気だって外から吸出したのをさらに洗浄した『くりーん』な空気なんだけど?」

 

 なんか今まで気にならなかった舌足らずな『くりーん』の言い回しにめっちゃ萌えた。そして会話しながらも前髪を撫でる永琳に俺のハートが鬼なっ――ええい煩悩退散!

 

「違うな永琳。こういうのは気分なんだよ。ここの地下は確かに広大だけど、それでも地上とは比べるまでもなく狭いだろ? 広い世界と狭い世界、言葉で聞くだけだったらどっちの空気が旨そうだ?」

 

 要するにシャバの空気を吸いながら町に駆り出したいだけなのです。ここ来てまだ一回も外でてないんだから無理もないでしょ?

 

「狭い世界ね」

 

「即答かよ」

 

「……でも、うーん」

 

 そう言うと、彼女は頭を撫でるのをやめて顎に手を当て考える仕草をする。絵になるが目の前の双丘が俺のレーザー光線を阻むフフフフ。

 そして、何かを決めたのか首を縦に動かした。ぷるんと目先で富士山が二つ揺れる。あかん! 地震や! 噴火してまう! 噴火してまう!

 

「分かった。この際街の教育もそろそろ終わるし、実物を見せるのも良い機会だし、『穢れ』についても」

 

「しゃおらぁ!!」

 

「きゃッ!」

 

 跳ね起きる。文字通り跳ね起きる。

 バイバイ太もも、俺は地上の星になってくるよ。

 

「今すぐ行こう永琳!」

 

「ちょっと待っ――」

 

「待てん!」

 

 機械式の自動扉を力任せに蹴破って廊下へ飛び出す。やってしまったと後々後悔するのは目に見えてる。が、今はすぐ先の退屈しのぎに目が離せないんだ! 堪忍な!

 

 ああ楽しみだ! 久々の外だ! 高まる、溢れるゥッ!

 

「待ちなさい! 話しはまだ終わってないから!」

 

「シャバが俺を呼んでるぅううううう」

 

 走り出した俺を誰が止められようか。

 

 そんなのいるわけ無いもんね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃった……、

 

 

 

外への行き方も知らないのに…………、はぁ」

 

 嬉々として実験室の扉を蹴り飛ばして出ていった青年が、そのまままっすぐ通路を突き進んで行くのを目で追う。

 相変わらず何を源にすればあそこまで溌剌とできるのかわからない行動力と馬鹿げた身体能力だ。もう背中があんなに小さくなって――あ、左に曲がった。そこ右なんだけど。

 ふ、と笑う。笑ってしまう。何度溜め息をだせども、最後はまた笑んで、気持ちを負の方角へ行かせようとしない。させてくれない。

 天真爛漫で純粋、無邪気な男だ。

 

 ーーそう、男。紛れもない、正真正銘完全無欠の雄。

 

「……、」

 

 太ももに残る感触は、確かにそこにいたという証である。

 だれが。宍戸相馬が。

 

 そして、自分は女。その理に辿り着くまでに幾つかの種の違いは垣間見えるが、それでも。

 八意永琳は紛れもない、正真正銘完全無欠の雌である。

 

「……、」

 

 いつからだったか。いつの間にだった。年を重ねるほどの時間も経ってなどいない筈。つまり、そんな短い時間の中で知らず知らず、自分でも知らず、こうなってた。

 

 自分は今頬を染めているのだろうか。心がむずかゆいこの感覚は……。

 

 研究対象はあくまで研究対象。だが、この疼きは、乾きは、焦がれは。

 最早、まごうこともなき――――

 

「……ふふ」

 

 それでも彼女は、笑う。

 立ち上がり、彼を追いかける。

 それ以上も、それ以下もない。

 彼女の普遍は、それで染まりきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 どこか、遥か遠いどこかにて。

 

 大きな何かが、小さな何かに吸い寄せられた。

 

 

 

 

 




はい、掘り下げるもへったくれもありません。
次回は頑張る(小並感)

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