ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第5話

優磨たちが三十分ほど歩くと、突然銃声や人の声が聞こえてきた。

 

「不味いな…始まったようだ。走るぞ!」

 

そう言って優磨は夏と春と夏世を背負い走り出す。

 

「ちょ!はや!」

夏と春は当然慣れてるが初めての夏世は困惑する。

 

「舌噛むぞ!」

 

 

 

それから更に五分後…優磨たちが着いた時には死体の山がそこにあった。

傷から考えるにこれは全部蛭子 影胤とその娘、小比奈の犯行で間違いないだろう。

すると呻く声が聞こえた。

 

「大丈夫か?」

 

優磨たちは駆け寄る。するとその声の主は伊熊 将監であった。だが彼は腹部に自慢のバラニウム性の大剣が刺さっている。もう助からないだろう。

 

「か…よか…」

 

虚ろな目で将監は夏世を見る。

 

「ざまぁ…ねぇだろ…まああれだ…因果応報ってやつだ…」

「そんな難しい言葉を使えたんですね」

「うるせぇ…」

すると今度は優磨を見る。

 

「てめぇかよ…最後くれぇきれぇな女に看取られたかったぜ」

「贅沢言うんじゃねぇよ。で?最後に何か言い残したい事は?」

「……女もいねぇし家族もいねぇ…」

「そうか…」

 

それからだんだん将監の命の灯火が消えていく。

 

「夏世…」

「え?」

「悪かったな…」

 

そういい残し伊熊 将監は死んだ…

 

「優磨さん!」

 

そこに蓮太郎と延珠が来た。

 

「これって…」

 

蓮太郎はこの惨状を見て驚愕している。

 

「ここから200mほど進んだ教会に居るらしい」

「そうか…」

 

するとそこにガストレアの奇声が響く。

 

「音で起きて死体貪りに来たか…」

 

優磨たちがその声の方を向くと凄まじい数のガストレア…ステージはⅠ~Ⅲまで様々だ。

 

「優磨さん…」

 

夏世が前に出る。

 

「ここは私が…」

「馬鹿が…ガキおいていけるか」

 

夏世の提案を一蹴する。

 

「蓮太郎!延珠連れていけ!あと夏を貸してやる!」

「え?」

「春と夏世は俺と一緒にここで食い止めるぞ」

「なに言ってるんですか!まさかあの化け物にこの人たちだけをぶつけるんですか!?」

「大丈夫だよな?蓮太郎」

「…………」

 

蓮太郎は息を大きく吸うと、

 

「おう!」

「じゃあ延珠!行くよ」

「うむ!」

 

三人は走り出した。

 

 

 

 

「良いんですか!?」

「大丈夫だ…蓮太郎には切り札がある。とは言えここ全滅させたら追うぞ」

 

そう言いながら優磨はデザートイーグルをスライドさせて撃てるようにする。

それを合図に春もバレットM82を撃てるようにして夏世もショットガンを構える。

 

「行くぞ!」

 

決死の防衛戦の開幕だ。

 

 

 

 

一方その頃蓮太郎達は協会の扉をこじ開け入る。

 

「やぁ、里見くん」

「よう…」

「あはは!延珠に夏だー!」

そして構える。

 

「延珠…行くよ」

「うむ…」

「モデル・ラビット!相原 延珠!」

「モデル・シャコ!柊 夏!」

「モデル・マンティス!蛭子 小比奈!」

『参る!』

 

三人が跳躍すると蓮太郎は影胤を見る。

 

「私に…勝てるのかい?」

「勝てる…いや、勝つんだよ!」

 

次の瞬間蓮太郎の右手と右足被う人工皮膚がパリパリ音をたて割れていきその下に隠れる超バラニウム性の義手と義足が顔を出す。それと同時に蓮太郎の右目もキュインと音をたて赤く染まる。

 

「まさか君も…」

「礼儀として名乗ってやるよ…元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊「新人類創造計画」…里見 蓮太郎!」

 

そう言って蓮太郎の腕から空薬莢が排出され爆発的な推進力と共に影胤に突進する。

 

焔火扇(ほむらかせん)三点撃(バースト)!!!」

「っ!」

 

蓮太郎の拳は影胤の斥力フィールドを撃ち抜きながらぶっとばした。

 

 

 

「馬鹿な…」

 

とある部屋では驚愕の声が漏れていた。その場には木更と聖天子もいる。

 

「未だ存在したのか…大戦の遺物が…」

 

蓮太郎たちの戦いは衛星を通しここでリアルタイムで放送されていた。

 

「だがなんだこの男は…」

 

指差されたのは優磨だ。

その戦闘はまさしく悪鬼羅刹のごとくガストレアを千切っては投げ、千切っては投げている。明らかにというか普通に人間ではないし新人類創造計画の力とは思えない。

 

「それに関しては私がしましょう」

「菫さん!?」

 

木更は驚きの声を出す。当たり前だ。

自らを人外と呼びあれほど外に出ようとしなかった菫が誰に呼ばれたわけでもなく自分からいるのだ。

 

「牙城 優磨は今から八年前…瀕死の大怪我を負った…頭は割られ脳が零れそうになったし片目は潰れ、胴体の骨は余すところなく潰れ、グチャグチャになり生きてるのは普通不可能なくらいだったし如何なる治療を施そうとも助かるはずはなかった。ある手術を除けばな…」

 

菫は一度そこで切る。

まるでそれは罪悪感を振り払うように見えた。

 

「それは新世界創造計画…」

『っ!』

 

その場の全員が息を呑む。

 

「彼はたった一人の…被験者ですよ…しかもたった一度ではあるが彼は私の最高の出来と賞せるほど完璧な出来です。彼の前ではガストレアはステージⅠもⅢも対した差ではありません」

 

すると、

 

「な、なんだあれは!」

 

皆は画面を見る。

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

数は大分減ってきた。このままなら行ける…そう思った瞬間地面が揺れた。

 

「っ!」

 

一瞬遠くから見たとき山かと思ったがちがう…ガストレア・ステージⅣ…それが2体。

 

「お前ら下がれ!」

 

優磨は二人を下げると一度目を瞑る。もう後を考えていられない。ステージⅣが2体だ…こっちも切り札を切らせてもらう。

 

「優磨兄様…アレを使うんですね?」

「ああ…」

「アレ?」

 

優磨は煙草に火を着ける。本当は敵に嗅ぎ付けられると嫌だから吸わなかったがもういいだろう。

 

制限解除(リミッターオープン)…解除率…10%!!!」

 

ブシュッ!と音がした後スラスターが起動…だがその力は明らかに先程とは比べ物にならない。

 

「う…」

 

スラスターの熱が後ろにいる夏世たちにまで来る。その熱量はすさまじく優磨の足元は水分が蒸発を始めていた。

 

「これが優磨兄様の切り札だよ…」

 

優磨の力は普段抑えてある。無論それは力が強く…同時に優磨の体を動かしてるのは数少ない生身の部分である脳の指令だ。余りにも強すぎる力は脳に負担を掛ける。それ故に普段は制限しているのだ。

 

「ギャウ!」

 

ガストレアが一体飛び掛かってくる。だが、

 

「しゅ!」

 

それはパァン!という音と共に弾けた。これは何でもなくただのパンチ…だがスラスターが常時起動したそのパンチはステージⅠ程度であれば物の数ではない。

 

烈風(れっぷう)!!!」

 

優磨はスラスターで加速した鋭い回し蹴りでガストレアステージⅡを吹っ飛ばす。それと同時に駆け出しステージⅢと距離を詰め両腕の甲の方から高周波ブレードを出す。

 

覇爪(はそう)!!!」

 

一瞬でまるで爪に引き裂かれたかのような三つの傷で絶命させる。

そこにズン!っと地面が揺れ同時にステージⅣが来た…近くで見るとやはりでかい。だが…関係ない。

 

「ウォオオオオオ!!!」

 

優磨は疾走する。ステージⅣと間合いを密着させると拳を握る。

 

浮嶽(ふがく)!!!」

 

嶽とは山の事…詰まり山すらも浮かせるという意味を込めたジャンピングアッパーで打ち上げる。

更に、

 

鉄槌(てっつい)!!!」

 

浮嶽から流れるように空中に跳んだ優磨はダブルハンマーナックルと呼ばれる両腕の拳をカナヅチのように打ち落とす技でステージⅣを一体絶命させる。

 

「グギャアアアアアオオオオオオ!!!」

 

一瞬大気が震えステージⅣの尻尾が優磨を襲う。

 

「ぐぉ!」

 

優磨は吹っ飛ぶがスラスターを使い空中で体勢を戻すと銃を撃つ。

それはガストレアステージⅣの両の目を穿つ。

 

「ギャアアアア!!!」

 

バラニウム性の弾丸で撃たれ悶える。

 

優磨の左目は義眼だが蓮太郎のものとは違い能力が多い。蓮太郎の義眼は最大で1秒を14秒にして体感させるという力をもつ…だが優磨のは熱探知(サーモグラフィー)にナビゲーション、更に今回はスコープ機能を使った。これは優磨の動きと連動しまるでスコープを見て撃ったかのような精密射撃を可能としている。通常ではガストレアの両の目を撃つなど優磨の射撃能力では不可能だ。

そしてその隙をつき…

 

断罪(だんざい)…」

 

空へ飛び上がるとスラスターで加速しながら踵から高周波ブレードを出す。

そしてそのままステージⅣを真っ二つに切り裂いた……

 

 

 

 

「ぷはぁ…!」

 

優磨は制限解除(リミッターオープン)を解く。序でにタバコの火を消すと二人のところまで戻る。

 

「殲滅完了だ。蓮太郎の援護に行くぞ」

「何で最初からあれを…?」

 

夏世の言葉に優磨は頭をかく。

 

「疲れるんだあれは…」

 

確かに優磨の顔色はすこぶる悪くなっている。だが夏世はそれ以上に驚いるのはあれで【10%】しか解放していないのだ…詰まり間だ余力が…いや、寧ろ余力の方が大きい状態…

 

(何て…人…)

 

だがそれだけ力があれば影胤以上に危険な人間だ…それでありながらあのような行為には走らない。夏世にしてみればある意味謎だった。

すると、

 

「ん?」

 

優磨の携帯が鳴る。

 

「もしもし?」

「優磨さん!」

 

この声は聖天子だ…

 

「どうした?」

「ステージⅤ…出現しました」

「何!?」

 

遺産にもう呼び寄せられたということか…

 

「名は蠍座(スコーピオン)。蛭子 影胤コンビを撃破した里見さん達が既に手を撃つため天の梯子に向かってます」

「分かった」

 

優磨は重いからだを引きずりつつ向かった。


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