ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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短めですが更新です。


第26話

菫の研究室では哀しみの空気が流れていた。

 

「事件の後……これだけが残っていたらしい……」

 

菫が顎でしゃくった先には義手が一個……間違いなく優磨の物だ……

 

「そんな……」

 

由実はイヤイヤと首を横に振る。

 

【どうせあれやろ?この後「うっそー!」とか言うて出てくるんやろ?優磨も悪趣味な騙しをするもんやな……なあ、そうなんやろ?】

 

新一が茶化すように言う……だがタブレットを叩く手が震えているのは見え見えだ。

 

「なんで……」

 

木更は俯いてしまう。蓮太郎は逮捕され、ティナも警察に連れていかれた……更に優磨も死んだと伝えられた……頭が真っ白だ。

 

『………………』

 

そして夏達はなにも言葉を発しなかった……それもそうだろう……ショックがでか過ぎた……頭の処理が追い付かない。

優磨が死ぬ……そんなことはないと四人とも思っていた。

 

「後、正式な通達が来ると思うが君たち四人はプロモーターが死んだことでIISOにまた引き取られる……そうしたら恐らく……」

 

四人はバラバラになる……と続けた。

 

「荷物だけは……纏めておいてくれ……」

 

菫に言われるが頷く力も夏たちにはなかった……

 

強い悲しみは涙すら流すことを許さない……

 

 

 

 

 

 

 

夏達は帰ると言葉も発せずにそれぞれの好き場所に座った……

 

 

夏はソファーにいた……優磨の腕枕で寝たり……ここに座ってゲームやったりした。

格ゲーしたりして……負けそうになって優磨に現実で攻撃加えたり……怒られたり呆れられたり褒められたり笑ったり……

 

(何で死んじゃうんだよ……優兄……)

 

 

 

春は自室でベットに居た。部屋には優磨が買ってくれた服があった。思い出があった……

テストで百点とって誉められて頭を撫でられるのが好きだった……凄いな春って言われるのが好きだった……

 

(もっと誉めて欲しかった……優磨兄様……)

 

 

 

夏世は優磨の自室に居た……ここで本を読むのが好きだった。

優磨は意外と読書家でいろんなジャンルの本があった……でもあっという間に読んでしまって今度一緒に買いに行く予定だったのだ。

 

(優磨兄さんは嘘つきです……何で死んじゃうんですか?……ねぇ!)

 

 

翠はリビングにいた……

ここで包丁やフライパンと料理本を片手にまるでガストレアステージⅤと相対してるような顔で食材とバトルを繰り広げる優磨を見ているのが好きだった。

 

(また……私は無くしてしまった……)

 

 

 

新一は自分の事務所に帰ると机を蹴っ飛ばした。

 

「新さん……」

 

風深はそれを不安そうに見ていた。

 

(ふざるんやない……あの殺したって死なんようなやつが死ぬやと……?くそ!)

 

 

由実は自室のベットの中に居た。

時々すすり泣く声が聞こえる。

 

「…………」

 

榧はそれをドアの前で聞いていた……

 

(牙城さん……あれだけの人に好かれていて……なぜ死んだんですか?)

 

 

 

 

皆が帰った後……菫は煙草に火を着けた。無論彼女は喫煙者ではない。

だが……いつも優磨が吸っていた銘柄のタバコを見つけ買ってきたのだ。

 

「げほ!げほ!全く……何が楽しくてこんな煙吸っていたんだろうね」

 

菫はぶつぶつ言うが口から取ることはない。

 

(最低な男だ……私に二度も失う哀しみを味あわせるとは……ね……とは言え、このままここに居るわけにも行かないか)

 

 

 

 

 

木更は……警察署に面会に来ていた。

 

「よう木更さん」

 

すこし疲れたような表情だが基本的に蓮太郎は元気そうだ。

 

「元気そうね」

「まあな。拘置所は三食昼寝付きだ。逆に健康になるぜ」

 

それから蓮太郎は座る。

 

「それで……何かあったのか?」

「え?」

「いや、なんつうか落ち込んでる感じがあったんだ。櫃間に何かされたのか?」

 

木更は首を横に振る。

 

「里見くん……心して聞いて」

「あ、ああ」

「……優磨さんが死んだわ」

「…………すまん木更さん。ここで贅沢に暮らしたら耳が悪くなったみたいだ……もう一度頼む」

「だから……優磨さんが死んだわ」

 

蓮太郎は目を開く。

 

「嘘だろ?あの人殺したって死ぬような人じゃねぇだろ?」

「嘘じゃないわ!腕一本残して爆死したのよ……」

「…………殺ったのは誰だ?」

「分からない……ただ手口から見て複数人……さらに腕は立つ筈よ」

 

それを聞きながら蓮太郎は少ない脳みそをフル回転させる。

 

「もしかしたら……」

「え?」

「俺を嵌めた奴と同じか……」

「どう言うこと?」

「現場には俺のXD拳銃が落ちてた……しかも俺がその場に居たから俺が犯人扱いされてんだけど実際は違うんだ……盗まれていたんだよ」

「っ!じゃあ……」

「それにタイミングが可笑しいだろ?俺が逮捕された日に優磨さんが殺された……しかも聞いたけどティナも捕まったんだろ?」

「え、ええ……この間の狙撃事件の犯人だって……」

「……タイミングから考えてもきっと繋がってるはずだ………よし」

「何をするの?」

「悪いけど言えない。ただ木更さん……」

 

蓮太郎は何時にない真剣な目で……

 

「俺はやってない……絶対に無実を勝ち取ってティナの無実も取って帰ってくる……」

「え?」

「多分相手は正攻法じゃ無理だ。だから少し強引に行く。多分相手もそっちの方が尻尾を出すはずだ」

「ちょっと里見くん?」

「後さ、夏たちに手紙書くから届けてくれ……後、延珠に腹出して寝るなって」

「う、うん」

 

矢継ぎ早に言われ木更は頷くしかない。

 

「里見 蓮太郎!時間だ」

 

刑務官に連れていかれる。

 

「あ、最後に木更さん!」

「え?」

「本当は見合いなんかして欲しくなかった。下らない意地で良いと言ったけどさ、本当は嫌だったよ」

 

そう言って蓮太郎は連れ出された。

 

「……馬鹿……」

 

木更の呟きは誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

その夜……

 

夏達は今だ最初に陣取った場所から動くことはなかった……

朝から何も食べていない……お腹は空いた筈なのに空腹を感じない。

 

(そう言えば注射まだしてなかったな……)

だが別に良いか……と夏は動かなかった。優磨がいない……なら別に生き長らえる必要もない気がしていた。

だがトイレには行きたくなった。

 

「……………」

 

夏はトボトボとトイレに入る。

トイレには優磨と皆で撮った写真が飾ってあった。

 

「優兄……」

 

会いたかった……会ってその胸に飛び込みたかった……その願いがもう二度と叶うことはないのは分かってる。

 

(飛び降りれば……死ねるかな?)

 

思考がどんどん行ってはいけない方向に行く。

 

「何だ……優兄に簡単に会えるじゃん……」

 

フラりとした足取りでベランダに向かう。

 

(優兄……今行くから……)

 

ベランダに立つ……外は生ぬるい風が包んでいた……

 

(はは……行ったら怒られるかな……でも……良いか……)

 

夏はベランダを乗り越えるとそのまま重力に身を任せ……

 

「はいそこまで」

 

る前に誰かに後ろ首を捕まれ戻された。

 

「え?」

「全く……何やってるんだい?」

「菫……何でここに」

「普通に入ってきたんだよ。全く不用心だね~鍵も掛けずに」

「………………」

『あ………』

 

すると丁度他の面々も来た。

 

「お、丁度良い。少し話そうか」

 

菫は珍しく優しげで……暖かな声で言った。




多分次から大きく動き出します。

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