純和風の畳張りの道場がある。
そこの看板にかいてあるのは天童流……その中には刀を横に置いた木更……更に蓮太郎、延珠、ティナ、優磨、夏、春、夏世、そして新たに優磨が引き取った翠が後ろに鎮座していた。だが皆緊張した面持ちだ。
そこに人が入ってきた。
「木更……」
憎しみと恐れを込めて彼女を呼ぶ男……それは、
「お久し振りですね。和光お兄様……」
天童 和光……木更の異母兄に当たり天童式神槍術の免許皆伝……更に現在は国土交通大臣だ。テレビでも時々見る。和光は蓮太郎の手に巻かれた包帯を見て少し眉を寄せてから、
「持ってきたんだろうな?」
「ええ……」
木更は書類を投げ手渡す。それを血走った目で和光は見ると、
「どこで見つけた」
「使えるものは何でも使うのが信条ですから」
「く……」
憎々しい目で和光は木更を見る。
「余り良い趣味とは行けませんね。モノリスのバラニウムに別の金属を混ぜて上前を跳ねるとは……お金に困ってるとは思えませんが?」
「分かっていないな木更……政界なんてものは金が全てだ。双子の処女と3Pがしたい。セルフの殺人がしたい。純粋に金を要求するものもいる。だがそれが現実だ。金はあればあるほど良い。そうすればのし上がれる」
蓮太郎はそれを聞いて胸くそが悪くなる。
「ん?誰だお前は」
優磨は今まで閉じていた瞳を開ける。
「今回の立会人の牙城 優磨だ」
「牙城?」
どこかで聞いたことがあると行った感じだが今は関係ない。
「ですが和光お兄様、あなたのせいで今回の戦いが起きました。そのせいで多くの人も死にました」
「計算では三十年は大丈夫だったんだ!現にこの十年は問題なかった」
「だけどアルデバランには意味はなかった」
和光は息を詰まらせる。
「もういいでしょう」
木更は刀を持つ。
「ち、かずみ!槍だ!」
かずみと呼ばれた女性は槍を和光に渡す。
「二人とも、最後に聞かせてくれ!この戦い、本当にやらなくちゃいけないのか!?天童流の免許皆伝者同士の戦いには興味がある。だけどそれは真剣じゃなくて木刀や竹刀を使ってやるべきじゃないのか!?」
「蓮太郎!」
ついに耐えられなくなって蓮太郎が叫ぶがそれを優磨が止める。
「もう止まらん」
「その男の言う通りだ蓮太郎。この女はここで始末しないと秘密をしゃべる」
「そうよ里見くん……やっと追い詰めたのよ……ここで始末するわ」
「……………」
蓮太郎は歯を噛みしめる。
それから優磨は二人の間に入った。
「最後に聞く……この場で起きたことは例え死人が出たとしても法の元に出さない……それで良いんだな?」
「ああ、立会人のかずみも了承している」
「ええ、立会人の里見くん了承しているわ」
優磨は最後に目を閉じ……開いた……
「死合……開始!」
戦いの直後は二人は膠着状態になった。それはそうだろう。少なくとも手の内はかなりバレてる筈だ。
「ちっ」
和光は槍を構え直す。名は天童式神槍術【八面玲瓏の構え】……心にわだかまりを捨て空のように澄み切った境地になることによっておこなう天童式神槍術の攻防一体の構え……
それを見ると木更は薄く笑った。
「余裕のつもりか?」
「ええ、和光お兄様……あなたは変わらない……」
そう言って木更は体を半身にして腕を振り上げる様に構える。
「天童式抜刀術【竜虎双撃の構え】……天童を葬るために作り出した私のオリジナルです」
「ば、馬鹿な!技の創出は助寄与師匠から禁止されている!」
「馬鹿はお兄様です。免許皆伝になれば免除されるのですよ?」
「なっ!」
和光は距離を取った。始めてみる構え……ならば迷う暇はない!
「天童式神槍術 三の型一番!
鋭い踏み込みからの突き……だがそれよりも早い木更の一撃が放たれる。
「ふん!」
だがそれを躱して槍を突き出す……だがなぜか踏み込めずまるで段差を踏み外したかのように前に転んだ。
「え?え?」
和光は意味がわからないようだ。
「天童式抜刀術 零の型三番……
「イギャアアアアア!!!!足がぁああああああ!!!!!!!!」
ゴトっと和光は空中から落ちた自分の足を見て悲鳴をあげた。
見ていた者達も驚愕する。
「天童式抜刀術 零の型一番…
木更が冷たい声で聞くと和光は震えながら……
「け……計画に加担していたのは私、天童日向、天童玄琢、天童燳敏、天童菊之丞……その五人……だけだ」
震えながら和光は答え、木更は冷たい目を向ける。
「少ないのですね。何故あんな事を?」
「それは……お、親父殿が天童の闇を告発しようとしたからだ!天童は財政界にも重鎮を置く家……無論のし上るために汚いことにだって手を染めた!それを親父殿は突然偽善に目覚めたのか告発すると言い出したんだ!だから殺すしかなかった!!!!」
「仮にもあなた方の父親なのによくも殺せたものですね」
「俺達が真に忠誠を誓うのはお爺様だけだ!それにあの男は母上が死んだというのにすぐに妾腹と結婚してお前を……っ!」
和光はしまった!と顔を強張らせたが木更は表情を変えない…
「そうですか……行くわよ、皆」
木更が言うと皆は立ち上がって出た……
「良かったよ木更さん。殺すんじゃないかと……」
外に出たあと蓮太郎は話しかけるが……
「ふふ、里見くん……私がそんな慈悲を与えたと思う?」
『え?』
何となく気付いていた優磨以外全員が声を漏らした……
「天童式抜刀術 零の型一番……
次の瞬間道場の中で何かが爆ぜた音がし……かずみと呼ばれた女性の悲鳴が響いた……何が起きたか……そんなものは分かりきっている。
「ふふ……アハハハハハハハハハハ!!!!」
木更は笑っていた。
「凄いでしょう?里見くん!私、遂に一人討ったのよ?どうですか?優磨さん。私凄いでしょう?」
木更の笑みは綺麗だった……人を殺した人の目ではない。
「後四人……」
「ふざけんなよ木更さん!あんた狂ってるよ、絶対間違ってる!あんなのただの虐殺だ!一方的な処刑じゃねぇか!」
「でもね里見くん……だからこそ私は裁けた!悪を裁けるのはそれを上回る悪だけ!」
「な……んなわけないだろ!」
「いいえ、あるのよ。貴方は蛭子影胤も殺しきれなかったし、斉武宗玄も殺せなかった!でも私は殺せた!これが何よりもの証拠よ。悪は強い……正義は必ず勝つ?ええ、勝つでしょう。でも裁けるのは悪だけよ」
「違う!それは……」
「はいそこまで!」
遂に優磨が口を開いた。
「はっきり言って俺はこの件に関して完全なる部外者だ。だから極力口は挟まないつもりだ。復讐は何も生まないと言うがそんなもん関係者にしてみれば偽善の言葉だ……だが木更ちゃん……悪が裁くってのは違う。裁くのは善でも悪でもない。人だよ」
「……………」
「裁くのは人でしかない。殺すと言う裁きを与えるのも生かすと言う裁きを与えるのも人さ。少なくとも俺は君を止める権利はない。だがもしその刃が外に向いたとき……」
彰磨との約束もある……と内心呟きながら……
「俺が本気で相手する」
「……そうですか」
木更は背を向ける。
「じゃあ先に帰るわね」
そう言って木更は走っていった。
「優磨さん……」
「さっき言った通りだ……悔しいが俺には止める権利がない……止めてもあの子の心に響かない。でもお前は違う」
優磨は蓮太郎を見る。
「何かあったとき……木更ちゃんを止められるのはお前だけだ……」
優磨は煙草に火をつけた。
「俺にできるのはお前の悩み一緒に考えることぐらいだよ」
「じゃあ……俺どうしたら良いんでしょう」
悪……善……蓮太郎は考えても思い付かない難題だ。
「悪も善も定義が曖昧だ。だからこそ……お前の中の正義を信じてみろ。やれるだけやってみれば良いんじゃないか?少なくともお前のやって来た事を否定するには少し若すぎるしな」
「そう……ですね」
「でもさっきの木更怖かった……」
「あれが闇か……」
優磨の呟きはタバコの紫煙と一緒に消えていった……
次の日……爆発跡地にマローダーが停まった。
「着いたぞ~」
優磨が降りるとそこに夏達が降りる。
花を置くと皆で手を合わせた。
「よし、行くか」
夏、春、夏世は車に戻るが翠は戻らない。
「翠?」
「彰磨さんは私を孤独から救ってくれました……私はずっと独りぼっちで……こんな耳をしてるからなんですけど……私は彰磨さんに何か返せたんでしょうか」
「返せてたさ……死ぬ直前までお前の事を考えていた……自分の孤独を塞いでくれてたって言っていたよ」
「……」
「さ、新しい家に帰ろうか」
「本当に良いんですか?」
「ああ、帰るぞ」
「……はい」
優磨が手を出すと翠はそれをとる。
「あー!ズルい!」
夏達が優磨に抱きついてくる。
「全く……」
優磨は全員抱き上げる。
何時までこの幸せが続くのかわからない……でも今は……
「よし帰るか!」
「うん!」
「はい!」
「了解!」
「ひゃい!」
この一瞬の幸せが永遠に続きます様に……
「う……」
彰磨は目を覚ました。
「あら、やっと目を覚ましたわね」
「お、前は……?」
「私は爪樹 楓……あなた自分の名前言える?」
「な…ぎ沢……彰磨……」
「よし言えるわね」
楓が顔を向けた瞬間彰磨は驚愕した。
「その目は……」
楓の右目は幾何学的な模様が……左目は蒼く光っている……
「ふふ、ごめんなさいね。驚かせて」
楓は力を解除したが間違いなくあの目は……
「さ、一つ取引といきましょう」
「取引?」
「今あなたは片目は潰れ、腕と足を片方ずつ失い全身の6割が火傷……でも生きてるわ。そこであなたにチャンス……もし生きたいのなら……一つ賭けをしましょ」
「賭け?」
「そう、生きるか死ぬかの大博打をね」
楓は笑う。
だが彰磨の目には手の甲に付けられた4枚羽の模様が印象に残った。
やった!遂に終わったよ。
次から逃亡編です。優磨の介入でどうなることやら……と言うわけでまた次回。
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