屋上で優磨はタバコに火を着ける。
「良いのか?怪我しねぇようにとか手加減できねぇぞ」
優磨が言うと新一はタブレットを叩く。
【かまへんよ。それくらいや無いとおもしゅうないわ】
それから新一はタブレットをしまうとバラニウム性の鞭をだす。地面を軽く叩くとピシッと良い感じに緊張感を持たせる音を出す。
(そう言えばあいつらどうやって意思の疎通するんだ?)
優磨としてはそこが甚だ疑問だ。新一は声が全く出せない。だが仮にも高序列ペアだ…何かしらの方法があるのだろう。
「とりあえず名乗るぜ?序列500位、牙城 優磨だ」
「序列930位、深川 新一さんとその相棒、モデル・ドックの木上 風深です!」
そう言った次の瞬間風深が走り出す。それと同時に瞳が灼熱し牙を剥き出しに走り出した。
「ガゥ!」
装備したバラニウム性の爪を優磨に風深は突き出す。
「おっと!」
優磨は腕から高周波ブレードを出して弾くと腕を鞭で打たれる。
「いってぇ!」
凄まじい痛みだ。
鞭とは扱いが非常に難しい武器で更に相手の体に穴を開けることはない。だが抉ることはできる。更に僅かに重くした鞭の先端は振るえば何と音速に匹敵する速さとなるらしい…しかも鞭は体の表面…つまり皮膚に痛手を与える。皮膚はいわば鍛えようがない人間の部位だ…ガストレアもそれは例外ではない。一度、二発ほど叩いてガストレアを悶絶させて動けなくしてるシーンを見たことがある。
(風深が意識を向けさせてその瞬間に敵を鞭で叩くか…相変わらずめんどくせぇ…)
「よそ見してる暇はありませんよ?」
「っ!」
横から爪が優磨を狙う。
優磨は上半身を逸らして躱すが足を鞭が襲う。
「ちっ!」
バシン!っと優磨の足を鞭が襲い再度凄まじい痛みが走る。
どれくらい痛いかと言えば鞭は拷問器具としても知られ昔は鞭打ち百回と言う罰があったがあれは死刑判決みたいなものだ…何故なら人間は鞭に十回も叩かれれば痛みでショック死するする…と言えば分かりやすいだろうか。
「………ったく…」
優磨は一度離れると目をつむる…本当はこれは使いたくなかったがやるしかなさそうだ。
「
次の瞬間ブシュッ!と言う音ともに優磨のスラスターが起動…同時に義眼が起動し片目が蒼く光る。
「え?」
次の瞬間優磨が走り出すと風深が反応しきれず…
「
高速の体当たりで風深は吹っ飛ぶ。最後に…
「
スラスターで加速した拳が新一を狙う。
「ウォオオオオラァアアアアア!!!!」
鞭で脇腹を叩かれたがそのまま優磨は殴り飛ばした…
【いやめっちゃ痛いんやけど!?】
新一はタブレットを叩きながら抗議する。
「言っただろ?手加減できないぞって」
【限度っちゅうもんがありますがな!】
「全くです!」
「でも約束通り勝ったんだ。組んでくれるだろ?」
【ま、仕方あらへんな。約束は守るで。大阪人は嘘はつかへん。ホラは吹くけどな】
「新さんが行くなら文句はありません。新さんのいる場所が私の場所です」
「じゃあ集合は…」
すると電話がなった。
「ん?」
由実からだ…
【優磨さんです。ニュース見ましたか!?】
「いや、ニュースは見てないが…」
すると新一がタブレットを叩いてテレビの画面にする。すると…
【本日…呪われた子供による殺人事件が起きました…】
優磨は表情が固まり…新一はタブレットを落とし掛けた…
世論が変わった瞬間である。
悪いことは続くもの…とは誰が言ったのか知らないがあのニュースから二日後…優磨は小学校に来ていた。
先程の事件で聖天子の骨子である【ガストレア新法】は当然のごとく棄却され待ってましたと言わんばかりに呪われた子供達の戸籍を剥奪する新案が通された。ちなみにそれは昨日の話…早すぎるし明らかに何かの作為を感じるが世論は一瞬で呪われた子供達の糾弾を開始…今まで下火だったアンチ呪われた子供達勢もそれに乗っかって活動し始めたくらいだ。
そしてその線からかは分からないがバレたのだ…夏達の正体が…
「あ、来た来た」
夏達は校門の前に居た。
「よう、ちょっと書類とかあるからもう少し待ってろ」
優磨は三人の頭を順に撫でてから学校に入っていった。
「これで良いですか?」
「はい」
優磨の目の前には担任の先生だった人と校長、更には教頭と何故かPTAの会長まで居た。大仰なことである。
「では失礼しま…」
「お待ちになって」
PTA会長のおばさんが優磨を止める。
こいつはいかにも嫌な会長といった感じでつり目に三角眼鏡に化粧が濃くて服もケバケバしい…よくもまあこんなテンプレな雰囲気の姿に成れたものだ。
ちなみに校長は何ともヒョロヒョロしていて頼りないし教頭は出っ歯で嫌みったらしくネズミみたいだ。
「私…貴方に損害賠償を求めます」
「………はい?」
「貴方はこの学校に入学させる際あの化け物の正体を言ってませんでしたね?詐欺ですわ!」
「全くだ。お陰で肝が冷えましたよ」
「そ、そうですな」
優磨は咄嗟に手をテーブルの下に隠す…顔は必死に愛想笑いを浮かべていたが手が軋むほど握っていた。
とは言え額に怒りマークがピキピキ浮かぶ。とは言え目の前の人間は全く気づいていない。いや、担任の女性だけは気付いた…
「いやぁ…聞かれなかったんでね」
「そんなの常識でしょう?」
優磨は必死に怒りを理性と言う鍋に入れて我慢と言う蓋で押さえ込む。
「だいたいあんな化け物ガストレア掃除する以外に必要なんてありませんわ!」
「本当です!あんなやつらにする教育事態必要ありません」
「全くです」
プチリ…と優磨の堪忍袋が切れた…とは言え優磨はそれでも必死に愛想笑いを浮かべ…
「おい糞ババア、出っ歯、骨」
『え?』
今度は相手側が優磨の言葉に唖然とした。
「教えてやる。聞かれなかったことを言わなかったのは詐欺に問われねぇんだよ。そこに書類があったら別だが書類にも呪われた子供の入学を拒否することは書かれてねぇ…二つ目に詐欺を訴えた場合は損害賠償じゃなくて刑事事件だから警察の介入無しに訴えられないんだよ。お前民事訴訟とごっちゃになってないか?人に文句垂れるんなら一度六法全書読んでこい」
「な、なな…」
ババアは開いた口が塞がらない。
「訴えたきゃ好きにすれば良い…いっとくが俺は自分で弁護出来るくらいには六法全書読んでる…あんまり舐めるなよ」
出来るくらいに…と言ってはいるが優磨は弁護士の資格を取ればその場で起業できるくらいには勉強している。いざと言うとき夏達の弁護ができるようにするためだ。
「じゃあな。もう会うこともあるまい」
優磨はさっさと出ていった。
胸くそ悪いしイライラする…
「あ、お帰り~」
校門にいくと夏達が待っていた。
「さ、帰るぞ」
優磨の気が立っていることに夏達が気づく。すると、
『えい!』
夏が優磨の背中に、春が左腕に、夏世が右腕にしがみ付く。
「運んで~疲れた~」
「……はぁ…」
仕方ないと言う顔をしながらも優磨は三人をへばりつかせたまま歩き出す。
本音としては辛いんだろう…自分が来る前にあの大人達に何を言われたのか想像に難くない…だがそれでも自分の気を紛らわそうとしてくれる。
(お前達には救われるよ…)
「え?優磨兄何か言った?」
「いいや…さ、今日はカレーだぞ」
「焦がさないでくださいね」
「確かにこの間の焦げが浮いた妙に黒いカレーは嫌ですね」
「う…」
優磨が渋い顔をすると三人が笑い、優磨も笑う。皆がいればなんとでもなる気がした…