白銀の復讐者   作:炎狼

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第十話

 標的である富裕層の家族が住む屋敷に到着するやいなや、シェーレが先行して屋敷へ潜入した。

 

 そして現在、リヒト達ナイトレイド一行は屋敷の庭に生えている木と木の間に、ラバックのクローステールが張り巡らされた足場に佇んでいた。

 

「あー……確かにくせぇわこれ。人の腐る臭いがしやがる」

 

「だろ? まぁ臭いの元は、あの離れだろ」

 

 鼻を押さえつつ言うと、レオーネが親指を立てながら離れのほうを指した。

 

「出てきたな、警備兵が」

 

 アカメの声にそちらを見やると、屋敷内から十数人の警備兵が現れた。全員完全武装でいつでも戦闘に入れるようだ。

 

 それを確認したアカメがまず初めに地面に降り立ち、その後に続いてブラート、レオーネがそれぞれ降り立った。

 

 しかしリヒトはまだ降りない。

 

「リヒトは行かなくていいのかよ」

 

「レオーネは屋敷内に入るけど、まぁあの程度の雑魚共だったらアカメとブラートだけで十分だろ。

 ってわけでオレは別行ってみるわ。こっちは頼んだぜ、ラバック、マイン」

 

 告げると同時にヨルムンガンドの実体のある方を伸ばして屋敷の壁に打ち込み、鎖を一気に短くすることでそちらへ飛ぶ。

 

 ヨルムンガンドを手に入れると同時に、リヒトはヨルムンガンドを一種のアンカーとして利用するようにもなった。これによって空間全体を使った立体的な戦闘が可能になった。

 

 ただ、これが出来るのは樹海や森林、渓谷などと言ったところのみに限られる。しかし、帝具とは良くできたもので、もう一方の実体のない鎖は、空間自体を掴み取ることができ、空中をまでも自在に移動することが出来るのだ。

 

 だが、もとより実体のないヨルムンガンドをずっと維持することは、かなりの精神力と体力を消耗するため、後者を使用する際は短期決戦が重要となる。

 

「よっと」

 

 実体のないヨルムンガンドを虚空に向けて発射し、龍のオブジェが空間を掴み取ったことを確認すると、リヒトは鎖を巻き取って空中に躍り出て周囲を見回す。

 

 ……アカメの方に大方の兵が集まってるか……っといたいた。

 

 空中で獲物を見つけたリヒトはヨルムンガンドを空中に噛み付かせて地上へ降り立つ。

 

「よう、どこ行く気だい? お嬢ちゃん」

 

「ひっ!?」

 

 短く悲鳴をあげたのは今回の標的に含まれる少女だった。確か名前はアリアと言ったか。

 

 彼女に対し片手剣の切先を向けるリヒトだが、その前に警備兵が立ちはだかる。

 

「く、来るな!」

 

 バイザーをつけた兵士が剣を向けながら言ってくる。

 

「あーぁ……なんでそんな奴を庇うのかねぇ。でもまぁ心根まで腐ってんだから当たり前か」

 

「なにを――」

 

 その言葉を最後に兵士の心臓に鎖が突き刺さり、彼は簡単に絶命した。嘆息気味にヨルムンガンドを巻き取り、軽く血を払った後、アリアに近づいてから彼女をヨルムンガンドで拘束して、首筋に片手剣を突きつける。

 

「さて、お嬢ちゃん。今頃君のお父さんとお母さんは地獄にいるだろうから、お前も後を追いな」

 

「ど、どうしてッ!? 私が何をしたっていうの!?」

 

「何をした……って……。ク、ハハッ! おいおい、ざけたことぬかしてんじゃねぇぞ外道女」

 

 呆れきった様子で言い切るリヒトだが、ふと背後に誰かがいるのに気が付いた。するとリヒトが振り返るよりも早くアリアがその者の名を呼んだ。

 

「タツミ!」

 

 声に続くようにそちらを見やると、栗色の髪をした年齢的にはマインと同じくらいの少年が剣をこちらに向けていた。

 

「誰だ? 標的には入ってなかったはずだが……」

 

「その人から剣を離せよ、ナイトレイド!」

 

「……あぁなるほど、街中でコイツに拾われた地方出身者か……。少年、悪い事はいわねぇからこの女を守ろうとしないほうがいいと思うぜ? お前が命をかけて守る価値のある女じゃない」

 

 肩を竦めながらいってみるものの、タツミという少年は額に僅かながら汗を浮かばせながらこちらを探るように見てくる。

 

 ……へぇ、いい鍛え方してんなぁ。磨けばかなりの使い手にはなりそうだ。

 

 対するこちらもタツミを見回しながら分析していると、彼が言ってきた。

 

「どうしてだ、どうしてその人を狙う! アリアさんは路頭に迷ってたオレを拾ってくれた恩人で――」

 

「――恩人だからって全員が全員、いい人だって証拠は何処にもないんだぜ。少年」

 

「なに?」

 

 タツミが問い返してきたが、ちょうどそこへ兵士の始末を終えたアカメと、屋敷内でアリアの父親を殺害してきたであろうレオーネがやってきた。

 

「リヒトなにやってって……うわーお、まさかこんなところで会うなんて思わなかったなー少年」

 

 レオーネが溜息をつきながら言っているのを聞いて、リヒトは昨日彼女が言っていたことを思い出す。

 

「あぁ、なるほど。レオーネに金騙し取られたってのはお前のことか少年。ってか、もしここで少年が死んでたら、お前にも責任はあると思うぜ、レオーネ」

 

「ぐぬっ……。本当のこと過ぎて言い返せない」

 

 気まずそうな顔をするレオーネだが、タツミが彼女のほうを向いて「あっ」と声を上げた。

 

「アンタ、あの時のおっぱ――!」

 

 おっぱいって言おうとしたよこの少年。まぁそれも無理はないと思うが。

 

「ソダヨー、あの時の美人のお姉さんだ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら悪びれた様子もないレオーネに対し、リヒトは言い放つ。

 

「おいレオーネ。少年には後で謝っておくとして、この少年にこの女の本当のツラを見せてやれ」

 

「ほーい。……少年、よく見とけよ。これがその女の本性だ」

 

 離れの重厚な扉を、ライオネルで強化した拳で破ると、それと同時に強烈な腐臭と血臭がその場にいた全員を襲った。

 

 離れの中はまるで地獄だった。天井からは数人の人間が逆さ吊りにされ、手術台のような上には腕と脚を拘束された状態の男性の遺体が転がっており、その腹からは内臓がこぼれ出ていた。

 

 更には首や赤ん坊と思しきものが容器の中に収められていたり、水牢のようなものの中には既に事切れていた者の姿もある。

 

 壁際を見ると、手足をもがれた死体が飾ってあったりもしたが、まだ息のある者も数人見て取れた。だが、この腐臭からしてそう永くはないだろう。

 

 それらを一通り見終えたリヒトはため息をつく。

 

「こいつぁまた随分とショッキングだねぇ」

 

「なんだよ……これ……」

 

「これがこの女……この家のウラの顔ってわけだ。地方出身者を甘言で惑わして家にいれ、その後薬を盛ってから死ぬまで拷問し続け自分達の快楽を満たす……ようは、とんだサド家族ってわけだ。そうだろ嬢ちゃん」

 

 ヨルムンガンドを引っ張ってアリアに中を確認させるが、彼女は被りを振って否定する。

 

「し、知らないわ! 私こんな場所があったなんて知らなかったものっ!」

 

「まだシラを切るか……その図太さだけは尊敬するな」

 

 そんなことを離していると、タツミがふらふらとした足取りで離れの中に入り、天井から吊られている少女の遺体を見ながら彼女の名前を読んでいた。

 

 すると、壁際の檻に閉じ込められていた少年がタツミを呼んでいる。どうやら知り合いのようだ。けれど、檻にいる少年の肌には赤黒い斑点が浮き出ていた。

 

 症状的に見ると病名は確かルボラ病だったか。

 

「知り合いがいたみたいだな」

 

「ああ……で、これでもまだシラを切るのか? あの檻の中の少年が言うことは本当なんだろ?」

 

 乱雑に引っ張ると、アリアは鎖を振りほどこうと身体を揺すった。しかし、そんなもので帝具であるヨルムンガンドが緩まるはずもない。

 

 そしてアリアはついにその歪み切った本性を露にする。

 

「なにが悪いって言うのよ! あんな地方出身者なんて家畜同然じゃない! それをどんな風に扱おうが私の勝手!!

 むしろこれだけ目をかけてもらっただけありがたいと思いなさいよ! 所詮は家畜なのに文句垂れるんじゃないわよ!!」

 

「騒ぐなクソ女」

 

「ごふッ!?」

 

 アリアが言い切ると同時にリヒトはヨルムンガンドに隙間を開けさせて、鳩尾の辺りを蹴りつける。

 

 体がくの字に折れ曲がり、口からは吐瀉物を吐き出すアリアだが、彼女はすぐに強制的に立たされた。

 

「もういいよな、ヤッちまっても」

 

「ああ、もう十分だ」

 

 アカメの指示を聞き、頷いてから片手剣で首を刎ねようとした時、

 

「待て」

 

 タツミが小さく言った。最初はまだ情でもあるのかと思ったが、彼から発せられる殺気を感じ取ると、ヨルムンガンドの拘束を解く。

 

 瞬間、アリアは逃げようとしたが、既に手遅れだった。

 

 なぜならタツミが彼女の上半身と下半身を真っ二つにしていたのだから。

 

 ……へぇ、思い切りがいいな。

 

 ヨルムンガンドを回収しつつ、タツミの手際を見て頷く。タツミは剣を鞘に収めながら離れに幽閉されている友人を助けに行ったものの、外に連れ出した頃にはもう手遅れだった。

 

「イエヤス! おい、しっかりしろよ!」

 

「無理だな、もう末期だ。ここまで進行してたら治しようがねぇ」

 

「ああ。もうほとんど気力で持っていた状態だったんだろう」

 

 アカメは言うと踵を返してブラート達の下へ戻ろうとしたが、そこでレオーネが提案した。

 

「なぁ、この少年もって帰ろうぜ。リヒトだって少年の強さわかっただろ」

 

「そうだな。まぁいいんじゃね、人手不足なのは確かだし、なかなか肝も据わってる」

 

 肩を竦めつつ答えると、レオーネがタツミの襟を「むんず」とつかんだ。しかし、タツミはというと、

 

「放せ! 俺は二人の墓を作るんだ!!」

 

「あーはいはい、二人はちゃんとオレが運んでやるから安心しろ。レオーネ、少年頼むぞ」

 

「はいよー」

 

 レオーネがタツミを抱えたのを確認すると、リヒトもヨルムンガンドをタツミの友人二人の体に巻きつけてブラート達の下へ急いだ。

 

 

「お待たせー」

 

「遅いわよ三人とも! なにやってた……って、それなに?」

 

 戻ると同時に開口一番マインが若干怒りながら言って来たが、タツミを見て首をかしげる。

 

「新しい仲間だ!」

 

「ファッ!?」

 

 レオーネの言葉に誰よりもビックリしていたのはタツミだった。まぁいきなり仲間だといわれても驚くのは当たり前だが。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は別に仲間には」

 

「あきらめろ少年。レオーネはそういうのはまったく聞き入れないからな」

 

 肩を竦めつつタツミの肩に手を置いたリヒトは、レオーネをキロリと睨む。

 

「レオーネ、あとで少年に金返しとけよ」

 

「……はーい」

 

 しょぼんと、落ち込んだ様子を見せるレオーネだが、それを尻目にリヒトはアカメに視線を送る。

 

 彼女もその意図が理解できたのかコクンと頷き、皆に告げる。

 

「では任務終了だ。アジトに帰還するぞ!」

 

 号令と共に皆同時に駆け出し、タツミはブラートに抱えられて行くこととなった。途中、市街地を駆けながらリヒトはシェーレのことをラバックに問うた。

 

「シェーレは先に戻ったのか?」

 

「ああ、リヒト達が戻ってくるちょっと前にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトに戻ってから三日たった昼頃、リヒトはナイトレイドのアジトにある訓練場でブラートと模擬戦を行っていた。

 

「なぁブラート、あの少年のことどう思う?」

 

「タツミって奴のことか? どうだろうなぁ、戦ってるところを見てないからはっきりした事はいえねぇけど、体の作りは良かったと思うぜ」

 

 槍による豪快な突きを放ってくるが、リヒトはそれを避けつつ呆れた様子で言う。

 

「……顔赤らめながら言うんじゃねぇよ」

 

「お前から見たらどうなんだよ、リヒト」

 

「まぁ思いきりはよかったし、剣の腕もそれなりにたつみたいだったな。磨けばかなりの逸材にはなるだろうよっと!!」

 

 片手剣を振るって一気に攻め立てて行くが、ブラートはそれらを全て防いでいき、リヒトに出来た一瞬の隙を突いてカウンターを放ってきた。

 

「マジかッ!?」

 

「ふふん、まだオレには及ばないな、リヒト」

 

 結局それを防ぐことが出来ず、大きく後退させられたリヒトだが、ふとそこでレオーネの声が聞こえたので、そちらを向くとタツミとレオーネが訓練所の縁側に立っていた。

 

「よう、タツミ。ナイトレイドに入る決心はついたのか?」

 

「いや、それは……」

 

 タツミは言葉に詰まって顔を伏せるが、リヒトはそれに小さく頷きながら「まぁ」と続けた。

 

「早急に決めろってわけじゃないから、そこまで焦ることもないと思うけどな。っと、自己紹介がまだだったな、リヒトだ。よろしくな」

 

 こちらが手をさしのべると、タツミもそれに答えて二人は握手をする。

 

「そういえば、アンタだったよな。サヨとイエヤスを運んでくれたのは……ありがとう」

 

「気にすんな。ホレ、ブラート。お前も自己紹介しとけよ」

 

 リヒトはブラートに促したあと、己の剣術修行に戻っていった。

 

 

 

 

 

 レオーネによってアジトを案内されていたタツミは、訓練所を後にしてまた別の施設へ足を向けていた。

 

 すると、レオーネが先ほどの一人、リヒトについて説明し始めた。

 

「リヒトはアレでも元帝国の軍人だったんだってさ」

 

「そうなのか、でもどうしてナイトレイドに入ったんだ?」

 

「……親友が殺されたんだってさ。子供の頃から兄弟みたいに育ってきた親友が、何の罪もないのに国家反逆罪って言う濡れ衣を着せられて拷問の末、磔にされたらしい」

 

 レオーネの言葉にタツミは表情が強張ったのを感じた。

 

 自分もつい先日に二人の親友を殺されているから、リヒトの気持ちも少しだけわかったような気もした。

 

「じゃあ気を取り直して今度はラバの方にでも行ってみるか」

 

 首を腕と胸で挟みこまれながらタツミはレオーネと共に別のメンバーがいる場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラートと鍛錬をしていたリヒトだが、休憩をしていたところで出張っていたナイトレイドのボス、ナジェンダが帰ってきたとのことで、皆作戦会議室に集められた。

 

 また、椅子に座るナジェンダの前にはタツミの姿もあった。どうやらレオーネが彼のことをナジェンダに話したようである。

 

「さて、事情はここに来る途中話してもらったから大体納得はした。それでどうだ? タツミ、ナイトレイドに加入する気はないか?」

 

 ナジェンダが義手の掌を向けてタツミに問うたが、彼はまだ決心がついていないのか言いよどむ。

 

「でも断ったりしたらあの世行きって聞いたぞ」

 

「そんなことはしないさ、しかし故郷に返してやるわけにも行かないな。革命軍の本部にある工房で働いてもらうことになる」

 だから別に断ったところで命が危ないとかそういうのはない。それを踏まえたうえでどうする?」

 

 ナジェンダの鋭い視線がタツミに向けられる。すると彼は拳をグッと握り締めてポツリと語りだした。

 

「俺は、帝都で稼いで故郷を少しでも救いたかったんだ。でも、いざ帝都に来てみれば国を治めるはずの都市が腐りきってた……ッ!」

 

「まぁ上が上だからな。なぁブラート」

 

「ああ、中央のお偉いさん方が腐ってるから、地方はどんどん貧困にあえぐことになるんだ。だから俺達はその根幹を取っ払おうとしてるってわけだ」

 

 リヒトの声に頷きつつタツミに告げるブラートに続いてナジェンダが補足を入れた。

 

「ブラートとリヒトは元帝国の軍人だ。しかし、二人とも帝国の腐敗を知って革命軍に入ったんだ」

 

「でもさ、この前みたいな政治に直接関係のない悪人をちょいちょい殺していっても国を変えるには至らないんじゃないか?」

 

「ああ。確かにお前の言っているとおりだけど、タツミ。さっきボスがいったこと忘れてないか? オレたちは何もオレたちだけで帝国と戦おうってわけじゃないんだ。

 オレ達は元々革命軍に身をおいているんだ」

 

「革命軍?」

 

 リヒトに対して小首をかしげるタツミに、彼は更に続ける。

 

「そう。帝都から遥か南方には革命軍の本拠地がある。ボスの話じゃ最初こそ小さな組織だったらしいが、今じゃ帝国も危険視する一大組織だ。でもそれだけ大きくなってくると、必然的に帝都の情報収集や暗殺と言った日陰の仕事も多くなる。

 そのために結成されたのが、オレ達ナイトレイドってわけだ」

 

 言い切ると、リヒトはナジェンダに視線を向けて「続きを」と促した。彼女もそれに頷くと、説明を始めた。

 

「今リヒトが行ったとおりだ。そして、我々の最終目標は革命軍が決起した際の混乱に乗じて、この国の腐敗の根源。大臣を討つッ!」

 

「大臣を……!?」

 

「最終的な目標はそれだ。勿論その後の国のことも考えてはいるし、それだけが全てじゃない。しかし、今はそれを置いておく。

 でも大臣を討ち取ることが出来れば、この国はきっと変わる」

 

 ナジェンダの言葉にタツミは息をのみ、考えるそぶりを見せた後に問うた。

 

「新しい国は、民にも優しいんだよな?」

 

「無論だ」

 

「……なるほど、スゲェ。じゃあ、今もゴミ掃除をしてるってだけで、所謂正義の――」

 

「――それは違うぞ、タツミ」

 

 タツミが言いかけたところで、リヒトが割って入った。それに疑問符を浮かべているタツミだが、リヒトは静かに告げる。

 

「オレ達がやっている事は確かに聞こえ的には気持ちがいいものかもしれない。でも、結局のところ、殺しは殺しだ。そこに正義なんてものはない」

 

「ここにいるオレ達全員、いずれ報いをうけてもおかしくはないんだぜ」

 

 ブラートが続けるように言った。二人の瞳には暗い影が落ちており、酷く冷たい目をしていた。しかし、それは二人に限ったことではなく、この場にいる全員がそうだった。

 

 それに対しタツミがゴクリと生唾を飲み込んだが、ナジェンダが最後の問いを投げかけた。

 

「二人の言うとおり、ここにいる全員相応の覚悟を持っている。それでもお前の意見はかわらないか?」

 

「……ああ、変わらないさ。それに報酬がもらえるんだったら、それを故郷に送って少しでも故郷を豊かにしてやりたい」

 

「殺しの稼業を始めたら大手を振って故郷に帰れなくなるかもしれないわよ?」

 

 マインが意地悪げな笑みを浮かべて言うものの、タツミはそれに被りを振って答える。

 

「構わないさ。オレの力で村の皆が少しでも幸せになるならな」

 

「……決まりだな。修羅の道へようこそ、タツミ」

 

 ナジェンダいいつつ、彼に手をさしのべた瞬間、ラバックのクローステールが巻かれる音が聞こえた。

 

「ナジェンダさん、敵襲だ!」

 

「何人だ?」

 

「オレの結界のなかだと……合計で九人……いや、十人だ! 全員がアジト近くまで来てます!」

 

「ここを嗅ぎつけたとなると、異民族の傭兵あたりか。仕方あるまい――」

 

 ナジェンダは煙草にライターで火をつけると皆に向かって冷徹な声で告げた。

 

「――全員生かして返すな」

 

 瞬間、その場の空気が一気に重くなり、さらにそれぞれの殺気が鋭くなった。

 

「全員散開、行け!」

 

 言うが早いかその場にいた全員が一気に駆け出し、リヒトも外へ向かう。外に着いたところでアカメに問うてみる。

 

「どっち行くよ、アカメ」

 

「私は川原の方へ向かってみる。リヒトは?」

 

「森の奥だな。そんじゃ、早々に終わらせようぜ」

 

「ああ」

 

 二人は軽く拳を合わせた後、各々の方へ向かって駆け出した。




はい、今回はあまり原作との差異はありませんでしたが、襲撃してくる傭兵が八人から十人に少し増えましたね。

そして視点もリヒト視点が殆どというw
さらにヨルムンガンドが某立体機動みたいなことが出来るというね。

では感想などありましたらよろしくお願いいたします。

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