革命軍に所属してから一週間が過ぎようとしていた。けれど、まだ明確な所属は割り振られてはいない。
「くぁ……」
大きくあくびをするリヒトは、川の近くにある巨大な岩の上から釣り糸を垂らしていた。
ブラートに聞いた話だが、このあたりには美味い巨大魚がいるらしい。それを聞いてなんというか、男の浪漫と言うやつがふつふつと沸きあがってきて現在に至る。
「……巨大とか言われるとなんか釣り上げたくなるんだよなぁ」
苦笑気味にひとりごちるがそこで竿が大きくしなりを見せ、思わず身体が川の中に引きずり込まれそうになる。
「来たか」
岩の上で何とか態勢を立て直すと、足と腕に満遍なく力をこめる。
「フンヌッ!!」
思わず変な気合の掛け声が出てしまったが、それによって川面の巨大な影が出現し、そのまま大きな水飛沫を上げながら巨大な魚が飛び出してきた。
巨大魚はそのまま川原に打ち上げられてビチビチと跳ね回っていたが、やがて呼吸ができなくなったのか動きが鈍くなった。
「コイツがそうか……確かにでかいな。でも強烈な顔してんなぁ」
正面に回りこんで巨大魚の顔を拝みながら呟くが、隣で「きゅ~」というなんとも可愛らしい腹の虫の声が聞こえた。
「……何やってんだアカメ」
「音がしたので来て見たらリヒトが巨大魚を釣り上げていた」
淡々と言うものの、彼女の口元からはヨダレがひとすじ垂れており、尚且つ凄まじく物欲しそうな瞳でこちらをジーッと見やってくる。
十中八九喰いたいのだろう。一週間革命軍に身を置いてわかったことだが、アカメはかなりの食いしん坊キャラだ。
「はぁ……喰うか?」
問うてみるとアカメは首が千切れるのではないかと言うほど頭を縦に振った。それに微笑を浮かべつつ、巨大魚の腹に片手剣を突き刺して捌き始める。
「あぁそうだ、アカメ皆にも食わせるために全部喰うなよ?」
「ああ、もちろんだ」
「……よだれ出まくりの表情で言われても説得力ねぇけど」
こちらに言ってくる彼女の瞳は異様に輝いていた。
巨大魚を捌き、刺身と焼き身にしたものを近場にあった大き目の葉っぱの皿に乗せると、二人はそれを食べ始める。
「うん、うまい」
「そうだな」
言葉は少ないものの、特に仲が悪いという雰囲気でもない二人は黙々と巨大魚を食べる。
「リヒトは料理が上手いようだな」
「そりゃどうも、でもこんなん切って焼いただけだ料理の部類には入らないだろ」
「そうなのか?」
「多分な」
肩を竦めながらリヒトが言うと、アカメも納得したように頷いていた。
やがてそれぞれの分を食べ終えた二人だが、そこでリヒトがアカメに告げる。
「なぁアカメ、腹ごなしに軽く鍛錬でもしようぜ」
「うん、構わない」
「そっか、んじゃあまずは適当に組み手から――」
「リヒトー! アカメー!」
そこまで言ったところで後ろから声をかけられた、見るとブラートが手を振っている。
「招集がかかってる! 行くぞ」
「ああ、わかった! ……じゃあ鍛錬はその後にするか」
「そうだな」
二人は互いに頷き合うと、ブラートの下に駆けて行き、そのまま三人で召集場所へと向かう。
召集場所に行くとそこにはナジェンダとラバックがいた。
「急に呼び出してすまないな」
「別にいいけど……何の召集なんだ?」
「そのことだが……リヒト、お前にある部門への配属が決まった」
「どこだ?」
聞き返すと、彼女は小さく笑みを浮かべながら告げる。
「実は我々革命軍に帝都の外道共を暗殺する新たな組織『ナイトレイド』ができた。今のところ確定しているメンバーは私を含めてその三人だ。そして初期メンバーとしてはあと一人が必要なんだ」
「てことは……」
「ああ、察しが良いな。最後のメンバーはお前だ」
義手の指でこちらを指してくるナジェンダはクールな笑みを浮かべていた。胸がなかったら普通に男と思ってしまうほどイケメンだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
「帝都の内部のゴミ掃除をするってわけだよな」
「簡単に言えばそんなところだ。で、どうだ? やれるか? まぁ決定と言っても今なら入らないと言うのもありだが、どうする」
真剣な眼差しで自分を見据えてくるナジェンダの気迫は、元将軍というだけあってかなり凄まじかった。
けれど、リヒトはそれに対してニッと口角を釣り上げて言い放つ。
「いいぜ、そのナイトレイドにオレも入れてくれ」
言うと同時に、ナジェンダも「その言葉を待っていた」と言う風にニヒルな笑みを浮かべる。
「お前ならそういってくれると思ったよ。では……これからよろしく頼むぞ、リヒト」
「ああ、こちらこそよろしくな。で、アンタの事はどう呼べばいいんだ? ボス?」
「そうだな……まぁなんでもいいさ。好きなように呼べ」
「了解だ、ボス」
肩を竦めつつ言うとナジェンダもうんうんと頷いた。するとそこでブラートが声をかける。
「そういやボス、リヒトには帝具を持たせるのか?」
「あぁそうだったな。リヒト、ちょっと着いて来てくれるか? 皆も頼む」
ナジェンダに言われリヒトは彼女の後を付いていき、その後ろにラバック達が続く。
五人がやってきたのは厳重に鍵がかけられた倉庫のような場所だった。それにリヒトが少しばかり驚いていると、ナジェンダがポケットから鍵を取り出して扉を開け、中に入っていく。
倉庫の中は薄暗かったが、ラバックがランプを持ってきたので何かを見るのにはこまらなそうだ。
しばらく進むと、ブラートが大きめの箱を持ってきて、アカメが台を引きずってきた。
ブラートは箱に入っていたものを取り出して、台に乗せ始める。台に全てを乗せきるとラバックがランプで照らす。
「これは……」
「今現在革命軍にある帝具だ。この中でお前に適合する物があればいいが……まぁもしなくてもそのうち何とかなる」
「ふーん……でもよ、帝具ってどういう風に適合するんだ?」
「基本的には第一印象が強いぜ。自分が見て「かっこいい」とかプラスの方向に感情が動けば相性が高いだろうし、「あんまりよくない」って言う風にマイナスに考えると相性は悪いことが多い」
「オレもクローステールのときは第一印象だったからね。まぁそのあたりから選べば良いと思うよ」
ブラートのラバックの解説に頷いて納得すると、リヒトは並べられた帝具に向き直る。
左から並べられた帝具は四つ。多いとはいえないが、内乱によって大半が紛失したのだからしょうがないと言えばしょうがないだろう。
むしろ、帝国が牛耳ろうとしているのに四つもあるのだからそれはそれですごいと言える。
「結構形も色々だな、これは……ハサミか」
「それは『万物両断・エクスタス』だな。非常に高い強度を誇るレアメタルで形成されている。気に入ったか?」
「いや、まぁ嫌いじゃないけど……いまいちピンと来ないな」
エクスタスをその場においてため息をつき、そのほかの帝具も見て回るが、これと言って何か来るものはなかった。
「特になかったようだな」
「ああ、まぁ別に帝具がなくても戦えるしな。帝具持ちとの戦闘はめんどくさそうだけど」
肩を竦めつつアカメに答えてみるが、そこで先ほどまで帝具が入っていた箱を覗き込んでいたラバックが声を漏らした。
「なんか最後一個余ってるのがあったよ」
箱から帝具と思しきものを持ってきたラバックが台の上にそれを乗せた。金属質な音とジャラっという鎖のような音が聞こえた。
皆がそれを覗き込むが、ブラートが肩を竦めた。
「随分古ぼけてんな、埃被ってるぜ」
「多分他の帝具の下にあったから存在自体が忘れられてたんだろうね。古文書とかには載ってないないですか? ナジェンダさん」
ラバックが問うと、ナジェンダは棚の上にあった古文書をペラペラとめくり始めた。すると最後の方のページにに差し掛かったところで彼女はページをめくる手を止めて、皆にそのページを見せる。
ページには鎖と、その先端には竜のアギトを模したオブジェがついているイラストが描かれていた。
「
イラストの下に書かれている文字をブラートが読み上げる。
「でも双頭って言う割には一本しかなかったぞ」
「てことは足りないのか?」
アカメやラバックが考え込んでいると、ブラートがリヒトに言う。
「おい、リヒト。多分その帝具一本足りないみたいだから装備は出来ないと思うぜ」
その声にリヒトは被りを振った。
「いいや、これはこれで良いんだ」
「「「「?」」」」
リヒトの言っていることが良く理解できていないのか四人は首を傾げたが、それを尻目に鎖に触れてみる。
瞬間、鎖はまるで生きているかのようにドクンと脈動する。そしてその場に浮き上がると同時にリヒトの周りを旋廻し始めた。
リヒトが手を出すと鎖はその上に落ち着き、蛇がとぐろを巻くように丸まった。
「うん……身体に馴染む感じがする」
「てことは適合できたってことか。でも何で双頭?」
「それは多分、コイツのことだろ」
良いながらリヒトがもう一方の手を出すと、その上に真っ黒な鎖が現れる。その先端にももう一方の方と同じように竜のアギトのようなオブジェが現れていた。
しかし、こちらの鎖はどこか存在がおぼろげで、透けているようにも見える。
「どっから出したんだそれ?」
「オレの精神力を削って出来てるみたいだ。いわば、精神エネルギーで出来た鎖だな。多分双頭ってのはこういうことなんだと思う。コイツに触った時にやり方も頭の中に流れ込んできたから、適合しないとやり方がわからないんだろうな」
「なるほど……。やはり帝具はわからないことも多いと言うことだな」
ナジェンダも納得したのか小さく頷いた。しかし、すぐに皆のほうに向き直って宣言する。
「では、今このときより、私たちは革命軍の帝都専門暗殺部隊、『ナイトレイド』だ。明日には帝都近郊のアジトへ向かう……各自準備をしておけ」
ナジェンダの指示に四人は頷くことで了解の意を表した。
その後、倉庫を出るとナジェンダを除いた四人は川原へと向かう。
理由は、リヒトの帝具がどんなものなのか、試すためだ。
「よし、んじゃまずは軽く何を出来るかやってみろよ」
「ああ」
ブラートに言われ、リヒトは右腕に巻きついている鎖を限界まで伸ばしてみようと鎖を伸ばしてみる。けれどその時点でその場にいた全員が異変に気が付いた。
「鎖がさっきよりも長くなっている」
アカメがそう漏らすと、ブラートとラバックも頷いた。それはリヒトもわかっていることであり、確かに先程よりも長さが増している。その長さは腕に巻きつくほどの長さだったものが、今は凡そ二十メートル弱にまで達している。
けれど、ただ伸びたのではなく、鎖の一つ一つの太さや大きさも変わっている。
「そういうことか」
「なんか気が付いたのか?」
「ああ。多分こっちの鎖も少なからずオレの精神エネルギーを喰って長さを調節することが出来るみたいだ。でも伸ばせば伸ばすほど、相手を縛る力は弱くなっていくんだろうな」
鎖を戻しながら言うと、確かに彼の腕に収まった鎖は最初の太さに戻っている。
「んじゃあ、次は全てが精神エネルギーで出来てるそっちの方を使ってみなよ」
ラバックが言ってくるのでもう一方の精神エネルギーのみで構成された鎖を、たまたま水面から飛び跳ねた魚に向かって伸ばす。
音もなく伸びる鎖は、やはり先ほどの鎖と同じく自動的に伸びていく。やがて先端の竜のオブジェが魚に突き刺さる。けれど、魚は何事もなかったかのように水中へ戻っていく。
「アレ?」
「今確実に魚を貫通したはずだよな?」
「うん、だとおもうけど……」
リヒトに加えてブラートとラバックが首をかしげていると、アカメが告げてきた。
「いま魚にはあたったけどすり抜けてた」
「すり抜けた?」
首をかしげながら問うと、アカメは頷いて鎖を戻すように言ってきたので、それに従い鎖を戻す。
すると彼女は戻ってきた鎖を持とうとしたが、鎖は彼女の手をすり抜ける。
「やはりな。こっちの鎖は人の身体のように実体のあるものには触れられないようだ」
「それじゃあ実体がないものには触れられるって事か?」
「だろうな。またはもっとリヒトの精神エネルギーを消費させれば触れられるようになるのかもしれない」
「じゃあ、ちょっとやってみっか」
アカメの言うことに納得すると、リヒトは精神を集中させる。すると、先ほどまで若干透けていた鎖が濃い色を帯び始めた。
ある程度濃くなったところでアカメが持とうとすると、今度は普通に持つことが出来たようだ。けれど、リヒトには若干の疲れが見られる。
「おー、アカメちゃんの行ったとおりだな。でもさ、いちいちこんなことしてたら、体力、精神力を使う帝具を長い時間は使えないんじゃないの?」
ラバックの問いも尤もだ。現時点でもリヒトの精神力はそれなりに消耗している。まぁ帝具での戦闘が長期化するような事は余りないらしいので、そこまで気にしなくてもいいのだろうが。
「確かにそうだな……。でも実体のないものって言うとなんだ?」
「幽霊とか?」
「そんなもん触ってどうすんだよ。ん? 待てよ……」
ラバックに突っ込みを入れてみたが、リヒトは何かが引っかかった。
……帝具は精神力もかなり消耗する……。ってことは――。
「ブラート、頼みがある」
「ん? なんだ?」
「アンタの帝具ってインクルシオって言う鎧型の帝具だったよな。今ここで展開してくれないか?」
「別にかまわねぇけど。なんか気付いたのか?」
「ちょっと試してみたいことがあってな」
ブラートの問いに小さく笑みを見せながら答えると、彼も頷いてリヒトから少し離れた所で自身の帝具、インクルシオを展開する。
ブラートの帝具、インクルシオは最高の防御力を誇る鎧の帝具である。また、使用者の能力も引き上げることが出来る。けれど、装備すると身体にかなりの負荷がかかり、常人では即死してしまうと言う。また、インクルシオには副武装としてノインテーターという槍がついてくる。
「これでいいか?」
「ああ、ちょっとそのままじっとしててくれよ」
リヒトは言うと左手の精神エネルギーで形成された鎖の精神エネルギーを弱めてブラートに向かって告げる。
「ブラート、今からアンタにこの鎖を巻きつける。痛みはないと思うけどやっても良いか?」
「おう、いいぜ。けど殺してくれるなよ?」
「そんなことしねぇよ」
肩を竦めると、リヒトは一呼吸の後に鎖をブラートに向かって伸ばす。鎖は真っ直ぐに伸び、ブラートに接近すると同時に鎖部分をしならせて彼の身体に纏わりつく。
けれど、はたから見ると実体のない鎖がブラートの身体に食い込んでいるように見える。
「なんか変化あるか?」
「いいや、特にはねぇけど」
「わかった、後一つやりたいことがあるからそのままでいてくれ」
リヒトはブラートに宣言すると、頭の中でヨルムンガンドに命じる。
……咬め。
するとそれが聞こえたのか、ブラートに巻きついていた鎖の先端にある竜のオブジェの顎がガパッと開き、ブラートの首筋に噛み付いた。
隣でラバックとアカメが驚いたような表情をするが、ブラートは特に気になっていないようだ。
「やりたかったことってこれか?」
「ああ、多分これでコイツがどんな能力を持っているのかわかるはずだ」
「へぇ……ッ!?」
ブラートが頷いた瞬間、装備していたインクルシオがバシュッという音と共に外された。それを見ていたアカメとラバックは最初彼がといたのかと思っていたが、ブラート自身が状況が良くわかっていない風だったので、彼がやったのではないとわかった。
「やっぱりな」
リヒトはブラートに巻きついている鎖を回収して、自身の手元に戻って来させると鎖を消す。
ブラートも首を傾げつつこちらに戻ってくると、問いを投げかけてきた。
「今のはなんだったんだ? インクルシオが強制的に戻されたぞ」
「だと思った。ちょっと待っててくれ、もうちょいコイツで色々試してから説明する」
それだけ言うと、ヨルムンガンドを両手に展開した状態で操作方法を確かめるように振るい始めた。
「よし、こんなもんか」
あらかたヨルムンガンドの操作方法が理解できたリヒトは三人の元に戻って先ほど起きたことの解説を始める。
「待たせたな、そんじゃさっきブラートのインクルシオが何で解けたのか、だよな。
アレをやる前、アカメがヨルムンガンドの実体のない方が実体のないものに触れられるかもしれないって言ったよな。アレでピンと来たんだ。精神力も実体がないんじゃないかってな」
「! なるほど……そういうことか」
ブラートは合点がいったのか口元に手を当てる。それに続いてアカメ、ラバックも理解したのかそれぞれ頷いた。
「三人ともわかったみたいだな。そう、実体のないヨルムンガンドは人間の精神力を縛る効果があるんだ。それだけじゃない、先端の竜の顎みたいなところで噛み付くように命じると相手の精神力を喰ってエネルギーとして変換できるみたいなんだ。
でも、今回インクルシオがアレだけ早く解けしまったのは、戦闘中じゃなかったこともあったからだと思う。実際戦闘中だともっと時間はかかると思う」
「使い方によっちゃあかなり強力な帝具だな」
「ああ、それに実体のある方を組み合わせれば色々な使い方が出来そうだ。ラバックのクローステールと似た感じかもな」
リヒトは小さく笑みを浮かべると、ブラートに頭を下げた。
「ありがとな、ブラート。それと実験みたいなことして悪かった」
「気にすんなって。これぐらい仲間同士ならお安い御用さ。俺達は同じチームだ。協力し合うのは当然だろ」
彼は笑みを見せながら言うものの、何故か若干表情が恥ずかしがっているようにも見え、尚且つ彼の後ろには満開のバラが見えた。ような気がした。
……なぜ顔を赤らめる。
内心で突っ込みを入れては見たものの、リヒトはすぐに雑念を振り払う。すると、ラバックが三人に告げた。
「そんじゃ、今日はこれぐらいにして皆明日に備えようぜ。明日は結構移動するし」
「そうだな、休息も大切だ――」
アカメがラバックの意見に同意して拳をグッと握った瞬間、彼女の腹が鳴った。
「――あと食事も」
「どっちかって言うとアカメは食事のほうが大切な気がするけどな」
「そんなことはないぞ。ちゃんと休息も取らねば――」
キュ~。
またしても彼女の腹の虫。
「わかったわかった、後でメシ行こうな」
肩を竦めつつリヒトは笑いながら彼女の背中をポンポンと叩いた。
四人はそのまま野営地に戻り、明日の準備に取り掛かった。
「リヒト」
夜、夕食を済ませたリヒトが適当に月を眺めていると不意に声をかけられた。そちらを見るとアカメがいた。
「どうした? まだメシ喰ってたんじゃないのか?」
「大丈夫だ、いろいろ持ってきている」
そういう彼女の両手には皿からはみ出るほどの料理が乗せられていた。いや、手だけではなく頭にまで乗っている。器用なことだ。
それに苦笑を浮かべていると、アカメは隣に座ってむしゃむしゃと食事を開始した。
「なんでこんなところ来たんだ? メシ喰うなら食堂で食ってた方が良かっただろ?」
「月が見ながら食べたくなった」
「なかなか酔狂な性格してるなお前」
「ほうか?」
口に大振りの骨付き肉を咥えている彼女だが、その姿は普通に堂に入っているように見えた。
しばらく横で料理を貪る音をアクセントに月を眺めていると、不意にアカメが呟いた。
「……クロメ……」
「クロメ?」
首をかしげながら問うと、アカメはハッとした後ポツリと言った。
「私の妹の名前だ」
「へぇ、お前に妹がいたのか。姉ちゃんのお前が食いしん坊なんだから妹も相当喰うのか?」
「ああそうだな。クロメはお菓子を食べていることが多い」
「かわらねぇよ」
ククッと小さく笑うと、アカメは少しだけ落ち込んだ様子を見せた。その様子を見て妹は死んだのかと思ったが、言葉が過去形ではなかったことからそうではないと思った。
するとリヒトは立ち上がってアカメに告げる。
「アカメ、オレは仲間になってまだ日が浅い。だから、なにかオレに話すことがあるのなら、それはもう少し先になってからでいいからな。お前の好きな時に話してくれ。
そんじゃ、オレは風呂入ってくるからな。お前もあんま喰いすぎんなよー」
ヒラヒラと手を振ってリヒトはその場を後にする。
だが、アカメからある程度離れた所で、声をかけられた。
「リヒト、少しいいか?」
声の主はナジェンダだ。リヒトは彼女の問いに頷くと二人は近場の切り株を椅子代わりにその場に腰を下ろす。
「お前にも話しておこうと思ってな。ナイトレイドの方向性についてだ」
「方向性?」
「ああ、今現在ナイトレイドは私を入れて五人。人数的には少ない」
「まぁそうだな。……もしかして何人かスカウトするのか?」
リヒトが問うとナジェンダは静かに頷いた。
「実は既に何名か候補が上がっているんだ。それに革命軍の中にも一人いる」
「革命軍にいる候補のやつは連れてけばいいんじゃないのか?」
「いや、彼女はもう少し鍛錬を積んでからだ」
「まぁボスが言うなら別に何もいわねぇけど」
ナジェンダの言葉に頷くと、リヒトはふと疑問に思ったことを口にする。
「そういやさ、話は変わるんだけど明日は何で移動するんだ? 馬か?」
「いいや。明日はここで飼いならしているエアマンタで移動する」
ナジェンダは恐らくエアマンタの巣があるであろう方向を指差した。けれどそちらには森があるだけだ。けれど明日になればわかるだろうとリヒトは頷いておく。
「エアマンタって飼いならせるもんなんだな。確か特級危険種だったろ」
「まぁそんな細かい事は気にするな。さて、ではそろそろラバックにも話をしなくてはならないからな。私はもう行く」
「明日は何時集合だ?」
「朝の七時だ」
「了解、ボス」
ナジェンダはラバックに話をしに行ったが、残されたリヒトは七時集合ということに小さく笑みを零した。
「はやくね?」
翌日の午前七時、リヒトを含めナイトレイドの面々はエアマンタの背中にいた。すると、ナジェンダがリヒト達の前に立って話を始める。
「さて、いよいよ今日から私たちはナイトレイドとして活動を始める。その前に皆に行っておきたいことが一つだ。
皆、絶対に無理はせず、生きて革命の日を迎えるぞ!」
「「「「おう!!」」」」
ナジェンダの言葉に四人は頷く。
同時に、エアマンタが浮上を始めいよいよ新たなアジトへの移動が始まった。
しかし、ある程度の高さまで上がったところでラバックが悲鳴を上げた。
「イヤァァァァァァッ!!!! やっぱオレ馬で行くぅぅぅぅぅぅぅ!!」
どうやら彼は高所恐怖症のようだ。けれど、そんな彼の背後に近づく影一つ。
「当身!」
「あひん!」
ラバックは首筋に当身をされてそのまま気絶した。
「ナイスだリヒト。あのまま騒がれてはたまらんからな」
「単純に最初っから気絶させときゃよかったんじゃねぇの?」
肩を竦めつつナジェンダに言うと、彼女も「それもそうだな」と口元に手を当てた。
ヤレヤレとは思ったが、これもこれで面白いとリヒトは小さく笑みを浮かべる。
そして、ナイトレイドの五人を乗せたエアマンタは帝都近くのアジトへと向かった。
はい、では今回でいよいよナイトレイドの面々が動き出したわけですね。
リヒトの帝具はまぁ鎖なんていう厨二全開の帝具ですが、恐らく使い勝手はいいようで悪いのでしょう。
というかパンプキンが精神エネルギーを打ち出すわけだから、精神エネルギーで構成された鎖があってもいいと思う。はい、これはわたしのかってな妄想です。スルーしてください。
次回は……一気に飛んで原作開始まで行くか……
ですが、とりあえずこれで第一部は終了です。
ここまで読んでくださった読者の皆様誠にありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いいたします。
では、感想などありましたらよろしくお願いします。