第16話
すっかり最近は夏らしくなってきてじっとしてるだけでも汗を掻くようになった今日この頃…
「あつぃ…」
優磨はソファの上で伸びていた…優磨の体には一応冷却装置も内蔵されてるがあくまで機械のオーバーヒートを防ぐためのものなので優磨事態は涼しくない。
流石にエアコンを起動させようとリモコンを押す…が、
「あ?」
全く起動しない。
「おいおい…」
電池が切れてるのかとノロノロとした足取りでエアコンのスイッチを直接押す…起動した…
「あ~よかったこれで涼し…くねぇ!ぬるっ!?」
生温かい空気が優磨の体を包む。と言うかこれでは空気をかき回すだけだ。
仕方無しに電池を交換して温度を下げるがウンともスンとも言わず生温かい空気だけだし続ける。
「まさか壊れてるのか?」
この気温の中で壊れてるとか地獄である。
「おい壊れるな!」
優磨がエアコンを叩く…そして次の瞬間ボフン!っと言って完全に沈黙した…
「で?ここに避難してきたと」
「そう言うことだ。ここは涼しくて良いな」
優磨は菫の研究室に来ていた…ここは意外と快適な気温になっているのだ。流石病院。
「なら車でも見てきたらどうだい?もう一ヶ月も前だけど大破しただろう?」
「それが聖天子の嬢ちゃんが壊れたのはこちらのせいの部分もあるから車を用意するってこの間本人から電話来てな」
「さり気に君そう言えば国家元首のケー番知っていたんだったねぇ…いつ来るんだい?」
「今日」
「じゃあ家にいた方がいいんじゃ…」
「大丈夫だ…ここの病院に届くようにお願いしといたから」
「抜け目ないねぇ…」
するとそこに男が入ってきた。名前は忘れたがこの初老の男は新しい護衛隊の隊長だ。
「お届けに参りました」
「ああ」
「どうせだから君の新しい愛車でも見せてもらうよ」
「外は暑いぞ」
「平気だ」
三人ならんで出ていくと…
「これです…」
「はぁ?」
優磨の目の前には赤い車体…だが見上げるほどでかい…しかも滅茶苦茶頑丈そう…知ってるこれは…確か民間でも持てる世界最強の車…マローダー!?この強度は凄まじくプラスチック爆弾もものともせず壁を体当たりで破壊し車も平然と潰しながら走り続けることができてその窓も無論頑丈…
「では」
そう言って届けてくれた男は行ってしまうが菫と優磨は唖然としていた…
「まあ…少なくとも俺が死ぬまで壊れることはなかろうな」
「だねぇ…」
すると菫が何か思い出したような顔になる。
「そうだそうだ。少し今から付き合ってくれ」
「何かあるのか?」
「ああ、少し待っていてくれ。ついでだから君の新車の試運転と行こう」
そう言い残し菫は病院に消えた。
仕方ないので優磨がエンジンを掛けて待っていると菫が出てきた。
「な…」
優磨は唖然とした…何と菫が普通の格好をして出てきたのだ…あの菫がである…いつも白衣とその下にタイトスカートを履き髪をボサボサにしてる菫がでありしかもその髪も今は櫛を通し更に結んである。
「なんだいその間抜けな顔は…」
「お前何かあったのか?」
「ふふ、少し連れてって欲しいんだ…四丁目の…ね」
「っ!」
優磨はそれで思い至る。
「一人で行くと途中で折れてしまう…すまないが首根っこ掴んででも連れていってくれ…」
「…分かった…」
優磨は黙って車を出した…
非常に目立つがそれよりも優磨が菫が彼処に行く気になったのに驚いていた…四丁目にあるのはただひとつ…墓地である…そしてそこには菫が十年前に失った恋人の墓もあった…だがそこに菫は絶対近寄らなかった…優磨は自分の友人でもあったので毎年来ていたが菫はどんなになっても来ることはなかった…恐らく見せる顔がなかったのだろう…優磨は知っている。彼を失った菫がどんな凶行に走ったのかを…だからこそ誘うことはなかったがまさか自分から来るとは…
「何だいさっきからじろじろ人の顔を見て」
「いや…ちょっとな」
「驚いているんだろう?」
菫は自嘲気味に笑う。
「そろそろ…ちょうどいいだろう」
「?」
優磨が首をかしげると、
「そう言えば楓ちゃんが生きてることが判明したそうじゃないか。良いことだね」
「まあ…今度は何を企んでるんだかな…」
優磨がハンドルを切ると見えてきた…
ジャリ…と踏んだときに石が鳴る。
「結構きれいだ…」
「まあ一応毎年俺が掃除してたし…」
(つい最近誰かが来た形跡があるな…誰だ?)
「まあいいさ」
菫は花を供え…手を合わせる。優磨もそれに習い拝む…ふとチャリっと音がしたため目を開けてみると菫が自分のペンダントを墓に置いていた。
「菫!?」
「今日でそろそろ十年だ…長かったような…あっという間だったような…でも十年一昔…決着をつける日だ」
菫は立ち上がる…
「ありがとう…貴方のお陰で私は愛を知った…そしてゴメン…失う苦しみと悲しみを知り…私は一度壊れた…最後に…」
さようなら…そう言い残し菫は車に戻っていった。
「安心してくれ…菫は俺が守る」
そう言って去ろうとすると、
【頼むぜ優磨…あいつは本当は弱い人間だ…お前にやるにはもったいないけどやるよ】
「あいつとはずっと友人だから安心しろ」
【分かってねぇなあ…まあそこが優磨らしいか…ま、あとは頼むぜ】
「ああ、じゃあな。――――」
優磨は男の名を口にしてから車に戻る。
「そう言えば鍵は君が持っていたね」
「菫…泣いてもいいぞ」
「やめろ…優しくしないでくれ…私は…」
ソッと優磨は抱き締める…病的なまでに細くて…でも人間らしい柔らかさと温かさ…
「やめろ…やめろ…私は…君に優しくされる価値などない…」
「違う…お前は確かに一度道を間違えたかもしれない…でもお前は戻った…戻れたんだ…お前は罪犯したかもしんないけど…戻れたんだ…今はそれでいいだろう?」
「私に触れてると地獄に落ちるよ」
「お前に拾われたような命だ…地獄旅行のお供くらいしてやるさ」
「……う、ああ…」
「そう言えば…菫……今日お前誕生日だったな…今日から生まれ変われるじゃないか…」
「あ、ああ……」
「ハッピーバースディ…菫…」
優磨は優しく頭を撫でながら抱き締めた。
「さてそろそろ入っていいですか?」
『っ!』
菫と優磨は離れる。
「実はですね。少し仕事の依頼があるのですが」
「良いけど…」
優磨は声の方を恐る恐る見る。
「な、なにか怒ってないか?嬢ちゃん」
「まさか…優磨さんが大学時代の友人の菫博士と抱き合っていたって何を思うんですか?見たところ慰めていただけですし」
そのわりにこめかみに怒りマーク浮かび上がらせた聖天子は言った…