第25話
「うーん……」
優磨は今チラシを見ていた。
「何してんの?優磨兄」
夏が覗いてきた。
「ん?ああ、引っ越そうかと思ってさ」
「ええ!何で!?もしかしてそんなに近隣住民に迷惑かけていたんですか?」
春が驚いて翠とやっていたトランプタワーを崩した。
「いや、俺の居心地が悪くて……」
「何でですか?」
そこに優磨の部屋から本を持ってきた夏世が聞く。最近夏世はいろんな本を読んでおり優磨の部屋から小難しい本を引っ張り出してきては読んでいる。
「いや、最近近隣の方から幼女を多数連れ込む変人判定されて来ていて……」
『あぁ……』
それに純粋に流石にこの大所帯では狭くなってきていると言うのも大きい。思いきって事務所を開くついでに家でも買うかと思っていた。だがそこにチャイムが鳴る。
「はいはい」
するとドアの前に居たのは……
「木更ちゃん?」
「こんにちわ優磨さん」
和光との一件以来会うのは久しぶりの木更にお茶を出すと、
「どうしたんだ?急に」
「あ、はい……その……」
木更は少し迷う。希望で夏たちはちょっと出ていって貰っている。
「その……」
「どうしたんだよ。何でも言ってみな。力になれるかもしれないぜ?」
「そ、そうですか?でしたらですね……」
「おう」
「お見合いしません?」
「………は?」
優磨は唖然とした。確かにこのままでは行き遅れ確定の状態ではあるがまさかこんな子供に心配されるとは……
「あ!間違えました!ちゃんと最初から説明するとですね……私は今度お見合いすることになりました」
「なぬ!」
流石に驚いた。
「その際に付き添う人が欲しいんですが……」
「そう言うのって蓮太郎が行くんじゃ……」
「……です……」
「え?」
「彼……その日補習です……」
「……………………………」
よりによって恋い焦がれてる人の見合いの日に補習かよ!と叫びたかったが優磨は飲み込んだ。
「さ、サボれば?」
「それをサボると進級出来なくなるそうです」
「おいおい……」
あいつ結構学業ヤバイんじゃねぇか?
「それで知り合いに大人の人といったら優磨さんしかいなくて……」
「……はぁ、分かったよ……何時だ?その日に行ってやるよ」
「ありがとうございます!」
「そう言えば何て言うやつとするんだ?」
「櫃間 篤郎と言う人です」
「たしか今の警視総監……」
結構歳の差があるような……と言う優磨の突っ込みは心の中だけにされた……
それから三日後……優磨はブラックスーツとネクタイを着ける。
「じゃあ行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
だが夏たちは知らなかった……これから起きる事件のことを……それにより優磨と別れ離れになることを……
「お久し振りです。木更さん」
会って最初の言葉である。
(これが櫃間 篤郎か……)
優磨は木更の隣で櫃間を見る。
(成程……中々のイケメンだし頭も良さそうだ……でも)
優磨は目を細める。
「いや、木更さんは相変わらず美しい」
「いえ……」
木更いわく自身が天童を出奔したさいに櫃間との縁談は一時的に破談。だが最近になって櫃間の方から優磨の後ろにいる
第一印象は良いかもしれないが……
(なんつうか……本心が見えねぇ……)
何と言うか一見いい人に見えるのだがまるで本心を隠すための演技をしてるように見える。
少なくとも友達にはなれそうにない。
「じゃあ後は若い二人に任せましょう」
「ですね」
仙一に言われ優磨は立ち上がると退出した。
「最初は蓮太郎が来ると思っていたので驚きましたよ」
「蓮太郎は勉学もあるのでね」
鯉を見ながら仙一と優磨は話す。すると仙一の電話が鳴る。
「おっと失礼」
仙一が何処かに行くと丁度木更達も出てきた。邪魔にならないように別の場所に行こうとしたら不思議なものが目に入る。
(じ、自立移動する置き岩?)
その岩はそのままズズ……っと影に隠れた。
「はぁ……」
優磨はその方に向かう。誰だか何となく想像は付いた。
そして影に入ると……
「なにしてんだよ蓮太郎」
岩がピクッと動いた……
「……仕方ねぇ警備員」
「まてまて!」
蓮太郎が岩をひっくり返して出てきた。岩から生まれた岩太郎……もとい、蓮太郎の登場である。
「そんなに気になるんなら補習うける事態になるんじゃねぇよ」
「う……」
「しかもお前木更ちゃんから聞いたがお見合いすることに反対しなかったんだろ?」
「ぐ……」
まあ仕方ないことか……
「あ、キスしてる」
「っ!」
馬鹿だね。この角度じゃ木更たちは見えるはずもない。のだが覗いた蓮太郎が固まった。
「おいどうしたんだよ」
見てみたら二人がキスする直前……ええっ!
だがその前に木更が仕切り板宜しく手を入れた。
「何だ良かったな蓮太郎……あれ?」
いつの間にか蓮太郎は消えていた。
「あれ?」
優磨は更に首をかしげることになった。
それから一時間程後にお見合いは終了し優磨はある場所に向かっていた。あの男の行き先など一つくらいなものだろう。
「菫、入るぞ」
「ん?おお、優磨くん。里見くんがさっきから負のオーラでこの空間を侵食してくるんだ。必死に念仏唱えて対抗してるがもう無理だ。君も手伝ってくれ」
中には机に突っ伏す蓮太郎とそれを遠くから見ながらコーヒーを淹れている菫がいた。
「念仏より効く言葉をかけてやる。木更ちゃんはキスしてないぞ」
「っ!本当か!」
「あ、ああ……キスする前に手を入れてな」
「そ、そうだったのか……」
「どうせそんなもんだろうとは思っていたけどやはり木更絡みか……」
菫は呆れたように言う。
「全く、いい加減にしたらどうだい?木更みたいな超優良物件が残っていた方が驚きなんだよ?」
「あんた俺を追い詰めて楽しいか?」
「そりゃあもう楽しいね」
「こんの外道!」
「今更だね」
菫は蓮太郎と優磨にもコーヒーを渡した。
「でも真剣な話どうするんだい?少なくとも君は木更が好きなんだろう?」
「それは……」
「木更の幸せ願って身を引く~何て言うなよ?お前そんな物分かり良い人間じゃねぇだろ。それにお前はやることがある……違うか?」
「いや……」
和光との一件は今だ記憶に新しい……決めた筈だ……あの時また木更が天童殺しの木更になったとき……止めると……
「分かってるけどさ……俺と木更さんってどんな関係なんだろう」
「主人と下僕」
「雇い主とパシり」
「だよなぁ……」
菫と優磨の言葉に蓮太郎は更に机に体重を掛ける。
「まあ……一つ言っておくとな?止めて欲しかったんだそうだぜ」
「木更さんが?」
「ああ」
言うべきかどうか悩んだが言っておいた方がいいだろう。
「そうか……あ、そうだ」
蓮太郎がなにか思い出したようだ 。
「ブラックスワンプロジェクトって知らないか?」
「いや?」
「ブラックスワン……ねぇ。聞いたこともないよ」
黒い白鳥……どっかの理論だったかのような気がする。
「じゃあ……【新世界創造計画】は?」
菫と優磨の表情が固まった。
「お前どこでそれを……」
「ある筋の情報だよ。知ってるんだな?」
「まあそろそろ話しておいてもいいだろう。里見くんや蛭子 影胤……さらにティナちゃんのように新人類創造計画は一部を機械化させたもの……だが新世界創造計画はその先……体の殆んどを機械化させた兵士だ」
「体の殆んどを?」
蓮太郎は優磨を見る。
「その通りだ蓮太郎……俺は唯一の新世界創造計画の成功例だ。まあ俺以外にこの手術を受けたものはいないけどな」
「理由は新人類創造計画ですら一人100億円前後掛かる……それが全身だ。いったいどれくらい掛かるか想像に難くないだろ?更に……全身の機械化など成功率は0に近い」
「そうだったのか……」
すると蓮太郎は時計を見ると立ち上がる。
「これから人と会うからまた」
「ああ、気を付けろよ。最近機械化兵士の残党が刈られると言う事件も起きてる」
「そうなのか?先生」
「ああ、私の担当した子もいた。君ももしかしたら……」
「わかった気を付ける。じゃあな」
そう言って蓮太郎は出ていった。
「また事件の予兆か……」
優磨はコーヒーを口にいれた。
蓮太郎はある廃ビルに入る。
「おーい、来たぞ」
するとピシャっと何か液体を踏んだ。
「え?」
蓮太郎の視線の先に人が倒れている。待ち合わせをしていた水原 鬼八だ。
「大丈夫か!」
駆け寄るが脈はない。
「くそ!」
「居たぞ!」
「なっ!」
いきなり蓮太郎は組抑えられる。
「殺人の現行犯で逮捕する!」
「んな!待て!違う!!!!!」
だが蓮太郎の主張は覆ることなくそのまま連行された。
蓮太郎が逮捕された頃……優磨は道を歩いていた……少し遅くなってしまった……なんか買っていくか……
因みに皆好きな食事の嗜好が異なり、夏は貝とか好きで春はお肉(しかも内臓)夏世は魚で翠は鰹節……モデルが嗜好に影響すると言うのは聞いたことがないが今度菫に聞いてみよう。
だが、
(さっきからつけられてるな……)
優磨は走り出すと一気に路地に入る。そして……
「誰だ!」
優磨が鋭く叫ぶと人が来た。
「はじめまして、巳継 悠河と言います……五翔会の者です」
「五翔会?」
優磨は初めて聞く言葉に眉を寄せた。
「ええ、人も国境も越えた組織ですよ。実はですね、貴方を引き入れるように上から通達です。ご同行願いますよ」
「ふざけんな。用事あるなら自分で来いとその上に言っとけ」
優磨が言うと……
「めんどくせぇな……やっちまおうぜダークストーカー」
「っ!」
突然虚空からナイフが現れ優磨を狙う。
「ちっ!」
咄嗟に高周波ブレードで弾くが後ろからガチャン!っと言う音が聞こえた……
「がっ!」
次の瞬間凄まじい衝撃が背中に走る。
「が……はぁ……」
壁に手を付き立ち上がる……だが、
「うら!」
壁が突然吹っ飛び優磨を中から出てきた人間が蹴っ飛ばす。
「ぐ……あ……」
そこに追い討ちを掛けるように狙撃弾が襲い掛かる。
「ぐ……」
優磨はふらつきながら一度距離を取るため逃げる。
(クソッタレ……死んじまう……)
だがその先に人形を抱っこした女の子がいた。
「死んじゃえ」
ホイールに刃が付いた何かが優磨を狙う。
「くっ!」
高周波ブレードで止めるが押される。
「
『させるかよ……』
そこに凄まじい威力の拳と蹴りが優磨をぶっとばす。
「がっはぁ!」
優磨は地面を転がる。
「ぐ、う……」
優磨が立ち上がると目の前に巳継 悠河がいた……
「くっ!」
優磨は拳を握って振りかぶるがそれより早く悠河の拳が添えられた。
「さようなら……ヴァイロケーション」
ズン!っと内蔵が滅茶苦茶になるような衝撃が優磨の体を駆け巡る。
「ごふ!」
優磨は膝をつく……
「呆気ないもんだね~」
「さ、最後の仕上げだ」
巳継達は筒のような銃を構える。
「では、来世で会いましょうか」
シュポポ!っと発射されたのは炸裂弾……巳継達が持っているのはグレネードランチャー……それに気づいたときにはすでに発射されており……よしんぼ気付いていたとしても動けなかった優磨には関係のない話だった。
(夏……春……夏世……翠……菫……由美ちゃん……榧ちゃん……新一……風深ちゃん……蓮太郎……木更ちゃん……延珠ちゃん……ティナちゃん……)
優磨は知り合いやかけがえのない大切な人たちのことを思い浮かべながら爆炎に包まれた……
【こちらネスト。牙城 優磨は始末したそうだ。腕一本残してチリらしい】
「そうかそうか、あいつは俺をうさん臭がっていたしな……良かった」
【しかし腕一本残していいのか?】
「下手に何もでないと探そうとするだろう?だが完全に死んだと腕を見せてやれば諦めるさ、ネスト」
【まあいい。櫃間……あんたの計画も順調か?】
「ああ、天童も木更もすべて俺のものさ……」
下品な笑みを浮かべた櫃間は電話越しにも聞こえる笑いを漏らした……
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