白銀の復讐者   作:炎狼

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第十二話

 夜。星星が煌めくその下で、リヒトは森の中にある木の枝に腰掛けていた。

 

「暇だ……」

 

 なんてことをあくびをしながら言っていると、木々を伝ってレオーネがこちらにやってくる。

 

「そろそろマインが動くぞ」

 

「てぇことは、イヲカルの護衛が動き出す頃か……皇拳寺の護衛。どれほどのもんか見せてもらおうかねぇ」

 

 枝の上に立ちつつリヒトが言うと、レオーネも拳と拳を打ち鳴らして笑みを浮かべた。

 

 現在、ナイトレイド一行は新たな依頼の真っ最中である。標的は帝国を牛耳ろうとしているオネスト大臣の遠縁、イヲカルとそのおこぼれに預かる護衛たち六人だ。因みに、タツミはマインの下で勉強ということなので、今はマインと行動を共にしている。

 

 ナジェンダの話では、イヲカルは大臣の名を利用しては美人な女性を拉致。死ぬまで暴行を加えるという残虐極まりない奴だそうだ。

 

 ……まぁそういうのに限って弱いんだけどな。まさに虎の威を借るなんとやらだ。

 

 肩を竦めながらそんなことを思っていると、視界の端で一筋の光がイヲカルの豪邸目掛けてほとばしった。

 

 マインの持つパンプキンの狙撃だろう。間違いなくイヲカルを仕留めたはずだ。

 

 彼女の狙撃はかなりの腕だ。その辺りはまさに天才と言っていいだろう。そもそもパンプキンは中々扱いづらい帝具であり、使用者がピンチになればなるほどその射撃の威力は増大するという兵器だ。

 

 以前それを知ったリヒトが元所有者のナジェンダと、現所有者のマインに対して「とんだドM帝具だ」といったらフルボッコにされた。

 

「……あんなに怒らなくても良かったと思けどなぁ……」

 

「何言ってんだよリヒト。行くぞ!」

 

 レオーネに言われそちらを見ると、既にアカメ達が真下にいた。どうやら皇拳寺の護衛六人を迎え撃つ準備が出来たようだ。

 

 リヒトもレオーネに続きアカメ達に合流するが、そのすぐ後、護衛と思われる者達五人が駆けてきた。

 

「さぁて、今回は暴れちゃうぞ!」

 

 先ほどと同じように拳を打ち鳴らしたレオーネが悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。しかし、リヒトは妙なことに気が付いた。

 

 ……護衛って六人じゃなかったか?

 

 だがそれを確認する暇もなく、護衛の一人がこちらに襲い掛かってきた。狙い的にはリヒトだろう。

 

「……いきなりオレかよ」

 

 なんとぶつくさ言いながらも、ヨルムンガンドを伸ばす。真っ直ぐに飛んだそれは護衛の腹部に目掛けて一直線に進んだが、敵はそれをハラリと軽い身のこなしで避ける。

 

 しかし、リヒトはニヤリと笑みを浮かべるとヨルムンガンドを一気に短くすることで、その場から加速。次の瞬間には護衛の目の前に肉薄しており、彼の胸に片手剣を突き刺す。

 

「ガハッ!?」

 

 仮面の下で血を吐いた男は一瞬苦しげにうめいた。けれど、心臓を一突きにされたこともあって地面に転がる頃には絶命していたようだ。

 

「はい、とりあえず一人っと。そっちは……心配するほどでもねぇか」

 

 薄く笑みを浮かべながらレオーネ達のほうを見ると、もうあらかた勝負はついているようであった。

 

 

 

 

 

 数分後、リヒト達の周囲には護衛たちの骸が転がっていた。

 

「あー! スカッと爽やか♡」

 

 ホクホク顔でいうレオーネに苦笑しつつリヒトはもう一度死体の数を数えてみる。やはり五人だけだ。

 

「ふむ……」

 

「一人足りないな」

 

 口元に手を当てているとアカメが隣に立っていってきた。その声が聞こえたのかレオーネ達も死体の数を数え始める。

 

「ホントだ。ってことは……マインとタツミの方に向かったのか」

 

「だろうな。んじゃ、先に合流地点行ってみるわ。アカメ達は後から来い」

 

 言いつつ、リヒトはヨルムンガンドを近場の気に打ち付け飛び上がってから空中を移動する。

 

 合流地点へ向かってからしばらくしたとき、彼の耳に何かが放たれる轟音が入ってきた。しかし、リヒトはそれに薄く笑みを浮かべ合流地点の近くに降り立った。

 

 そのまま少し歩くと、聞き覚えのある声が怒鳴りあっているのが聞こえる。

 

「……によ! せっかく認めてあげようと思ったのに!!」

 

「うるせぇ! お前天才じゃないな、秀才止まりだ!!」

 

 茂みを抜けて声のするほうを見ると、案の定というべきかタツミとマインが言い争いをしていた。彼等のすぐそばには護衛の一人と思われる男の骸が胸を打ち抜かれた状態で倒れていた。恐らく先ほどの轟音はパンプキンの砲撃で、護衛の男はそれに打ち抜かれたのだろう。

 

 しかし、タツミの頭を見てみると頭頂部がチリチリになっており、多少なり煙も出ていた。

 

 ……マインの砲撃がタツミの頭を掠めでもしたかね。

 

 肩を竦めつつ未だに言い合いをしている二人を見ていると、アカメ達がやってきた。

 

「やっぱ心配する必要なかったな」

 

「ああ、あの程度の奴等なら問題はなかっただろ」

 

 レオーネの言葉に頷きつつ、薄く笑みを浮かべる。

 

 その後、二人のいい争いが一段楽したところでナイトレイド一行はアジトへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 ナイトレイドの面々がアジトへ帰還したちょうどその頃……。

 

 帝都の裏路地では一人の男が手配書をみて不気味な笑みを見せていた。

 

「俺と同じ帝具使い……殺し屋……クク、愉快愉快。こんなのが暴れていたとは……」

 

 ニィっと口角を上げて笑う男は心底嬉しそうである。男の額にはなにやら目玉のようなものがついており、それがより一層男の不気味さを引き立たせている。

 

「おい、そこのお前!」

 

「怪しい奴だな、こちらを向け!」

 

 声のするほうを見ると警備隊と思しき二人組みが銃口を向けていた。笑っていた男もそれに反応するが、次の瞬間、警備隊二人の頭が吹き飛んだ。

 

「え?」

 

 首だけになった二人組みが間の抜けた声を上げていたが、男はそんなことを気にしていないかのように歩みを進めていく。

 

「どうやら帝都は最高に過ごしやすい場所のようだ。まぁどんなに斬っても人が多いからなぁ。愉快愉快……」

 

 悪鬼の表情を浮かべる男の瞳は狂気と快楽に満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前回の依頼から数日たったある日、リヒト達はナジェンダから新たな仕事の説明を聞くために作戦会議室に集まっていた。

 

 皆が集まったことを確認したナジェンダが口を開く。

 

「今回の標的は帝都で噂の連続通り魔だ。夜な夜な現れては無差別に人を殺す……しかも被害者は一様に首が狩られている。もう何十人も殺されている」

 

「首を狩る……ザンクか?」

 

 ナジェンダの言葉にリヒトは壁に背を預けながら言う。するとナジェンダはおろかその場にいたタツミとシェーレを除いた全員が頷いた。

 

「ザンクって誰だ?」

 

「アンタまさか知らないの? 本当にド田舎からきたのね」

 

 タツミの質問にマインが呆れているが、彼女はタツミにザンクについての説明を始める。タツミが理解するまで待っていようかと思ったが、不意に袖口をチョイチョイと引かれる。

 

 見るとシェーレが小首をかしげていた。

 

「リヒト、私もわからないんですが」

 

「……シェーレの場合は忘れてるだけだとは思うけど、まぁ一応説明しておくか。いいか、ザンクは通称〝首斬りザンク〟って呼ばれてたんだ。今回みたいに被害者の首を狩っていたからだな。

 だけどザンクもハナッから辻斬りだったわけじゃねぇ。アイツは元々は帝国最大の刑務所の処刑人だったのさ」

 

「処刑人?」

 

「ああ。死刑になったものの首を落とす仕事だな。だが、今の大臣になってから処刑する人数が増え、来る日も来る日も、無実を訴える人々の首を落としていったんだそうだ。

 最終的には首を落とすのがくせになっちまったわけだ。そんで監獄だけじゃ満足できなくなったから辻斬りになった。こんなところだな」

 

「なるほど……でもただの辻斬りに、警備隊までもがそこまで躍起になるのはなんでなんでしょう?」

 

 素朴な疑問を浮かべ、小首をかしげるシェーレ。しかし彼女の言うことも尤もである。ただの辻斬り程度であれば帝国もそこまで躍起にはならないだろう。

 

「確かにお前の言うとおり()()の辻斬りなら、帝国もこんないは動かないさ。けどな、ザンクは獄長の持っていた帝具をもって辻斬りになった……ここまで言えばわかるよな?」

 

「はい、帝具持ちであるから帝国はそれの回収も兼ねているということですね」

 

「そう。帝国も革命軍に対しては優位に立ちたいだろうからな。だから帝具が必要になってくるのさ」

 

 説明を終えるてタツミのほうを見ると、どうやらブラートがリヒトがシェーレに対して放したことと同じことを説明しているようだった。なぜかタツミの顎を持ち上げて頬を薄く上気させながら。

 

 すると、ナジェンダが軽く咳払いをしてからつげてきた。

 

「今回は全員二人一組で動け。相手は帝具使いであるということを忘れるなよ」

 

 彼女の言葉に全員が頷き、今日の深夜からザンクの討伐に出かけるということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……出来ればレオーネ姐さんかアカメちゃんとがよかったなー」

 

 文句を垂れているのはラバックだ。しかし、そんな彼の頭に軽い手刀が炸裂した。

 

「あだ」

 

「オレでわるかったな。でもこれはお前が好きでたまらないボスからの命令だ。ちゃんとしろよ」

 

 溜息気味に言うのはリヒトだった。

 

 二人は帝都の通りを歩きながザンク捜索の真っ最中である。帝都についた後、ナジェンダ以外の面々はそれぞれタツミとアカメ、レオーネとブラート、マインとシェーレという編成で各地区を調査していた。

 

 ラバック的には女子と一緒でなかったことが不満なのだろう。

 

「わーってるよー、つーかさ男だけしかいない方を狙うかねぇ。オレだったら絶対に女の子のほうを狙うね!」

 

「お前の好みだろうがそれは……。っと」

 

 ラバックの物言いにやれやれと思っていたリヒトだが、ふと足を止めてラバックを路地裏に引きずり込む。

 

「ちょちょちょ!?」

 

「静かにしてろ」

 

 言いながら先ほどまで自分達がいたところに視線を向ける。すると、警備隊の人間が数人駆けて行った。

 

「オーガを殺されたからその犯人探しもしてるってわけだ。タツミも大変だねぇ」

 

「あっちにも気をつけていかねぇとな」

 

 警備隊の隊員が過ぎ去ったのを確認し、二人は再び通りを歩いてザンクの捜索を開始した。

 

 けれど行けども行けどもザンクは見つかる事はなかったので、適当な路地を見つけた二人は適当に座った。。それでも二人は周囲の警戒を怠る事はない。

 

「あー……全然出てこねぇじゃんか」

 

「やっぱさー女の子の方に行ったんだって。男二人じゃつまらないじゃん?」

 

「段々とお前の考えに同感してきちまうオレが怖くなってきた……」

 

 唇を尖らせて嘆息するが、そこでラバックが思い出したように声を上げた。

 

「そういえばさ。ヨルムンガンドの奥の手って発動したことあったらしいけど……結局どんなの?」

 

「ラバックはまだ見たことなかったか。んー……どんなのって言われるとアレは……かなり疲れる」

 

「そんなに?」

 

「ああ。全力で発動すると発動している間はいいんだが、解除した途端に体が動かなくなるんだ。そのときは一週間近く体が動かなくてしゃべることぐらいしかできなかったな」

 

 当時のことを思い出しつつ、リヒトは星空を見上げる。

 

 帝具には「奥の手」を有するものがある。例えばインクルシオの場合は素材にされた超級危険種、タイラントの特性を生かした透明化が出来る。しかし、気配までは完全に断てる訳ではないのであまり動かないほうがいいとブラートは言っていた。

 

 リヒトの持つヨルムンガンドにも奥の手が存在しており、一年ほど前に使ってみたがとても連発できるような代物ではなかった。そもそも奥の手は連発するようなものではないのだが。

 

「そんなに疲れるってことはかなり大規模なもんなのか?」

 

「ああ。なんつーか終わった後に体力、精神力をごっそり喰われた感じなんだ。アレを使うなら……エスデスをぶち殺す時にした方がいいかもな」

 

「エスデスねぇ……でもさ、あの女はいま北に行ってるじゃん」

 

「北の勇者ヌマ・セイカの討伐だったか。どれぐらいかかることやら」

 

「最低でも一年はあるって。ヌマ・セイカの軍は中々強いらしいし」

 

 ラバックはそう言っているものの、リヒトは疑念があるのか考え込む。エスデスは今現在帝国の軍人の中で大将軍といわれるブドーと並ぶほどの強さを持っている。ナイトレイドで彼女に匹敵できるといえばブラートくらいだろう。

 

 アカメも強いがエスデスは彼女をゆうに超えるはずだ。リヒトも奥の手を使えばわからないが、勝てるとまでは行かない。

 

「ホントバケモンだからなぁ……あの女」

 

「だな。アレを一人で倒そうとは思えない」

 

 ラバックも肩を竦めているが、彼の反応は正解だ。

 

 結局、その後もザンクを探して回ったものの見つかる事はなく、捜索を始めてからしばらく経った後、アカメとタツミがザンクを討伐したということを聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ザンク討伐任務の翌日、リヒトはアカメ達が回収した帝具「スペクテッド」と眺めていた。

 

「コイツがザンクの帝具か。気味ワリィな」

 

「能力は遠視、洞視、未来視、透視、幻視の五視だそうだ。タツミは幻視に惑わされてしまい、洞視や未来視で苦戦を強いられたんだろう」

 

 茶を飲みながら答えるアカメの解析に、リヒトはため息をつく。

 

「五視ねぇ……そんじゃあザンクはこいつの能力の一つである「遠視」を使ってオレたちを観察して、誰を一番に狙うか吟味してたってわけだ。まったくいい性格してやがる」

 

 肩を竦めスペクテッドをテーブルの上に置き、タツミの姿を探してみる。しかし、何処にもいない。

 

「タツミは?」

 

「多分友人二人の墓だろう。幻視とやらは相手がもっとも愛する者の姿を目の前に浮かび上がらせる能力らしいからな」

 

「なるほどな……んじゃ、先輩として喝を入れに行くか。行くぞアカメ」

 

「ああ、夕食の準備もさせないといけないしな」

 

 二人はタツミの下へ向かった。

 

 外に出るとやはりタツミが墓の前でしゃがんで手を合わせているのが見える。

 

「怪我してるとこ悪いがタツミ、夕飯のしたくするぞー」

 

 麻袋を彼の頭に投げたリヒトが言うと、タツミは短く返事をしてこちらにやってきた。だが、近くまで来たところでタツミがアカメに問うた。

 

「アカメ、お前ザンクと戦った時幻視を使われてたよな。……あの時、誰を見たんだ?」

 

 その問いにリヒトも少しだけ驚いた表情を見せ、アカメは伏目がちに答えた。

 

「……時が来れば話す。……ただ、これだけは言える。今の私にとって大切なのはナイトレイドの仲間達だ。勿論お前もだぞ、タツミ」

 

「んなっ!?」

 

 アカメの言葉にタツミは頬を赤らめ指をワナワナと動かしていたが、リヒトは笑みを浮かべて二人に告げた。

 

「ホレ、二人とも行くぞ。今日はアカメのリクエスト通りに肉づくしだ」

 

「よし」

 

「って昨日も肉だっただろ!」

 

 アカメが喜び、タツミがそれにツッコミをいれたあと、三人は夕食の調達へと向かった。

 

 しかし食料調達の間、リヒトはアカメが幻視によってみたという人物を思い浮かべていた。

 

 ……アカメが見たって言う人物……恐らくは帝国に所属している妹のクロメか。

 

 以前話してもらった彼女の妹、クロメ。会ったこともしゃべったこともないが、帝国に所属しており、尚且つアカメの妹なのだから手馴れであることには変わりはないだろう。

 

 ……そのうち戦うこともあるかもしれねぇな。

 

 などとは思ってみたが、今はそれを胸にしまっておくことにした。




やったぜランキング一位になった!!

……はい、本当にありがとうございます。読者の方々のおかげでございます。
でもまさか一位になれるとは思わなかったですw
本当はもっと早くかきあげたかったのですが、レポートやらなんやらが多くて。

まぁそんな私のどうでもいい近況報告は置いといて……
今回ザンクさん出てますけど実際にリヒトとは戦わせませんでした。面倒とかそういうのではなく、流れ的にこちらのほうが良いと思った所存です。
その代わりと言ってはなんですが、ヨルムンガンドの奥の手がどんなものなのかがちょいだしましたw
すごく……大規模です。

次はマイン&シェーレとセリュー&コロが戦う直前で終わりを目標にしたいと思います。

では、感想などありましたらよろしくお願いします。

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