ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第13話

ティナの襲撃から次の日…二度目の護衛任務の日となり前回の襲撃を含め諦めてるわけがないため今回は車を変えることにした。リムジンには先行してもらい護衛の車と思わせて中には聖天子と優磨チームと蓮太郎ペアが乗り込んだバンを発進させる。

優磨のポンコツ丸で行くと言う案も出たが前回ティナに踏み潰され遂にエンジンがご臨終なされたため現在エンジンを交換中である…

今回はもう頑丈ですごいエンジンにしてもらう予定である。

 

「そうですか…天童社長が…」

「まあ大丈夫だ…少し働きすぎだったんだし養生して貰うさ」

 

蓮太郎は努めて冷静でいるが本当は隣に居たいという気持ちがあるのは丸分かりだ。

 

「でもさ…その子って何者なの?」

「どう言うことだ?」

「だってさ…その子は狙撃できるんでしょ?しかもナイフで接近戦も出来て…何て言うか万能過ぎる気がするんだよ…」

「でもナイフだったら振り回せば良いんだし夏世ちゃんや延珠ちゃんだって…」

「いえ春さん…多分ティナ・スプライトは接近戦もできますよ」

「何でそういえるのだ?夏世」

「優兄の一撃を避けた…他にも蓮太郎蹴りを自分から飛んで衝撃をやわらげていたんだよね?」

「あ、ああ…」

 

やっぱり何者なんだろう…と夏は首をかしげる。こいつは基本的に考えるより行動派だが時々優磨たちも考え付かない物事の本質を見抜くことがある。そういう意味ではやはりお姉ちゃんなのだろう。

だが夏の言う通りかなりオールラウンドに戦えるらしい…通常狙撃主相手にするときは距離を詰めるのが手っ取り早い。何故なら近距離の銃撃には向かないからだ。狙撃とは文字通り狙って撃つ物…しかも最近はセミオートと言う物もあるが基本的に連射が出来ないのだ。一発撃ったら空薬莢を手動で排出しなければならないためなのだがとにかく連射はできない。だがティナは前回見る限り接近戦はナイフで行えるようだし相当厄介だ。それに前回使わなかっただけで拳銃を装備してくるかもしれないし何より前回はなぜかいなかったが仲間いるかもしれないのだ…

 

「ん?」

 

今度は優磨が悩む番だ。

そう言えば何故前回はティナの単独だったのだ?確かにティナは高い戦闘能力を持っていた…だが今回の黒幕はこちらの防衛をどこからか入手してまでの暗殺…つまり相当手の込んだやり方だ…そんなやつが一人での強襲をさせるのか?

 

(そうだ…複数の銃撃で俺は勝手に複数犯だと思っていたが…)

 

そして違和感の正体に気づく。

 

「そうだ…何であの時一人しか検知出来なかったんだ?」

『え?』

 

優磨を全員が見る。

 

「そうだ…何で…」

 

更に言えば狙撃のタイミングが完璧すぎた…前回来た合計3つの方向からの狙撃…息があっていすぎた…まるで一人の人間が全て撃ったかにように…

 

「優磨さん?」

 

蓮太郎が声をかけてくる。

 

「あ?ああわりぃわりぃ独り言だ」

 

そう言ってまた考え出す。

何故前回一人しか義眼で検知出来なかったのか…この義眼は三キロ先まで検知可能だ…無論人混みの中ではもっと短くなるが少なくともあんな人が少ない場所では短くなることはない。

なのに検知できたのは一人…つまり犯人は一人?そんな馬鹿な…じゃあ全く違う方向からの同時狙撃は…

その時優磨の脳裏にある菫との出来事が思い出される。

 

 

【なんだこの映像】

【ああ、これは空前絶後の堅物が作った機械化兵器だよ】

【はぁ~…どうやって動かしてんだ?】

【脳にチップを埋め込んでね…そこから信号を出してるのさ…まあ一度に動かせるのは三体が限界だね】

【何て言うんだ?】

【これの名は確か…】

 

 

 

「シェンフィールド…」

「シェン…なんですか?」

 

聖天子が話しかけてくるが優磨の耳に入ってこない。ばかな…あれは…でもだとしたら…

 

「優磨さん!?」

 

優磨はバンの後ろのドアを開けると義眼を起動させる。すると今度は検知した…設置された対物ライフルと虫のような小さな機械……それが三個ずつと遠くにティナ…

 

「全員伏せろ!」

 

優磨の声が響いた次の瞬間凄まじい量の弾丸がバンに炸裂した…

 

 

 

 

 

 

「ちぃ!」

 

優磨は腰から銃を抜き続けざまに撃つ。だが二発までは弾いたがもう二発が弾ききれていない。だが、

 

紅蓮(ぐれん)!【双打】!!!!」

 

両腕の紅蓮(ぐれん)が弾丸を迎え撃ち火花と爆音を出し優磨を吹っ飛ばしながらバンの荷台の側面を貫いていく。

 

「いってぇ…」

 

さすがに優磨もクラクラしている。

 

「地下駐車場だ!急げ!」

 

蓮太郎が叫ぶと運転手が慌ててすぐそこの地下駐車場に逃げ込む。

 

「や、ヤバかったな…」

 

蓮太郎が一息つくが優磨はまだ意識が朦朧としている。

 

「蓮太郎、妾が追う!」

「なに!?」

「いまなら間に合う!」

 

延珠が言う…

 

「分かった…でも…」

「なら僕もいくよ」

 

夏が手を上げる。

 

「…気を付けろよ…」

「うん」

「任せろ!」

 

延珠は夏を背負うと能力を解放し爆走した…

 

「延珠…」

 

すると聖天子が電話をしていたのか電話を切ると、

 

「里見さん!今すぐ二人を戻してください!」

「え?」

「国家元首の特権で調べました…ティナ・スプライト、序列は98位…藍原さんや柊さんでは相手になりません!」

「っ!?」

 

蓮太郎は電話を掛けるが結局その夜二人は帰ってこなかった…

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで堕ちたか…エイン」

 

次の日優磨は菫の研究室で昨日の説明をしていた。

説明を聞いた菫は手に持っていたビーカーを握り潰さんばかりだ。

優磨が渡した書類にはティナのプロモーターが載っておりそこには【エイン・ランド】と記されていた。

かつて四賢人と呼ばれた菫の同僚と言うか外国版新人類創造計画【NEXT】の最高責任者…だが随分と腐ったやつだと言うことは分かった。

 

「それでどうするんだい?」

「夏は無事だ…そんな柔に鍛えちゃいない。ならきっと延珠ちゃんも無事だ…なら俺はティナを…」

 

すると携帯が鳴る。

 

【優磨さんか!?】

「どうした蓮太郎?」

【延珠と夏が見つかった。いま病院だ!】

「っ!分かった。すぐ行く!」

 

優磨は本日吸いすぎて吸った本数が二桁目に突入した煙草の火を携帯灰皿で消すと、

 

「じゃあな!」

 

優磨は飛び出す。

 

「全く…心配無用みたいなこと言って心配しまくりじゃないか」

 

菫は笑った。

 

それから30分ほどで病院に優磨は駆けつけると既に他の面々もいた。

延珠と夏はベットで寝ている。

 

「医者に聞いたけど麻酔を過剰に打ち過ぎて意識ないけど一週間くらいで目を覚ますらしい」

「良かった…」

 

春は腰が抜けたように椅子に座り込む。夏世も安心した顔だ。

 

「取り合えず相手の正体が分かった」

 

優磨が言うと三人は見る。

 

「ティナ・スプライトは俺やお前と同じ機械化兵士だ」

「え?」

 

蓮太郎は一瞬優磨の言葉を理解できなかった顔だ。

 

「執刀者はエイン・ランド…NEXTの最高責任者でとんだクズ野郎だ」

『…………』

「ティナの武器は脳に仕込んだチップから指令を出して操作するシェンフィールド…能力はシェンフィールドとの視界を共有だ。恐らく狙撃銃も同じ要領で遠隔操作してる」

「ま、待てよ…ティナは…呪われた子供だぞ?優磨さん…」

 

襲撃されたときにはっきり見たのだ…ティナの眼が紅くなってることを…

 

「菫から聞いたが理論上可能らしい…成功率は無論低いけどな」

「くそ…」

「後グットニュースとバットニュースがある」

「良いニュースですか?」

「エインの戦闘能力は皆無と言って良いらしい。つまり戦いに出張ることはない。だが裏を返せば…」

「ティナさん単体で序列98位を取っていると言うことですか?」

「その通りだ夏世…これがバットニュースだ」

 

それを聞いた全員が黙る…

 

「後3日後に3回目の護衛任務だ。斎武との会合も次で最後…つまり3日後が…」

 

最終決戦…全員の脳裏にその言葉が響いた…木更はいまだ入院…延珠と夏も未だ眼は覚まさない。 戦況は最悪…しかも今回の護衛も漏れてると考えて良いだろう…だがそれでも…

 

「俺はやるぞ」

 

蓮太郎は厳かに言った…

 

「ここで引けない…それに何よりあいつは本当は殺しなんかしたくないんだよ…そうじゃなきゃ昨日の襲撃だってもっと酷かった筈だ…」

「………」

「頼む優磨さん。多分あんたもティナと戦いたいと思ってると思う。だけど譲ってくれ…」

 

優磨は一度目を瞑ると…

 

「蓮太郎…序列100をきった連中は基本的に全員化けもんだ…そのくらいになれば全員国ひとつ滅ぼせるような奴等ばかり…普通じゃない。死ぬぞ…それでもやるのか?」

「ああ…」

『……………』

 

その場を沈黙が包み春と夏世はハラハラした面持ちで二人を見る。

 

「…………………ふぅ…」

 

優磨は息を吐く。

 

「若者の覚悟は言っても止まらんか…分かった…」

 

優磨はたつ。

 

「春、夏世は蓮太郎の援護だ」

「優磨さんは?」

「護衛をする…多分向こうも形振り構っていられないだろうからな…直接来る可能性もある」

 

それから優磨は拳を付きだす、

 

「この戦い…俺達で幕を下ろすぞ」

「ああ…」

「はい!」

「任せてください」

 

四人は拳をぶつけ合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後…ティナは最後のチャンスだと聞き廃ビルに隠れながら待ち伏せていた…今回の階段で使われる料亭は人が来ない代わりに廃棄物が捨てられることが多い場所でその一角に廃ビルがある。確かに人には見られないかもしれないが計画がバレていては意味がない。

 

(来た……)

 

ティナは車が三台出てきたことを確認すると銃を構えながらシェンフィールドで探る…一台目…居ない…2台目…無し… 最後のボロボロの車…見たことがあるがまさかあの車に?そう思いまさかと思いつつ見ると案の定いた…

 

(成程…敢えてあり得ない風情の車ですか…舐められたものですね)

 

そう思いつつ引き金を絞る…マズルフラッシュと共に弾丸が放たれる。だが次の瞬間あり得ないことが起きた。

 

「え?」

 

車はバオン!っと一瞬で加速…その速度はレーシングカーも欠くやと言う速度でしかも加速が尋常じゃない。余りの速さにスコープから外れティナは慌てて探す。すぐに見つけたが凄まじい速さで曲がったり進んだりするため狙いが定まらない。

 

(あれは…何!?)

 

ティナが困惑しているとスコープに黒い物体が入る。

 

「あ…」

 

完全に反応が遅れたティナは声を漏らしながらそれを見た…

 

「里見さん…?」

「天童式戦闘術、一の型五番!!虎搏天成!!!!」

 

神速の突きがティナを吹っ飛ばした。

 

「がはっ!」

「ティナ!」

 

蓮太郎は構え直しながら…

 

「立て!お前は…俺が倒す!!!!」

 

 

 

その頃車を疾走させていた優磨は…

 

「は、速いですね」

「Devel Sixteen…レーシングカーでも使われる5000馬力のエンジンだ」

「す、凄いですね。でもそろそろスピード緩めても…」

 

すると優磨は足元から何か拾うと後ろにいた聖天子に何かを渡す。

 

「これは?」

「アクセルペダルとブレーキペダル…」

「え?」

 

すると次の瞬間ドアが勝手に外れた…

 

「ええ!?」

「済まん…スピードは出たけど他の部品がもうダメだったみたいだな…速度に耐えられなかったみたいだ」

 

優磨が冷や汗を流した次の瞬間左側の前輪と後輪が吹っ飛び強制的にルパン三世宜しく片輪走行するはめになった。

 

「俺これ終わったら報酬で新車買うわ…」

「是非そうしてください!報酬弾みますから」

「マジか!?愛してます聖天子様!」

 

どう見てもふざけていってるがそれでも言われて嬉しいのか聖天子は顔を真っ赤にした。

すると遂に右側のタイヤも壊れ始めボンネットも飛ぶ。だと言うのにエンジンは更に唸りをあげスピードをあげていく。

 

「仕方ねぇ…行くぞ!」

「行くってどこに…きゃ!」

 

優磨はベルトを外し聖天子を抱え上げると車外に飛び出す。

その直後にポンコツ丸は電柱に激突し爆発した…

 

「くそぅ…エンジンは頑丈でも車体が持たないとは…」

 

優磨は聖天子に引きずられながら店に入る。運良く飛び出したところが店の近くで助かった…のだが…

 

「え?帰った?」

「急用が入ったとのことで…はい」

 

店の人が言うには斎武は急用で帰ったとのこと…どう言うことだ?

優磨と聖天子が首をかしげた次の瞬間銃声が響く。

 

「っ!」

 

優磨は聖天子を庇いながら跳ぶとカバーに入る。

 

「案の定形振り構わず来やがった…」

 

見てみれば皆東京エリアの警備隊…しかも先頭切ってるのは護衛隊の一人だった男だ。何で…

 

「いるかぁ牙城!」

「テメェが内通者か!?」

「そうだよ!お前とそこの(アマ)の首手土産に逃がさせてもらうぜ!」

「大阪にか!?」

「ばぁか…もっと上だよ」

「うえ?」

 

だが優磨の疑問に答える前に弾幕が激しくなる。

 

「優磨さん…」

「安心しな嬢ちゃん…」

 

優磨は腰から銃を抜き優しく笑いかけながら力強く答える…

 

「待ってな…お前は…俺が守る!!!!」

 

 

 

 

片や道を外した一人の少女を助けるため…片や命の危機を救うため…二人の男の戦いが幕を開ける。


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