「くそ!」
櫃間は机を叩き、骨にヒビが入っていたのを忘れ、ギャ!っと飛び上がった。
「だから言ったでしょう?里見 蓮太郎の瞬間的な爆発力は侮れないって」
「こうなったらソードテールを出す!」
「ケルベロス出さないんですか?」
「あの戦闘狂何ぞだしたら裏工作は難しくなる。ギリギリまで出さん」
「まあ良いですけど……行き先に心当たりあるんですか?」
「ふん!行方を眩ましたとはいえあいつが頼れる場所は限られてる」
「成程。じゃあ後は貴方はそこから退けた方がいいですよ」
「どういういウゴッフ!!!!」
暴れた振動で棚の上から金属製のファイルが櫃間の頭に直撃しドクドク血を流しながら机に突っ伏して気絶した。
「あーあ……誰かー?」
悠河はため息を吐きながら医者を呼んだ。
「つ、つまりあれか!?警察が嵌めようって話なのか!?」
「そうなるわ」
前回の一件から早くも2日……木更が盗聴器で録音した声を聞かせながら玉樹達に説明していた。
「だから言ったじゃん!怪しいって」
「だ、だってお前が耄碌してるだけかと……」
「あ゛?」
「いえ、何でもないです」
【はっはっは!玉樹は妹に頭上がらんのやね】
「仲が良いのは良いことですよ」
新一と風深はニヨニヨしながら見ていた。
「さて、そろそろ……」
「ただいま帰りました~」
由美と榧が帰ってきた。
「変な模様が入っているガストレアの一部持ち帰ってきました。いま研究室の方で調べてます」
「大変でした。大急ぎでトラックで運び出して逃げようとしますし……」
「じゃあどうしたの?」
夏が聞くと、榧は頬を少し掻いて、
「トラックを正面から受け止めて横に投げ飛ばしました。運転手はちゃんと無事です」
『ええ!?』
榧はパワー型イニシエーターだ。だが走るトラックを受け止めて横に投げ飛ばすとかどういうパワーしてるのだろう。
「最近またパワーが上がった気がしますね」
「そうか。まだ榧は壁にぶつかってないのだな?羨ましい」
延珠が言うようにイニシエーターも限界点が存在する。まあそれを越える方法が存在するがここで深く記すのは辞めておこう。
「ふぅ……」
「蓮太郎!」
蓮太郎が治療を終えて来た。
「いや~狙撃銃の弾丸を体使って庇うとかなに考えてんのさ」
「そう言うけどさ先生……俺は銃弾をキャッチできないし銃で撃って逸らすのだって出来ないんだからさ」
「いや、そんな人間辞めてます技使えとは言ってないんだけどさ」
菫の治療は完璧だった。流石である。
「さて、説明願おうか……」
蓮太郎が言うと火垂がうなずく。
「私のモデルはプラナリアです」
「プラナリア?」
全員が蓮太郎を見る。
「何で俺見んだよ」
「いや、君こういうの詳しいだろ?」
「はぁ……確かウズムシの仲間で再生能力が異常に高い奴だったよな?」
「はい、なので私は頭撃ち抜かれようと心臓切り裂かれようと一度死んでから復活できるんです」
『へぇ~』
「ただ死んでる間に体燃やされたりしたらもちろん死にますし再生にも限度はあります」
「そうなんだ~僕も腕くらいならくっつくけど凄いな~」
「そうなの!?」
夏の言葉に夏世や翠ですら驚愕した。
「うん。切り取られてもその断面同士くっ付けとくと30秒くらいでくっつくよ。まあ流石に生えないけどね」
『………………………』
生えたら某緑色のナメクジ星人である。
「とにかくこれからどうするか……」
「検査が終了するには少し時間が要りますから……里見さん。シャワー浴びてきたらどうでしょうか」
榧がマジマジと見ると、
「少し男臭いです」
「マジかよ!」
「シャワー室は地下二階です」
「悪いな」
蓮太郎は部屋を出た。
「さて、妾も……」
「貴方はここです」
榧に延珠は捕縛された。
「ふぃ~」
かれこれ数日ぶりのシャワーだ。この怪我では銭湯とかにも行けないし内心有り難っていた。
「つっ!」
傷に石鹸が染みる。
見てみれば細かい古傷や生傷が結構ある。
「……まだダメだな……」
蓮太郎は壁に額をつける。優磨なら……きっともっと上手くやった……もっと簡単に……鮮やかに……だが自分はこんなにボロボロになってやっとだ。夏達の援護なしだったらもっと酷かったと思う。
「俺かっこわりぃな」
蓮太郎は頭を振って意識を向け直す。自分なりにまだやれることはある。ならばそれをやるだけだ。
「………っ!」
蓮太郎は咄嗟に体を捻って横に飛ぶ。すると壁に突如現れたナイフが刺さった。
「中々勘が良いようだな」
「誰だてめぇ!」
「俺の名はソードテール……五翔会の3枚羽根だ」
そう言ってまた消えた。
「俺の力は皮膚に光化学化……俺が見えねえだろ」
「ちっ!」
蓮太郎は外に飛び出す。
「里見くん!何のさわ……」
「木更さんこっちく……」
『キャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
木更を含め駆け付けた女性陣が悲鳴をあげた。
「里見くん。君自分の格好考えてみたまえ」
「ああ!」
菫に指摘され蓮太郎は気づく。
蓮太郎は現在シャワーを浴びる都合上全裸である。無論ソードテールと名乗る男に襲われたため着替える暇などあるはずもない。
「取り合えずこれを!」
榧が近くにあったバスローブを投げる。酷く間抜けだが無いよりは良い。
「なんだぁこの騒ぎは」
「っ!」
近くにソードテールの声が聞こえた。
「声だけが聞こえる?」
「光化学化する力らしい」
「また面倒だな」
他の面々も武器を構える。
「ふん……俺の姿なんて誰も見えオブゥ!」
ソードテールは体をくの字に曲げる。
「お…ごふ……」
胃から食べ物が競り上がってくる。
「何で……」
すると殴った張本人の夏は赤くした瞳を向ける。
「だって見えてるもん」
「え?」
「僕のモデルはシャコ……シャコは凄く目が良くてその気になれば赤外線とか電磁波とか見えるんだよ?普段は見えないように力抑えてるけどさ」
「な……」
夏は後ろに跳ぶ。
「これで終わりだ!」
夏の拳が迫り……
「ばぁか」
逆に夏が吹っ飛んだ。
「残念だったなぁ。俺はナノチューブの筋肉……更に高い回復能力を加えた機械化兵士だ」
「くっ!」
蓮太郎は義眼を起動させ突っ込む。
「らぁ!」
「ふん!」
義手と機械化した腕がぶつかる。
「ウォオオリャアアアア!!!!」
玉樹はチェーンソー付きメリケンサックを振りかぶる。
「はぁ!」
「やぁ!」
「うりゃ!」
「えい!」
「がう!」
瞳を灼熱させた榧、朝霞、延珠、翠、風深の近距離系の戦闘ができる面々も突っ込む。他の面々は支援が得意な面々だ。だがこの狭い中では支援は無理だろう。無論菫に戦闘は不可能だし木更は腎臓がある。
「うらぁ!」
「ちぃ!」
ソードテールがナイフで蓮太郎を迎撃する。
「くっ!」
そこに、
「鬼八さんの仇……」
「っ!」
火垂が銃を向けた。だが、
「おせぇんだよ!」
それより先にナイフが投擲される。
だが火垂には関係ない。死んだと生き返るのだ。
だが、それより先にナイフを捕まれた。
「なに!」
「里見さん……?」
「お前の相手は……」
腕に残った薬莢が全て排出される。
「俺だ!!!!
ソードテールが吹っ飛ぶ。
「いつつ……」
蓮太郎は手を見る。思いきりナイフを掴んだため結構深く切っていた。
「なにやってんですか!?私は刺されたって平気ですよ!」
「……体が勝手に動いたんだよ!ほっとけ!」
蓮太郎は拳を握る。
「夏……どうだ」
「こっちに来てる」
夏以外には視認が出来ないため蓮太郎は舌打ちした。
「うらぁ!」
夏が距離を詰める。
「さっきは油断したから良いの一発もらったがよ。もう油断しねぇよ!」
「
夏の殴っている場所から恐らく居ると思われる場所に蹴りを叩き込む。
「あめぇ!」
「ぐっ!」
蓮太郎は吹っ飛んだ。
「蓮太郎!貴様!」
延珠が飛び蹴りを放つがそこには既に居らず間違えてそのまま弓月に蹴りを入れそうになる。
「あぶな!」
「す、すまん!」
(どうする……ん?)
蓮太郎は良く見る……良く見ると……何処に居るのか分かってしまった。
「夏!思い切りなぐれぇ!」
蓮太郎が走り出す。
(一撃で決める!)
恐らく相手はまだ気付いていない。ならば今しか見えないだろう。
「っ!」
ソードテールも蓮太郎に場所が気づかれたのに気づく。
「何故だ!?」
「お前馬鹿なんじゃないか?自分の体良く見ろ」
「っ!」
ソードテールの体にはベットリと血が付いていた。恐らく蓮太郎を吹っ飛ばしたときに手の傷から出ていた血がついたのだろう。流石に血は消せない。
「ウォオオオリャアアアアアア!!!!」
「がっ!」
ドゴン!と夏の鉄筋コンクリートにすら大穴を空ける拳がソードテールの背中にめり込む。
普通ならそのまま衝撃は前の方に流れるが……今回はそうはさせない。
先程からぶん殴っても立ってくることを考えるとタフさも普通じゃない。ならば、
「天童式戦闘術 一の型十二番
ズン!っと蓮太郎の拳の勁力が余すところなくソードテールの体の内部に伝えられ……
「がはっ!」
ソードテールは血をはいて倒れた。
恐らく内臓はボロボロだろう。夏のパンチの力を
「やったな」
「うん!」
蓮太郎と夏がハイタッチすると、
「流石ですねぇ」
「っ!……巳継 悠河……」
「こいつが……」
全員が現れた悠河を見る。
「全く、ソードテールには良く言っといたんですけどねぇ。里見さんは強いと」
「お前もやるのか?」
「まさか、そんな弱った君とやっても楽しくないですよ。これをあげに来たんです」
そう言って悠河は蓮太郎に鍵を投げる。
「五翔会の秘密基地みたいなところの鍵です。其処に答えがある。場所は外周区のNO.0013番モノリスです」
そう言って背を向ける。
「そこで全ての決着をつけましょう。次は僕も油断も手加減もしない。僕の【万物を見抜く眼】を……【万物を砕く拳】を……全てを賭けて君を……殺す」
「やってみろ……なら俺も【大切な人と繋げる手】を……【大切な人と共に歩む脚】を……【大切な人と同じ景色を見る眼】を……持ってる全ての力を使ってお前を倒す」
悠河は去る……
「絶対にだ……」
蓮太郎の呟きは誰も聞くことはなかった……