【完結】(白面)ノ 剣【神様転生】   作:器物転生

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【Dark side】その4

 ヒロイン候補を殺した日から、麻子ちゃんは元気がない。それはヒロイン候補を殺したから……ではなく、主人公が落ち込んでいるからだ。主人公の元気がないと、麻子ちゃんも元気がない。麻子ちゃんは人が死んで悲しむような性格じゃないからねー。ほとんど関係のなかった羽生礼子を殺して、"なぜ主人公が悲しむのか"、麻子ちゃんは分かっていなかった。

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい……」

 

 主人公の登校を麻子ちゃんが見送る。主人公の父親に宿泊の許可をもらった日から、麻子ちゃんは主人公の家に住んでいた。あれは"宿泊の許可"であって"同居する許可"じゃないと思うんだけど……まあ、弱っている麻子ちゃんを追い出すなんて事を、主人公はしなかった。それを良い事に麻子ちゃんは、主人公の家に居座っている。そして半日後……、

 

「ただいまー」

 

 主人公が帰ってきた。学校で何かあったのか、主人公の顔色は明るい。そんな主人公を見た麻子ちゃんの顔色も明るくなった。すると主人公は真剣な表情で、麻子ちゃんと向き合う。何を言われるのか不安になって、麻子ちゃんはドキドキしていた。まさか告白かー!?

 

「オレも一緒に行くから――姉ちゃん、自首しよう」

「うっ、うん……」

 

 そんな事だろうと思った。でも、麻子ちゃんにとっては予想外の発言だ。麻子ちゃんは思わず、主人公に頷いた。それにしても自首か……その発想はなかった。麻子ちゃんは主人公に連れられて、近くの交番へ向かう。麻子ちゃんが何もしない間に主人公が事情を説明し、どんどん話は進んで行った。そして迎えとして、主人公の父親がやってくる。

 警察官ではなく父親が来たという事は、連れて行かれる先は警察署ではなく光覇明宗か。父親が法力僧である事を知らない主人公は、その事に気付かない……光覇明宗の総本山へ連れて行かれるのは危険だなー。ここで逃げるべきなんじゃないかと思う。でも麻子ちゃんは、光覇明宗の総本山へ行く事を選んだ。

 ここで逃げれば主人公と別れる事になるからだ。主人公と別れるのが、麻子ちゃんは死ぬほど怖かった。"嫌"なのではなく"怖い"。主人公に対する依存度が高すぎる……そうなるように刷り込んだ本人が言うのも何だけどー。こちらの意見よりも、主人公の事を優先するのは問題だ。とは言っても結局、麻子ちゃんが主人公と共に行くのならば、それを止める事はしない。

 空飛ぶヘリコプターに乗っていると、外を飛んでいたシャガクシャ様が何かに打ち当たる。見えない壁だ。本山の結界だろう。シャガクシャ様は結界の外に置いて行かれる。でも、麻子ちゃんは結界に引っかからなかった。麻子ちゃんの半分は人間だ。だから人間の通れる結界ならば擦り抜ける事ができる。ただし、この結界の中にいると人間じゃない方は使えなくなるだろう。

 

「オヤジ、ここって何所だ?」

「光覇明宗の総本山だ」

 

 主人公の父親に先導されて、麻子ちゃんは敵地の奥へ引き込まれる。何も知らない主人公は困ったものだ。でも、だからこそ麻子ちゃんが酷い目にあえば黙ってはいないだろう。そうなる事を麻子ちゃんは期待していた……そのために自分の命を賭けるのは止めて欲しいなー。まあ、麻子ちゃんが危なくなったら、こちらの手札を切って助けるよ。

 

「武器の類いは、ここに置いて行け」

 

 主人公の槍と麻子ちゃんの剣を僧侶に預ける。すると大広間に繋がる襖障子が開かれた。その場にいる数多くの僧侶の視線が、一斉に麻子ちゃんを襲う。たくさんの視線を向けられて、麻子ちゃんは怖くて仕方がなかった。でも、麻子ちゃんの手元に剣はない。今にもパニックを起こしそうだ。

 そんな麻子ちゃんの手を主人公が握る。主人公に手を握られた麻子ちゃんの心は、"歓喜"と"恐怖"でグチャグチャになった。主人公と触れ合えて嬉しいと思うと同時に、拒絶される事を恐れている。麻子ちゃんは妄想の中で、主人公に突き放される光景を思い描いていた。

 そんな事を主人公は行わないと思うけれど、麻子ちゃんの精神はマイナスの妄想で磨り減らされる。麻子ちゃんは楽しい事なんて思い浮かべない。簡単に言うとネガティブだった。麻子ちゃんは手を握り返す事もできず、人形のようになって主人公に引っ張られている。

 

「これより羽生礼子を死に至らしめた自称・蒼月麻子と蒼月潮の処分を言い渡す。一、蒼月麻子は滅殺処分とする。二、蒼月潮は光覇明宗にて指導処分とする」

 

 光覇明宗は獣の槍を確保する気か。そもそも光覇明宗は、獣の槍を護るために生まれたからなー。主人公に対する罰が緩いのは、なにか事情があるのだろう。主人公に対する罰を軽減する代わりに、麻子ちゃんに対する滅殺処分を引き出したのかも知れない。わざわざ自首してきた状況で、封印処分を通り越して滅殺処分というのは気が短すぎる。あるいは、これも白面の策と思って過度に警戒されているのか。

 処分に対して反論していた主人公が、大広間の外へ連れ出された。麻子ちゃんは残され、大広間に結界が張られる。このまま見過ごせば麻子ちゃんは死ぬ。でも、麻子ちゃんが逃げ出そうと試みる気配はない。と言っても、麻子ちゃんが死を受け入れている訳じゃなかった。

 麻子ちゃんは主人公に助けられる事を期待している。主人公が麻子ちゃんを助ければ、主人公は麻子ちゃんの味方という事になるからだ。とうぜん主人公は麻子ちゃんと共に、光覇明宗の敵となるだろう。主人公は如何するのかな。でも主人公が助けなかった時は、こっちで勝手に助けるよー。

 

「おんっ!」

 

 大広間にいた僧達の法力で、麻子ちゃんが締め付けられる。主人公は麻子ちゃんを助けるために、父親へ挑みかかった……でも、あれじゃダメだ。主人公を待っていたら、麻子ちゃんが潰される。剣を使おう。麻子ちゃんの剣は数珠によって封印されているけれど、その程度で封じられる剣ではない。

 剣が僧侶を乗っ取る。体を乗っ取られた僧侶は、主人公の父親と、獣の槍を持っていた僧侶を打ち倒した。よかったよかった、主人公の父親が下手に起きていると巻き込むからなー。そして僧侶は白い剣を抜き、鳴らす。"るぅぅぅん"という音が鳴り響き、大広間に張られた結界を擦り抜けて、中にいる僧侶たちを襲った。

 さて、これで一安心だ。でも、お役目様の結界に防がれたから、全滅させたとは言えない。そう思って主人公を見ると、首を掻きむしっていた……ごめん、忘れてた。主人公も槍を持っていないと、この様だ。獣の槍を拾って、主人公の頭をペチペチと叩く。すると主人公は正気に戻った。

 

「だっ、だれだ……?」

「我等は『白面の剣』よ」

 

「白面の剣? たしか姉ちゃんの事を、そう呼んでいた奴がいた……」

「我等は『白面の剣』であり、汝の姉も『白面の剣』である。時間がない。先に行くぞ」

 

『おのれ、よくも皆を! 私の体を返せ!』

 

 主人公と話している横で、体を乗っ取られた僧侶の魂が叫んでいる。もちろん答えはNOだ。ちょっと煩いので、ゴリゴリと魂を削って黙らせる。左手に真っ白な剣を持ち、右手に獣の槍を持ったまま、大広間へ踏み入った。無事な法力僧達は、こちらに向けて力を高めている。なにか仕掛けてくるのかも知れない。でも、お役絵様の結界を解除しなければ、あちらからの攻撃も遮断されるだろう。

 獣の槍で天井を打ち抜き、総本山に張られた複数の結界を破壊する。それに釣られてやってきたシャガクシャ様に麻子ちゃんを載せた。その際、シャガクシャ様が人間の塊を投げ捨てる……"飛頭族の事件"に会ってないからなー。飛頭族の殺人をシャガクシャ様の殺人と勘違いして、主人公が怒る事件だ。あの事件に会ってないからシャガクシャ様は、人を殺せば主人公が激怒すると分かっていないのだろう。

 

「おい、小僧。こっちへ来るってーことが、どーゆーことなのか分かってんのか?」

 

 こちらへ来ようとしていた主人公に、シャガクシャ様が問いかける。麻子ちゃんを助けるという事は、光覇明宗と敵対するという事だ。そういうシャガクシャ様は、麻子ちゃんを助ける気なんて無い。でも剣で脅したとは言え、麻子ちゃんを背中に載せる事は見逃してくれている。

 

「わりぃな、オヤジ。今まで育ててくれて、ありがとよ」

 

 そう言って主人公は、こちらへ来る。平穏よりも家族よりも、主人公は麻子ちゃんを選んだ。よかったー。もしも主人公が麻子ちゃんの敵に回ったら、思い詰めた麻子ちゃんに刺されたかもね。だからと言って麻子ちゃんの側にいるのも、主人公にとっては危ないんだけど。麻子ちゃんにロックオンされた時点で、麻子ちゃんによる死亡フラグが立っている。

 

「あんたは、どうするんだよ……?」

「ひひひ……獣の槍の伝承者よ。魂を食われた人間の末路を教えてやろう。真似はするなよ?」

 

『おのれー!』(←ここ僧侶)

 

『獣の槍の伝承者よ。憶えておけ。こうなれば、もはや人には戻れぬ――永久の別れだ』

「なにやってんだ! 待てよ……!」

 

 この僧侶は用済みだ。僧侶の魂を食らって、姿形を化物へ変える。なんだかカッコイイ感じのセリフを言って、すぐに主人公の下を去った。これ以上しゃべってると、面白すぎて笑っちゃうわー。主人公は「裏切った僧侶が命を賭けて護ってくれた」と思っているかも知れないけれど、これって体を乗っ取ってるだけなのよー。

 魂を食われて西洋甲冑と化した僧侶は、お役目様の結界に体当たりを仕掛けた。お役目様の結界は"白面の者"を封じるほど強い。並みの妖怪ならば一瞬で消し飛ぶだろう。でも、その結界に西洋甲冑が触れても消し飛ばなかった。そうして西洋甲冑に止めを刺したのは、法力僧たちの攻撃だ……お役目様は弱っている。

 その間にシャガクシャ様は、主人公と麻子ちゃんを乗せて飛び立つ。光覇明宗の総本山から離れた。主人公は自宅へ帰ろうとしているけれど、こちらとしては麻子ちゃんの家へ行きたい。光覇明宗が主人公の自宅で待ち伏せしている恐れがあるし……主人公による「麻子ちゃんのお宅訪問イベント」のチャンスだ。きっと麻子ちゃんは喜ぶだろう。その意見を伝えるために、気絶している麻子ちゃんの体を借りた。

 

「わ……わたしの……家……」

「姉ちゃん! まだ安静にしてないと」

 

 なんやかんや言って、麻子ちゃんの家へ主人公を誘導する。家は山の中にあるし、辺りは真っ暗だし、人の目では見つからない。でもシャガクシャ様がいるから大丈夫だろう。麻子ちゃんの家の近くに配置している人形を目印にして、シャガクシャ様に家のある方向を教えた。あとは真っすぐ飛ぶだけだ。




▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、誤字に気付いたので修正しました。
 麻子ちゃんは精神はマイナスの妄想で磨り減らされる→麻子ちゃんの精神はマイナスの妄想で磨り減らされる

▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、誤字に気付いたので修正しました。
 その意見を伝えるめに→その意見を伝えるために

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