ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第2話

「今日は~焼き肉~♪」

「ひでぇ音痴だな…」

 

夏は色々と可笑しい音程の歌を歌いながら肉を入れる。

 

「豚、豚、ブーブー♪」

「優磨兄様…あそこに人だかりが…」

「ああ~、モヤシが5円なんだろ。一人ひとつまでだから行くぞ」

「え~、肉だけで良いよ」

「あほ」

 

それから主婦の押し退け時々わざと優磨を蹴って邪魔しようとして逆にダメージを受けてるオバサンを見ながら優磨はモヤシを三袋入れる。

すると…

 

「あれ?優磨さん」

「ん~?おお、蓮太郎じゃないか。久し振りだな」

「あー!延珠!」

「おお!夏ではないか!春も元気そうだな」

「うん」

 

主婦の軍団から脱出しながら同じ民警仲間の里見 蓮太郎とそのイニシエーターの藍原 延珠に会う。基本的に民警同士は仲が悪いことが多いものの優磨と蓮太郎は菫を通して友好的な間柄だった。

 

「夕飯の買い物ですか?」

「まあな」

「今日は焼き肉なんだ」

 

夏が言った次の瞬間蓮太郎と延珠が石になった…見てみれば蓮太郎の籠の中にはモヤシのみ…対して優磨の籠にはモヤシ以外のも肉や玉葱に椎茸等々入ってる…

気まずい…

 

「そ、そうだ!お二人も来ませんか!?い、良いですよね優磨兄様」

「そ、それは良い考えだな!春。どうだ!?」

「え、良いんですか!じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」

「どうせだから木更ちゃんも呼んであげな。あの子も死にそうになってるだろうし」

「すいません。ありがとうございます」

「じゃあ延珠!帰ったらゲームしよ」

「今日は負けないからな!」

 

蓮太郎が電話を掛けてるのを他所に子供たちは遊ぶ算段をたてていた。

 

「ゲームは一日一時間だぞ」

「ちぇ~」

 

 

さて家に帰ると蓮太郎と優磨は準備を開始する。残念なことにイニシエーターの三人は三人とも料理は壊滅的だしこれから来る蓮太郎の雇い主にして幼馴染みであり天童民間警備会社の社長、天童 木更は昔、火事を起こし掛けたほどの素晴らしい腕前の持ち主でそんな腕の持ちに料理されたら調理される食材が可哀想だし一応優磨が住んでいるマンションは3LDKの結構広いが少しお高目で弁償ものになったら臓器を売らねばならない。だが優磨は売るべき臓器が殆どないため夏と春に身売り…そこまで考えて身震いしたため辞めるがとにかく量も量だが男がエプロンつけて二人で準備するしかない。

そうと決まれば蓮太郎は意外と器用なため料理もうまくあっという間に手際よく準備していく。不幸面だが何とも家庭的な男だ。序でに繕わなくてはいけないものを繕って貰うか…

優磨は裁縫もダメなのである。

するとチャイムが鳴った。

 

「おーい、出てくれ」

「はーい」

 

春が迎えに行く。

暫し待つとそこに春と共に黒髪でスタイルが良い綺麗な少女…

 

「いらっしゃい、木更ちゃん」

「どうもすみません」

「良いって別に、こっちも蓮太郎の料理が食えるんだしな」

「あ、これを…」

 

そう言ってだしたのは…肉だ。

 

「ただ食べさせてもらうのもなんですし…」

 

生活に困窮している筈なのだが…

 

「ありがとな」

 

優磨は礼を言うと調理に戻る。

 

 

それから一時間後に準備は終わり…

 

「それじゃ…」

『頂きます!』

 

次の瞬間肉を焼いているホットプレーとは戦場へと変わる。

 

「え、延珠ちゃん!それ私が育てた肉!あ!夏ちゃんそれもよ!」

「木更はもうおっぱいにたくさん入ってるから良いんだ!」

「そうだそうだ!」

「木更さんよかったら私のをどうぞ」

「は、春はそっち側なのか!妾の敵か!」

「くそ!春のことは信じてたのに!」

「何言ってるの、木更さんもお客さんなんだよ!」

「春は将来有望そうだものな…妾と違って」

「え?」

「大丈夫だよ延珠!僕は味方だから」

「うむ!」

 

そんな惨劇――もとい寸劇を見ながら優磨と蓮太郎は女性陣営が落ち着かないと自分達に食べる権利が発生しないことを弁えてるためシェフ状態だ。

 

「女三人集まれば姦しいとは良く言ったもんだな」

「ですね、四人いますけど…」

 

しかも年齢を考えなければ全員美少女…かなり役得なのかもしれない。まあロリコンでホモでオカマバーのストリッパーの蓮太郎なら良いかもしれない優磨から見れば正に子供だ…個人的にもうちょっと色気のある大人の女性が好みである。

 

「って今のナレーションおかしくねぇか!?誰が、ロリコンでホモでオカマバーのストリッパーだよ!」

「菫が言ってたぞ」

「あの人ときたら…」

「なんだ蓮太郎はロリコンなのだろう?いつでも妾はドンとこいだぞ」

「ぜってぇ行かねぇよ!」

「優兄も良いんだぞ?」

 

とんでもないことを言う夏とコクコク頷く春…

 

「阿呆!」

 

優磨は二人に拳骨を落とした。

 

「いってぇ!」

「あう!」

 

二人は目を回す。優磨の拳骨は読んで字の如く鉄拳なのだ。

 

「何すんだよ!」

「おめぇらがアホ言ってるからだ…」

 

そう言うと優磨は立ち上がる。

 

「タバコ買ってくる」

 

そう言って外に出ていった。

 

 

 

「さて…」

 

優磨は外に出るとマンションのエントランスを出て道路に出る。

 

「出てこいよ…覗き魔野郎」

「やはりバレていたか…」

 

そこに現れたのはタキシードとシルクハットと言うマジシャンみたいな格好にふざけたマスクを着けた男だ…そしてもう一人はショートカットの腰と背中に計四本の小太刀を装備した…恐らくと言うか子供にそんな装備をさせるのだから間違いなく呪われた子供だ…

 

「初めましてだな。私は蛭子 影胤…そしてこの子は娘の小比奈だ」

「パパァ…こいつ殺して良い?」

「ダメだよ」

 

蛭子 影胤と名乗った男は小比奈と言う少女を止めると優磨を見る。

 

「んで?何のようだよ」

「いや、用があったのは里見くんの方だ」

「んじゃあ聞き方を変える。あいつになんの用だ?」

「ふふ…誘ってみようと思ってね」

「世界征服にか?」

 

優磨は茶化すように聞く。

 

「いや、東京の壊滅にさ」

「っ!」

 

世界征服の方がまだマシだったかもしれない。

だが十年前まで日本と呼ばれたこの国は今【東京】【大阪】【仙台】【札幌】【博多】の五つに分裂している。特に東京は人工が多くその分防御が硬い。壊滅などそう簡単には行かない筈だ。

 

「どう言うことだ?ここには多くの人間がいる…」

「確かにその分守りは硬い。だが…その分穴もある」

「なに?」

「例えばちょっとした動揺もすぐに広がる…とかもあるだろうし逆に防御が硬い分混戦に入ったら間違いなく練度が低いこの兵士たちでは負けるだろう」

「じゃあ質問その二…何で蓮太郎を?」

「同じ雰囲気を感じた…世界に絶望し…諦めている…私と同じ目だ」

「んなマスクつけてりゃ自分の顔なんざ分かるめぇよ」

「パパァ…こいつ殺したい」

「ダメだ…」

 

そう言うと影胤は優磨を見る。

 

「さて、そう言うわけだから会わせて貰えないかな?」

「んなことしたらお前は暴れるだろう?」

「まあ彼と戦ってみたいしね」

「んじゃあ…」

 

優磨は肩を回す。

 

「悪いが門前払いだ」

 

優磨は影胤を見る。見たところ相当な…いや、かなりの実力者だ…そして小比奈とか言う方も強い…もしかしたら奥の手を使うかもしれないが…まああそこで飯食ってる奴等のために面倒くさいがやらせてもらうとしよう。

 

「ひとつ聞こう…君と彼の関係は?」

「同じ民警だ」

「民警同士はそんなに仲は良くないだろう?それなのに食事に誘い…あまつは体を張って守ろうとする。その心は?」

「決まってんだろ…俺は大人なんだ…精神年齢がどうとかではなく…大人なんだ…」

「え?」

「だから戦うのさ…ガキを守んのは義務みたいなもんだからな」

 

そう言うと次の瞬間ゴウ!っと言う音と共に優磨が疾走する。

 

「むぐぉ!」

 

空気の摩擦で真っ赤に燃え上がるほどの音速の拳…優磨の装備のひとつ、ジェット噴射で加速するスラスター付きの腕と足…そしてこれは足の加速と腕の加速両方使う我流体術の技…

 

紅蓮(ぐれん)!!!」

 

肋骨がミキミキ音を発てながら影胤は吹っ飛ぶ。

 

「パパ!」

 

小比奈は瞳を赤くし、小太刀を抜いて優磨に斬りかかる。

 

「つ!」

 

ジャキン!と言う音と共に手首の甲の方から高周波ブレードが現れ小比奈の小太刀を受け止め弾く。

 

「ッシャア!」

 

優磨は小比奈の襟を右手で掴むとスラスターを起動させぶん投げる。

 

爆弾(ばくだん)!!!」

 

遠くまでぶん投げて強制的に退去させると優磨は影胤を見る。

 

「終わってないんだろ?」

「ああ…」

 

影胤は銃を二丁抜く…

元はベレッタだと思うが…付加装備が多すぎて分からなくなっている。

 

「スパンキング・ソドミーとサイケデリック・ゴスペルと言ってね」

「おい…こんな場所で撃つ気かよ!」

 

優磨は路地に入って一度逃げる。次の瞬間マズルフラッシュが夜闇に光った。

 

「イッテェ!」

 

体に銃弾が辺り優磨は飛び上がる。当たっても死ぬわけではないが痛覚はある。痛み的には凡そ金属バットで叩かれた感覚に近い。それで済むのだからとんでもないがやはり痛い。

その為優磨は広い場所に出ると影胤を見る。

 

「成程…君も私とは兄弟だったのか…」

「はぁ!?意味わからねぇよ!」

 

優磨は飛び上がると飛び蹴り放つ。

だがそれは届く前に止まってしまう。

 

「何!?」

「私の力は斥力フィールドを発生させることだ。私はこう呼んでいる。イマジナリィ・ギミック!!!」

 

優磨は強制的に跳んで来た方向に戻される。

 

「くぉ…」

 

空中で体勢を戻すと着地する。

だがそこに小比奈が戻ってきて小太刀をX字に交差させ優磨の首を狙う。

 

「ちっ!」

 

それを伏せて躱すと見るのもそこそこに後ろ蹴りを放つ。

 

「うっ!」

 

小比奈はギリギリで躱すと後ろに飛ぶ。

そこに影胤は銃を構える。避けられないと判断した優磨は腕を交差させてガードする。何十発もの銃弾が優磨を襲う。だがそれだけではなく…

 

「エンドレス・スクリーム!!!」

 

ぞわっと優磨の毛が泡立ち半ば本能的に身を伏せた。すると次の瞬間背後のブロック塀が崩れるのではなく穴が開いた。

 

「私も機械化兵士でね、内臓の殆どが機械さ。君は…改造が肉体の殆どに及んでいる…私の【新人類創造計画】とは違う…と言うことは君は…」

「おい、思考に入るのも良いが周りを見ろ」

「む…」

「隠禅・黒天風!!!」

 

影胤の顔に回し蹴りが炸裂する。この技は天童流戦闘術・二の型十六番の技…そしてこれを使うのは、

 

「優磨さん!無事か!」

「余裕のよっちゃんだぜ」

 

するとそこに小比奈が斬りかかってくる…が、

「甘いぞ!」

 

延珠が靴底に仕込んだバラニウムで防ぐと蹴っ飛ばす。延珠のモデルはラビット…つまりウサギだ。キック力はすさまじく高い。

 

「くっ!」

 

だが小比奈も大したもので小太刀でそれを防ぎ後退する。しかしそれだけでは終わらず後退した方向には夏が追う。

 

「チェイ!」

 

夏の左ジャブが小比奈に迫る。

 

「ふっ!」

 

だがそれを小太刀で防ぐともう一本で小太刀で斬りかかる。

 

「くっ!」

 

それは体をそらして躱しつつ小比奈のボディの向け右フックを放つ。

 

「当たらないよ」

 

だがそれすらも小太刀で防いだ…だが、

 

「甘いよ…」

 

左ジャブが放たれる…ギリギリで当たらないと判断した小比奈は避けなかった…だがそれは間違い…ギリギリで夏の拳は小比奈の顎をカスった…

 

「あれ…あれれ…」

「む、あれはいかん…」

 

影胤は舌打ちする。

今の小比奈は夏が何人にも見えるだろう。顎をカスった場合人間は脳ミソが揺れる。

 

「今のあんた気持ち悪いだろ?」

 

夏は拳を構え…

 

「今気絶させてあげる」

 

【バキィ!】っと夏の渾身の右ストレートが小比奈の頬に刺さった。

 

「がふ!」

 

小比奈は派手に吹っ飛びそのまま体を塀にめり込ませた…

時々ピクピクしているため死んではないだろう。

 

「ふむ…」

 

影胤は小比奈を壁から引き剥がすとこちらを見る。

 

「仕方ない。ここは撤退しよう」

「逃がすとおもって」

 

蓮太郎が行こうとするが優磨が止める。

 

「いいぜ、行けよ」

「優磨さん?」

「こっちも体勢は建て直した方がいいだろう…少なくともこいつは…今戦うのは危険だ」

「わかってくれて嬉しいよ…ではまた会おう。遺産をめぐるときの戦いでは手は抜かないよ」

 

そう言って影胤は小比奈を連れて去っていった。

それと共に警察のサイレンが聞こえて来る。遅すぎだろ来るのが…

 

「さあ、警察に事情説明なんてめんどくさいことからはフケようぜ?」

「しかし夏はまた腕をあげたな!」

「延珠もまた速くなったんじゃない?」

「しっかしあれとやりあうとか優磨さんも大概化けもんだな」

「ん~?」

「ああ!」

 

そこで木更が声をあげる。

 

「どうした?」

「肉を上に置いたままホットプレートの電源切るの忘れた…」

『…………えぇえええええ!!!』

「今すぐ帰るぞぉおおおお!!!」

 

優磨の号令と共に皆は走り出した。


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