【完結】(白面)ノ 剣【神様転生】   作:器物転生

7 / 20
【あらすじ】
井上真由子を救えず、
フェリーで北海道へ向かい、
フェリーは乗っ取られて沈没しました。


伝承候補者は婢妖に取り憑かれている

 オレが乗っていたせいで、フェリーは沈没した。全開状態の獣の槍を使った反動で、オレは戦闘後に気を失う。目が覚めると、北海道の旅館だった。子供のオレと姉ちゃんだけだったら不審に思われていただろう。だけど流兄ちゃんのおかげで、不審に思われる事はかったようだ。

 

「……ひどい悪夢を見た」

 

 乗客の悲鳴が、耳に張り付いている。体が冷たくて重い。きっと悪夢じゃなくて、あれは現実だったんだ。助けを求める人々の声が、聞こえていた気がする。気絶したオレの耳に聞こえていたのかも知れない。オレが船に乗ったから、オレを狙った化物が来て、みんなを殺してしまった……この手から、命が零れて行く。

 朝食を食べながら、兄ちゃんから昨日の話を聞いた。オレが気絶してからの話だ。あれからシャガクシャと姉ちゃんは、すぐに陸地へ向かって飛んだらしい。目玉の妖怪と共に沈んで行く、乗客の救出は行わなかった。体力が尽きる前に陸地に着けるか分からず、そんな余裕はなかったからだ。

 

「これから兄ちゃんは何所に行くんだ?」

「お前等といると退屈しなさそうだし、しばらく付いて行くさ」

 

 ……退屈?

 

「そっか……」

「安心しろよ。オレは光覇明宗の使いじゃない」

 

 光覇明宗の使い……じゃない? そう言えば兄ちゃんは、錫杖や法力を使っていた。 光覇明宗じゃないとなると、他の宗派の人なのか? いったい兄ちゃんは何者なのだろう……まさか『白面の剣』? そんな顔をしていると兄ちゃんは「くくく」と笑って正体を明かした。 

 

「――獣の槍の伝承候補者、秋葉流だ。よろしくな」

 

 兄ちゃんは、4人しかいない伝承候補者の1人だった。フェリーで会った時から兄ちゃんは、オレと姉ちゃんの正体に気付いていたのだろうか? そう聞くと兄ちゃんは、シャガクシャを指差した……ああ、そっか。こんなのが近くにいれば一目で分かるか。その後、オレは移動手段に迷う。兄ちゃんのバイクで行くべきか、それともバスで行くべきか。

 

「うっ、うしおがバイクに乗って……わっ、わたしは飛べるから大丈夫だよ?」

「でも姉ちゃんは、シャガクシャみたいに姿を隠せないだろ?」

 

「でっ、でも、この人と一緒に行けば、うしおも旅館に泊まれるから……」

「シャガクシャ、おまえが姉ちゃんを乗せてやってくれないか?」

 

「あぁ? おい、うしお。わしを馬か何かと勘違いしてるんじゃねーだろーな?」

「いいじゃねーか、このくらい。ケチケチすんなよ」

 

「あっ、あのね? うしおは大丈夫だけど……シャガクシャ様は……斬っちゃうかも」

 

 オレは触れるようになったけど、シャガクシャはダメらしい。そうだったのか……けっきょく姉ちゃんは、バイクに同乗するオレの体に掴まる事になった。その状態で飛行すれば、体力の消費を抑える事もできるらしい。他人から見れば、バイクに3人乗りしている状態だ。警察に通報されない事を願う。

 そんなオレ達の前からバスが出発して行った。あのバスが妖怪に襲われたりして……そんな訳ないか。だけど、化物に狙われているオレが乗れば、その危険性は高まる。そう考えると、バイクで良かった。その時は兄ちゃんを巻き込む事になるけれど……兄ちゃんも分かってる。それに伝承候補者に選ばれるほどの優秀な法力僧だから心配は少ない。

 兄ちゃんのバイクに乗って、北海道を北上していた。目的地であるカムイコタンのある旭川には、今日の内に着くだろう。シャガクシャは上空を飛んでいた。その間、兄ちゃんは「光覇明宗」と「獣の槍」の話をしてくれる。そもそも光覇明宗の始祖が「獣の槍」を護れと言ったようだ。

 

「流兄ちゃんは、獣の槍を取り戻さなくていいのか?」

「いーや。オレがその槍を操るより、お前等を見てた方が気持ちいいからな」

 

「だけどオレ達、光覇明宗の総本山で無茶苦茶やっちゃったんだけど……」

「無茶苦茶やる理由があったんだろ? 今度はお前の話を聞かせてくれよ」

 

 オレは兄ちゃんに、これまでの事を話す。時間は十分にあった。姉ちゃんが鬼を見つけた事、姉ちゃんが羽生さんを殺した事、姉ちゃんに自首をすすめたこと、オヤジに総本山へ連れて行かれた事、姉ちゃんが処刑されそうになった事、身を捨てて姉ちゃんを助けてくれた僧侶の事、姉ちゃんの実家に行った事、姉ちゃんのお母様に会った事。

 

「……囁く者達の家か」

「ささやく、ものたちの、いえ?」

 

「外国にゃ「魔道」っつーもんがある。その研究の過程で見つけられたのが、人工的に妖を造りだす……そんなテクニックさ」

「人工的に妖を? そういえば姉ちゃん、マテリアとかホムンクルスとか言ってたっけ?」

 

「う、うん……」

 

「囁く者達の家には、そんな妖が山ほど、オレ達にグチをたれたがってるって話だぜ?」

「オレが姉ちゃんの家に行った時は、優しそうな「お母様」しか居なかったけどなー」

 

「お母様ねぇ……ん? ありゃー、杜綱か?」

 

 道路に人が立っていた。その人は知り合いらしく、兄ちゃんはバイクを止める。辺りには家も乗り物も見当たらない。どうやって、ここに来たのだろう? その人は神職が着るような白い服を着ていた。オレ達が止まった事を察して、シャガクシャは……空から降りてこないな。まぁ、いいか。

 

「流兄ちゃん、知り合い?」

「ああ、獣の槍の伝承候補者の杜綱悟だ。そのはずなんだが……おまえ、杜綱だよな?」

 

「ああ、たしかに私は獣の槍の伝承候補者の一人――杜綱悟」

「うっ、うしお! その人から化物の臭いがする!」

 

 そう言って姉ちゃんは、オレの前に進み出た。白く濁った剣を、杜綱という人へ向ける。すると杜綱という人の背後が、黒く歪んだ。そこから滑らかな表皮を持つ、人のように大きいナメクジのような物が姿を現す……いや、あれはヒルか? オレ達に向かって、その巨大なヒルは飛びかかった。

 

 るんっ

 

 踏み出した姉ちゃんが剣を振る。瞬く間にヒルは斬り裂かれた。だけど断たれた体から、いくつもの頭が生える。姉ちゃんは迫るヒルの頭を斬り落としていた。だけど、それは石食いの時と同じパターンだ。斬っても斬っても生えるヒルの頭部を潰すのが精一杯で、それ以上すすめない。このままでは、いつか食い付かれる。

 

「姉ちゃん!」

 

 獣の槍の力を行使したオレは、姉ちゃんの加勢へ向かう。オレの前に立ち塞がったヒルへ、槍を突き出した。するとボンッという音と共に、ヒルは消し飛ぶ……こんな威力だったっけ? 槍の封印を解いたからか? まるで溶かすように獣の槍は、バケモノを消滅させた。

 

「兄さん!」

「杜綱さん!」

「助けるぞ!」

 

 そこへバイクに乗った集団が現れる。そいつらは折りたたみ式の錫杖を展開すると、オレや流兄ちゃんに襲いかかった。なんだよ、こいつら! なんでオレ達の邪魔をするんだ? その間に姉ちゃんは分裂したヒルに取り囲まれ、体に食い付かれる。その光景を見たオレはカッとなった。

 

 ドムッ

 

 オレが動く前に、ヒルは吹き飛んだ。姉ちゃんを囲んでたヒルが吹き飛ばされた。その衝撃で、姉ちゃんは地面に倒れる。やったのはシャガクシャだ。空から降りてきたシャガクシャが、姉ちゃんを助けてくれた。それを嬉しいとオレは思う。オレもシャガクシャに、負けていられないな!

 

 

 キィィィィィィ!!

 

 

 獣の槍が発光する。槍に導かれるように、勝手に体が動いた。流兄ちゃんやオレに襲いかかってきた人々を、槍の柄で殴り倒す。そうしてオレは姉ちゃんの下へ走った。ヒルも倒したし、襲いかかってきた人々も倒した。姉ちゃんと流兄ちゃんも無事だ。あとは杜綱という人だけだった。

 

「おまえ、なんてコトすんだよ! ぶっとばしてやりてーぜ」

「ふん、そうか。やってみろ……」

 

「わっ、わたしもやるよ?」

「いいや、姉ちゃんは見ててくれ」

 

 流兄ちゃんによると、この人は獣の槍の伝承候補者だ。姉ちゃんではなく、オレが目当てなのだろう。だったらオレは1人で、この人と戦う必要がある。姉ちゃんを巻き込まないために、オレは杜綱という人に近寄る。すると杜綱という人は数珠を投げて、獣の槍に巻き付けた。

 

「くくく、柳月派不動縛呪。強力なこの縛呪を断ち切るのも、貴様ならば雑作あるまい――だが、その隙が命取りよ! 蒼月ィ、死ねぇぇ!!」

 

「やだね!」

 

 獣の槍が発光し、巻き付いた数珠を弾く。その場から高く跳んだオレは、杜綱という人の頭部を、カンッと槍の柄で強打した。杜綱という人は体を揺らし、バランスを取ろうとする。ガードレールに手を置き、ふらつく体を支えた。その杜綱という人は頭を抑えて苦しそうだ……強く叩きすぎたか?

 

「がああああ!」

「お、おい、大丈夫か?」

 

「兄さん! おまえ兄さんに何をしたの!」

「無事ですか? 杜綱さん!」

「おのれ蒼月! 杜綱さん、気を確かに!」

 

 杜綱という人は奇声をあげた。さすがに心配になって声をかける。すると、さっき槍で倒した人々も、杜綱という人に声をかけた。なんだかオレが悪いみたいだ……いいや、そうか。オレが悪いんだ。光覇明宗の総本山で裏切った僧侶は数多くの人を死に追いやり、シャガクシャも人を殺し、オレも獣の槍を強奪した。それでもオレは、姉ちゃんを死なせない道を選んだ。共犯者である事をオレは忘れてはならない。

 

「純(じゅん)……兄は……私は、もうだめだよ」

「にい……さん……?」

 

「流……みんな……妹を……純を、頼む!」

 

 そう言って杜綱という人は、ガードレールを乗り越えた。その先は高いガケだ。逃げるつもりなら、まだいい。だけど死ぬつもりなのか!? 一番近くにいたオレは槍を投げる。獣の槍は杜綱という人を追って、その体を岩壁に縫い止めた。見ると槍は服に刺さっている。早く上げないと、服が千切れちまう!

 

「あいつを引き上げる! 手伝ってくれ!」

「おい、正気か蒼月? そいつはお前を殺そうとしたんだぜ?」

 

「関係ないね! 目の前で死にそうな奴を放って置けるかよ! もう二度と誰も死なせねーってオレは誓ったんだ!」

 

 殺したって何にも生らない。敵でも味方でも変わらない。悪い事をしたからって、そいつを殺すのは間違ってるんだ。そんなんじゃ何にも生らない。なんの解決にもならない。なにも分からないまま終わって、後には何も残らない。オレの目の前では誰も死なせたくなかった。誰にも死んでほしくなかった。

 

 

 みんなで杜綱という人をガケから引き上げる。姉ちゃんは他人に触れないし、シャガクシャを説得するのは時間の無駄だ。気絶している杜綱という人を、バイクに乗っていた人々が心配そうに見守っている。流兄ちゃんによると杜綱以外の人は、伝承候補者の選出に漏れた人らしい。

 

「あっ、あのね? あの人、婢妖(ひよう)に憑かれてるんじゃないかな?」

「姉ちゃん、婢妖って?」

 

「フェリーを沈めた目玉の事さ――「白面の者」が手足のごとく使う下等な妖怪だ。過去数度にわたって、光覇明宗の「獣の槍」探索を妨害している。合体し……物に取り憑くそうだぜ」

 

 婢妖(ひよう)について流兄ちゃんが教えてくれた。フェリーを沈めた、あいつらか……オレは怒りを覚える。白面の者……その名前を初めて聞いたのは、姉ちゃんのお母様からだった。200年に渡って、人や妖と戦争を繰り広げた獣と聞いている。とは言っても、ずっと200年間戦っていた訳じゃなくて、白面の者が潜んでいた時期もあったんじゃないか? その白面の者が獣の槍を狙っている?

 

「その白面の者ってやつは、なんで獣の槍を狙うんだ?」

「……さあ、なんでだろうな? 麻子ちゃんは知ってるのか?」

 

「えっ? おっ、おやっ、じゃなくて……『白面さんを倒すために獣の槍が作られたから』って聞いてるよ?」

 

 急に流兄ちゃんは姉ちゃんへ話を振った。すると変な風に姉ちゃんはどもる。「おっ」って何だろう? いま姉ちゃんは白面の者の事を、別の名前で呼びそうになっていた気がする。そういえば姉ちゃんの「お母様」は、白面の者や獣の槍、母ちゃんの仕事についても知っているようだった。姉ちゃんも白面の者について、いろいろと知っているのかもしれない。

 

「姉ちゃんは、杜綱の体から婢妖を追い出す方法を知らないか?」

「ひっ、婢妖は物と一つになるから、そのまま倒すと憑依対象ごと壊しちゃうよ?」

 

「婢妖を倒すと、杜綱の体が傷つく?」

「うっ、うん。でも、頭にいる婢妖さえ退治すれば、自力で追い出せると思う」

 

「だけど、もしも失敗したら杜綱の頭が……どうすればいいんだ?」

「こっ、この子だったら、こんな風に……」

 

 

――散って

 

 白い剣が砕け散った

 

 

 無数の白い破片となって、姉ちゃんの周囲に漂う。白く濁った剣の破片は、太陽の光を浴びても光り輝く事はない。不気味なほどの白さで、宙に浮いていた……びっくりした。姉ちゃんの剣が壊れたのかと思った。姉ちゃんの剣って便利だなー。これって獣の槍でも出来るのか?

 

「こっ、こんな風に小さくすれば、婢妖だけ退治できるよ?」

「よしっ、じゃあオレも!」

 

 

――獣の槍よ、散れ

 

 

 

 

 ああ、うん……ダメだった。獣の槍は答えてくれない。そもそも姉ちゃんの剣のように、バラバラになる事が無理なんじゃないか? シャガクシャが「お母様に槍を溶かされた時」のように何か言うかと思ったけれど、暇そうにアクビをしているだけだった。こんな時に空気を読まず、爆笑するような奴じゃなかったか。杜綱を心配する人達の気持ちを、あいつも分かってくれているのだろう……そう考えると安心した。

 

「じゃっ、じゃあ体の中に入って、婢妖を倒すしかないかも……」

「姉ちゃん、そんな事もできるのか?」

 

「でっ、できるけど……わっ、わたしの剣じゃ危ないかも」

「ああ、そっか……じゃあオレは? やろうと思えばオレも、他人の中に入れるのか?」

 

「うっ、うん……」

「よしっ。じゃあ姉ちゃん、その方法をオレに教えてくれ!」

 

「だっ、だめだよ」

「どうして?」

 

「うっ、うしおの魂が、獣の槍に食われちゃうから……」

 

 姉ちゃんのお母様が言っていた。姉ちゃんの剣も獣の槍も、使い手の魂を食らう。そうして魂を食われた人間は化物となる。姉ちゃんの剣ならば人間に対する憎しみに……獣の槍ならば化物に対する憎しみに……支配される。そうして完全に化物になったのならば元に戻す方法は存在しない。

 

「それでもオレは、杜綱を助けに行ってくるよ」

「よく考えろよ、蒼月。あいつはおまえが、そこまでやらなくちゃいけない人間か?」

 

 流兄ちゃんがオレに問う。獣の槍の伝承候補者、杜綱悟。その人の事をオレは何も知らない。オレがやらなくても、他の誰かがやるかも知れない。獣の槍を奪ったオレなんかじゃなくて、他の誰かに助けてほしいと思っているのかも知れない。オレよりも上手くできる人がいるかも知れない。それでも――、

 

「杜綱を見てると、ここんトコがぎゅうって、胸が苦しいんだ……!」

 

 

『だれかー!』

『助けてくれー!』

『きゃあああ!』

『死にたくないよー!』

『こわいよー!』

『いやだー!』

 

――今すぐ手を伸ばさなければ、手遅れになってしまう

 

 

「だがよ、おまえがバケモノになっちまったら、おまえの姉ちゃんはどうするんだ? 誰がおまえの姉ちゃんを守ってやれるんだよ!」

 

「姉ちゃん……」

「うっ、うしお……」

 

――オレが姉ちゃんを守る剣になるよ

――姉ちゃんが誰も傷つけなくてもいいように

 

 姉ちゃんの実家で、オレは誓った。ここでオレがバケモノになれば、その約束は守れない。これからも姉ちゃんは、光覇明宗に追われ続けるだろう。さらに言えば光覇明宗の総本山から逃げた日、「姉ちゃんと一緒に行く事」をオレは選んだ。そのオレが姉ちゃんを裏切るのか?

 

「姉ちゃん、帰ってくるよ。絶対、帰ってくるから。約束する」

「うっ、うしおが頑張ったって、どうにもならないよ……あっ、赤い布の封印を解いた槍は、うしおの魂を持って行っちゃうから」

 

「流兄ちゃん、姉ちゃんのこと頼んでもいいかな?」

「やーだね。おまえの姉ちゃんなんだろ? 自分で何とかしろよ」

 

「うっ、うしお!!」

 

 姉ちゃんの怒った声が耳を叩く。 大ムカデの体液で裸になっても、羽生さんを殺したせいで悪魔なんて言われても、光覇明宗に殺されそうになっても怒らなかった姉ちゃんが――オレに対して怒っていた。その怒りを示すかのように、無数の白い欠片がグルグルと回る。姉ちゃんの周りで、轟々と渦を巻いていた……すでに流兄ちゃんは、背を向けて逃げ出している。

 

 

「あっ、あの人のために死ぬのなら――その前にうしおを、私が殺すから!」

 

 

 姉ちゃんの纏う渦から白い欠片が、ヒュッと風を切って飛び出す。姉ちゃんの持つ『人間を殺すための剣』の――その欠片だ。それは容赦なく、オレの頭部を狙っていた。たぶん当たったら、頭がパーンってなる。オレは慌てて身を捻りつつ、獣の槍の力を行使した。ザワザワと伸びた髪に白い欠片が当たり、黒い髪を消し飛ばす。 

 

「う……わぁ……?」

 

 視界が揺れた。頭の中でキチキチと変な音がする。白い欠片が当たった瞬間に、なにか持って行かれた? そういえば姉ちゃんが羽生さんの鬼を斬ったとき、残っていた「人間」まで斬ってしまったとシャガクシャは言っていた。姉ちゃんの剣は「人間」を斬る。もしかして姉ちゃんの剣に斬られると、その分オレは「人間」を斬られてバケモノに近付くのか……その事に気付いたオレは、サァーと血の気が引いた。

 

 ダダダダダダッ

 

 姉ちゃんが白い欠片を連射する。あの「人間」を斬る欠片に、一発でも当たる訳にはいかない。当たるたびにオレの寿命は縮むし、下手な所に当たれば肉体が爆散する。オレは足下を切り上げ、道路の一部を持ち上げた。それを盾にしたものの、あっさりと白い欠片に貫通される。ドドドドドッという鈍い音が連続して聞こえた。こ、こえぇ……その時、空が光る。

 

 ズシンッ

 

 オレと姉ちゃんの戦場に、雷が落ちた。大気が震え、大地が揺れる。それに驚いたのか、姉ちゃんの攻撃は止んだ。流兄ちゃんは他の人達と共に、気絶している杜綱の周りに光る膜を張っている。あれは、きっと結界だ。この場に雷を落としたのはシャガクシャだった。オレを助けてくれたのか?

 

「おい、ガキ。勝手に殺すなよ。そいつはわしが食うんだぜ」

「ごっ、ごめんなさい」

 

「うしお、てめーもだ。わしに食われる前に、勝手に死ぬんじゃねぇ」

「悪ィな、シャガクシャ」

 

「てめーがバケモノになるってんなら、その前にわしが食らってやる!」

 

 シャガクシャー!

 

 お前もかー!

 

 

「だからおめーにぴったり付いて行って、おめえがバケモンに変わり始めたらおいしく食ってやらぁ」

「わっ、わたしも、うしおがうしおじゃなくなる前に殺してあげるから!」

 

 シャガクシャと姉ちゃんは、オレに「付いて行く」という。どこにって? 決まってるさ……その気持ちが嬉しくて、胸が温かくなった。くそっ、涙が出てくるじゃねーか。たとえバケモノになったとしても、シャガクシャに食われるのなら、それでいいさ。だけど姉ちゃんにオレの命を奪わせたくないなぁ……そうなったら、きっと姉ちゃんは悲しむ。

 

 

「オレと一緒に行ったら、姉ちゃんもバケモノになっちまうじゃ……?」

「わっ、わたしは大丈夫だよ? うしおと違って元々、完全な人間じゃないから……」

 

 姉ちゃんと一緒に、

 

「ここまで来ておめーを食えんなんて、気が治まんねぇからな」

「じゃ、どこまでも付いて来いや、シャガクシャ!」

 

 シャガクシャと一緒に、

 

「に、兄ちゃん……もしか……オレがダメになったら……この槍……」

「オレァ、お古は使わねぇポリシーよ」

 

 流兄ちゃん、行ってきます。

 




【おまけ】
(問7)杜綱悟を蒼月潮が助ける理由となった人物は誰でしょう?

選択A、杜綱 純
「あいつの涙を見てると……ここんトコが……ぎゅうって……苦しいんだよう」

選択B、杜綱 悟
「杜綱を見てると、ここんトコがぎゅうって、胸が苦しいんだ……!」

選択C、グラハム・エーカー
「こ の 気 持 ち 、 ま さ し く 愛 だ !!」


(答7)選択A、杜綱 純
「あのねーちゃん、いつも泣いてんじゃねぇか……」
「兄ちゃんのため……兄ちゃんのためってよ……」
「あいつの涙を見てると……ここんトコが……ぎゅうって……苦しいんだよう」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。