【完結】(白面)ノ 剣【神様転生】   作:器物転生

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【あらすじ】
冥界で武器を手に入れ、
現世へ帰還したものの、
味方が壊滅状態でした。


希望より絶望へ至る

 ジエメイさんの生まれ変わりだと言う白髪の少女に教えてもらったのは、現在の絶望的な状況だった。自衛隊は騙され、妖怪は仲違いを起こし、光覇明宗は内部分裂を起こし、その他の組織も壊滅状態に陥っている。さらに人々が恐怖する事で、白面の力は増し続けていた。

 

「うしお、貴方が戻ってきてくれて良かった。貴方がいるからこそ、まだ希望は潰えていません」

「白面を私達が止めねば……大勢の人々が死ぬのです」

 

 白髪の少女は全く諦めていなかった。それは母ちゃんも同じだ。ああ……なんて眩しいんだろう。「こりゃダメだ」なんて、内心で思っていたオレが恥ずかしい。そうだ、オレは皆を守るために戻ってきたんだ。誰も殺させたくないから、オレは戦う。失われて行く誰かの命を、この手で摑み取りたかった。まだ何も終わっちゃいない。

 

 白髪の少女と母ちゃんは結界で、白面を捕らえようとしていた。だけど白面が速すぎて捉え切れないらしい。わざわざ白面が、ここまで封印されにやってくるとは思えない。もしも白面が戻って来るとしたら、全てが終わり日本が沈没した後だろう。こちらから白面を捕らえに行くしかないのか。

 だけど白面は空を飛び、高速で移動できるらしい。こんな時シャガクシャが居れば……そう考えていると、空の向こうからシャガクシャが飛んできた。まさかオレが心の中で呼んだから来た訳じゃないだろう。シャガクシャを近くで見ると、全身に傷を負っている。手足が千切れた痕もあるし、胸部を縦に裂いた痕もあった。だれかと戦ってたのか?

 

「おーい、シャガクシャー!」

「なんだよー! うしおー!」

 

「おまえ、その怪我どうしたんだよ!」

「ちぃーと面倒くせぇ奴の相手をしてたのよ」

 

「うしおー!」

 

 シャガクシャと話している間に、聞き覚えのある声が割り込む……だけど、あいつがココにいるはずがないよな? そう思って辺りを見回すものの、目に映るのは白髪の少女と母ちゃんとシャガクシャと姉ちゃんの4名だ。すると大きなシャガクシャの背中から、麻子が飛び降りた。

 

「なんで麻子がシャガクシャの背中に乗ってるんだよ!?」

「あんたが行方不明になってから、いろいろあったのよ!」

 

 話を聞いてみると、動き回る人形を倒すために美術館の一室を爆破したり、親戚が妖怪に取り憑かれてバイクから飛び降りたりしたらしい。なにやってんだか……それらの事件の際に、辺りをウロウロしていたシャガクシャに助けられたとか。なんで麻子の周りに……いいや、オレが帰ってきそうな場所で待っていてくれたのか? シャガクシャの性格から考えて、大人しく待っていてくれるとは思えない。シャガクシャと一緒にいたオヤジが何か言ったのかも知れないな。

 

「お前の事だからオレを置いて、一人で白面に突っかかったのかと心配してたぜ」

「なーんでわしが、そんな自棄おこさなきゃならんのよ?」

 

 シャガクシャが来てくれたおかげで助かった。シャガクシャの飛行速度なら、白面に追い付けるかも知れない。だけど麻子を、この海の上に置いては行けない。飛べない麻子をシャガクシャに乗せて陸まで運び、そこまで姉ちゃんには自力で飛んでもらうか……いいや、そもそも姉ちゃんは、これから如何するのだろう?

 

「今からオレ達は白面を追うけど、姉ちゃんは如何する?」

 

 もちろん"オレ達"に麻子は含まれていないが……オレと麻子が話している間に、小さくなっていた姉ちゃんの体がビクリと震える。その様子は恐がっているように見えた。剣を持っていない姉ちゃんは、白面と戦えない。安全な場所に避難するべきだろう。それとも、この岩柱の上に残るつもりなのか。戦う力のない姉ちゃんが、ここに残るのは危険だ。

 

「うっ、うしおは……わっ、わたしのために死ねる?」

 

 ……ん? どういう意味だろう。姉ちゃんの質問にオレはハテナマークを浮かべた。これから白面の者と戦うという話の流れから察するに、「オレが他人のために死ねるのか」って意味か? オレは白面の者と戦って死ぬかも知れない。だけど、だからと言って逃げれば、またオレは誰かの命を見捨てる事になるんだ。

 

「姉ちゃんも皆も、オレが守るよ。だから姉ちゃんは安全な場所に居てくれ」

「そっ、そっか……」

 

 

――るんっ

 

 

 聞こえるはずのない音色が聞こえた。不吉な、あの音色が。その直後、オレの横でドシッという音が聞こえる。それは「刀を畳に突き刺した」ような音だった。その音に釣られて横を見ると、麻子の肩から何か生えている、白い棒のような物が麻子の肩から、服を突き破って生えていた。

 

「おい、麻子。そんなもの生やして大丈夫なのかよ……?」

 

 オレは麻子に手を伸ばし、肩にポンッと触れた。すると目の前で、麻子の体が破裂する。まるでオレが触れた事で起爆スイッチが入ったかのように、麻子の上半身が吹っ飛んだ。残った腰から下が、足下にドサリと落ちる。その状況が理解できなくて、オレは固まった。まさか白い棒のような者が麻子に「刺さっていた」とは思わず。「麻子が死んだ」とも思えなかった。

 麻子が爆発した勢いに乗って、飛んで行った物がある。麻子の体から生えていた白い棒のような物だ。それはクルクルと飛んで行って、掲げられていた姉ちゃんの手に納まった。それは白い刀身の剣だ。キリオに砕かれ、冥界に置いてきたはずの剣が、なぜか其所にある。

 その白い剣を姉ちゃんは振る。母ちゃんと白髪の少女に向けて振った。一瞬、結界で足止めされたものの、その結界も白い剣で斬り裂かれる。母ちゃんと白髪の少女を、白い剣が襲った。白髪の少女は、とつぜん姿を現した子供のような妖怪に庇われる。だけど母ちゃんは首を切断され、その切り離された頭部は爆散した。

 

「オマモリサマ!」

 

 白い髪の少女が叫ぶ。姉ちゃんに斬られた子供のような妖怪の名前らしい。その悲鳴を他人事のように遠く感じていた。黒髪の少女を斬り捨てた姉ちゃんは、白髪の少女に追撃する。だけど、その姉ちゃんを背後からシャガクシャが殴った。打っ飛ばされた姉ちゃんは、石柱から外れた空中で停止する。姉ちゃんは空に浮かんだ。

 

「このアホが! ボケッとしてんな!」

 

 オレに向かってシャガクシャが言う。その警告でオレは現実に引き戻された。すぐ側に麻子の腰から下が、離れた場所に母ちゃんの首から下が……爆発が止血になっているのか、飛び散った血は少ない。白い剣に付いた血は、白い刀身に吸い込まれて消える。その剣を手に持っているのは姉ちゃんだった。

 

 マタ、マモレナカッタ…

 

「あああ……ぁぁぁぁぁぁああああああアアアアアアアアアアアア!!」

 

 声に出しているつもりはなかった。感情を抑え切れず、オレの心は引き裂かれる。どうしようもなく、頭を掻きむしった。「まだ間に合うかも知れない」とか「生きているかも知れない」とか、そう思う前に現実を認めたくなかった。白髪の少女とシャガクシャが厳しい目で、宙に浮かぶ姉ちゃんを見ている。それで、どうしようもないのだと思い知った。

 

「なーんで打っ壊れたはずの剣があるのかと思ったけどよ……思い出したぜ。古代へ行った時に、もう一人のうしおが、もう一振り持ってたっけなぁ」

「うっ、うん……あの子は"2振り"あったの。うしおが昔々に増やした"御屋形様の剣"と、エレザールの鎌の研究のために"引狭が取り寄せた剣"の2振り……」

 

 たしかにオレは、この剣が同時に2振り存在している瞬間を見た事があった。古代に行った時、"ジエメイさんを見捨てたオレ"の持っていた剣が、目の前にある剣なのか。"あのオレ"は「ジエメイさんを助けようとして、獣の槍が生まれなかった世界のオレ」と言っていた。キリオに壊された剣は、"引狭が取り寄せた剣"だった。そして、ここにあるのが"御屋形様の剣"。

 

「はなから白面の配下だったって訳か。にしちゃ、うしおを殺すどころか、うしおを助けるようなマネしてたじゃねーか」

「うっ、ううん……違うよ? あっ、あの子は"御屋形様の剣"じゃなくて、"引狭が私にくれた剣"だったから……ニンゲンが言う"白面の剣"って、"こっちの子"の事なの。わっ、わたしがうしおを助けたのは、うしおを嫌いじゃなくて……好き……だったから……だよ?」

 

 恥ずかしそうに姉ちゃんは言う。すぐ近くに麻子と母ちゃんの死体を晒したままで……その有り様が気持ち悪かった。なんで、こんな事をした後で、オレを"好き"だなんて言えるのか分からない。相手を好きなら傷付けたくないと思うもんじゃないのか? 大切にしたいと思うもんじゃないのか?

 

「どうして……姉ちゃんは、麻子と……母ちゃんまで殺したんだよ……!」

「だっ、だって"ソレ"が居ると、うしおが私を麻子って呼んでくれないでしょ? わっ、わたしはね。"あの子"からうしおの事を聞いて、弟が居るって聞いて、家族が居るって聞いて、うしおと会うのを楽しみにしてたの。そっ、それなのに"ソレ"は私を"姉ちゃん"なんて呼ばせて、ずうずうしく"麻子"って名前を奪ったの。うしおが居ない間に私を、2人がかりで威圧して……卑怯だよね?」

 

「そんな下らない理由で、人を殺したのかよ!?」

「くっ、くだらなくなんてないよ! 「お母様」がキリオの担当で、引狭が私の担当で、でも引狭が死んだから私の担当は居なくなったの。「お母様」はキリオの担当だから、引狭が死んでも私の面倒は見てくれなかった。わっ、わたしは私を見て欲しくて……そしたら、あの子がうしおの事を教えてくれたの。私には"血の繋がりのある本当の家族"がいるって……」

 

「オレが姉ちゃんの家に行った時……「お母様」は優しかっただろ……?」

「うっ、うしおも知ってるでしょ? 「お母様」は"白面の使い"だったの。あの時だって、獣の槍を壊せるか試してた。うしおが来た時は実験体たちを隠して、汚い所は隠してたの。うっ、うしおが殺されなかったのは、私が寝ている間に"あの子"が「お母様」に直接接触して説得したからだよ? そのとき婢妖に情報を流されて、あんなに早く襲われちゃったけど……」

 

「やけにペラペラ喋るとは思ってたけどよ……おい、上だ。うしお、やつが来るぜ!」

 

 シャガクシャに言われて見上げた空は、厚い雲に覆われていた。嵐が近いのか、雲の流れは速い。その厚い雲を獣の頭部が突き破った。巨大な胴体の後に、九つの尾が後を追う。古代で見た時よりも、そいつは遥かに大きくなっていた。配下の妖を従えて、白面の者が舞い降りる。

 

『快楽! 悦楽よ! 悲・哀・憎・悔の泥濘にのたうつ人間の心を感ずるのは!』

 

 最悪の時に、災厄がやってきた。白面が封印されていた土地に、わざわざ戻ってくるはずがない。戻ってくるとすれば、それは沈み行く国を滅ぼし尽くした後だ。そうして滅びて行く様を、白髪の少女や母ちゃんに見せ付けるつもりだったのだろう。たとえ獣の槍の復活を知ったとしても、わざわざ白面本体が出向く必要はない。

 母ちゃんが死んだ事を知ったとしても、わざわざ見逃した程度の存在を潰しにくる必要はない。白髪の少女や母ちゃんの張る結界を、白面は恐れていないんだ。だとすれば、ここに冥界の門があるからか? いいや、違う。もっと単純な理由だ……こいつはオレを嘲笑(あざわら)うために、そのためだけに戻ってきやがった。

 

『くくく……共に戦う友軍はなく、孤立無援。父は斗和子になぶり殺され、母と思いを寄せていた女を、我が剣に殺されたか。哀れよのぅ……獣の槍を使う者よ』

「待てよ、オヤジが……なんだって?」

 

『まさか……おまえがこの世から姿を消した後、父が無事に生き延びたとでも思っていたのか?』

「シャガクシャ! オヤジは、おまえが……助けてくれたんだよな……?」

 

「……いいや」

「なん……だって……?」

 

 

 オヤジも、死んだ?

 

 

『何故おまえの父が死んだのか、教えてやろうか? そやつはおまえの父を見捨てて、己が身のかわいさに一人で逃げたのだ……さきほど我の使いとして立ち塞がった人間の裏切り者を殺したようなぁ……たしか、その者はナガレといったか?』

 

「ナガレ……? まさか、流兄ちゃんの事か!?」

「あぁ、わしの邪魔をしたからなぁ……だから殺した。ナガレは殺してやったぜ」

 

 流兄ちゃんまで、裏切ったのか?

 それをシャガクシャが殺した?

 オヤジも見捨てたのか?

 

「うそ……だろ?」

「いいや……」

 

「本当……なのか?」

「ああ……」

 

「オレは……お前なら……オヤジを助けてくれるって……!」

 

 オレは顔を歪める。「どうしてオヤジも連れて逃げてくれなかったのか」なんて思った。シャガクシャは本当にオヤジを見捨てたのか? オヤジまで死んだなんて……どうすりゃいいんだよ。オヤジが死んで、母ちゃんが死んで、麻子が死んで、姉ちゃんが裏切って……もう訳分かんねぇよ。

 

『なぁ……斗和子よ』

『ほほほ、白面の御方の申される通りに……』

 

 白面の尾が変化して、巨人へ形を変えた。斗和子と呼ばれる"白面の使い"へ。そいつを見たオレの心臓がドクンと跳ねる。剣を握る手に力を込めた。ずっと一緒だった姉ちゃんの時は、憎み切れなかった。シャガクシャも同じだ。だけど斗和子に対しては強い憎しみを覚える。そうだ……そもそも白面が、姉ちゃんを裏で操っていたんじゃないかと思いついた。そうしてオレは、感情を打つける相手を見つけた。

 

『おまえが我への憎しみに塗れて行くのは心地良い。そうだ……我が、我という存在が、諸悪の根源よ! 我がおまえの全てを奪ったのだ。父も母も女も、すべてを!!』

「そうだ……おまえが……おまえのせいで……!」

 

 

 げしっ

 

 

「アホか。おめーのオヤジが死んだのは、おめーが弱かったからだろーが」

 

 シャガクシャが拳で、オレの頭を打った。オヤジが死んだのは、オレのせいだと、ほざきやがった。頭が沸騰したオレは、シャガクシャに殴りかかる。するとシャガクシャは避ける事もなく、オレの拳を顔に受けた。仲違いを始めたオレ達を、白面は愉快そうに眺めている。

 

「母親が死んだのも、女が死んだのも……ぜーんぶ、おめーが弱っちかったからだろ?」

「ふざけんなよ、このクソ妖怪! 他人に責任を擦り付けるんじゃねえ!!」

 

「擦り付けてんのはおめーだろうが、小僧! てめーのオヤジが死んだ時、おめーは何をしてた? そこで母親と女を殺したガキを助けようとして、穴の中に姿を眩ましたじゃねぇか。おめーがガキを放って置きゃ、そいつらが死ぬ事は無かったんだよ!」

「そんな事……姉ちゃんが、母ちゃんと麻子を殺すなんて、その時は分からなかっただろ!」

 

「てめーの母親と女が死んだ時も、ボケーと突っ立ってただけだろーが! 誰が、あのガキを止めてやったと思ってんだよ! そのくせして『オレは……お前なら……オヤジを助けてくれるって』だぁ!? 勝手に期待して、勝手に失望してんじゃねーよ! けっ、バッカじゃねーの!」

「てめぇ……! いいかげんにしろよ……!」

 

「獣の槍が無いと何にも出来ねぇだ? あっても、なーんにも出来ねーくせによ! 笑わせるぜ!」

「なんだとシャガクシャァ!!」

 

「いけません、うしお! あなたが今最も信じねばならないのは、シャガクシャ殿なのですよ!」

 

 

「こんな"他人任せ"な奴を信じるなんざ御免だぜ!」

「こんな"自分勝手"な奴を信じるなんざ御免だね!」

 

 

 パチンッ

 

 

 とオレの頬から軽い音が鳴る。白髪の少女が……現代に転生したジエメイさんが、オレの頬を打っていた……なんでシャガクシャじゃなくて、オレなんだよ。オレが悪いってのか? 白髪の少女から下に視線をずらせば、母ちゃんと麻子の死体が目に飛び込んでくる。上に目を逸らせば白面の巨体が視界を塞ぐ。どこも見ていられなくて、もう限界だった。もう何も見たくない。

 

「なんだよ……オレが悪いのかよ。そうだよ……ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ!! オヤジが死んだのも、母ちゃんが死んだのも、麻子が死んだのも、オレのせいなんだろ! ああ、分かったよ! 終わらせてやる! なにもかも!」

「うしお! 憎しみの心で白面と戦ってはいけません! 憎しみでは……白面は倒せないのです!」

 

 白髪の少女の言う事も聞かず、大きめの鞘から剣を抜いた。ザワザワと髪が伸び、体に力がみなぎる。白面は空に居るけれど、心配はいらない。剣に導かれるまま、オレは白面へ向かって飛んだ。剣の柄を掴み、剣に引っ張られるように付いて行く。そうして白面に刃を突き立てた。

 

『しょうことも……なし』

 

 痛がっている様子も、怒っている様子もなかった。白面の冷たくて平坦な声が間近に聞こえる。そして手の中の感触がなくなった。白面に突き刺さった剣が、鋭い音と共に砕け散る。ああ、終わった……なにもかも……オレの体は重力に引かれて落ちて行く。そんなオレに最後の止めとして、白面は巨大な尾を振り下ろした。


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