ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第6話

優磨たちが聖天子から連絡を受けた頃…蓮太郎と延珠と夏は天の梯子に着いたところだった。

これは所謂レールガンモジュール…詰まり物質を超高速で放つ巨大な装置だ…

 

「やっぱ弾はないか…」

 

蓮太郎は舌打ちする。古いが作りはきっちりしているため動きはする。だが…打ち出すものがない…ならば、

 

「どうするのだ?蓮太郎」

「俺の義手を使う」

 

蓮太郎は剥き出しになった超バラニウム性の義手を外すと砲身に入れる。

 

「蓮太郎?」

「………あ、なんだ延珠…」

 

蓮太郎は明らかに反応が遅れて延珠に答える。

 

「怯えているのか?」

「……当たり前だろ…」

 

幸い邪魔な障害物はない…ガストレアステージⅤは遺産がある蓮太郎の方に来ている… だが…怖い。僅かに逸れれば東京エリアに当たるかもしれない。

 

「大丈夫だ蓮太郎」

「何でそう言いきれんだよ!」

「決まっておろう。あの時からお前は妾のヒーローでふぃあんせだぞ」

「っ!」

 

蓮太郎は目を見開き延珠を見る…

 

「やってやる…」

 

蓮太郎は集中する…そして、

 

「いっけぇ!」

 

蓮太郎はトリガーを引くと発射された超バラニウム性の義手はステージⅤにぶち当たる。

 

「……どうだ?」

 

三人は見つめる…確実に当たった…仕留めたはずだ…だが…

 

「グギャアアアアアアオオオオ!!!」

「そん…な…」

 

明らかに致命傷は与えてはいる…だが殺せた訳じゃない…

 

「何が…行けなかったんだ…」

「いや、タイミング…当てる場所…全て完璧だったぜ」

『っ!』

 

蓮太郎たちの三人が声の方を見ると、優磨、春、夏世の三人が来ていた…

 

「しっかしでけぇな…」

 

優磨も僅かに汗を垂らす。

 

「済まない…俺が…」

「何言ってんだ蓮太郎…言ったろ?完璧だったよお前は…それに悄気てる暇はねぇ…お前はもう一回撃たなきゃいけないんだぜ?」

『え?』

 

蓮太郎だけではなくその場の優磨以外全員が首を傾げた。

 

「蓮太郎…天誅ガールズって知ってるよな?」

「あ、ああ…」

「俺さ…何度か夏と春と一緒に見たんだけどやっぱさ…男は何とか戦隊とか仮面ライダーとか…そう言うのに憧れるよな?」

「あんたいきなり何いって…」

「まあ聞けよ…でもさ、俺も類に漏れず小さい頃は仮面ライダーとかになりたいって思った。それで見てみろよ。今じゃ改造人間だ。まあ俺の場合ショッカーじゃないし改造したのは残念な美女だったけどさ…」

『……???』

 

優磨以外の困惑は強くなっていく。

 

「んでさ、俺これだけゴールデンタイムヒーローみたいな体験したけど一つやってないんだ…」

「え?」

「やっぱヒーローってさ…空飛ぶんだよ…所謂御約束?そこでこのレールガンモジュール…幸い砲身は【人一人】位なら射ち出せる位大きい…」

「は?」

「と言うわけで蓮太郎…俺で撃て」

「……は、はぁ?ふざけんなよ!そんなん出来るわけ…」

 

優磨の真剣な瞳に冗談ではないことを蓮太郎は察する。

 

「無理だ優磨さん…さっきの義手とはちがう。外したらあんたどこに飛ぶか分かんないんだぞ…それこそ地の果てまで飛ばされて救助出来ずにガストレアに食い殺されるかもしれない」

「あ、俺90%くらいバラニウムだからガストレアは俺食えねぇよ」

「そういう問題じゃねぇ!」

 

蓮太郎は叫ぶ。

 

「死ぬかもしれないんだぞ…あんた…」

「お前が外さなければ平気だ」

「何なんだあんたは!」

 

蓮太郎は優磨さんを締め上げる。

 

「俺が悩んでるってのに…あんたは何でそんな簡単に決められんだよ…なんで…」

「信じてっからな」

 

優磨は蓮太郎の頭を撫でる。

 

「蓮太郎…さっきできたんだ。大丈夫…お前ならできる」

 

それから優磨は銃身に入るため向かう。

 

「優兄…」

「優磨兄様…」

「大丈夫だ」

 

優磨は優しく笑うと銃身の蓋をあける。

 

「蓮太郎」

「あ…」

 

優磨は名だけ呼ぶと入った。蓮太郎の目には…今は居ない父の背が写った気がした。

 

「………くそ!」

 

蓮太郎はもう一度トリガーを握る。

外したら終わり…だが逆に言えばガストレアに当てればガストレアをクッションに優磨は助かる間も知れない。

 

「蓮太郎!」

「蓮太郎!」

「蓮太郎さん!」

「里見さん!」

 

延珠、夏、春、夏世の声を聞き画面越しにガストレアステージⅤを見据える。

 

「いい加減しつこいんだ…とっととくたばりやがれぇえええええええ!!!」

 

次の瞬間画面を光が包み込む。

それと共に砲身から優磨が音速に匹敵する速さで射出…

 

「くぁ…」

 

思ったより凄まじいGが懸かる…だが…ここで折れるわけには行かない。折れれば後ろの子供たちに被害が及ぶ。大人として…年長者として…

 

「うぉ…おお…」

 

優磨の手の甲から高周波ブレードが出ると前に突きだしスラスターで音速に加速を加えながら回転を掛ける。

 

「ウォオオオオオ!!!!!!」

 

即興技にして今回限りの大技……

 

紅蓮槍(ぐれんそう)!【天】!!!」

 

空気との摩擦で服が火を吹きながらまさに紅蓮の槍となった優磨の一撃がガストレアステージⅤに決まった。

 

 

 

「優磨さーん!」

 

蓮太郎達はガストレアステージⅤの死体のところに来ていた。

優磨の名を呼ぶが返事はない。

 

「まさか…」

「う…ええ…」

 

夏がポロポロ涙を流す。

 

「夏…」

 

それを見た春も目に涙をためる。

 

「あの人は…頼りになる人だった…だからお前ら…今度はお前たちがあの人の意思を…」

「勝手に殺すな蓮太郎」

『え?』

 

すると次の瞬間ステージⅤの腹から高周波ブレードが現れ腹を掻っ捌くと優磨が這い出てきた。

 

「ゆう…」

「ま…兄様…」

「流石にダメージでかくってさ…動けねぇ…」

 

地べたに這いつくばりながら優磨は呟く…と言うか痛みがひどくて声がでないのだろう。

 

「あんた大概化け物だな…」

「へっ…まぁな。お陰様で人間ロケット体験できたよ」

「それで優磨さん。夢が叶った感想は?」

「……これっきり一度だけでもう十分だ。俺やっぱヒーロー向いてないな」

「まあ優兄は絶対途中でめんどくさくなるよね」

「私もそう思う」

「何ですと!?」

 

夏と春の言葉にその場が笑いに包まれる。すると次の瞬間大きな音をたて天の梯子が崩れだした。

 

「流石に限界越えたか…」

 

優磨は呟く…そして、

 

「まあ良いか…帰ろう…」

 

優磨は立ち上がろうと力を込めるが体の部品がイカれてるらしく動かない。

 

「あちゃー…」

「仕方ねぇな…」

 

蓮太郎は片手で器用に優磨を背負う。

 

「うぉ…重いなあんた」

「そりゃ体のほとんどが機械だぜ?」

 

それから…

 

「よし、出発進行!」

『おー!』

「グギャー!」

『ん?』

 

六人は謎の声の方を向く。

そこには…

 

「グギャー!」

「ピグィ!」

「キヅィ!」

『え?』

 

六人の顔色が悪くなる…何故なら目の前には…ガストレアの大群が迫っていた…

 

「よ、よしお前ら…」

 

優磨は一度息を数と…

 

「逃げろぉおおおおお!!!」

『わー!!!』

『ギャアアアアオオオオオ!!!』

 

その後六人はモノリスの近くまで大凡21㎞…所謂ハーフマラソンの距離を全速力で駆け抜けた…しかも蓮太郎は優磨を背負った状態で…人間やればできるもんである。

 

 

 

 

 

 

「と言うのが顛末だ」

「うん…色々突っ込みたいことがあるけどね優磨くん。どうしても言ってきたい事は一つだ。君は馬鹿なのかい?」

「いやいや…あの時はああするしかなかったんだって」

 

あの戦いから一ヶ月…優磨は直ぐに病院……ではなく菫の研究所に担ぎ込まれた。無論身体中の機械がオシャカになったからである。無事だったのもあるがやはり殆どがボロボロだ。

昨日やっと修理が終わり今日は検査だ。

 

「里見くんのロケットパンチも驚いたけどあの会議の場にいた皆も驚愕してたよ?君の人間ロケットとはね」

「むむ…」

「君はあれかい?鉄腕アトムかい?」

「ああ~、そう言えばあれの初代のラストって太陽に突っ込んでいったんだよな」

「君の場合は音速でガストレアに突っ込んだけどね」

 

菫は書類を机の上に置く。

 

「よし、もう大丈夫だよ」

「おう」

 

優磨はベットから降りると軽く腕を回す。

 

「と言うわけで優磨くん。修理費用なんだけどね」

「っ!」

 

優磨の表情が固くなる。

 

「いやぁ…流石に今回は範囲広いし、結構行くよ」

「あ、あの…何千万位だ?」

「桁がちがうよ」

「え゛?億か?」

「いや、兆」

「…………うーん…」

 

優磨は後ろにぶっ倒れた。

 

「まあ内蔵売っても無理だね。あ、君売る内蔵ないんだったね。あとそうだな…双子ちゃん風俗に売っても返すのは無理だろうし…借りで良いよ」

「そ、そうか…」

 

優磨はホッとする。

 

「まあ実は結構まとまった金額は君のスポンサーちゃんから貰ってるし聖天子様から修理費用は里見くんの義手の分まで貰えたしねぇ。たまには彼女に顔見せてあげなよ」

「あ、ああ…」

 

そう言えば最近忙しくてスポンサーのあの子に会ってない…たまには顔だすか…等と思っていると、

 

「優兄起きたー?」

「あ、菫さんお久し振りです」

「やあ」

 

そこに夏と春…そして、

 

「優磨さん。治りましたか?」

 

優磨の新たなプロモーターの夏世がいた。

あの後IISOに引き取られる予定だった夏世だが夏と春が別れたくないっと駄々を捏ねて菫が「じゃあ君が面倒見てあげればいい。今更一人や二人増えたって問題ないだろ?」と言い出して裏工作の結果優磨の三人目のプロモーターとなった。

 

「はいどうぞ」

 

夏世が優磨に渡したのは黒色スーツだ。

このあとちょっとした式典があるため夏と春と夏世もシャレた格好をしている。

 

「じゃあ着替えたら行くから外出てろよ」

『はーい』

 

三人は仲良く外に出る。最初夏世がうまくやれるか心配だったがこの様なら大丈夫だろう。子供はそういった意味では仲良くなるのは早い。

 

「君は意外とそう言う服も似合うねぇ」

「そうか?」

 

優磨はネクタイと格闘しながら答える。

 

「………一つ…聞いてもいいかな?」

「ん?」

「私から言っておいたのも何だがね?君は私や双子ちゃん達が言わなくても夏世ちゃん引き取るつもり立ったんじゃないのかい?」

「………まぁ…なぁ…」

 

優磨としては折角親しくなったし…菫に頼んでみようかとは思っていた。

 

「そうやって君は見境なく手を出すのかい?全て救えると思っているのかい?君の体は確かに凄い…でもね。君はどんなに切り詰めたって人間だ…人の脳味噌を持ち…その気になれば子供だって産ませることができる…だが君の行動は自分を考えていなさすぎる。何時か…死ぬよ」

「……………まあ今のご時世いつ死ぬかわからんよ。でも別に俺は死にたがりではないし死ぬ気もない。ただやるしかないだけさ」

 

優磨は着替え終えると煙草に火を着ける。

 

「お前が言う通り俺の手は小さくて狭い。全て救うなんて無理だしそれこそ夢の物語だ…でもさ…手を伸ばすのは出来る…その結果が成功か…失敗か…それは分かんねぇけどな…」

 

優磨は煙を吐く。

 

「夏たち呪われた子供達は知ってしまってる…人間の持つ闇を…残虐性を…いや、教えちまったんだよ。俺たち大人がな…」

「………」

 

優磨はもう一度煙を吐く。

 

「でもやっぱりあいつらはまだ十歳の子供だ…夏は見た目通り甘えん坊だし春はしっかりしてるように見えてあいつもあいつで甘えん坊…夏世も殺しを怖がる普通の心を持ってる…どんなに凄い力持ってても…あいつらはまだまだ子供なんだよ。それ故にどちらにでも転ぶ…」

 

優磨は煙を吸いつつも蛭子 小比奈を思い出す。夏にも春にも夏世にも…ああなる要因は幾らでも持ってる…天使のようで悪魔の心を持つ因子を…彼女達はまだ子供なのだから…

だから自分達は教えなければいけない…良いこと…悪いこと…そして、

 

「教えなければいけないんだよ…人の光をさ…」

 

絶望させちゃいけないんだ…人間の闇だけを教えちゃいけないんだ…人は闇を持つ…だが同時にこの世にはたくさん楽しいことがある…辛いこともあるかもしれない…でもそれを乗り越えるため楽しいこともたくさんあることを…

 

「やっぱり…悲しすぎるだろ。辛いことばっかりじゃさ…あの子達は子供なんだからさ…だから俺は手を伸ばす。目に届いてしかもこの短い腕が届く範囲しかできないけど…伸ばすのは無料(ただ)だろ?」

「偽善だね」

「偽善も善さ…まあ…」

 

優磨はタバコの火を消しながら最後の煙を吐く。

 

「俺は善人とは縁ほど遠いけどな…」

「そうだね…君はお人好しではあるけど善人ではない…むしろ気を付けないと悪人だよ?優しくて…頼りになる…だが過ぎれば君がいなくてはなにもできない人間を作ってしまう」

「ご忠告どうも…気を付けるよ」

 

そう言って優磨はドアに手を掛ける。

 

「でも君は変わらないね…優磨くん」

「お前は変わったな…」

「そうかい?まあ昔の方がエロゲー狂いにはなってなかったけどね」

「変人度が増したって話じゃねぇよ」

 

優磨はため息を一つ吐く。

 

「憑き物取れていい女になったって言う意味だよ」

 

菫は目を見開くが背を向けている優磨は気づかないままドアを開く。

 

「じゃあまた来る」

 

そう言って外に出ていくと菫は椅子に座る。

 

「全く…君は罪作りな男だよ…本当にね」

 

珍しく女性的な声で呟いたが誰も聞くことはなかった。

 

 

 

 

 

外に優磨が出るとちょうど蓮太郎と延珠も来ていた。

 

「よう英雄」

「勘弁してくれ」

 

蓮太郎と優磨はお互いガストレアステージⅤを討ち取り東京エリアを救った功労者として今日IP序列の昇格も加えた式典に参加するのだ。

 

「うわぁ延珠かわいい」

「夏たちも中々だぞ」

 

ちびっこ達はワキャワキャ言いながら先を歩く。

 

「……優磨さん」

「ん?」

「あんたあの中身なんだか知っていたのか?」

「………ああ…」

 

優磨がうなずくと蓮太郎は僅かに困惑した口調に変わる。

 

「あれ…何なんだよ……ガストレアステージⅤはあんな【壊れた三輪車】を狙ったんだ!?」

「それは俺もわからない…だが蓮太郎…」

「っ!」

 

優磨のシリアスな目に蓮太郎はたじろぐ…

 

「分からねぇがあれは明らかに普通じゃない…俺の想像だがあれの秘密に迫ると言うことは国はおろかガストレアの存在そのものの謎に迫る気がする…つまり危険だ」

「分かってるさ…だけどよ」

「最後まで聞け蓮太郎…つまりだ…今は大っぴらに言うな…今は座して情報を集めるときだ…そしていつか上の奴等に突き出して聞けば良い…今の状態では下手したら…殺されるぞ」

「…………………」

 

冗談では無いことは直ぐにわかる。

 

「分かった…」

 

すると、そこに重い空気はすっ飛ばす声が聞こえる。

 

「蓮太郎ー!」

「優兄ー!」

「優磨兄様ー!」

「優磨さーん!」

『早くいこ!』

 

その笑顔に優磨と蓮太郎は笑みを浮かべる。

 

「ま、取り合えずいくか」

「ですね」

 

優磨と蓮太郎は歩みを進めた…




ひとまず一章完結です。次回からは二章となりあのこも登場です。

さて、この作品の主人公である優磨ですが個人的に私の理想の大人の男性をイメージしています。
普段はめんどく下がりで変な人ですがいざというときは皆の盾となり剣となってくれる。
若者が悩んでれば何でもない顔をして手を貸してくれる…そんな人が基盤です。まあ菫が言った通り気を付けないとその人がいないと何もできない人間が生まれる可能性がありますが、ブラック・ブレット世界ですからそう言う人がいたって良いと思うんです。特に子供たちにとってそう言う人間は必要だと思います。
さて、次回は聖天子ちゃんも結構出ますし分かる人には分かるゲス野郎や天才狙撃主…可愛い女の子や要らない男も出てきますが…よろしくお願いします。ではでは…

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