【完結】(白面)ノ 剣【神様転生】   作:器物転生

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【Dark side】その2

 住家の中に隠れていたヒロイン2名が、主人公に泣きついた。その様子を眺める麻子ちゃんは少し落ち込んでいる。主人公に抱きつけるヒロインが羨ましいのだろう。ヒロインと同じ事をするのが、麻子ちゃんにとっては死ぬほど難しい。斬っちゃうからなー。そうして2名が落ち着くと、主人公はノートを取りに行った。ヒロイン2名と麻子ちゃんという「混ぜるな危険」の組み合わせを居間に待たせて。

 

「あたしの名前は中村麻子、貴方は?」

「あたしは井上真由子っていうの、よろしくね」

 

「あっ、蒼月麻子だよ?」

 

「へー、麻子ちゃんって言うんだ。偶然ね?」

「麻子ちゃんは蒼月くんの親戚?」

 

「ちっ、違うよ……私はうしおのお姉ちゃんだよ?」

 

 ヒロイン2名に詰め寄られて、麻子ちゃんは怯える。剣を収めた鞘を、麻子ちゃんは握り締めていた。さっきヒロイン2名は主人公に泣き付いてたしなー。麻子ちゃんは今にも剣を抜きそうだ……こんな所でヒロインを殺しちゃダメだって。主人公に嫌われちゃうよ?

 

「ちっ、近付かないで!」

 

 るんっ

 

 忠告したとしても、抜いちゃうのが麻子ちゃんだ。頭よりも先に体が、麻子ちゃんの剣を握る手が動く。2名に接近されて、麻子ちゃんは剣を抜いた。しかし、井上真由子が中村麻子を押し倒した。おかげで麻子ちゃんの剣は、宙を斬る。剣という長大な刃物を見て、2名は恐怖の表情を浮かべた……その2名以上に恐怖しているのが麻子ちゃんだけど。

 

「なにするのよ! 危ないじゃない!」

「ごっ、ごめんなさい……」

 

「そんな危ない物はしまって、ね?」

「うっ、うん……」

 

 麻子ちゃんは剣を収める。でも、剣を手から放すことはない。麻子ちゃんが2名に気を許すつもりはなかった。そんな麻子ちゃんに気の短い方が怒り、気の長い方がなだめている。麻子ちゃんはカタカタと体を震わせていた……居間の雰囲気が最悪です。しゅじんこー、早く戻ってきてー。死人が出るよー。

 

「あっ、蒼月くん! この子って蒼月くんと麻子の――」

「だまらっしゃい、真由子!」

 

 主人公が戻ってきたため、これ幸いとヒロイン2名は話題を換えた。2名の楽しそうな様子を見ている主人公は、少し前まで一瞬即発の状態だったとは思うまい。麻子ちゃんは隅の方で小さくなっていた。バタバタと騒がしいヒロインを、麻子ちゃんは邪魔に思っている。ちなみに麻子ちゃんのヒロイン2名に対する好感度は最低だ。

 

「話は聞かせてもらったわ! あたしの名前は中村麻子よ!」

「あたしは井上真由子っていうの、よろしくね」

 

「わっ、私は蒼月麻子だよ?」

 

 その流れは、もうやった。

 

「あんたが麻子って呼ぶから紛らわしいのよ! お姉ちゃんって呼べばいいじゃない!」

 

 それでは麻子ちゃんが、麻子と呼んでもらえなくなる。嫌がらせか? なんて思ったけれどヒロインの善意だろう。でも、麻子ちゃんは良い気はしないよなー。そもそも「ヒロインの麻子」は中村と呼ばれ、主人公に麻子と呼ばれる事は少ない。余計なお世話ってやつだ。

 

「ね……姉ちゃん?」

「うっ、うん……」

 

 主人公に名前で呼ばれて、麻子ちゃんはフリーズする。そばに「ヒロインの麻子」が居なければ、「姉ちゃん」と呼ばれても良かったんだけどなー。麻子ちゃんにとっては、「麻子」という名前をヒロインに盗られたようなものだ。まあ、このために同じ名前を付けたんだけど。

 ヒロイン2人が帰る時、麻子ちゃんは主人公から引き離された。「ヒロインの麻子」が主人公にコソコソと話をしている。どうやらヒロインに斬りかかった事を「告げ口」しているらしい。それは麻子ちゃんも聞き取っていた。ヒロインにとっては善意で主人公に「警告」しているのだろう。でも、麻子ちゃんにとっては黙っていてほしい話だった。ヒロイン2人が帰ると、麻子ちゃんの番だ。

 

「……姉ちゃん。じつはオヤジの奴、いま遠くに出かけてるみたいなんだ。一週間くらい経ったら帰ってくると思うけど」

「そっ、そうなんだ……あっ、あのね? お父様が帰ってくるまで居ちゃダメかな?」

 

「うーん。でも、こいつが居るしなぁ……」

 

 主人公の家に泊まる作戦も失敗する。原因はシャガクシャ様だ。シャガクシャ様の人食いを警戒している主人公は、麻子ちゃんを家に泊まらせたくない。麻子ちゃんのシャガクシャ様に対する敵対心が溜まっていく……シャガクシャ様は麻子ちゃんのライバルみたいな物だけど、主人公の相棒だから仲良くしておいた方がいいんだけどなー。

 

 

 翌日、麻子ちゃんは学校を訪れた、化物の臭いを麻子ちゃんが嗅ぎ取ったからだ。おそらく大ムカデの妖怪変化が潜んでいる。出現場所も正体も麻子ちゃんに教えた。でも、弱点は教えていなかった。まさか、あんなに生命力が強いとは思わなかったなー。

 結局、主人公のツバを使って大ムカデは倒される。本来ならば石食い発見まで時間がかかり、ニュースの取材班まで来ていた。でも駆けつけた麻子ちゃんがスピード解決したので取材班は来ていない。なので石食いと戦う主人公とシャガクシャ様の姿が、テレビ番組で報道される事はないだろう。

 その代わりとして、主人公の変化する瞬間を他人に見られた。これは不味い……麻子ちゃんと主人公の、2人だけの秘密ではなくなる。あとで主人公の家に、ヒロインが押しかけて来るに違いない。やっぱり麻子ちゃんの恋路にヒロインは邪魔だなー。機会があったら片付けておくべきだろう。主人公に疑われない機会があったらね。

 

 

 さて、シャガクシャ様の好感度を上げておこう。麻子ちゃんが化物の臭いを嗅ぎ取った事から気付いたけど、シャガクシャ様は麻子ちゃんの正体に気付いているかも知れない。主人公とシャガクシャ様は仲が悪いけれど、主人公と麻子ちゃんの仲が進展する前に暴露されるのは困る。そういう訳で、麻子ちゃんに用意したセリフを読んでもらった。

 

『(甘えるように)あっ、あのね、(尊ぶように)シャガクシャ様。(嬉しそうに)今日は助けてくれて、ありがとう』

「あっ、あのね、シャガクシャ様。今日は助けてくれて、ありがとう」

 

「おめえのために助けたんじゃねーよ。あの忌々しい小僧が、わしに必死こいて助けを乞う姿が見たかったのよ」

 

『(戸惑うように)うっ、うん。(恥ずかしそうに)でもシャガクシャ様が弱点を教えてくれなかったら、私も危なかったから……』

「うっ、うん。でもシャガクシャ様が弱点を教えてくれなかったら、私も危なかったから……」

 

『(媚びるように)だから、ちょっとだけなら、かじっていいよ?』

「だから、ちょっとだけなら、かじっていいよ?」

 

 と言いつつも、麻子ちゃんはシャガクシャ様が嫌いだ。かじろうとしたら容赦なく斬るだろう。あんなセリフを読ませたけれど、こっちもシャガクシャ様に麻子ちゃんをかじらせる気はない。お前はパンでも食ってろー、という気分だ。だから「御礼をしたい→かじらせない→だから他の事で御礼する」という流れに持っていく。

 

「姉ちゃん! なに言ってるんだよ!」

 

 そこへ横から主人王が割り込んだ。不用意に近寄るなー! 主人公だろうとヒロインだろうと斬る時に容赦はない。思った通り主人公は、麻子ちゃんに剣で斬られそうになった。でも主人公は今回も上手く避ける。運が良いのか、運動能力が高いのか……そういえば主人公は「おまえに美術部は合ってない」って言われてたなー。するとシャガクシャ様も、麻子ちゃんから身を引いた。

 

「けっ、混じりもんの肉なんぞ食えるかよ」

「混じりもんって、どういう意味だよ?」

 

 あっ、シャガクシャ様が見えていた地雷を踏んだ。麻子ちゃんは緊張して、剣を握る。下手な事を言う前に、シャガクシャ様の口を封じるつもりなんですね。そんな麻子ちゃんの様子に主人公は気付いていない。でもシャガクシャ様は、主人公の向こうで剣を握る麻子ちゃんが見えていた。麻子ちゃんは剣先をチラチラさせる。

 

「……じつはわし、朝から石食いの事を知ってたのよ。妖怪同士はニオイで分かるからな。ヤツの結界が目の前にあるのに、必死で探し回るおめーがマヌケでよー。ぎゃはははははは!」

 

「そういう事は早く話せよ、タコ!」

「コラ、勘違いすんなよ小僧! わしはおまえに取り憑いてるんだぜ、食うためによ……人間なんぞクソくらえだ!」

 

 シャガクシャ様は誤魔化したらしい。懸命な判断だ。命拾いしたな……麻子ちゃんセーフ、セーフだよー! たぶん主人公は気付いていない。争う2人を前に麻子ちゃんはアワアワしているけれど、内心は「シャガクシャ様死ね」と思っているに違いない。心配性な麻子ちゃんにとっては、いつ秘密を暴露されるか不安で仕方なかった。


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