ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第35話

命を賭けた戦いから一週間……天童民間警備会社は騒がしかった。

 

「里見くん!準備できた?」

「あと優磨さんが肉買ってくればオーケーだよ」

「ようっし!汁物も出来たぜ」

 

題して、蓮太郎無実勝ち取りおめでとう&優磨さん帰還やったね会。本当はもっと早くやりたかったのだが楓が去った直後に優磨と蓮太郎がぶっ倒れたのだ。二人とも極度の疲労……まあ蓮太郎は此処のところ心から休まる日はなかっただろうし優磨は目覚めてすぐに向かったらしい。そんなときに制限解除(リミッターオープン)である。死んだように眠って当たり前だろう。

だがやっと二人とも起き出したためパーティーである。そのため料理できるやつは料理をして、他の皆は買い物に駆り出されていた。

 

【おーい!デザート買ってきたでぇ!】

「ただいま帰りました」

 

新一と力持ちの榧が入ってくる。

 

「じゃあ後は優兄と……」

「?まだ来るの?」

 

テーブルを吹いた火垂は首をかしげた。

 

「はい、多分凄く驚かれると思いますが……」

 

夏世が誤魔化すように言う。

 

「はぁ?」

 

すると、

 

「すいません遅れました」

『いい!?』

 

蓮太郎などの一部の面々を除き漫画だったら目が飛び出しそうな顔を皆はする。玉樹に至ってはソファから落ちた。そりゃそうだろう……いきなり国家元首、聖天子様が入ってきたのだ。

「ななななななな!!!!」

 

火垂ですら驚愕して口をあんぐりと開けている。

 

「何でここに国家元首が!?」

「あ~それはな」

 

蓮太郎が説明しようとすると、

 

「うぃーっす!」

 

優磨が肉を両手に帰ってきた。

 

「お?嬢ちゃんも来たんだな?」

「はい」

 

聖天子は一つ持つとか言って優磨から荷物を奪う。その姿はまるで夫……

 

「あ、お持ちしますね」

 

聖天子から由美が袋を奪った。

 

「うわぁ、良いお肉ですね。流石優磨さんです」

 

由美は優磨に寄り添いながら言う。

 

「ほん!っとそうですね!」

 

すると聖天子は由美と優磨の間に割り込んで優磨にくっつきながら優磨が持っていた袋を覗く。

 

『………………』

 

バチバチと由実と聖天子の視線がぶつかり火花を散らす。

 

「おいボーイ……俺はどうも幻覚と幻聴とか見えて聞こえるように……」

「現実だ。受け入れろ」

 

玉樹は蓮太郎に耳打ちしながら言う。

 

「おっまえ何だあの羨ましい状況は!北美もスッゲェ美女で胸でかくてしかも金持ちで性格良好と言う超優良物件でもう一人は国家元首ってもう俺は何が何だか……」

「しかも優磨さん向けられてる好意に気付いてないからな?」

「あれだけ好き好き光線出されてて気付かないって馬鹿なんじゃないのか!?」

 

二人が話してると、

 

「ただいま帰りました!」

「ティナ!」

 

久しぶりにティナとのご対面である。

 

「大丈夫か?」

「はい。ちゃんと3食昼寝付きで取り調べがキツかった事を除けば然程苦労は無かったです」

「取り調べが?」

「はい。でも3食水のみで五日間耐えると言う偉業を木更社長と成し遂げたこの鋼の精神力をもってすれば平気でした」

 

ティナの言葉にその場の全員が涙した。どう考えても10歳児の精神力の付け方ではない。

そこに、

 

「さ、出来たぞ。皆食べようか」

 

菫が言う。だが、

 

『(あんた)(おまえ)(あなた)何もやってない(ですよね)(よな)!?』

 

全員が突っ込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

さて、今回のパーティーはすき焼きである。久々の肉と言うこともあり蓮太郎と延珠と木更とティナと玉樹と弓月は目が血走っている。

 

『頂きます!』

 

そして戦場へと変わる。箸が飛び交い肉が飛ぶ戦い。遅きに失した物は肉が食べられないため全員が必死だ。

 

「おいお前ら野菜も食え!なに肉だけ集中的食ってんだ!」

「ふぇんふぁふぉうふぉふぉ【蓮太郎こそ】」

「ティナちゃん!それは私のお肉よ!」

「社長でもそれは聞けません!」

「あ!またとれなかった」

「勝負の世界は非情ですよ。由実さん」

【ちょおい!風深!ワイの皿から持ってくんやない!】

「良いじゃないですか。後で私を食べて良いので」

【いらんわ!】

「おおいマイシスター!糸で俺の箸縛り上げて使えねえようにすんな」

「兄貴はなにも食わなくて良いでしょ」

「ああ!僕の育ててたお肉!」

「あ、ごめんね。夏」

「こんなときには育ててる方も悪いんですよ」

「………(ハグハグ)」

「み、皆さん落ち着いて……と言うか私にもください!国家元首権限で行使しますよ!」

『世界一下らねえ権限の使い方!?と言うかストライキ起こしますよ!!!!』

「…………………」

 

優磨は皿を置くと静かに外に出た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ~」

 

優磨は肺から煙を出す。

 

「どうだい?シャバの空気は」

「それは蓮太郎に言うべきだろう?菫」

 

行き交う車を見ながら優磨はまた煙を吸い込み始めた。

 

「大まかなのは聞いた。夏たちを立ち直らせてくれてありがとな。菫」

「ふふ、君のお節介が伝染ったのかもしれないね」

「そいつは厄介だな。もう二度と治らないぜ?」

 

そういうと二人は笑う。

 

「まあ……良かったよ。また亡くすのは御免だからね」

「?俺とあいつじゃ立ち位置が違うだろう?」

 

優磨は菫の元カレを思い出す。

 

「……はぁ………」

 

溜め息吐かれた。

 

「君は本当に大馬鹿だ」

「む……」

 

失敬な……と思ったが優磨はタバコを口に咥えてそっぽ向く。

 

「で?君は誰に治療されたんだい?」

「だから意識無かったから分かんないんだって……まあ……おおよその予想はつくけどさ」

「だろうねぇ。君の治療何て高等技術を行えるのなんて簡単な想像がつくけどね」

「ふぅ~」

 

優磨は紫煙を吐き出す。

 

「なに考えてんだか……あいつは」

「まあ今は」

 

菫は優磨の肩に頭を落とす。

 

菫は女性としてはかなり身長が高いがそれでも優磨よりは低い。まあそのお陰でいまの体勢はかなり楽ではあるが……

 

「君の生還を喜ぼうか。良かったよ本当に……君が生きていてね」

「菫……」

 

菫は肩に頭を乗せたまま優磨を見上げる。

「っ!」

 

トクン!っと心臓が少し跳ねた。普段は友人としての距離だが……今はその距離を割っていることは優磨でも気付いたし敢えて気づかないふりをしたが流石に少し無視できなくなってきた。

 

「菫……」

 

優磨は菫の腰に腕を回す。

 

「あ……」

 

菫は肩から頭を離して拒否と言うにはあまりにも弱い力で優磨を押し返そうと力を込めたが……やがてその力を抜いた。

 

『………………』

 

菫は瞳を閉じる。優磨に委ねたのは容易に想像できた。

 

「すみ……」

『だめぇ!』

 

後数ミリで唇がくっつく筈だったがその前に待ったが入り優磨と菫はガバッと離れた。

 

(あっぶねぇ!!!!)

 

つい流れと雰囲気に流されしちまう所であった。本当に危なかった。少し残念と思う気持ちもあるがそれ以上に今乱入してきた面々に感謝である。

 

「ど、どうしたお前ら」

 

声が少し上ずっている。

 

「僕たちのセンサーが大音量で鳴ったんだ!」

「菫さん!抜け駆け禁止です!」

 

流石の菫も少し焦った顔色だ。

 

「いや、これはだね……別に何もなかったんだ」

「油断も隙もありません」

 

そう言って聖天子は優磨の腕にくっつく。

 

「あ、ずるい!」

 

由実は反対腕にくっつく。

それを見た夏達は我先にと優磨に引っ付き始めた。

 

「おいおいお前ら……」

「全く……」

 

優磨と菫の二人は笑う。

 

「よし、飯の続きといくか!」

『うん!』

『はい!』

「そうだね」

 

皆は笑いながら食事に戻った。

 

 

 

その頃蓮太郎は……

 

「ほれ、蓮太郎アーンだ」

「お兄さん……どうぞ」

「ほ、ほら!食べなさいよ」

「べ、別に気なんか使ってないわよ!」

 

上から順に延珠、ティナ、火垂、弓月が蓮太郎に食わせていたが……

 

「お……おう……」

(南無……)

 

それを見ていた面々は合掌した。想像つくと思うがこの四人に蓮太郎は民警からフードファイターに転職した方が良いんじゃないかと思うほど量を食べていた。

 

(まずい……腹がもう……)

 

因みにこのあと食い過ぎでトイレに籠ることに別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋……

 

「つまり……全ては灰の中だと?」

「そうよ。仙一さん」

 

楓は画面に向かって話す。そこには木更にお見合いを持っていった紫垣 仙一と、大阪の国家元首である齋武が映っていた。

 

「ふん!天童を潰すには少々あの小僧では荷が重かったか……しかも奥の手の一つである耐性ガストレアを消されるとは……研究成果ごとな……」

「まあ仕方ないでしょう。しかし楓くん。何かしらでコピーは取ってなかったのか?」

「残念だったわね仙一さん。彼は【データチップやUSBにコピー】は一応安全を取ってしなかったみたいだわ」

「まあいい、まだ切り札は幾らでもある。じゃあな」

 

齋武は通信を切る。

 

「ま、楓くん。また仕事が入ったら連絡するよ」

 

仙一も通信を切った。

 

「すこーし怪しまれてたね~」

 

背後から秋菜が声をかけてくる。 一応隣には冬華もいるが無口で無表情で無感情なためか存在が希薄だ。

 

「ま、平気よ」

 

楓が肩を竦めると、新たに通信が入った。盗聴などを完全にシャットアウトした特殊電波での通信は一人しかいない。

 

「はい?」

「よう楓」

 

向こう側は暗いのか顔が見えない。だが声だけ聞く限り楓と同年代と考えて大丈夫だろう。

 

「そっちに送った耐性ガストレアのデータは大丈夫かしら?」

「ああ。全く、とんでもないもん作り出そうとしてやがったな」

 

ヘラヘラとした口調で男はしゃべる。

 

「まあいいや、で?久々の愛しの優磨と会えてどうだったよ」

「………今もしあなたが目の前にいたらぶん殴ってるわ」

「おいおい俺は戦闘能力皆無だぜ?死んじまうよ」

「百回くらい死んできたら良いんじゃないかな?」

 

秋菜が言うと冬華もミリ単位で頷いた。

 

「ひっでぇ!お前ら三人揃いも揃ってさぁ~」

 

楓はそんな声を聞きながらぼんやり考える。

彼は良くも悪くも変わらずと言ったところだった。まあ少し大人びたと言うかフケた感じはあったが……菫は……全く変動がなかった。妖怪か何かだったのだろうか……

 

「とりあえず今回の一件も終了したし当分は休暇貰うわ」

「その間何するんだ?」

「さぁ?旅に出るのも良いわね」

「じゃあロシアとかロシアとかロシアとかどうだ?」

「……私休暇貰うって言うの聞いてた?」

「ああ、だからついでにある男の素性洗って欲しいんだよ。別についでで良いからさ」

「…………はぁ、分かったわ」

「いやぁ~ありがたい。ほんと良い女だよおまえは何でお前と優磨付き合わなかったの?」

「……脈絡って言葉知ってる?」

「いや~お前ら意識しあってたの丸分かりなのにくっつかねえで微妙な距離のままで居たしさ~」

「…………一つ教えておくわ。あまり女に過去の話をしない方がいいわよ」

 

すると相手がブーッ!と吹いた。

 

「何言ってんだよ。お前の中でまだ過去になってな【ブツン!】」

 

これ以上聞いていると通信相手をミンチにしたくなりそうだったため楓は通信を切った。

 

(過去になってない……か)

 

楓は自嘲気味に笑う。

しかしあいつは相変わらず性格がクソ捻くれていて悪い。

付き合いは大学の頃からだからいい加減慣れても良さそうだがアレの底意地の悪さにだけは慣れることがない。と言うか年々あいつへの怒りだけが蓄積されていく。なまじ大学時代の優磨との関係を知られてるだけに菫と同じくらいタチが悪い。

 

(好きでは……あったのよね……いや、今でもか……)

 

好きだったし……好かれていた。でも……お互い一歩先に踏み込むのを恐れた。好きあっていたのは分かってはいたけど……もしそれが気のせいだったときを恐れて踏み込まなかった。今の状況を考えれば馬鹿だったと思うが……

 

「お互い若かったものね」

「楓さんババくイダダダダダダ!」

 

楓のアイアンクローで秋菜は黙らせられる。

 

(まあ、一応命助けられたご恩くらいは返すとしましょうか)

 

楓は立ち上がる。一応こんな体にされたとはいえアイツに助けられなければ死んでいたはずなのだ。

 

「行くわよ」

「イエーイ!ロシアだロシアだ!ボルシチ食べよう!」

「…………【ジュルリ】」

 

楓に二人も続く。

 

(ま、どうせすぐにまた会うでしょうけど……会うのを楽しみにさせて貰うわ)

 

「Yuma You're the most important person to me Even now.《優磨貴方は私にとって特別な人なのよ》」

 

そう呟くと楓は外に出ていった。




遂に六巻まで終了です!

いやはや長かった。
今回は菫さんのターンと楓のターン……そして新たに現れた謎の男。名前は敢えてまだ出さなかったんだよ!
更に楓は実は五翔会に所属してるが仲間ではなかった。彼女には色々暗躍してもらいます。

さてさて、連絡なのですが当分は本編書きません。取り合えず原作8巻が出るまでは番外編かいていきます。なのでこっちの執筆は当分はのんびりとなります。
取り合えず書こうと思ってるのは優磨の出生の話と言うか優磨の実家の話。本編では語られることは無かった優磨の隠された秘密。とまあ銘打ってみましたがそんな大層なもんではないです。

さてさてとりあえずはここまで読んでくれた皆様には感謝感激です。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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