ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第3話

「蛭子 影胤…ねぇ」

「お前なら知ってると思ってよ。新人類創造計画元最高責任者ならさ」

 

影胤との戦いから次の日、優磨は菫の研究室に来ていた。

 

「まあ知ってるよ。と言うか元は彼も民警さ」

「なに?」

 

優磨は眉を寄せる。

 

「彼を改造したのはグリューネワルト翁だ。素晴らしい人物だよ。改造された方は狂ってしまったみたいだがね。因みに蛭子 影胤の民警時代の序列は134位…君よりずっと上だ。まあ君や里見君は序列なんてもので計るもんじゃないがね」

「しかしそのグリューネワルト翁というのは大したものらしいな。お前が人を誉めるなんて驚いたぜ」

「彼は私を含めた他の3人と違い生命を大事にしていた。そこは認めるべきだ」

「ふうん」

「そして彼の力は斥力フィールドを作ること。その頑丈さは対物ライフルの弾は勿論ビルを壊す際の鉄球何かも軽々弾く」

「めんどくせぇな…」

 

優磨は菫が耐熱ビーカーに入れた珈琲を飲み、タバコの火を消す。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「また用事かい?」

「庁舎にな。何か嫌な予感しかしないがあの子から直々に電話貰っちまったし…行くしかねぇだろ」

「君は本当に甘いねぇ」

 

菫の含み笑いを流しつつ優磨は外に出た。

 

 

優磨はその後電車で三十分ほど揺られ庁舎にやって来る。

夏や春を連れてきても良かったが今回は真面目な話だろう。そんな中連れてきたら絶対寝る…よだれ垂らして夏は寝るに決まってるし春も船を漕いでしまうだろう。それに今日は学校だ。

等と考えながら庁舎に入ると少し広めのホールに来る。

 

「あんだぁ、ガキは大人しく帰ってな」

 

最初自分に言われたのかと優磨は声の方を見たがその言葉を向けられたのは自分ではなく昨夜夕食を共にした里見 蓮太郎と木更へ向けられたものだった。まあもう自分はガキと呼ばれる年でもないな…等と考えながら彼らも呼ばれていたのかと思いつつ口論の方に向かう。

 

「何だ何だうるせぇな」

「優磨さん…」

 

蓮太郎は優磨を見る。

 

「確かお前伊熊 将監(いくま しょうげん)だろ?」

「お前も知ってるぜ。牙城 優磨だろ?民警内でも唯一二人のイニシエーターを持つ男…」

「【持つ】…じゃなくて【居る】…だろ?語彙が少なすぎんじゃねぇか?脳味噌まで筋肉になったか?」

「てめぇ…」

 

将監は背中の柄までバラニウムで出来た大剣に手を掛ける。

 

「今イニシエーターは居ないのか?」

「まぁな…つうか辞めとけよこんなとことで戦うのは…ここでやるのは少々不味いだろ?それに…」

 

優磨は半眼になる。

 

「弱いもの苛めは趣味じゃない」

 

ブチりと将監の中で何かが斬れた音がした。

 

「上等だごらぁああああ!!!」

「辞めないか!!!」

 

そこに将監の所属する大手民間警備会社・三ヶ島ロイヤルガーターの社長が止める。

 

「…ちっ!」

 

将監は構えを解く。

 

「行くぞ夏世」

「はい…」

(あの子が伊熊 将監のイニシエーターか…)

 

優磨は苦労が多そうな子だと思っていると三ヶ島社長が来る。

 

「うちのが申し訳ない」

「いや、謝るならそこの二人にしてくれ」

「おお、あなたは天童の…うちのが大変失礼した…」

「いえ、結構」

 

木更はどこかで複雑そうに言った。

 

 

それからそれぞれ席に座るとモニターに人が現れる。

 

「聖天子様…」

 

誰かが呟く…モニターにはこの東京エリアで最も偉い人物…聖天子とその側近で木更の祖父に当たる天童 菊之丞がいた…

 

「こんにちわ皆さん…楽にしてください」

 

そう言われても楽にはできない。たった三年とはいえその高い美貌とカリスマ…そして政治力は目を見張るものがあり支持率も高い。

 

「これからの話は他言無用且つ聞いたら降りることはできません…引くなら今です」

 

だがそれを聞いても立つものは居ない。

 

「分かりました。では皆さんには依頼を受けてもらいたいのです。それはこの町に侵入した感染源ガストレアの討伐…そしてそのガストレアが持つケースを無傷で奪還して欲しいのです」

 

そう言って報酬額が表示される。

 

「おぉ…」

 

額はあり得ないほど高い…依頼の難易度と合っていないのは一目瞭然だ。しかも他言無用というのは可笑しい…とは言え依頼の額で目が眩んだ大多数の人間は気づいていない。優磨を含めた少数は気づいているが…とそこに木更が立ち上がる。

 

「そのケースの中身について教えてもらえますか?」

「残念ですが依頼人のプライバシーの関することです。お教えできません」

「本当にそれだけですか?」

 

木更の言葉に聖天子はわずかに眉を寄せた。バレたくないものがバレたときの顔だ。だがその時わずかに優磨は何かを感じ取る。どこか不吉で…つい最近感じ取った気配。

 

熱探知(サーモグラフィー)…起動」

 

優磨はそう呟くと優磨の左目がキュインっと小さな音を立てて瞳孔が開き瞳が僅かに蒼くなる。そしてそのまま拳を握って構えると、

 

「なっ!」

「優磨さん!?」

 

隣にいた木更と蓮太郎を筆頭としたその場の全員が驚く中優磨は迷うことなく跳ぶ。そして右腕のスラスターが起動し服の袖を破りながら、

 

紅蓮(ぐれん)!!!」

「おっと!」

 

だがそこから突然現れた男は転がるように躱すと中央に立つ。

 

「行きなりずいぶんな先手だね兄弟(ブラザー)

「俺は生まれてこの方ずっと一人っ子だぜ」

 

優磨は構え直しながら中央に立った男…蛭子 影胤を見据える。

 

「てめぇ…」

「里見君に昨日の少女…確か木更と言ったかね…いやいや今日は良い日だ…」

「ねぇパパァ…あいつ斬って良い?」

「駄目だよ小比奈」

 

優磨に小太刀を向けた小比奈はちぇっと唇をつき出す。ああしている分には唯の女の子なのだが…

等と考えつつ優磨は拳を更に強く握る。

 

「で?態々何のようだ?まさか昨日の続きをやりに来た訳じゃないだろ?」

「ああ…私も【七星の遺産】を巡るレースに参加させてもらう。」

 

優磨は目を開く…七星の遺産…この名は菫から聞いたことがある。

 

「一度使えば人の意思でモノリスを崩壊させ大全滅を起こさせる政府指定の封印物…」

 

菫から聞いた一文を暗唱すると影胤は拍手する。

 

「素晴らしい知識だ…では礼儀として改めて名乗らせて貰おう。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊…蛭子 影胤だ」

 

その言葉を聞いた瞬間蓮太郎と木更は眉を寄せた。

 

「さて諸君。ルールを説明しよう。これはレースだ。標的は七星の遺産を持った感染源ガストレアを先に撃破した方の勝ちだ」

「は!てめぇをやっちまえば関係ねぇだろうがよ!」

 

次の瞬間伊熊 将監が駆け出しバラニウム性の剣に手を掛けると抜き放ちながら降り下ろす。だが、

 

「残念だが此処でやる気はないよ」

 

剣は影胤に届かず止まる。そこに、

 

「パパに手を出すな!」

 

小比奈の蹴りが将監をぶっとばす。

 

「この!」

 

他の民警達もそれぞれ武器を取る。

 

「パパ…こいつらも殺していい?」

「駄目だよ…今はね」

 

そういうが早いか影胤は小比奈を抱えると、

 

「では去らばだ!次はレース会場で会おう!」

 

そう言ってまた消えた。

優磨だけは今だ熱探知(サーモグラフィー)を起動していたため見えてはいたが此処でやりあうのは周りの被害が大きすぎるため見逃すことにする。少なくとも影胤を相手にして周りに注意を払うのは不可能だ。

すると映像の聖天子が口を開く。

 

「依頼内容を変更します。感染源ウィルスからケースをあの男より早く奪還してください」

 

その場の全員が静かに頷いた。

 

 

 

「優磨さん!」

「ん?」

 

庁舎を出ると蓮太郎と木更が出てくる。

 

「貴方…機械化兵士だったんですね?」

 

木更が確認するように聞いてくるが、

 

「ああ、そこの蓮太郎と同じくな」

「しかし久しぶりに見たぜあんたの

力」

「里見君は知っていたのね」

「あ、ああ…あの人との関係者だしこの人普通に教えてくれるし」

「別段隠してもなぁ~、俺の場合お前みたいな【新人類創造計画】の人間と違って改造範囲が大きいからな」

 

この会話からもわかるように蓮太郎も影胤と同じ【新人類創造計画】を受けた人間だ。改造されているのは右腕と右足と左目を改造してある。とある事情があってこの力を極力使わないようにしているが…

すると三人の前に如何にも高級車と言う車が止まる。

そして窓が空くと、

 

「少し一緒にドライブは如何ですか?」

『え?』

 

蓮太郎と木更は窓から顔を出した人物に絶句した。

 

「おいおい、新手のナンパか?嬢ちゃん」

「貴方くらいですよ?私をお嬢ちゃん、何て呼ぶのは」

 

聖天子は少し悪戯顔で言った。

 

 

その後三人は車に乗せられると内蔵した冷蔵庫からジュースを渡される。

 

「普通こう言う場合はお酒なのですが優磨さん以外未成年ですし優磨さんもお酒が苦手でしたよね?」

「良く覚えてるな」

「その代わりメロンソーダやカルピスなどのジュースが好き…でしたね」

「本当に良く覚えてるもんだな」

 

そう言ってカルピスを受けとる。

 

「後、ここは禁煙ですからね」

「世知辛い世の中だ」

「たまにはタバコは吸わなくてもよいでしょう?」

『……………』

 

蓮太郎と木更は優磨と聖天子のやり取りを訝しげに見ている。

 

「ん?ああ…この子とは昔から菫関係で何度か会っててな」

「ああ~」

 

蓮太郎は納得したような顔をする。

今じゃエロゲーと死体を愛する空前絶後の大変態の菫だが、天才ではありガストレアの研究において日本では右に出るものはいない。そのため何度か上のものたちに研究室から連れ出され研究について色々と話し合いがあったりするのだがその際に優磨も一緒に連れていかれたことがありその際に会ってそれ以降懐かれて今に至る。

 

「しっかし二年前に初めて会ってから生で会うのは久しぶりだな…確か最期に会ったのは…」

「半年前の私の誕生日以来です」

「ああ~、夏がもう興奮して大変だったっけ」

「そうでしたね」

 

すると聖天子はモジモジしだし、

 

「それで…変ではないですか?」

「何が?」

「いえ、私も16才なのだと女中の方に言われて最近はこう言う服装が多いのですが…」

 

言われて見れば聖天子の服装は肩は全だしで少々露出が激しいドレスだ。とは言え素の美貌が人並外れているし薄くだが化粧もしてある。こうやって見てみればなんとも言えぬ色気と16と言う幼さが混ざりあった妖絶な雰囲気がある。

 

「そんなことはないだろ?普通に可愛い…いや、もう16だし綺麗だと言った方がいいか?」

 

優磨の言葉に聖天子は頬を赤らめつつも内心ガッツポーズをする。

 

(なに!?そう言うこと!?聖天子様ってこの人が好きなの!?)

(嘘だろ!?歳の差幾つだよ!いや優磨さんすげぇ若くは見えるけど菫さんと同い年だろ?つまり俺より一回りは年上だよな!?しかもこの人…)

 

蓮太郎と木更の言葉が重なる。

 

(しかも好かれてる方気付いてない…)

「???」

 

優磨の方はこの不思議な空気に首をかしげた。

 

「とまあ取り敢えずだ」

 

優磨は少し真剣な目になり、

 

「態々ここまで呼んだのはただ旧交を暖めようとした訳じゃないだろ?側近のじいさんや護衛なんかも無しでさ」

「……はい」

 

聖天子も長の顔となり優磨を見る。

 

「七星の遺産については知っているようですし説明は省きます。とにかく優磨さんには誰の手にも渡らぬように取り返してください」

「態々俺個人にってことは…他のプロモーターにもってことか?」

「はい」

「なあ、その七星の遺産って結局なんなんだ?俺たちは名前だって最近聞いたぞ」

 

蓮太郎に聞かれ聖天子は説明するか迷うが、

 

「安心しろ。こいつらは信用できる。流石に俺だけじゃキツいしこいつらにも力を借りる。良いか?」

「…わかりました。優磨さんがそう言うなら」

「よし、蓮太郎、木更ちゃん。これは絶対他言無用だぞ?それこそ国一つひっくり返る」

 

二人は無言で頷く。

 

「七星の遺産ってのは何でそう呼ばれるのかはわからん。だがそれは幾つかありその全てに特徴がある。それは…」

 

優磨は一つ呼吸を吸うと…

 

「ガストレアステージⅤを呼び寄せる」

 

優磨の言葉を聞いた瞬間蓮太郎と木更は自分の血が凍りついた気がした。


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