ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第27話

「いやぁ、優磨くんと付き合いは長かったけど家に来るのは初めてだね。何時も彼の方から来てたから……」

 

菫は優磨の家に常備されているインスタントコーヒーを飲む。夏達もジュースを菫が出して置いていたが手を着けない。

 

「……夏ちゃん。何であんなことをしようとしたの?」

『え?』

 

夏以外の三人が驚いたように見る。

 

「この子ベランダから飛ぼうとしたんだよ?私が引っ張ってこなきゃこの高さだし死んでいたね」

「行けると思ったんだ……」

「優磨くんのところにかい?」

 

夏は頷く。

 

「安直だねぇ……でも死後の世界があるとしたら確かに会えたかもねぇ……でもそれは辞めた方がいい。優磨くんに怒られるよ」

「それでもいい……それでも会いたいよ……」

 

他の三人も俯いてしまう。共感できてしまったのだろう。

 

「駄目だよ。それはいけないね」

「菫は会いたくないの!?」

「会いたいに決まってるだろ!!!!!」

 

夏達は金縛りに遭ったように固まる。あの菫が……大声を出した?

 

「言っておくが……あいつとの付き合いは君たちより長いんだ……あいつが死んで何ともないと本気で思ってるのか?恨みたいくらいだよ……こんな気持ちにさせるようなあいつをね……でも分かってるから……あいつが悲しんでもらって嬉しいようなやつじゃないって」

「そんなの僕たちだって分かってるよ!!!!!でも僕たちはそんな風に割りきれないよ」

「誰も割り切れとは言ってないよ」

『え?』

「それで言ったら私だって全然割り切れてないよ。でもね君達……私たちはまだ生きてる……生きてるって事は前に進まなくちゃいけない。そうする義務があるんだよ。そして前に進んで……死んだ人の分まで生きるんだ……そうしなきゃいけないんだよ」

 

菫は……過去に恋人を失ったとき夏のように自暴自棄になり壊れた……だが優磨が……一度拒否した光にまた地獄の縁から引き上げてくれるお節介のお陰で今に至る。

 

「それに……君達はまだやらなきゃいけないことがあるだろう?」

『え?』

「このままでいいのかい?優磨くんが殺られて……このまま引き下がるのかい?なら優磨くんが笑ってくれる形で決着を着けるべきなんじゃないのかい?」

 

夏達はハッとする。そうだ……まだ犯人は生きてる。だが菫は敵を獲れとは言っていない。決着を着けるべきなんじゃないのか?っと言っている。

そうだ……犯人にはそれこそ優磨の墓前で土下座させなきゃならない……それができるのも自分達でしかないのだ。

 

「殺しは駄目だよ?優磨くんはそんなの望まない。犯人殺して死人が生き返るならこの世は殺人まみれさ」

 

夏達は頷く。その眼には先程とは違い、強い意思があった。菫がよく知る眼と同じ……

 

「それでいい……」

 

最後に菫は四人を抱き締めた。

 

「辛いだろう……悲しいだろう……犯人を見たら憎しみが湧いて殺したくなるかもしれない。いや、なるだろう。だがそれでも殺すな。憎しみは原動力になる。だがそれで戦うな。十歳の女の子に言うのは酷だがね……憎しみや哀しみは何も生まないと言うが違うよ……生んじゃならないんだ……生まれたそれはきっともっと憎しみを生むからね」

 

菫がそういうと説得力があった。

それを聞いた夏達は力強く頷く。

 

「さて、これからどうしようか」

 

菫が呟くとチャイムが鳴った。

 

 

 

 

「まさか木更ちゃんと延珠ちゃんが来るとはね。驚いたよ」

「私も菫さんが来てるとは……」

「妾も驚いたぞ」

 

そう言うと木更は手紙を出した。

 

「なんだいこれ……」

 

菫は見ると眉を寄せる。

 

「うわ、なんだいこのミミズがのたうち回ったようなもう字だけでも呪われそうな不幸の手紙は」

「いえ、里見くんが咄嗟に書いたらしくて……」

「ああ、何か暗号にしたつもり程度の暗号があるね」

「え?」

 

夏達が見てみる。その手紙には、

 

【あー、お前ら。優磨さんが死んで

すごく辛いと思う。でも元気だせ。

にんげん辛くたって生きる事からに

げられないんだ。あの人だって生き

る事をお前たちに望むと思う。

て言うわけだから俺は現在警察に

つかまってるが優磨さんから一人

だち出来るのを祈ってるよ。

えーと……つうわけでじゃあな】

 

『字……汚な』

「木更の通訳無しではアワや読めないところだったね。それにしても……なんと適当な暗号だ」

 

菫は苦笑いした。

 

「ふむ、妾には全くわからんぞ?」

「僕も……」

 

延珠と夏は暗号が分からないらしい。

 

「夏さん。これは暗号の典型的な作り方です。よく警察の方にバレませんでしたね」

「ホントよね」

「よっぽどの馬鹿なんだよ」

 

菫が切って捨てた。

 

「これの頭文字を読んでみたまえ」

『えーと……』

 

【あすにげるてつだえ……】

 

『ああ!』

 

【明日、逃げる、手伝え……】

 

「里見くんからのメッセージだ。明日脱獄するから手伝え……この場合は犯人探しもだ……」

『……』

「やるのか?」

 

四人……いや、延珠も頷いたため五人が頷く。

 

「じゃあ私は……」

「君は事務所の掃除でもしたらどうだい?後、櫃間から情報取れたら取れば良い」

「あ、はい」

「とは言え……バレたら私も無事じゃすまないだろうねぇ」

【ならワイと】

「私に……」

 

全員が声の方を見る。

 

【「お任せあれ】」

「新一に……風深!?」

「木更さんや菫さんの警護は私達がやりましょう」

「盗み聞きかい?」

【んなわけあるかい。ドア空いてたんで入ったら聞こえただけや。風深が偶々力解放しとったからな】

「物は言い様だね」

 

すると風深が鼻を動かす。

 

「ん?木更さんつい先程男の人とお会いしてました?男性用コロンの香りがします」

「う、うん。さっき櫃間さんが急に来てね」

「あと懐中時計とはずいぶん古風何ですね」

「これも櫃間さんに……ってわかるの!?」

「音でわかりますよ~それに時計つけてないですし。どんなのですか?コロンの香りから考えて結構お金持ちですよね?」

「まあ一応警視総監だしね」

 

木更が懐中時計を出した。

「ふむ……確かに安いものでもないがそんな高価なものでもないな……」

「あれ?これ複数人の香りがしますね」

「店の人のとかでは?」

 

夏世が聞くが首を横に振った。

 

「だとしたらもっと多いですよ。人数は三人ですね。あ、木更さんは除外してますよ?」

「三人?随分少ないね」

「あと……何か微かにですけど火薬の臭いです」

「火薬?」

「正確には硝煙の臭いです」

 

警視総監の持ち物から硝煙の香り?

菫や木更に新一や夏世は首をかしげた。硝煙の香りは普通に体に染み付くことはない。余程撃っていれば別だがそんなのは現場の機動隊やSAT……他には民警位だろう。

 

「少し失礼」

 

菫が開いたりして見てみる。

 

「うん……別段仕掛けとかはないかな?」

そう言いつつ叩く。

 

「ん?」

 

何度か叩く。

 

「これは……」

「どうかしたの?」

 

夏が身を乗り出してきた。

 

「何か中に仕込んであるね。何だろう……少し借りても良いかい?」

「あ、はい」

 

菫は懐にいれた。

 

「それにしても子供達は明日行くんだろう?じゃあ私たちは何をしようか」

【別視点から考えるとかか?】

「その視点は?」

「…………」

 

菫はため息をはいた。

 

「まあ色々調べることはある。ここに来るまえに調べておいたが里見くんの事件だがどうも臭い」

「どういう事だ?菫」

「犯人確保から容疑者から被疑者への以降が早い。陣頭指揮を取っているのがなんと櫃間と言う人間らしいよ?」

「櫃間!?」

 

木更が驚愕した。

 

「ああ、だから少し驚いている。どうもねぇ……他にもティナちゃんの容疑の固まる早さとか全部その辺も櫃間が絡んでるらしい」

「どうやって調べてんですか?」

 

夏世が恐る恐る聞くと、

 

「え?警察のデータベースにハッキング」

 

ズコッと全員ずっこけた。よりによって警察にハッキングとか勇気ありすぎである。

 

「足はつかないよ」

「そう言う問題じゃないですね……」

「まあ今は……私たちは少し櫃間の事を調べようか。君達はまず里見くんと脱出したらそうだな……まずは事件の発端の水原 鬼八の事件現場に向かうんだ。そこに何かあるかもしれない」

「分かった」

 

後は……菫達の住み処だが……ここはダメだし事務所や菫の地下室は今回の事件の性質上襲撃の可能性があるし危険……

 

「由美ちゃんの所にでも行こうか」

「でもあの人は……」

「大丈夫だよ。榧ちゃんが何とかしてくれてるさ」

 

菫は笑っていった。完全に他人任せである。

 

 

 

その頃由実は……

 

「食べてください」

「いらない」

 

榧が持ってきた食事を拒否していた。

 

「食べてください」

「いらない」

「食べて……」

「だからいらなもご!」

 

強引に口に入れられた。

 

「全く。ショックなのはわかりますが餓死されては困ります。食べていただきます」

 

そう言って榧は瞳を赤く灼熱させ由実に無理矢理サンドウィッチを口に押し込んでいく。

 

「もごむぐごもご!!!!!」

「さて、後はスープですね」

「っ!」

 

そのまま口に入ってるのに容赦なく流し込むと手で口を押さえた。なので吐き出す訳にも行かず飲み込んだ。

 

「こういう風に食べさせられたくなかったら次から普通に食べてください」

「………榧ちゃんには分からないよ……私の気持ち」

「ええ、分かりませんね。分かろうとも思いませんよ」

「っ!」

 

由実は体を震わせる。

 

「ただわかるのは……いまの由実さんを見たら牙城さんは悲しむでしょうね」

「え?」

「私が知る北美 由実と言う女性は過ぎるくらいの慈しみの心を持つ人です。何時も優しく笑い、他人の心を暖めてくれる……そんな人です……」

 

榧はゆっくり言葉を紡ぐ。元々饒舌ではない。いくら大人びた容姿を持ってるとは言え心はまだ十歳の女の子なのだ。

 

「私も……牙城さんも……そう言う由実さんが好きだったんですよ?」

 

そう言って榧は部屋を出た。

 

「……………………」

 

由実はゆっくりと今の言葉を飲み込んでいく……何をやっていたのだろう。ショックだからといって寝込んでる場合じゃないのに……自分にやれることはまだ残ってる……なら寝込むのはそれからだ。

すると電話が鳴る。

 

「あ、もしもし。菫さん?はい……分かりました。うちの本社に来てください」

 

菫から作戦の概要を聞くと由実は自分の会社を本拠地にすることを了承した……




ごめんなさい。本格始動は次になりそうです。


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