ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第8話

「延珠ちゃん!」

「っ!……なんだお主か」

 

延珠は生気の無くなった目で優磨を見つめる。いつもの生き生きとした目が無い…何かあったことは一目瞭然だ。

 

「一ヶ月ぶりだな。蓮太郎は元気か?」

 

だが敢えて優磨はどうと言うこと無い会話を始める。

 

「ふむ…元気だ。ではな」

「待て待て、折角会ったんだ。ちょっと家に寄れよ。飲みもんくらいは出せるぜ?」

「遠慮しておく」

 

延珠は行こうとするが…

 

「何があった…」

「っ!」

 

延珠は目を開く。

 

「分からないと思ったか?んな訳ないだろ。そこまで鈍くねぇよ」

「お主に分かる筈もない」

「そうだな。だが聞くだけなら出来るぞ」

 

延珠はしばらく黙ったがやがて観念したかに様に優磨に着いていった。

 

 

 

 

「ほれココアだ」

 

優磨は暖めたココアを延珠に渡す。

 

「で?何があった」

「バレた…」

「お前の正体がか?」

「うむ…」

 

何となくここに来るまでに想像はついていたため優磨は然程驚かない。

延珠に限らず呪われた子供を学校に通わすと言うことはそう言うリスクもある…そしてバレた場合は大概…

 

「友達が…妾をまるで化け物を見るような目で見るのだ…何をしたのだ?妾が何をしたのだ!?」

「……………」

 

優磨は何も言わない。ただ黙って聞くだけだ。

 

「妾は…ただ笑って…普通に暮らしたいだけなのに…蓮太郎と一緒に居たいだけなのに…何で…」

「人間は…異分子を恐れる…」

「え?」

 

優磨の言葉に延珠は首をかしげる。

 

「肌が違う…足がない…腕がない…言葉が違う…目の色が違う…文化が違う………時には性格が違う何て物でも人間は差別し出す。なぜか分かるか?」

「…………」

 

延珠は首を横に振る。

 

「さっき言ったように人間は異分子を恐れる…いや、嫌うからだ。皆同じ足並みで同じことを考えていなければいけない。冷静に考えれば無理だしそんなものは気持ち悪いだけだ。それでも人間は足並みを合わせていないと嫌なのさ…だからお前らを排斥したがる。くだらねぇけどな。人間は十人十色だ。明るいやつ…暗いやつ…口が上手い奴や…頭いいやつ…沢山違いがあってその上で少し身体能力が高くて特殊能力をもつって化け物扱いする…差別は辞めましょうなんてよく言えるな…って思うときはあるよ」

 

優磨の口調には重みがあった…恐らく…いや、間違いなく夏や春にも同じような状況があったのだろう。

 

「まあそんなところが人間なんだけどな…」

「え?」

「どんな人間も善意と悪意を持つ…それゆえに人間は善人で悪人分けられない。いや、分けちゃいけない」

「うむ…」

「善意の悪意…って言葉知ってるか?」

「なんだそれは」

「本人は良いことをしてるつもりでも他人から見れば悪意となると言う事だ」

 

優磨は天井を見る。

 

「昔ガストレア因子をもつ子供たちは隔離するか殺そうと言う話が上がったのは知ってるか?」

 

延珠は驚愕するが初めて聞く。

 

「まあ用はガストレアウィルスが拡散しないようにウィルスに犯されたものは邪魔だと言うやつなんだがな…まあそのあとすぐに感染するのは母体と繋がった子供だけと分かったんだがな。そんとき先導していたやつは自分は人類を救うため敢えて泥を被ってると言いたげな口調でな。まあそれについていく奴も多かったが言うんだそいつは…【人類救うため仕方の無い犠牲です】ってな。分かるか?俺たちの立場から見れば善意かもしれない。だがお前たちから見れば悪意となる…多くのものは自分と同じものに惹かれる…そして一握りの異分子を嫌う…それが人間だ…」

 

延珠はうなずく。

 

「所詮人間はバカなんだよ…下らねぇことに一々驚いて…弾こうとする。ちょっと違うとすぐに受け入れることを拒否する。呪われた子供だろうが奪われた世代だろうが…そこに普通に存在するだけなのによ」

「普通に存在…?」

「ああ、どんな力があろうとそれはここに在る物だ…だから受け入れるべきなのさ…憎もうが攻撃しようが変わりはしない。恐怖も敬いも要らない…どの人間もそこに存在し…普通に生きてるだけさ…お前たちもそうだろ?まあそうできないバカも多いのがまた事実だけどな」

「な、ならば…」

 

延珠は身を乗り出す。

 

「妾はどうすればいいのだ?」

「強くなれ…藍原 延珠…」

 

優磨の言葉に延珠は疑問符を浮かべる。自分は十分強いと思っていたのだが優磨は優しく言う。

 

「身も心も強くなれ…これからもお前には辛い現実が降り続ける…不幸なこと…悲しいこと…だがその全てを…善意も悪意も…幸も不幸も…憎しみや悲しみも…自分に向けられる全てを受けとめ…飲み込み…乗り越えられるように成るんだ…誰にも左右されない…自分を作れ…割れる事の無い…珠玉の心を…どこまでも延びつつける強靭な強さを…どんなことを言われようと自分は自分だと声高らかに言えるように…威張る事も…だが同時に遜る事もないように」

「……………」

 

延珠はジッと優磨を見ていた。

 

「ま、つまりは良い女に成れってことさ」

 

優磨はそれで話を終える。

 

「良い女か…うむ…良いことを教わったぞ」

「そうか?」

「だが優磨も奪われた世代だろう?ガストレアが憎くないのか?」

「俺さ…生まれたときから一人ぼっちだったからな」

「え?」

「両親は俺を生んですぐに事故で死んで…実家とは折り合いが悪く親戚たらい回しにされて結局施設に入れられた…だからバカにする奴多くてな。まあそう言う奴は全員グーパンチで返答してやったが…」

「会いたく…ないのか?」

「昔は会いたかった…でも今は夏がいて…春がいて…夏世がいて…毎日忙しくて感傷に浸る暇もない。でも…それもまた良いのかもしれない。いつも思い続けることが家族じゃない。心に生き続けてれば…それが共にいるってことなんじゃないかな…まあ俺記憶にどころか写真もないけどな…」

「そうか…」

 

すると優磨の携帯が鳴る。

蓮太郎からだ。

 

「妾がでる」

「そうか」

 

優磨が渡すと、

 

【優磨さんか!?延珠が!】

「蓮太郎…」

【なんだ延珠か…取り合えず優磨さんに…って延珠!?】

「今優磨の家に来ていてな…」

【はぁ?何でいんだよ…】

 

優磨が電話を代わる。

 

「取り合えずあれだ。家に来い。そんでちょっと抱き締めてやんな」

【え?】

「お姫様の悲しみは王子様しか本当の部分では癒せないからな」

 

 

 

 

 

 

 

その夜…

 

「ありがとな…優磨さん」

「ん~?」

 

結局あのあと延珠は蓮太郎の胸で泣くことになりそのあと帰ってきた夏たち三人を大いに困惑させたが今日は帰るのも何だと言うことでお泊まり会にそのままなだれ込み寝室では夏・春・夏世・延珠四人で団子になりながら寝ている。

 

「別に大人として言うべき事をいっただけだよ」

「はぁ…あんたには勝てねぇな」

 

蓮太郎も目の前のソファに座った。

 

「そうかぁ?喧嘩したら結構苦戦すると思うけど?」

「いやなんつうか…人としてと言うか男として勝てないって言うか…」

「なぁに、そのうちお前だって沢山経験して大人になるさ」

「そんなもんかよ…」

 

蓮太郎は頭を掻く…するとまた携帯が鳴った。その着信主に優磨は眉を寄せつつ電話に出た。

 

「もしもし…ああ、ん?おお…蓮太郎も?…分かった分かった…明日の五時だな」

 

優磨は電話を切る。

 

「蓮太郎。明日ちっと付き合え」

「何だ?」

「呼び出しだよ」

「警察にか?」

「じゃあ俺はお前を幼女に手を出した変態ですって突きだす事になるが?」

「冤罪だ!で?誰だったんだよ」

「この国で一番偉い女性だよ」

「………………え?」

 

蓮太郎の間の抜けた声が響いた。




そう言えば優磨と延珠全く絡んでないな…と言う訳で今回の話が生まれました。
元々この下りは影胤の策略でしたがこの作品では勝手にバレたと言う感じです。

基本的に今回は派手さはないし優磨の語りが多く退屈だとは思いますが、優磨の考え等を描いた一話を書いてみました。
上手く書けたかどうかは分かりませんが…まあこんな感じです。

では次回遂にあの子やくそ野郎の登場です。

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