白銀の復讐者   作:炎狼

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第十八話

 リヒトはシェーレを本部まで送り届けた日から、革命軍本部で一週間近くの間任務にいそしんでいた。その殆どはチェルシーとの暗殺任務であり、本部から多少離れた街にも赴いた。

 

 無論野宿することもあったのでチェルシーと語らうことも多く、彼女が前にいたチームの話も聞いた。

 

 チェルシーのチームは、彼女がリヒトと行動する少し前にチームが全滅したらしい。それに対しリヒトは別段優しい言葉をかけようとは思わず、ただ黙って聞いていただけだ。

 

 別にチェルシーが可哀想とか、辛いだろうなんてことを思わなかったわけではない。しかし、彼女が受けた心の痛みを自分がどうにかできるとは思えなかったのだ。

 

 その際チェルシーが「慰めてくれないんだ」と悪戯っぽく言ってきたが、リヒトは「慰めてほしくなさそうにしてたからな」と返しておいた。

 

 そして現在、今日も今日とてリヒトは本部で働いていた。今日は特に暗殺任務はないので、本部の人手が足りないところで器材運びをしている真っ最中だ。

 

「リヒトー」

 

「あん?」

 

 声がしたほうに首を傾けると、いつもどおりキャンディーと咥えているチェルシーがヒラヒラと手を振っていた。すると彼女はそのままこちらにかけてきた。

 

「なんか用か、チェルシー」

 

「うん。ナジェンダさんが来たよん。呼んで来てくれって言われたから呼びに来た」

 

「そいつぁどーも。んじゃ、行くかね……コウサー! ちょっくら行って来るからあと頼んだー!」

 

 少し離れた所で作業をしているコウサに声をかけると、彼も了承したのか手を挙げた。それを確認し、リヒトはチェルシーと共にナジェンダが待っている会議室に向かう。

 

 その道中、リヒトはチェルシーに問うた。

 

「なぁチェルシー、最近シェーレ見たか?」

 

「ううん、見てないけど。なんか気になる?」

 

「いや、ちょいと気になっただけだ。まぁ本部にいることは確かみたいだから気にすることもないか」

 

 肩竦めて話を自己完結させる。

 

 しばしチェルシーと並んで歩き、会議室に到着したリヒトは壁際の椅子に腰掛けているナジェンダを見やった。

 

「よう、ボス。しばらくぶりだな」

 

「ああ。元気そうで何よりだ……髪の毛、切ったんだな」

 

 ナジェンダに言われ、リヒトは「ああこれか」といいながら、肩の長さに切り揃えられた銀髪をいじる。

 

「気分転換でな。因みにうまい感じに切り揃えてくれたのはここにいるチェルシーだぜ」

 

「だってリヒトの髪めちゃくちゃ適当に切ってあったんだもん。少しは切り揃えた方が良いと思ったんだよ。せっかくそんなに綺麗な髪質してるのにもったいないじゃん」

 

「男が言われてうれしい言葉じゃねぇな。髪質なんざどれも一緒だろ」

 

 肩を竦めて言ってみるが、チェルシーは呆れたようにため息をついた。するとそれを見ていたナジェンダが僅かに笑みを浮かべてこちらに告げてきた。

 

「その様子ならもう信頼関係は築けているようだな。十分だ」

 

「十分?」

 

「ああ。今日からチェルシーもナイトレイドに入るからな。まぁ正式に皆に発表するのはアジトに行ってからだがな。まぁその話はさて置いてだ、帝都の方でしょうしょう厄介なことが起きた」

 

 先ほどまでの笑みを消したナジェンダはタバコに火をつけて軽く紫煙を燻らせたあと、鋭い眼光で言い放った。

 

「タツミがエスデスにさらわれたらしい」

 

「え? 確かタツミってナイトレイドのメンバーの子だよね……だったら素性がばれたとか?」

 

「いいや。ことの経緯はエスデスが主催した都民武芸試合なるものにタツミが出場したことが発端らしくてな。タツミが対戦相手を打ち負かした時にエスデスが現れ、タツミに首輪をかけてほぼ無理やりに連れて行かれたらしい。ただ、そこまで険悪なムードではなかったとのことだ」

 

「首輪って……相変わらず考え方がSっぽいな」

 

 リヒトは軍に入りたての頃を思い出してげんなりとしつつ、苦い顔を浮かべた。

 

「また、エスデスはイェーガーズという帝具使いのみで構成された特殊警察を組織したとの情報も密偵から入っている」

 

「帝具使いのみってことは、完全にオレたちを潰しにきてるわけか。けど、険悪なムードじゃなかったんなら平気じゃねぇ? オレん時も結構無理やりだったし。タツミがヘマしない限り問題はねぇだろ」

 

「だといいがな」

 

 タバコを吸いながらナジェンダは椅子に深く腰掛ける。リヒトは軽く息をつきながら壁に背を預け、目を細めた。

 

 ……まぁアカメやレオーネ達ならタツミを助けるとは思うが、無理はしなけりゃいいが。

 

「そういやボス、マインの腕は治ったか?」

 

 ふと思い至ったので聞いてみるとナジェンダは「ああ」と短く答えた。それに頷いて返しておくが、ナジェンダはタバコを灰皿で消してから立ち上がる。

 

「とりあえずあちらのことをこちらでウジウジと考えても何かが変わるわけでもない。アジトの方はアカメ達に任せるとしよう。私もこちらでやることがあるからな」

 

「やること?」

 

「ああ。あと一人、人員を増やしておきたくてな。ソイツが見つかり次第、私達はアジトに帰還する。いいな?」

 

 ナジェンダの声にリヒトとチェルシーは頷いて答えた。

 

 

 

 

 

 夜になり、ナジェンダは本部の自室で長旅の疲れを取るためにベッドに横になっていた。室内にある机の上には書類の束や、氷が入ったグラスと酒がある。

 

「あと一人……できれば戦闘向きがいいのだが、誰かいないものか」

 

 ため息をつきつつ自身の義手を開いたり閉じたりする。そしてかつてエスデスにやられた右目が僅かに疼いた。

 

「ブラートを失ったのは大きな痛手だ……しかし、こちらにはまだアカメがいるし、いざという時のリヒトもいる。そう急くことではないにしても、できればもう一人を増やしておきたいな。……犠牲をこれ以上出さないためにも」

 

 などとひとりごちていると、唐突に部屋のドアがノックされた。それに答えると、ドアが開けられ、よく知った人物が現れた。

 

「こんばんは、ボス」

 

 部屋にやってきたのはシェーレだった。しかし、柔和な声音に反し彼女の顔はどこか固い。

 

「しばらくぶりだな。どうした? そんなに固い顔をして」

 

 ナジェンダも彼女の表情が気にかかったのか、問うてみた。すると、シェーレはヘカトンケイルに喰いちぎられた右腕を押さえながら真剣な表情で告げてきた。

 

「ボス、お願いがあります――」

 

 

 

 

 

「急に呼び出してなにかと思ったら酒に付き合えってことかよ」

 

 呆れた顔をたリヒトは酒の入ったグラスを煽る。

 

 そんな彼の前にいるのは同じように酒を飲むチェルシーだ。彼女は悪戯っぽい笑みを見せる。

 

「いいじゃん別に。暇だったんでしょ?」

 

「……まぁな。つーかお前、酒飲める歳だったんだな」

 

「お、ということは私はリヒトよりも年下に見られてたんだ」

 

「ああ。実際十八くらいかと思ってた」

 

 肩を竦めながら答えると、チェルシーは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 リヒトがいるのはチェルシーの部屋だ。家具は女性っぽいものでコーディネートされており、机やタンスの上には小物も置かれている。

 

 すると、チェルシーがニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて空になったグラスに酒を注いできた。

 

「リヒトは確か二十歳だったから、私より少し年下だねぇ。だから、先輩の晩酌には付き合うのだー」

 

「へいへい。わーったよ、先輩」

 

 ガリガリと頭を掻きながら答えると、チェルシーもよろしい、と答えてグラスをこちらに少しだけ傾けて来た。乾杯をしなおせということなのだろう。それに答えて二人はカランとグラス同士を当てる。

 

「そういえばリヒトと組んでるけど、私の話ばっかりでつまんないからリヒトの話も聞かせてよ」

 

「オレの話しなんざ暗くって酒の肴にもなりゃしねぇよ。胃もたれすんぜ」

 

「私だって暗い話だったしいいじゃん。ほらー、はーやーくー!」

 

「チェルシー、お前ぜってー絡み酒だろ」

 

 大きなため息をつきながらも、結局はチェルシーに自分の身の上話をすることになった。そうして夜はふけて行ったが、リヒトとチェルシーはその場で眠りこけてしまった。

 

 その結果、翌日の朝。若干顔色が悪いチェルシーと、頭を押さえているリヒトが目撃されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 昼になり、若干酔いがさめて来たリヒトとチェルシーはナジェンダに呼ばれて帝具保管庫にやってきた。

 

 既にナジェンダは二人を待っていたが、やってきた二人に向けてただ一言。

 

「お前等、昨日どれだけ飲んだんだ……」

 

「十本くらい空けたっけ?」

 

「あぁ、確かそんな感じ。頭イテェ……」

 

 いまだズキズキとする頭を押さえながら答えるリヒトは所々髪の毛が跳ねている。しかしチェルシーも同じようなもので、髪飾りがあらぬ方向を向いている。

 

 ナジェンダは大きなため息をついたが、すぐに踵を返して保管庫の奥に進んで行く。それにリヒト達もふらふらとした足取りでついていく。

 

 保管庫は奥に進むにつれて暗くなっており、振り返れば出口は白い四角形のように見える。すると、前方を行くナジェンダが足を止め、リヒトとチェルシーも止まる。

 

 二人は立ち止まったナジェンダの先を見るために、彼女の脇から顔を出す形でナジェンダの視線の先を見る。

 

 そこには頭部の両端から角を生やし、胸には赤い円盤のようなものが埋め込まれた白装束の男が鎮座していた。外見的な年齢は三十歳前後だろうか。しかし、リヒトは妙な疑問にかられた。

 

 男性から生気を感じることが出来なかったのだ。なんというかただある、人形のような雰囲気だけが男性からは発せられていた。すると、そこでナジェンダが呟く。

 

「これが電光石火・スサノオか……。生物型の帝具と聞いたが、まさか人間体とはな」

 

 その言葉で目の前の男性から生気が感じられないことに合点がいったリヒトだが、それ以上に帝具ということに驚いてしまった。

 

「生物型って、コイツ帝具なのか!?」

 

「ああ。今朝聞いたんだ。もしかしたら私になら動かせるかもしれないといわれてな。それで来てみたと言う訳さ」

 

 軽く言ってのけるナジェンダだが、リヒトからすれば驚いたのにも程がある。なにせ、生物型はあのヘカトンケイルぐらいしかいないと思っていたからだ。いや、それでは少し語弊がある。正確には皆あのような獣の姿をしているものだと思っていたのだ。それが今、目の前にしているものは殆ど人間と変わらない容姿をしているのだから驚くのも無理はない。

 

 それはチェルシーも同じのようで肩を竦めて驚きを露にしていた。だが、そんな彼等を尻目にナジェンダはスサノオに歩み寄ると、彼の肩に触れる。

 

 瞬間、今まで目を閉じていたスサノオがカッと目を見開いた。同時に今まで感じられなかった生気が感じられた。これでリヒトは確信することが出来た。スサノオはただの帝具ではなく、人間のように生きているのだと。

 

 するとスサノオはナジェンダの方を見てから一度立ち上がり、彼女に対して頭を垂れた。

 

「帝具スサノオ。起動に応じて貴殿を主と認めよう」

 

 低い声がリヒト達のほうまで届き、スサノオの起動に成功したのだとわかった。

 

「マジかよ、ボスってもう帝具使えないもんだと思ってたけど……」

 

「生物型は自動で動くから負担が少ないんじゃない?」

 

「ああ、なるへそ」

 

 チェルシーの解説にリヒトが頷いていると、唐突にスサノオが眼前に迫ってきた。背が高いことと、眼光が鋭いことも相まってかなりの威圧感だ。

 

「なんだよ、なんかオレに文句でも――」

 

 そこまで言いかけたところでスサノオの瞳がキランと光り、彼は懐から櫛を取り出しリヒトの髪をすき始めた。しばらくそれをしていたスサノオだが、ある程度やり終えると納得が言ったのか、コクリと頷いてから満足げに言った。

 

「よしッ!」

 

「はい?」

 

 疑問符を浮かべ、すぐに声をかけようとしたのも束の間。スサノオは今度はチェルシーに方に向かって駆け、彼女のずれていた髪飾りを真っ直ぐに直した。そして底でも一言。

 

「よしッ!」

 

 と告げて満足げにしていた。

 

 すると、その光景を見ていたナジェンダがうんうんと頷きながら言った。

 

「なるほど、意外と几帳面な性格をしているんだな。まぁ要人警護用に制作された帝具らしいからそういう気配りも出来るのだろう」

 

「いやー、それはどうなんだ……。根っからの几帳面にしか見えねぇぞ」

 

 ナジェンダに対して若干呆れ声を漏らすが、リヒトはスサノオの動きを見てはっきりと強いと確信できた。

 

 ……技量的にはブラートとどっこいか、若干劣るぐらいか? でも、帝具ってことは奥の手もあるよな。

 

「……まぁわかることは、えらく強いってことだな……」

 

「ん? 何か言ったかリヒト」

 

「いんや、なんも。それでどうする? もう戻るか?」

 

 掌を向けて問うてみるが、ナジェンダは問いに被りを振る。

 

「確かにそうしたいのは山々なんだが、私にはまだ終えなければならない仕事があってな。帰るのは明日だ。それまでリヒトとチェルシーはスサノオと親交を深めておいてくれ」

 

「あいよ」

 

 それに肯定するとナジェンダも頷き、彼女はチェルシーとスサノオにそれらを話しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ナジェンダと別れて本部の適当な場所で三角形になるように座った、リヒト、チェルシー、スサノオはいちどそれぞれの顔を見やる。

 

 そして一息ついてからチェルシーが軽い咳払いの後、スサノオに告げた。

 

「とりあえず名前を言ってなかったから、軽めの自己紹介でもしようか。私はチェルシー。よろしくね、スサノオ」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 彼女の名を聞いてスサノオは表情を崩すことなく握手を交わす。彼女に続いてリヒトもスサノオを見据えてから告げた。

 

「リヒトだ。これからよろしくな」

 

 スサノオはそれに頷き、今チェルシーとしたのと同じように握手を交わした。しかし、そこで一度会話が途切れてしまった。いや、会話という会話は殆どしていないのだが。

 

 けれど、そこでふとリヒトが何かを思ったのかスサノオに問いを投げかけた。

 

「そういや聞きたかったんだけどよ。なんでボスに反応したんだ?」

 

「あ、それは私も聞きたいかな。何か特別な理由があったりするの?」

 

 チェルシーもその問いに乗っかり、スサノオに問うたが、しばしの沈黙の後答えが返ってきた。

 

「ナジェンダは昔のマスターに瓜二つでな。雰囲気も何処となく似ていたからかもしれん」

 

「へぇ……ボスと瓜二つってどんなヤツだったんだ?」

 

「前のマスターは将軍でな。彼ほど素晴しい将軍はいなかったッ!!!!」

 

 その声に一瞬その場の空気が固まり、チェルシーが一番最初にフルフルと肩を震わせながら問うた。

 

「彼? え、ちょいまちちょいまち。今彼って言った? ってことは、ボスって男とそっくりってこと?」

 

「ああ。ナジェンダは女でありながら彼と瓜二つなんだ」

 

「ブッ……ハハハハハハハッ!! マジか!? やべぇ、腹イテェ! お、女なのに男と瓜二つとかマジでヤベェ。さすが影でイケメンといわれるだけのことはあるな!」

 

「ちょ、リヒト笑いすぎだって……フフ、そんな笑っちゃ、ボスに、ハハ……失礼だってば。ハハハハハハ!」

 

 忠告してくるチェルシーだが、彼女も笑いながら言っているため、あまり説得力がない。しばらくその場で馬鹿笑いをした二人はそれぞれ「ひーひー」と腹を抱えながらスサノオに向き直った。

 

「そこまで笑うことなのか?」

 

「あぁわるいなスサノオ。ついつい……いやそれにしてもマジで男と瓜二つとか……クク」

 

「やめてってばリヒト。思い出させたらまた笑っちゃうから」

 

 チェルシーが呼吸を整えながら言ってきたので、リヒトも笑うことをこらえた。

 

「あ、そうだ。前に仕えてたマスターの記憶があるってことはさ、帝具とかも見たことあるの?」

 

「ある程度はな。だが、チェルシーのものは見たことがない」

 

「チェルシーのはってことはコイツは見たことがあるのか?」

 

 リヒトは言いながらヨルムンガンドをスサノオに見せる。彼はそれにうん、と頷いてから言い始めた。

 

「それは確か双頭縛鎖・ヨルムンガンドだったか。鎖型の帝具で、実体のあるものとない鎖があったな。因みに言っておくと、奥の手で多少タイプが変化する変わった帝具だった気がする。奥の手は使ったことがあるか?」

 

「まぁちょっとな。でもそれなりに知ってんだな」

 

「そうだな。しかし、俺にもわからん帝具はある。先ほどのチェルシーの帝具のようにな」

 

 感慨深げにスサノオは言う。そんな彼の様子を見てリヒトとチェルシーは小さく笑みを浮かべる。

 

「スサノオ、お前って結構面白いヤツだな」

 

「だね。もっと鉄面皮で感情なんて皆無って感じがしたけど、全然そんなことない」

 

「そうか?」

 

「ああ。お前は普通の人間と同じだよ。自分で考えてたりするしな。だから、そんなお前を見込んで頼みがある」

 

「なんだ?」

 

 スサノオが問うと、リヒトとチェルシーはそれぞれ視線を交わして悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げた。

 

「「ボスが男と瓜二つだったことはまだボスには言わないで(くれ)」」

 

 同時に言った言葉にスサノオは一瞬キョトンとしたが、小さく笑みを浮かべてから頷いた。

 

「ああ。なんだかわからんが、いいだろう」

 

「よし」

 

 スサノオが了解したことにリヒトはグッと親指を立てて彼を賞賛した。その後、三人は親睦を深めるためにいろいろなことを話し合った。

 

 そしてその日の夕食時、スサノオが家事にも優れているということがわかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、翌日の夕方、思ったより仕事が長引いたナジェンダの下に本部の占いの帝具を持つ者から不吉な占いが告げられた。

 

 その内容は『ナイトレイドのアジトの方角で凶』という内容の占いであった。それを聞いたナジェンダと、リヒト、チェルシー、スサノオはすぐさま準備を整え、本部が飼いならしているエアマンタに乗ってアジトに向かうことを決定した。

 

「三人とも準備は整ったな?」

 

 エアマンタの前でナジェンダが言うと、ナイトレイドのエンブレムが描かれたコートを着込んだ三人は頷いた。

 

 それを確認したナジェンダが先にエアマンタに乗り込み、次にスサノオとチェルシーが続く。リヒトも最後に乗り込もうとしたが、そこで呼び止められた。

 

 声のしたほうを見ると、そこにはシェーレがいた。

 

「よう、シェーレ。しばらく会ってなかったけど元気そうじゃねぇか」

 

「はい、おかげ様で。……アジトが危ないそうですね」

 

「おう。まぁあいつ等なら平気だろ」

 

「そうですね。でも、リヒトお願いをしてもいいですか?」

 

「……オレが守れる範疇ならな」

 

 そう答えると、シェーレは小さく笑みを浮かべてから真剣な眼差しのまま告げてきた。

 

「リヒト、決して死なないでください。そしていつかまた会いましょう。絶対に。あと、マインとタツミを守ってあげてください」

 

 その願いに、リヒトは小さく息をついてから答える。

 

「後のほうは守ってやる。でも、前者はわからねぇ。こんな稼業だ。いつ死ぬかはわからねぇ」

 

「そう、ですよね……」

 

 残念そうに顔を伏せるシェーレだが、リヒトは「けど」と続けた。

 

「善処はする。だから――」

 

 言いながらリヒトはシェーレに拳をむける。すると、その意図が理解できたのか、シェーレはこちらの拳に拳を合わせた。

 

「では、また」

 

「おう。またな」

 

 軽くコツンと拳を打ちあわせたあと、リヒトは踵を返してエアマンタに乗り込んだ。すると、一部始終を見ていたスサノオが問うてきた。

 

「話は済んだか?」

 

「おう。待たせてわるかったな。ボス、出してくれ!」

 

「ああ。行くぞッ! 目指すはアジトだ!!」

 

 ナジェンダは言うと同時にエアマンタの背中を軽く叩いた。そしてエアマンタがゆっくりと浮上を始め、四人はそのままアジトへと急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 飛び上がり、アジトへと向かった四人を見送ったシェーレは右腕を押さえながら呟く。

 

「皆、待っていてください。私もいつか戻りますから」

 

 そういう彼女の瞳には不屈の炎が灯っていた。




はい、お待たせいたしました。

今回も話が進みませんでしたね……
しかし、次でいよいよアジトでスタイリッシュ戦です。
リヒトはどんな風に戦うのかw
またはチェルシーと同じく傍観ですかね……

そしてなんだかリヒトとチェルシーがいい感じのご様子。これはもしや……ッ!?
スーさんも出しましたけど、起動の感じとかは完全に想像ですので突っ込まないでいただけると幸いです。(勝手な物言いすみません)

徐々に明らかになるヨルムンガンドの奥の手。
真相が明らかになるのはまだまだ先……。
前マスターのことを覚えているのだから、帝具とかの知識もある程度ある……はず。

なかなか出せないイェーガーズサイド……。スタイリッシュ殺せばセリューのアレがあるからアレがアレでアレを出来るはず。

では、感想などありましたらよろしくお願いいたします。

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