白銀の復讐者   作:炎狼

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第三十三話

 キョロクの街並みを見渡すことができる小高い丘の上には、タツミとマインの姿があった。

 

「どうにかこうにか斬りぬけたって感じだけど、とりあえず任務は成功したわね」

 

「ああ。けど本当に皆頑張ったよな。誰も欠けることなく生き残ったし」

 

 タツミは目を細めて遠くを見やる。

 

 視線の先に微かに見えているのは、天蓋が割れた大聖堂だった。

 

 ブリッツワイアームに掴まって半ば強引に大聖堂から脱出したナイトレイドの面々は、キョロク郊外の集合場所に身を潜めた。

 

 当初はもっと遠くへ身を潜めるべきだとも考えたが、ラバックが合流していないことも考え集合場所に留まったのだ。

 

 結果としてラバックは革命軍の諜報員二人に連れられて合流することが出来、療養中のシェーレも戻った。

 

 結果的にナイトレイドは誰も欠くことはおろか、一人の戦力が復帰したことになる。

 

 そして一日経過したもののエスデスの追撃はなかった。

 

 彼女自身も消耗していたようだし、帝都へ報告に戻ったのかもしれない。

 

「まぁ今回は革命軍のバックアップとシェーレが戻ってきてくれたことに感謝だな」

 

「ふふん、当然よ。シェーレが戻ったんだから負けるはずがないわ」

 

「……なんでお前が得意げなんだよ」

 

 親友が戻ったことが嬉しいのかマインは鼻高々と言った感じで無い胸を張る。

 

 タツミはそれに若干呆れ気味だったが、「そうだ」と彼女に向き直る。

 

「お前、ボリック暗殺任務の前に終わったら伝えることがあるとか言ってたけど、結局なんだったんだよ」

 

「……」

 

 タツミの問いにマインが少しだけ頬を染めるものの、彼は不思議そうに小首をかしげる。

 

「なんか顔あけーけど……冷えたのか?」

 

「ち、ちがうわよ! そのことに関してはあとで、もうちょっとムード的なものができたら言うわ!」

 

「はぁ? なんだよムード的なもんって……気になるから今言えよ」

 

「うっさいわね。伝えないとは言ってないんだから待ってなさい。ホラ、馬車がそろそろ着くわよ!」

 

「ちょ! なんなんだよ、分からねーやつだな!」

 

 ぐいぐいと背中を押され、タツミはマインと共に他のメンバーが集まっている場所へ向かう。

 

 

 

 二人が馬車へ向かう姿を、岩陰から見守る影があった。

 

 中性的な顔立ちの髪の長い青年、安寧道の教主は二人の姿を微笑みながら見やる。

 

「……よかった。あの二人、うまく行きそうで安心しました」

 

「誰が上手く行きそうだって?」

 

 不意にかけられた声に、教主は振り返る。

 

 そこにいたのは、綺麗な銀髪の青年だった。

 

「おや、ギンさん。貴方も無事でしたか」

 

「無事って……俺やあいつ等がなんなのか知った風な口振りだな。教主サマよ」

 

「これは失礼。ではこちらのお名前でお呼びした方がいいですかね、リヒトさん?」

 

「……やっぱり知ってたか」

 

 心の中を見透かすような瞳を向けられたリヒトは、肩を竦めると溜息をついた。

 

「まぁ安寧道の教主サマが、手配書に目を通してないわけねぇもんなぁ。ってことは、あん時も知ってたろ」

 

「はい。ですが特に言うべきでもなかったので、あえて話題には挙げませんでした」

 

「へぇ……でもいいのか? 俺のことを知ってるってことはナイトレイドも知ってるだろ。ボリックを殺したのも俺達だぜ?」

 

 やや睨むような視線を向けるリヒトであるが、教主は小さく首を振る。

 

 瞳には僅かに悲しげな色があるものの、憎悪や怒りなどといった感情は感じられない。

 

「確かに、彼を殺したのはあなた方ですが、彼が帝国のスパイであることは重々承知していました。時が来るまでは手を出すつもりは無かったのですが、それよりも早くあなた方が始末をつけてくれた。

 悲しいことですが、彼の行いを考えれば因果応報でしょう。なので、安寧道からあなた方に手を出すようなことはありませんよ。ご安心を」

 

 教主は胸のあたりに手を置いて軽く頭を下げた。

 

 声音や口調や一切乱れていない。

 

 どうやら本当にナイトレイドをどうこうするつもりはないようだ。

 

 まぁ安寧道の宗教観からすれば、今の帝国に反感を持っているのは当然なので、革命軍所属のナイトレイドを恨むとは思えないが。

 

「そうかい。邪魔して悪かったな」

 

 リヒトは満足した様子で踵を返そうとしたものの「リヒトさん」と呼び止められる。

 

「あの二人のことを守ってあげてください」

 

 教主の視線の先には馬車に向かうタツミとマインの姿があった。

 

 リヒトは再び教主に視線を戻して怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……なんか視えたのか?」

 

「ちょっとした予知のようなものです。ただ、正直に言ってあの二人に待ち受ける未来は過酷なものです。なので、私もこの予知が外れることを祈ります。そして貴方にはあの二人を守っていただきたい」

 

「どうしてそこまであいつ等に肩入れするんだ?」

 

 考えてみれば妙な話だ。

 

 タツミとマインが教主に出会ったのはあくまで偶然だったはず。

 

 そんな風に出会った二人をなぜそこまで気に掛けるのか。

 

 すると教主は優しげな微笑を浮かべる。

 

「深い理由なんてありませんよ。ただ、理由をつけるとすれば、若い二人の未来が摘まれてしまうのは、悲しいことじゃないですか。それに私、人の恋愛を見守るのが好きなもので」

 

 彼の理由はあまりにも個人的すぎる内容で、リヒトは一瞬言葉を失うものの、すぐに笑う。

 

「ハハハ! やっぱアンタ変わってんな。でも大丈夫さ。あいつ等は俺がしっかり守る。全てが終わったら、アンタに挨拶にでも行かせるさ」

 

「それは楽しみですね」

 

「ああ、楽しみに待ってやっててくれ。じゃ、俺はこれで行くぜ……っとそうだ。ホラよ、教主サマ」

 

 リヒトは色のついたビンを教主に放る。

 

 掴み取ったビンに貼られているラベルを見ると、以前教主とリヒトが出会ったときに飲んでいた酒と同じものだ。

 

「道中飲もうかと思ったんだが、怪我してるもんだからどうせ飲めないだろうし、アンタにやるよ」

 

「ありがとうございます。……リヒトさん。貴方の未来を知りたいですか?」

 

 投げかけられた声にリヒトは一切振り向かずに、手を挙げてかるく振った。

 

「……いや、いい。俺は俺の道を行くだけだ。じゃあな」

 

 リヒトはそのまま姿を消した。

 

 残された教主は、果実酒のビンに視線を落とすと僅かに口角をあげた。

 

「……幸運を祈ります。ナイトレイドの皆さん……」

 

 教主はキョロクの街へ向けて歩き出す。

 

 ボリックを失った教団内部は混乱するだろう。

 

 ならば、それを導くのが自身の役目だと、彼自身も覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 ナイトレイドの面々は革命軍が寄越した馬車に乗って一路、アジトを目指す。

 

 ただ、その道中。

 

 リヒトが持っていた酒を教主に渡したことで、酒類が料理酒程度しかなくなったことで、レオーネあたりが非常に荒れたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 キョロク近郊にある遺跡群の岩場では、羅刹四鬼に一人、スズカが傾き掛けた太陽を見やりながら大きく伸びをしていた。

 

「あぁあー……。はじめての経験だったもんだから、生き埋めを堪能しすぎちゃった。まぁでも、こういうとき羅刹四鬼の身体能力って便利だよねぇ」

 

 わずかに上気した表情をする彼女はつい先日、タツミと交戦し、遺跡の中へ誘いこまれた結果、見事に生き埋めにされた。

 

 ただ、生き埋め程度で命を落とすはずがなかった。

 

 では何故今まで出てこなかったのかというと、本当にその状態を堪能していたからである。

 

「むふん。新たなプレイに目覚めさせてくれるなんて、あの鎧の子やるじゃん」

 

 鼻息荒く言う彼女は真正のマゾヒストである。

 

 ゆえに、常人では意識があっても発狂しかねない生き埋め状態でも平気でいられたのだ。

 

「確かタツミってセリューちゃんは言ってたっけ? まだ生きてるといいんだけどねー。ま、とりあえずはエスデス将軍に報告しとかないとね」

 

 スズカは岩場から飛び降りて姿を消した。

 

 エスデスに折檻されることを期待している色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 帝都の宮殿の一室では、高級そうな皮素材のソファに座る人影があった。

 

 浅黒い肌に、顔にはクロスした傷跡がある青年は口元に凶悪な笑みを浮かべる。

 

「仲間は――これで揃ったな。頃合だ」

 

 青年が視線を向ける先には外套のフードを深く被った者達がいた。

 

 背丈は様々だが、どの人物も只者ではない雰囲気を纏っている。

 

「今度のオモチャはこの国そのものだ。このシュラ様が、たっぷり遊びつくしてやるぜ」

 

 ニィっと更に笑みを強くした青年、シュラの瞳は妖しく光っていた。

 

 

 

 ボリックの暗殺という大仕事をおえたナイトレイド。

 

 しかし、彼らの行く道はまだ険しく、帝都では新たな闇が動きだそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボリックの死後、安寧道の派閥は一気に傾き、教団はついに武装蜂起に踏み切った。

 

 民草を苦しめる国と闘うことが善行だとした彼らは、重税を課した官庁や悪徳地主の蔵を襲った。

 

 無論、教主は血を流すことは好ましくないと考えてはいたが、帝国への不満が形になったかのような膨大な数の教徒を養っていくには、土地や食料が必要であるという幹部達の説得を最終的には聞き入れたのだ。

 

 時を同じくして、安寧道以外でも帝国に虐げられてきた民が次々に各地で蜂起。

 

 反乱の規模は次第に帝国全土へと拡大していった。

 

 さらに、西の異民族もそれを待っていたかのように大挙として進軍を開始。

 

 練度の低い帝国兵はなすすべなく敗戦し、帝国領に異民族の侵入を許す事態に発展。

 

 結果的に帝国は国内部だけではなく、外部にも悩みの種を生んでしまうことになった。

 

 それは勿論、この国を影で牛耳る外道、オネスト大臣も知るところになっていた。

 

「なぁ大臣。余の軍がまた西の異民族に負けたそうだが大丈夫なのか? 敵は大勢いると聞いているが……」

 

 宮殿にある庭園では、池を眺めながら皇帝が少しだけ暗い面持ちでオネストに問うていた。

 

 オネストはそんな幼帝に人のよさげな微笑みを浮かべる。

 

「おやおや、誰が陛下のお耳にそのような不安にさせることを?」

 

「セイギ内政官だが」

 

 瞬間、オネストの瞳が黒く、冷たいものへ変化する。

 

 しかし、幼き皇帝はその変化に気付かない。

 

「……どうやらセイギ内政官は責任逃れをしていますなぁ。よいですか、陛下。今各地で起きている反乱の責任は内政官の責任です。セイギ内政官はそれを陛下に悟られないため、あえて異民族の侵攻を強調しているのでしょう

 それに外敵の件はエスデス将軍に任せます。将軍の力があれば、敵の数など大した問題にはなりません」

 

 皇帝を安心させるような優しい声音でオネストは告げる。

 

 彼の話を聞いていた皇帝の表情もどこか明るいものとなっていく。

 

 オネストは更に続ける。

 

「陛下、帝国も千年続けばこのようなことは起きます。ですが、こんな時だからこそ、貴方は皇帝として民を導く存在として毅然と振舞わなければいけないのですよ」

 

「わかった! 余もへこたれてはいけないということだな! お前にはいつも救われる。ありがとう、大臣」

 

 皇帝は立ち上がるとどこか吹っ切れたような表情でオネストに笑いかける。

 

 オネスト自身もまた彼に柔和な笑みを浮かべるものの、内心は決して穏やかなものではなかった。

 

 

 

「ハアアアァァァ……」

 

 皇帝と別れたオネストの姿は彼の私室にあった。

 

 目の前には豪勢な料理が並び、高級なワインが注がれているグラスもあった。

 

 彼は大きなため息とは裏腹にそれらに手をつけていく。

 

「やれやれ……反乱だ異民族の侵攻だ……最近は面倒くさいことが多い。ストレスで体重が増えてしまいますよ」

 

 ガブリと巨大な肉に齧り尽きながら言うと、彼の向かいに座る青年が一切恐れることなく告げる。

 

「ギャハハハ! 食いすぎだろ親父!」

 

「まぁ土産が上手いですからね。……しかし、可愛い子には旅をさせよと言いますが、随分と立派になって戻ってきたではないですか。親としては嬉しい限りですよシュラ」

 

 オネストの正面にいる青年は、三ヶ月ほど前にこの帝都へと戻ってきた彼の実の息子、シュラであった。

 

 彼は行儀悪くテーブルに足を乗せているものの、オネストは一切咎めずにいる。

 

「おかげでいろいろ巡らせてもらって楽しかったぜ」

 

「ほう。では簡単に聞かせてもらえませんか?」

 

 オネストの問いにシュラは頷くと自身が今まで巡った国々の話をしていく。

 

 南方に点在する島国。

 

 北方の凍土。

 

 錬金術が盛んな西の王国。

 

 などなど、自身が巡った諸国の特徴を話していくが、東方の島国に話題で僅かに表情が曇る。

 

「東方未開の地にいけなかったのは心残りだけどな」

 

「東海の果てにある島国ですか。あそこは未知の領域と言っても過言ではないですから、仕方ないでしょう。……それで、宿題の方もちゃんとやってきましたか?」

 

 オネストの雰囲気が変わり、シュラも彼と似たような笑みを浮かべながら答える。

 

「……ああ。いい人材を見つけてきた。見に行くかい?」

 

「なるほど。それはぜひとも見せてもらいたいものですなぁ」

 

 ブチリと肉を引き千切りながら、オネストは邪悪に口元を歪めた。

 

 

 

 

 帝都の練兵場には数体の死体が転がっていた。

 

 彼らは死刑囚。

 

 とは言っても、実際本当に死刑になるような犯罪を冒したのかは、今の帝国の状況では甚だ疑問ではあるが。

 

 死体の前には彼らを殺した五人の人影があった。

 

 彼らは全てシュラが各地で集めてきた人材だ。

 

 東方由来の服装に身を包み、刀を携えた男はイゾウという剣客。

 

 マイクを握り一見するとバニーガールのような格好をした少女はコスミナ。魔女裁判で有罪となった歌姫。

 

 その隣、五人の中でもっとも背が低く、ゴスロリチックな服装の少女はドロテアという肉体改造を繰り返している錬金術師。

 

 若干苛立ち気味のおかっぱ頭の青年はエンシン。南方の島国近海で暴れていた海賊である。

 

 そして最後の一人。もっとも背が高く色黒な大男。常時「ハァハァ」しているのは、道化師の格好をしたシリアルキラー、チャンプだ。

 

「なるほど……なるほどなるほど。よくもまぁこれだけ濃いメンツを集めたものですな」

 

 観覧席で戦闘の一部始終を見ていたオネストは、関心と呆れが混じったような声をもらしつつ肉に喰らいつく。

 

「というか、三名ほどどう見ても帝具を装備しているようですが?」

 

「別にいいだろ。国外に散った帝具集めもしたんだ。自由に使わせてくれよ」

 

「まぁ構いませんが」

 

「話が早くて助かるぜ。けどあいつ等いい人材だろ? 親父お抱えの羅刹四鬼でも勝てないんじゃね?」

 

「……かわいい挑発ですな」

 

「挑発じゃねぇよ。なんならさっき言ってたセイギとかいう内政官。俺達で殺してくるぜ?」

 

 ニィっと狂気を含んだ黒い笑みを見せるシュラであるが、オネストは一度鼻で笑った後に「いえ結構」と首を振る。

 

「面倒くさいとは言いましたが、国に異変が起きた今こそ、忠臣ぶったゴミ共をあぶりだすチャンスです。この機に私に歯向かう輩は、連座制でどんどん処刑して行きます。罪なんていくらだって捏造できるのだから……ヌフフフ」

 

 オネストにあったのはシュラ以上にどす黒く、凶悪な笑み。

 

 シュラも実の父親が見せる狂気に気圧される。

 

 ……さすがの性悪さだぜ。やっぱ、親父を追い抜くには骨が折れそうだな。

 

 珍しく喉を鳴らしたシュラであるが、彼は自身が集めた五人に視線を向けるとにやりと笑みを浮かべる。

 

 ……まぁでも今はいい。とりあえずは遊ばなきゃな。オモチャつかってよ。

 

 

 

 

 

 帝都の市街は各地で起こる反乱や異民族の侵攻が嘘のように平和だった。

 

 雪が舞うこの季節でも人々は楽しげに街道を歩いていく。

 

 そんな中、キョロクでの任務の後、帝都へ戻ってきたイェーガーズのウェイブ、クロメはカフェの店外席でお茶をしていた。

 

「こうしてみると、まだ帝都は平和って感じだなー」

 

「……そうだね」

 

 ウェイブは軽い口調でいうものの、クロメはどこか落ち込んだ様子で相槌をうつ。

 

 その様子を見かねたのか、ウェイブは小さく溜息をつく。

 

「なぁ、いつまで気落ちしてんだよクロメ」

 

「だって、肝心な時に役に立てなかったし……ナイトレイドも全員取り逃がしたし」

 

「確かに俺達は任務に失敗したさ。けど、いつまでもしょげてたって変わらねぇだろうが。隊長が異民族の討伐に出てる今、俺達だけでも帝都の治安を守っていかねぇと」

 

「うん……」

 

 クロメもウェイブの言っていることは分かっているのだろうが、如何せん声に覇気がない。

 

 仕方なく、ウェイブは自分の前に置かれているケーキを彼女の前に進める。

 

「ホラ、俺の分のケーキの食っていいから」

 

「……そうだね」

 

 すると、僅かにクロメが口元を緩ませる。

 

「二回も敵に吹き飛ばされたウェイブがこんなにあっさり切り替えてるんだから、私も切り替えていかないと!」

 

「お、おう!」

 

 若干胸にグサリと刺さることを言われつつも、とりあえずウェイブはクロメが少しだけ前向きになれたことに安堵する。

 

 ケーキを頬張る彼女は、年相応の女の子といった感じだった。

 

 ……キョロクに行くまでにボルスさん。そしてキョロクではセリューにコロ……負けてばっかだけど次にあったら絶対にとっ捕まえてやる。

 

 ウェイブはクロメに悟られないように内心でナイトレイドを見定める。

 

 その中にはもちろん、セリューという友人をためらい無く殺したあの男、リヒトの姿もあった。

 

「……うん?」

 

 ふと、ウェイブは通りの向かい側にある人だかりに視線を向ける。

 

 どうやら大道芸人がいるらしく、小さな子供が騒ぐ声が聞こえる。

 

 そして彼らから少し離れたところには、同じくイェーガーズの仲間であるランの姿もあった。

 

 彼は道化師の格好をした芸人をジッと見据えている。

 

「なんだ、ラン。お前大道芸に興味なんてあったのか――」

 

 すこしだけからかうような声音でウェイブはランに駆け寄る。

 

 しかし、僅かに見えたランの横顔は凄まじい殺意に満ちていた。

 

 瞳は氷のように冷たく、表情は一切の感情を廃したもの。

 

 ゾクッと全身に鳥肌が立つのを感じるウェイブであるが、ランの表情はすぐにいつもの笑みへ戻る。

 

「おや、ウェイブ。どうかしましたか?」

 

「どうかしたって……。すげぇ怖い顔してたぜお前。何かあったのか?」

 

「いいえ、なにもありませんよ。それよりもお待たせしてすみませんでした」

 

 ランは本当に何事も無かったかのように笑いかけると、クロメの座るカフェの席へ腰を下ろした。

 

 そんな彼と、大道芸人の姿を見やるウェイブはやはり納得がいかず首をかしげるのだった。

 

 

 

 ……やはり違う、か。

 

 カフェの席に座ったランはもう一度だけ視線を道化師に向ける。

 

 彼にとって、道化師は決して良い思い出のあるものではない。

 

 笑顔の裏に隠されているのは、決して潰えることのない怒りと復讐の劫火。

 

 ランはそれをなんとか押しとどめ、ウェイブ達と共に帝都のパトロールを再開するのだった。




はい、再び一年明けて申し訳ありません。

「なろう」の方でオリジナルを書いたりしてました。
ですが、やはり一度書きはじめた以上、二次創作を完結させねばなりませんね。

読者の方には大変なご迷惑をおかけして申し訳なく思います。
今後は遅くとも一ヶ月更新は心がけますので、よろしくお願いします。

さて、今回は正直原作と差異は殆どありませんでしたね。
教主サマのとこは結構オリジナル解釈入ってます。
多分知ってますよナイトレイドのことは。

では、今後ともよろしくお願いします。
……やっぱりボルスさんの奥さんと子供は助けてあげたいですよね。

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