白銀の復讐者   作:炎狼

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第二十七話

「コロ、5番。それと腕……!」

 

 セリューが言うと、コロが彼女の右腕に噛み付いて新たな武器を装備させた。

 

 武器の形状は鉱山などで使用される、掘削機の一種であるドリルだ。けれど、それは人間が装備するには明らかに大きすぎる。

 

 アレだけのものを扱えるのも帝具使いであるが故か、それともスタイリッシュの実験で身体強化の薬物でも投与されたのだろうか。そのほか考えられるとすれば義手の性能もあるかもしれない。

 

 ……まぁ今はそんなことどうでもいいか。

 

 思いつつ腰を落として戦闘態勢を取ると、コロの腕が巨大なものに変貌した。どうやら先ほどの「腕」という命令は、ヘカトンケイルの身体の部位を強化するものらしい。

 

「タツミと組んでいればまだ勝機はあったものを……。やはり、悪に堕ちた者は愚かだな。リヒト」

 

「愚かで結構。腐った国の下にいるよりはマシだ」

 

「その軽い口もいつまで叩けるか見ものだな。行くぞ、コロ!」

 

 言うと同時に彼女らはリヒトに向かって駆け出す。

 

 リヒトもエネルギー体のヨルムンガンドを伸ばすと、それは真っ直ぐにコロの身体に突き刺さった。いいや、どちらかと言うと刺さったというよりも、身体をすり抜けたと言う方が正しいか。

 

 これだけに戦闘能力はないので、ダメージは与えられないが、狙いは別にあるのだ。

 

 生物型の帝具を殺しきるには、エネルギーの供給源となる核を破壊する必要がある。それ以外の箇所をいくら攻撃したとしても、いずれは再生してしまう。

 

 先ほどのように大きなダメージを与えられれば、再生までの時間は稼げるだろうが、結局は同じことなので、最優先すべきは核の破壊なのだ。使用者を殺してしまうのもありだが、それはそれでコロが全力で守りに来るだろう。

 

 それにリヒトにはマインからの情報がある。それはヘカトンケイルの核の大まかな位置情報だ。

 

 彼女の話によると、核は首元から右腕の付け根辺りだったらしい。なので、リヒトは実体のないヨルムンガンドを突き刺すことで、もっと細かな位置情報を手に入れようとしているのだ。

 

 けれど簡単にいくものではなく、ヘカトンケイルはこちらに対して強烈な拳を叩き込んできた。拳の速度は確かに速いものだが、アカメの斬撃に比べれば恐怖するものではない。

 

 叩き込まれた拳を避けると、今度はセリューの狂気の笑みが見えた。右腕に装備された巨大な凶器がこちらの命を刈り取らんとしている。普通ならば避けられるはずのない間合いだが、リヒトはクッと口元を上げると右腕のヨルムンガンドを岩壁に打ち込んでドリルを回避した。

 

「チッ!」

 

 セリューが舌打ちをするものの、彼女の心意を汲み取ったか、ヘカトンケイルがこちらに向かって跳躍してきた。

 

「やっぱりペットはご主人様に似るみたいだな」

 

 などと余裕の言葉を口にしながらいると、跳躍したヘカトンケイルの拳がまたしてもリヒトに向かって叩き込まれる。

 

 壁を噛んでいたヨルムンガンドを解除し、落下する形でそれを避けきると、下でこちらを待ち構えているセリューが見えた。

 

 やはり生物型の帝具を使うだけあってコンビネーションが面倒だ。

 

 だとしても、セリューの動きは自分よりも遅い。だから動きも読めるのだ。

 

 セリューは飛び上がるとドリルを向けて叫ぶ。

 

「千切れろリヒトォ!!」

 

 怨嗟の言葉を口にしながら突っ込んでくる彼女だが、相変わらず隙が大きい。ニヤリと笑みを浮かべた後、彼は地面にヨルムンガンドを打ち込んで一気に回収。ドリルを僅かに掠めながらも避けきると、勢いをそのままに彼女の腹部に蹴りを放つ。

 

 穿つ様に放たれた蹴りの影響で、リヒトの足にはメキメキと言う骨が軋む感触が伝わってきた。それに次いで、ついに骨が折れる感触も伝わってきた。

 

「ガッ!?」

 

 短いうめきと共にセリューはまっさかさまに落下して地面に激突した。衝撃によって土煙が舞い上がり、地表に蜘蛛の巣状の亀裂が入った。

 

 一度その場から離脱するために向かいの岩壁にヨルムンガンドを打ち込み、その場から一時離脱。

 

 セリューが叩きつけられた地面から二十メートルほど離れた場所に降り立つと、土煙のなかで揺らめく影が見えた。随分と早い回復だが、それなりにダメージは入っただろう。

 

 コロもまた彼女の隣に降り立ったが、ちょうどその時、伸ばしていたヨルムンガンドが僅かに震えた。

 

「見つけた……」

 

 冷淡な声で呟く彼に返事をするように何度か震えた。核のサーチのために、ヘカトンケイルの体内を縦横無尽に駆け巡っていたヨルムンガンドがついに核を発見したのだ。

 

 こうなれば後は簡単だ。エネルギー体のヨルムンガンドを貫通させ、今度は実体化させればよいのだ。こうしてしまえば簡単に核を貫いて破壊できる。

 

 だからこそリヒトはすぐさま行動しようとおもったのだが、それを遮るようにして土煙の中にいるセリューが叫んだ。

 

「コロ! 狂化(おくのて)ッ!!」

 

 瞬間、今まで周囲に蔓延っていた空気が更に重々しいものとなった。見ると、コロの身体が黒く染まり、禍々しい瞳が赤く光っている。元から大きかった体躯も一回り大きく見える。

 

 ヘカトンケイルの奥の手は『狂化』。確か内部エネルギーを完全開放し、戦闘能力を底上げするものだ。そしてもう一つ気をつけなければならないのが……。

 

「やばっ……!」

 

 リヒトは声を僅かに詰まらせると、懐から耳栓を取り出し、両耳に深く押し込んだ。さらにダメ押しというように耳を塞ぐ。

 

 それとほぼ同時にコロが大きく口を開け、次の瞬間には衝撃波のような轟咆が飛んできた。

 

 これが狂化状態のヘカトンケイルの技の一つだ。大音量の咆哮で相手の動きを止め、攻撃の隙を作る。非常にシンプルな技であるが、それゆえに面倒なのだ。

 

 もしこれが前情報なしだったかと思うと、ゾッとする。なにせ身体が硬直してしまえば、ヘカトンケイルにも攻撃をされるし、セリューにも攻撃を加えられてしまう。いや、最悪の場合は同時に攻撃を仕掛けられて一瞬で命を刈り取られてしまうだろう。

 

 ……マインとシェーレに感謝だな。

 

 内心で二人に感謝を述べつつ、目の前で咆哮を上げるヘカトンケイルを睨みつけて小さな舌打ちをする。

 

 なぜならば今、ヘカトンケイルの身体にヨルムンガンドは突き刺さっていないからだ。当初の予定通りならば、核を破壊できているはずなのだが、それが今の咆哮のせいで見事に集中力が乱され、ヨルムンガンドが霧散してしまったのだ。

 

 セリューがこれを狙っていたとは思えないので、偶然の賜物と言って良いのだろうが、まったく最悪な場面で発動してくれたものだ。

 

 けれどサーチのおかげで核の的確な位置はわかったので、後は攻撃を咥えてやれば簡単に破壊できるだろう。普通の武器では難しいとしても、こちらも帝具なのだから手間取りはしない。

 

 しかし、そうは問屋がおろさないとでも言うのか、口元から僅かに血を流したセリューがヘカトンケイルの背後から飛び上がり、こちらに接近してきた。

 

 それに対し実体ヨルムンガンドで応戦しようとすると、彼女は眉間に皺を寄せて、螺旋状の槍をこちらに向けた。

 

 同時に槍の付け根から微量の炎が迸った。かと思うと、右腕から槍が射出されたではないか。

 

「閻魔槍射出!!」

 

 射出された槍は真っ直ぐとこちらに向かってくるが、距離がある程度開いていたためか、避けるのに苦労はしなかった。

 

 すぐさまヨルムンガンドを空中にいるセリューに突き刺そうとしたが、視界の端で地面に突き刺さった槍が発光したのが見て取れた。同時に僅かに香る火薬の匂い。

 

「ッ!」

 

 驚いたのも束の間。放たれた槍が爆裂したのだ。

 

 大きさに違わず、中々に高威力な爆弾であり、リヒトはその場から大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐッ!」

 

 歯噛みしつつも、空中で体勢を立て直して空中にヨルムンガンドを打ち込むとそのまま熱波の中から脱出する。

 

 しかし脱出した先には、狂化状態のヘカトンケイルが強靭な腕を振りかぶっていた。瞬間、リヒトの脳裏に『死』の一文字が浮かび上がる。

 

 いくら日々鍛えているとはいえ、今の状態のヘカトンケイルに殴られればひとたまりもないだろう。頭に拳があたれば、頭が吹き飛ぶかもしれない。

 

 最悪生き残ったとしても、大ダメージによって動けないところをあっけなく捕食されるだろう。

 

「あぁくそ。調子乗りすぎたな」

 

 小さく呟いたものの、そんなもので状況が変わるはずもなく、ヘカトンケイルの腕は呻りを上げてこちらに迫ってくる。

 

 完全に自分の失態だ。もっと早くヘカトンケイルを倒せていれば、こんなことにはならなかったというのに。

 

「その男を塵も残さず粉砕しろ!」

 

 地上ではセリューが声を張り上げている。

 

 別に彼女を恨みはしない。彼女は被害者だ。この腐った世界で人生を捻じ曲げられた、哀れで悲しい少女。

 

 ……わりぃな、チェルシー。帰れそうにねぇわ。

 

 彼がそう言った瞬間、ヘカトンケイルの拳がリヒトの腹部に叩き込まれた。

 

 が、彼の身体にはまったく異変がない。そればかりか、拳を叩き込んだヘカトンケイルの方が驚愕の表情を露にしているではないか。

 

「なぁんて、簡単にあきらめなんてしないんだよ」

 

 冷淡な声で言う彼の正面には、ヨルムンガンドが円を描き、まるで盾のようになり、拳を受け止めているのだ。しかし、多少なりダメージは通ったのか、リヒトもセリューと同じく口元から血を流している。

 

「まずい、コロ……!」

 

 眼下ではセリューがヘカトンケイルに指示を出そうとしていたが、リヒトは笑みを浮かべたまま告げる。

 

「おせぇ」

 

 彼が低い声音で言うと、こぶしを止めていたヨルムンガンドが目にも止まらぬ速さで、ヘカトンケイルの巨体に巻きつき、あっという間に拘束してしまった。

 

 ヘカトンケイルもそれを必死で解こうとするが、ヨルムンガンドを形作っている金属は、失われた秘術によって生み出された超金属だ。生物型の帝具がいくら強靭であろうとも、簡単に千切れはしない。

 

「残念だったな。コロ。さっきのは決して悪手じゃなかった。脱出してお前の位置が分からないところでの奇襲……実に見事な判断だ。お前がスサノオみたいな帝具人間だったらもっと手こずったろうが、所詮は犬畜生と同じだ。大事なところで冷静な判断が出来ない」

 

 いまだヨルムンガンドを引き千切ろうとしているコロに、リヒトは淡々と告げていく。そして彼はエネルギー体のヨルムンガンドに意識を集中させると、それを核に向けて放った。

 

 ヘカトンケイルはそれをなんとか防ごうと、腕でガードしようとしたが、ヨルムンガンドは鋭角的に軌道を曲げ、腕を回避して身体を刺し貫いた。

 

 そして身体から飛び出したヨルムンガンドの龍のオブジェの口元には、黒い宝石のような球体が咥えられていた。

 

「役目を終えろ。ヘカトンケイル」

 

 言うと同時に拘束していたヨルムンガンドも核に噛み付いた。

 

 既に小さな亀裂が入っていた核は、これで決定的なまでのひびを作り、次の瞬間にはあっけなく、粉々に砕け散った。

 

 地上ではセリューの小さな悲鳴が聞こえたが、核を破壊されたヘカトンケイルからは力が抜け、そのまま砂が崩れるように、サラサラと空気中に流れていく。身体に収納されていたらしいセリューの武器もけたたましい音を立てながら地面に落下する。

 

 それを見つつ、地上に降り立ったリヒトだが、僅かに顔が曇っている。盾で防いだとはいえ、流石に重い一撃だったのだからしょうがないだろう。

 

 しかし彼は痛みを無視して、崩れ去っていくヘカトンケイルを見つめているセリューを見やると、彼女にはっきりと告げた。

 

「セリュー。お前の敗北は決定した。抵抗しないのなら命は取らないが、このままイェーガーズに返すわけにも行かない。事が終わるまで革命軍で拘束させてもらうが、どうする?」

 

 至って冷静に、抑揚のない落ち着き払った声で問うリヒトの声は酷く冷たい。しかし、それに対しセリューは義手を握り締めて怒りの炎を灯した双眸で彼を睨む。

 

「ふざけるな……誰が悪である貴様に屈するものか。私がまだ生きている限り、正義は執行できる!」

 

「そうか。なら、この場で死ね。正義正義とほざかれるのもいい加減耳障りだからな。だからせめてもの情けとして、一瞬で殺してやるよ」

 

 言うが早いか、リヒトはヨルムンガンドを伸ばしてセリューに接近。そのまま勢いを保持したまま、彼女に切りかかった。彼女はそれを義手で受け止めるが、そもそもが武器ではない義手には簡単に傷が付いた。

 

「オラオラどうしたぁ!? ヘカトンケイルがいなきゃその程度か?」

 

「黙れぇ!!」

 

「スタイリッシュに強化されたといっても、所詮はその程度。元々が弱いんだよ、お前は。動きは直線的で、攻撃も単調」

 

「うるさい!!」

 

 セリューが喚きながら彼の顎先を蹴り上げようとしたが、既にそのときにはリヒトのい姿はなかった。

 

「だからこういう風に動きが読まれる」

 

 見ると、彼の姿は既に彼女の後ろにあり、蹴りを入れようとしている最中だった。そのまま足の裏で押す様にセリューの身体を蹴ると、蹴られたセリューは体勢を立て直しつつ、両腕の義手を外し、身体に内蔵された銃の銃口をリヒトに向ける。

 

 けれどそれすらも見切っていたのか、リヒトは彼女の肩口から腕を切り飛ばした。それでもセリューは眉間に皺をよせ、口を開けた。中には小さな銃口が見える。確かシェーレを撃った銃だったか。

 

 それを確認したと同時に銃弾がうちだされたが、頭に当たる直前で、ヨルムンガンドが自律して銃弾を弾いた。

 

「なっ!?」

 

 彼女は驚いた声をあげるが、リヒトはそれを聞かずに剣を横凪にして、彼女の足を切り取った。

 

「うぐ……!」

 

「口ん中の銃も使って、腕も足も潰した。気分はどうだセリュー。お前の言う悪に見下される気分は」

 

「貴様ぁ……!!」

 

 憤怒の眼光でこちらを睨みつけてくる彼女だが、リヒトは相変わらず落ち着き払った様子だ。

 

「なぁセリュー、お前にとっての正義ってのはなんだ?」

 

「それは私のパパを殺し、オーガ隊長やドクターを殺した貴様等のような逆賊だ! 人々の生活を脅かす貴様等だ!」

 

「じゃあ、お前にとって帝国は大正義ってわけか?」

 

「当たり前だ! 帝国の理念こそ至高のものだ! それを貴様等が邪魔立てするから犯罪が起こってしまうんだ!!」

 

 彼女は何を言っているという風な表情でこちらを見てくるが、リヒトはそれに対して大きなため息をついた。

 

「だったらどうして安寧道なんてものが出来たんだろうな。セリュー」

 

「なに?」

 

「安寧道は、人々が苦しみから脱却したいから信仰される宗教だ。お前の言う帝国の理念が崇高なものなら、どうして皆帝国を信用しない? なぜ宗教を信じる?」

 

「それは……」

 

「今回お前達は大臣の命令でボリックの護衛に来たんだろう? だったらそこで見たんじゃないか? パーティで出た豪勢な料理、煌びやかな装飾の数々……それらは全て帝国が汚い手を使って国民から徴収した税金だ。年々引き上げられる税金で貧困層の人々はさらに生活に困窮し、地方の人々は出稼ぎに来る始末だ。そして彼等を低賃金でこき使い、果ては己の快楽を満たすための道具にして殺す……そんな貴族や官僚なんて嫌って程見てきたさ。

 なぁセリュー。これの何処に正義がある? 人々を苦しめて、安寧道なんて宗教を生み出して、革命軍を作らせた帝国の何処に正義があるんだ?」

 

 問いかける彼の表情はとても遣る瀬無いものだった。けれど、話を黙って聞いていたセリューはギロリとリヒトをさらに強く睨みつけてきた。

 

「所詮は悪……そうやって私を言いくるめようとしているのだろうが、無駄なことだ」

 

「別に言いくるめようなんて思っちゃいないさ。けどな、セリュー。お前も心のどこかでは分かってたんじゃないか? 自分がやっていることがどれだけ人の道を踏み外しているのか。人を無残に殺している時、お前の気持ちは晴れたか?」

 

「当たり前だ。悪をこの手で滅することが出来る。これほど気分が高揚することはなかったぞ」

 

 既にない腕でこちらを指して来る彼女の瞳は酷く歪だった。

 

 その瞳を見たとき、リヒトはやはりと思った。

 

 手遅れだったのだ。彼女を狂気の螺旋から救いだすことなど、土台無理な話だった。救うのなら、もっと早い段階……そう。子供の頃、セリューの父親が殺された後も、彼女と接していれば、このようなことにはならなかったのかもしれない。

 

「やっぱり、お前とは分かり合えなかったな。最後まで」

 

「もとより正義と悪は相容れない存在だ。だが忘れるな、リヒト。私を殺しても、エスデス隊長が貴様等を粛清する。悪に未来などない」

 

「どうだろうな。だがな、セリュー。この世界に完全な正義なんてありゃしないんだ。オレ達だって自分が正義なんて思っちゃいない。やってることは人殺しっていう外道の所業だからな。いずれ報いは受けるだろう。今回はそれがお前だったってことだ」

 

「これが報い? ハッ、だったら貴様も報いを受ける時間だな」

 

 彼女は言い終えると、歯をガチリとかみ合わせた。

 

「あと十五秒後だ……」

 

 その言い分からどのようなことなのかすぐに理解できた。

 

「爆弾か……」

 

「ああ。十王の裁き最終番、五道転輪炉。ドクターから授かった最終兵器だ。これが頭の中にある限り、私は負けない。クク、あと十秒だな」

 

「そうかよ、けどそのお誘いは断らせてもらうぜ」

 

 言うが早いか、彼はヨルムンガンドをセリューの身体に巻きつけ、空中に躍り出る。

 

「な、なにを!?」

 

「死ぬのはテメェ一人だけにしろ。オレには帰りを待ってくれる人がいるんだ。心中なんてごめんだね」

 

 そしてヨルムンガンドを投げ縄のように振り回し、遠心力に乗せてセリューを空中高く放り投げた。それを見送らず、すぐさまこの地域から離脱するため、ヨルムンガンドを伸ばして空中を駆け抜ける。

 

「逃げられると思うなよ、リヒトオオオオオオオオオ!!」

 

 背後から聞こえてくる叫びが聞こえたのも一瞬だった。すぐに背後で眩い光がほとばしり、巨大な球体状の爆発が見て取れた。

 

 けれど、思いのほか爆発が大きく、リヒトのすぐ背後まで爆炎が迫ってきていた。凄まじい熱波と轟音が追って来る。

 

 まるで死してなお、リヒトを殺そうとするセリューの精神が具現化したかのようだ。

 

「でも、この程度で死ぬわけには行かねーのよ」

 

 言いながら空中を駆け抜けると、やがて爆炎が勢いを落とし、リヒトの背後から遠ざかって行った。

 

 リヒトはある程度かけたところで岩山に降りると、背後に広がる焼け野原を見る。

 

 所何処は高熱で岩が溶けたのか、未だに赤い炎がチラチラと光っている。

 

 その光景を見ながら懐からタバコを取り出し、いつもナジェンダがやっているようにライターで火をつけ、自然な流れで紫煙を燻らせる。

 

「……あばよ、セリュー。地獄で会おうぜ。それとルーク、ごめんな。約束守れなかったわ」

 

 散ったセリューに別れの言葉を、ルークには謝罪の言葉を言い残したリヒトは、そのばから立ち去り、羅刹四鬼を撃退したタツミと合流し、アジトへと帰還を果たした。

 

 

 

 

 

 セリューが戦死したことは翌日にはイェーガーズの全員が知ることとなった。

 

 それはエスデスも例外ではなく、彼女はランからの報告でそれを知った。

 

「リヒトに負けたか……。素質があっただけに、実に残念だ」

 

 小さく言う彼女の声音は決して優しいものではなかったが、どこか悔しそうな雰囲気も漂っていた。




はい、お待たせしました。
本当に申し訳ない。いろいろ始まって忙しかったもので……

今回でセリュー戦は終了です。
なんかあっさりしちゃってすみません。
でも、原作見てもそこまで言い争いながら闘ってないんですよねぇ。それにコロがいますから言い争えないというかなんと言うか。
ですが、これだけあっさりしてた方がいいかもしれません。あんまり長くやりすぎるとおんなじことを何回も繰り返してしまいそうな感じがするのでw

結局セリューは救えませんでした。もっとスタイリッシュたちの悪行を羅列していけばよかったのかもしれませんが、彼女は決して信じないでしょう。あそこまで狂われると手のつけようがありません。でも、これぐらい突き抜けてた方が原作を無視しすぎないでいいのではないでしょうか。

では、感想などありましたらよろしくお願いいたします。

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