ブラック・ブレット 双子のイニシエーター   作:ユウジン

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第11話

「がっ!」

 

車が揺れたと思った次の瞬間優磨の横腹に凄まじい痛みと衝撃が走り吹っ飛びそうになるが横に聖天子や夏たちがいることを思いだし必死に思い止まる。だが結局は凄まじい横揺れと衝撃で車はグシャグシャになりながら横転したためあまり意味はなかった。

 

(狙撃…か)

 

優磨はすぐさま状況を把握すると、

 

「脱出だ!」

 

優磨の声を聞いた蓮太郎は直ぐ様ドアを蹴りでブチ破り飛び出す。

 

「行くぞ!」

「はい…え?」

 

聖天子が脱出しようとすると動けない。見てみると車がグシャグシャになった際に足が引っ掛かっており嵌まった足が抜けなくなっている。

 

「くそ!」

 

優磨は高周波ブレードで斬ろうとするがその前に狙撃の警戒が先だと思い至り義眼を起動させる。

銃の威力…当たったときの角度…そこから射線を導きだし…

 

「彼処か!」

 

スコープモードで見てみれば人影が見える。

すると二射目が放たれる。

 

「っ!」

 

優磨は腰からデザートイーグルを抜くと義眼が銃線を計算し高速演算を開始…そして最適な発射角度を導きだし優磨はその義眼が導くままに撃つ。その間二射目が放たれた瞬間から一秒にも満たない。

そして二射目の銃弾は優磨の撃った銃弾をぶつかり火花を散らすと優磨の横を通り過ぎていく。その隙に優磨は聖天子の足を嵌めていた部分を切り離すと、

 

「しっかり捕まってろ!」

「は、はい!」

 

優磨にお姫様だっこされすっかりゆでダコになった聖天子は動きの邪魔にだけはならない様にしっかり捕まる。

 

「う…」

 

その際に当たった胸に流石の優磨も少し揺れた。

と言うか優磨だって男ではあるため普段は夏達の相手だしそういう相手はいないがこう言うときに何だが聖天子も少女と言うよりは女性になりつつあると言うのを再確認させられた気がした。

だがその中でも優磨は迷うことなく路地に向かい逃走を図る。

 

(3射目!)

 

優磨は再度義眼で計算…最適なルートを導きだし撃つと銃弾はまた火花を散らし逸れる。

 

(うそ…だろ…)

 

蓮太郎は驚愕していた。

 

(この人…銃弾を撃ってやがる!)

 

だが撃つだけではなく優磨はスラスターを起動し高く跳ぶと壁を蹴って射線から常に外れながら動くことで撃たれる可能性を下げている。

さながらその機動力は延珠にも劣らぬ機動力…純粋な速度なら延珠が圧倒的だろうが、銃、頑丈さ、さらに腕力や義眼などを使用した状況判断…総合すれば延珠以上かもしれない。

だがそこに虫の飛ぶような音聞こえた次の瞬間四、五射目が横から来る。

 

(馬鹿な…一人じゃねぇのか!?)

 

優磨は驚愕する。こうなったら一発は銃弾で、もう一発は体を張って守るしかないと覚悟を決めた瞬間…

 

「おりゃああああああ!」

「でぇええええええい!」

 

瞳を深紅に変えた延珠の飛び蹴りと夏のアッパーが銃弾と激突…凄まじい音と火花を散らしながら向きを強制的に変えさせられ優磨から逸れていく。そして…

 

「春!3時の方向にある一番高い建てもんだ!」

「はい!」

 

春の瞳が深紅に変わるとM82を構えるとスコープを覗き込む。一瞬の間があったあと…ドン!と言う音と共に銃弾が放たれた。

 

 

 

 

「くぅ!」

 

ビルの屋上で狙撃していた少女はとっさに身を踊らせて避ける。向こうにも良い腕を持つ狙撃主が居たらしい。しかもなんだあの男は…狙撃銃の弾丸を撃って逸らすなど人間業じゃない。しかも正面から当てていれば自分の使ってる銃弾の方が威力は上…つまり銃弾を逆に弾きながら撃った相手を撃ち抜けるはず…なのにあの男は側面に当てるように撃ってきたのだ。 どんなにまっすぐ飛ぶ銃弾も側面からの衝撃には弱い。

 

「マスター…邪魔が入ったのでシェンフィールドを回収後撤退します」

【馬鹿な!相手は無能な護衛だけじゃなかったのか!?】

「はい、恐らく民警を雇ったのだと思います。かなりの凄腕です」

【ちっ!仕方ない。一度撤退しろ。だが次は成功させろ】

「はい、マスター…」

【良い子だ…自分は誰だか分かるな】

「はい…ティナ・スプラウトあなたの忠実な部下です…」

【ふふ…良い子だ】

 

相違って通信を切ったあとティナと呼ばれた少女は先程まで暗殺対象のいた方向を見る。

 

「貴方は…何者?」

 

 

 

 

 

 

「また面倒なことになったねぇ…」

 

菫は呆れ半分驚き半分といった風税で優磨を見る。

暗殺騒動から一週間…優磨は菫のところで検査を受けていた。

あの後撃たれた殆どの弾丸は護衛の保脇達が無理やり回収していったため優磨に撃ち込まれた弾丸を抜き取って由実に調べてもらったら驚いたこと驚いたこと何と対物ライフルだと言うことが判明した…まあそりゃ戦車とか撃ち抜くために作られた銃だ…幾ら防弾処理されてるであろう聖天子の専用リムジンでも壊れるはずである。と言うかアレで済んだのが凄いところだ。

因みに次の日には一応反省会(ブリーディング)が行われたが基本的に責任の擦り付け合いに発展した挙げ句いきなり保脇が蓮太郎と優磨のせいだと発言。

保脇曰く、「この二人が来たとたんに事件は起きた」とのこと。勘弁してほしい限りなのだがどうも弁だけは立つらしく言うわ言うわ五月蝿い限りで途中から優磨と蓮太郎は何処までこいつは話続けられるのか気になり欠伸しながら聞いてたくらいだ。

まあ最後は聖天子の一喝で黙らされてその日の会議は終了。

とは言え一応責任を感じた優磨と蓮太郎は聖居の広報室に行き聖天使宛の手紙を見せてもらったのだがその内容も「赤目保護者め!」「今すぐ消えろ」のような分かりやすいものから…「聖天使様ハァハァペロペロ聖天使様の●●●に●●●して●●●した後俺の●●●を●●●したい」と言う切手つけて送るなよと思うような内容の手紙まで様々だ。と言うか最後のは多分聖天使が見たら卒倒する。

 

「しかし暗殺か…しかも狙撃…相当な手練れだね」

「まあ幾らひらけてたとは言えビルからは結構距離があった」

 

検査が終わった優磨は煙草に火を着ける。

 

「まああのときは向こうが俺の体に気付かずにいてくれたお陰で助かったようなもんだな」

 

狙撃者にしてみれば対物ライフルに耐え、あまつは弾丸を撃って外させてくる人間が同乗してるなど完全に予想外である。

 

「だが気を付けるんだよ。今回のことで分かったと思うが護衛の保脇以下全員役に立たないことが判明したからね」

「分かってるさ」

 

優磨は煙を吐きながら思い出していた。狙撃が起こってから保脇達が集まるまでに要した時間は何と3分…そんなカップラーメン出来るような時間が掛かっていたら優磨がいなかったら確実にやられていた。想像以上に使えない連中である。

 

「とは言え犯人の目星もついてないしどうするか…」

「何かないのかい?」

「ん~…虫が飛んでた」

「は?」

 

菫は耐熱ビーカーに淹れたコーヒーを片手に唖然とした。

 

「あいや…少し季節外れだったから記憶にあっただけだ…後はそうだな…蓮太郎たちには言わなかったけど犯人は複数犯かもしれない」

「その心は?」

「別々の方向から同時に狙撃された。弾丸は同じだったから仲間だろう」

「だったら教えてあげても良いんじゃないか?」

「いや何か引っ掛かるんだよ…」

 

何か…その何かに優磨は酷く引っ掛かっていた…複数犯の事件にしては何かが可笑しい… まあ今は考えても仕方がない。

 

「最後だが…イニシエーターの可能性がある」

「だろうね。対物ライフル何てバカでかい銃を連続して撃つとしたらよっぽど筋骨隆々の筋肉バカか君の言うイニシエーターの可能性がある。だがそんなものが複数居たら誰かの印象に残るだろう。複数いても目立たないならイニシエーターだね。まあ本当に複数犯ならの話だ。何かしらの仕掛けを施して自動的に撃てるようにした銃が設置されていたとしたら話はまた変わってくるけどね」

「可能なのか?」

「不可能ではないよ」

 

優磨は菫の抗弁を聞きながら煙を吐いた。

 

「そう言えば…夏達はどうだった?」

「ん?ああ…これだろ?」

 

夏達は常にガストレアウィルスに犯されて要ると言っても過言ではない。その為毎日ガストレアウィルスの進行を抑える注射を打ち…定期的に検査を受ける。菫が渡した書類にはその検査結果がかかれていた。

 

「柊 夏ちゃん…進行度23%…柊 春ちゃん進行度22%千寿 夏世ちゃん進行度25%…何か質問は?」

「安心はしたよ」

 

進行度は50%を消えると呪われた子供たちは形象崩壊を起こしガストレア化する…だがこれくらいならまだ大丈夫だろう。だが…いずれ来るのは分かっている。今ある薬だって進行速度を抑える力しかない…いずれ夏たちも形象崩壊を起こしガストレア化するだろう…その際に…きちんと自分は殺せるのだろうか…そして彼女たちの居ない生活に耐えられるのか?

居るのが当たり前となった彼女たち…居なくなったら喪失感に堪えられるのだろうか…多分無理だろう。と優磨は自嘲気味に笑う。昔より強くなったかもしれないが…幻想だったかもしれないな。

 

「優磨くん…」

「ん?ああ、なんだ?」

「君こそ大丈夫かい?」

「ん…ああ…」

 

優磨は頭を振る。こんなんじゃダメだろ…と、

 

「………今でも…すまないと思っている」

「え?」

「君の体の改造だ…君が死にかけて…半ば狂気に狩られていた私は君を助けたい半分…もう半分は自分の作った計画を実行したい気持ち半分で君を使った…」

 

まあそんな考えは簡単見破られたがね…と菫も自嘲気味に笑った。

優磨も思い出す。あの後生身の肉体をほとんど失ったことを知った自分は混乱と共に何でこんな体にしたのかと菫を恨んで詰め寄った。そしてわかったのだ…今のこいつは何も見えてないことに…今ほど達観してなかったし出来なかった自分はその時菫をぶん殴って…それから…

 

「お互い忘れる…それで話をつけただろ」

「ケジメってやつだよ…ちゃんと君に謝罪してなかったからね」

「……ふぅ…別に良いさ…お陰で夏や春に夏世とも会えた」

「そうかい…」

 

菫はどこか安心したような表情を浮かべる。

 

「ただ心配なのはそんなんじゃ君婚期逃すよ」

「お前に言われたくねぇし俺のからだ知ったら大概の女引くって」

(ほんと鈍感だねこいつは…)

 

菫は呆れながら、

 

「私は良いんだよ。死体達がある」

「……俺の心の傷抉ったんだ。ひとつお前のもえぐって良いか?」

「どうぞ?」

「お前は死体しか愛せないんじゃなくて…死体しか愛さないようにしてるだけだよな?」

「っ!」

「それで…アイツに操立ててるんだろ?」

 

アイツ…それは菫に胸のロケットに入ってる恋人のことだろう。

 

「人の勝手だろ?」

「勝手さ…でもそろそろ忘れてやれよ…そんなんじゃアイツ成仏出来なくなるぜ?」

 

忘れるない優しさはある…だが忘れてやる供養のしかたもある。死者が望むのは生者の幸福…アイツを忘れて幸せになれと優磨は暗にいっている。

菫にとって彼がどんな存在だったかは優磨は痛いほど知っている。それを踏まえた上で言っているのだ。

 

「お前が外に出ないのもそうだからだろ?太陽に…表の光に当たっていたら記憶が過去になってしまう…それが怖いんじゃないか?」

「……君は…」

 

本当に嫌な男だ…菫は伏し目に呟く。

 

「お前の友人だぜ?性格良いわけ無いだろ?」

「それもそう…か…」

 

菫は優磨を見つめつつ溜め息を吐いた。

 

「でも君は優しいね…その名が示す通り優しく人の心にへばりついた垢を磨き…その下に隠された本心を暴く…」

「違う…俺がその名にふさわしくなったのは結構最近だよ…」

「まあ…君も良い男になったと言う感じかな?」

「さぁな」

 

優磨はタバコの火を消しながら立ち上がる。

 

「そろそろ帰るな。また来るよ」

「ああ」

 

そう言葉少なめに交わし優磨は出ていく。

 

「君は…最近私は君を友人とは見れなくなってきたといったら…どんな顔するんだろうね…」

 

絶交を申し付けられたと勘違いするか…菫は笑いながら残りのコーヒーを飲んだ。




優磨と菫の関係…友人であり顔馴染みでメンテナンス担当で夏たちの主治医…でも何となくどれも完全には当てはまらない…そんな不思議な関係だと思っています。
因みに菫の昔の恋人に関する思いは作者の勝手な想像です。何と無くですがそんな感じだと思っています。
でも優磨を最近意識し始めているちょっと乙女チックな菫さんをこれからも描いていきたい。
そして優磨争奪戦したら多分今のところ菫が一番強いかもしれない…

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