白銀の復讐者   作:炎狼

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アカメが斬る! では初めての投稿になりますが、よろしくお願いします。


第一話

 ――――帝都。

 

 千年前、時の始皇帝が統一、建国した帝国の首都。中心には荘厳な宮殿がそびえ、宮殿を取り巻くように都が展開している。

 

 けれど千年という長きに渡って繁栄してきた帝国は、腐敗の一途を辿っていた。

 

 まるで末期の病魔の如く国を貪る悪、悪、悪……。

 

 苦しみ、絶望し、涙を流す民衆達。けれど、彼等の言葉が聞かれる事はない。

 

 横行する腐敗政治は止まることを知らず、人々は圧政の中苦しみ続けるしかなかった。

 

 そんな不条理な世界に、一人の少年が生まれた。

 

 少年は果たして何を成すのか、その先に待つのは希望か絶望か、はたまた別の何かか……。

 

 これは、そんな少年が作り出す物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝暦1004年の冬。

 

 雪の降る帝都の、下町にある病院の一室で、一人の赤ん坊が生まれた。

 

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」

 

 初老の助産師が生まれたばかりの赤ん坊をお湯で洗い、清潔な布に包むと、赤ん坊の母親である、色白で、尚且つ髪の毛も白銀の女性の隣に赤ん坊を寝かせた。

 

 女性の顔には疲れが浮かんで見えたが、彼女は赤ん坊を見ると大粒の涙を流しながら嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「よかった……!」

 

 赤ん坊のおなかを優しく摩りながら彼女が言うと、それに答えるように赤ん坊も彼女の指を握った。

 

 彼女が苦笑を浮かべながらそれを見ていると、病室の扉が勢いよく開き、黒髪をオールバックにした筋肉質な男性が心配そうに入ってきた。パッとガタイが大きいため、威圧されそうだが、今はそうでもない。

 

「せ、セシル! 大丈夫か!?」

 

「クレイル……ええ、大丈夫よ。この子もね」

 

 言いながらセシルと呼ばれた彼女は、夫であるクレイルに微笑みかける。すると、クレイルも安堵したのかほっと胸を撫で下ろし、彼女の手を握る。

 

「ありがとう、セシル……! よくがんばってくれた……!!」

 

「もう、泣き過ぎよ」

 

 傍らで感謝の言葉を涙ながらに言うクレイルにセシルは苦笑してしまう。

 

 クレイルは涙を拭うと赤ん坊を抱き上げて、赤ん坊の顔を見やる。

 

「かわいいなぁ、どちらかと言うと俺よりもセシルに似たみたいだ。銀髪がそっくりだし、鼻がスッと通ってるところもも似てる。こりゃあ、将来相当イケメンになるな」

 

「あら、アナタに似たところもあったわよ。睫毛とか」

 

「おいおい、俺だけ規模が小さくないかぁ?」

 

 大きく溜息を付きながら言うものの、内心ではかなり嬉しいのか未だに頬が緩みっぱなしだ。

 

「名前はもう決めてあるの?」

 

「ああ! もちろんだ! 色々調べてたんだが、どっかの国の言葉で『光』を意味する『リヒト』にしようと思うんだが……どうだ?」

 

「リヒト……うん、男の子っぽいし良いんじゃないかしら。私は気に入ったわ」

 

「そうか! いやー良かった良かった。反対されたらどうしようと思ってたんだ」

 

 若干焦りながらいった後、彼はリヒトを真っ直ぐに見て告げた。

 

「今日からお前の名前はリヒトだ。俺とセシルの子供だ。産まれてきてくれてありがとうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――五年後。

 

「母さん! 今日もあそびにいってくる!!」

 

 白銀の髪をロングに伸ばした少年、リヒトは玄関のドアを開けながら台所に立つセシルに告げた。

 

「あまり遅くなっちゃダメよー!」

 

「わかってるー!」

 

 母に軽く手を振りながら家を出たリヒトは、真っ直ぐに友人の家を目指した。

 

 家を出てから数分も立たないうちに、目的の場所にたどり着いた。

 

「ルークー! あそぼうぜー!」

 

 玄関の前で大声で言うと、中から金色の髪をした少年が顔を出す。彼はリヒトが産まれた翌月に産まれた少年で名をルークという。

 

 生まれつき身体が弱いようで、あまり外で遊ぶ事はないが何故かリヒトとはうまが合うようでこうして幼馴染の関係を持っている。

 

 しかし、顔を出したルークはどこか残念そうだ。

 

「ごめんよ、リヒト。今日は母さんに家にいなさいって言われてるんだ」

 

「そっかぁ……」

 

 申し訳なさそうにいうルークにリヒトも少しがっかりしたようなそぶりを見せるが、何かを思い至ったのかポンと手を叩いた。

 

「そうだ! だったらルークの部屋で遊ぼうぜ! それなら出かけないから平気だろ?」

 

「う、うん。僕は別に良いけど……中で走ったりはしないでね?」

 

「わかってるって! それじゃあ、おじゃましまーす!」

 

 ルークの動揺を尻目にリヒトはさっさとルークの家に入り、彼と一緒に部屋へ向かった。

 

 部屋に着いた二人はそれぞれ適当なところに座り、適当におもちゃで遊び始めた。

 

 時折本を読んだりもしたが、やはりおもちゃで遊んでいる方が楽しかったのか、あまり長続きはしなかった。

 

 一時間ほど遊んだところで、ふとルークがリヒトに問いを投げかけた。

 

「ねぇリヒト。リヒトのしょうらいのゆめってなに?」

 

「しょうらいのゆめ? それっておとなになったら何をしたいかってことか?」

 

「そうだよ。もう何かきめてるの?」

 

「おう! オレはてーこくのぐんじんになりたい! そんで、悪いやつらをやっつけるんだ!」

 

 ビシッと拳を突き出しながら言うと、ルークはやっぱりと言う様にクスクスと笑った。

 

「フフ、やっぱりリヒトならそういうと思ったよ」

 

「なんだよそれー。じゃあじゃあ、お前のゆめってなんだよルーク?」

 

「僕? 僕は……ていこくのかんりょうになって、皆の暮らしを楽にしてあげたいかな」

 

「かんりょー?」

 

「窓の外にみえるでしょ? きゅうでんではたらいている人たちのことだよ。リヒトもぐんじんになるなら入ることもあると思うよ」

 

 ルークの言葉を果たして理解したのかしていないのか、リヒトは小首をかしげながら窓の外に見える宮殿を見やった。

 

 けれど、すぐに視線を戻して遊び始める。

 

 そのまま数時間ルークと遊んでいると、時計が鳴った。

 

「あ、もう帰らないと。そんじゃ、また来るぜルーク」

 

「うん、またね。リヒト」

 

 軽く手を振りながらルークの家から出ると、そのまま自宅を目指す。すると、その途中で声をかけられた。

 

「おぅい、リヒト」

 

 そちらに視線を送ると黒髪をオールバックに纏め上げた、筋肉質な男性、リヒトの父であるクレイルが手を振っていた。

 

「父さん!」

 

 彼の姿を見つけて駆け寄っていく。そして彼が近くまで来るとクレイルは高い高いをするように抱き上げる。

 

「なんだ? また、ルークのところに行ってたのか?」

 

「うん。一緒に遊んでた」

 

「まったく、お前とあの子はタイプが違うってのに本当に仲がいいなぁ。まぁとりあえず今は家に帰るか。そろそろお母さんがご飯の準備をしているころだしな」

 

 リヒトを肩車しながらクレイルが言うと、リヒトは大きく頷いて返した。

 

 夕日に照らされ家路につく二人だが、ふとリヒトがクレイルに告げた。

 

「父さん。オレさ、てーこくのぐんじんになりたい」

 

「……そうか」

 

「そんでさ、悪いやつをたくさんやっつけるんだ!」

 

「……そうだな、いい夢だ……」

 

 先ほどまで笑顔を浮かべていたクレイルだが、リヒトの宣言を聞いた瞬間、どこか悲しげな面持ちになった。

 

 しかし、リヒトはそれに気が付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜中。

 

 既にリヒトが眠ったあと、セシルとクレイルは寝室で話し合っていた。

 

「セシル。今日、リヒトが帝国の軍人になりたいって言ったんだ。……どう思う?」

 

「……私は反対よ。あんな腐りきった帝国の軍人にあの子をさせるなんて」

 

 拳をキュッと握り締め、眉間に皺を寄せているセシルに対し、クレイルも静かに頷く。

 

「ああ、俺も出来ればあの子を軍人にはしたくない。でも、全員が全員腐敗してるわけじゃない」

 

「でも……」

 

「わかってる。だから、あの子が軍に入るまで、俺があの子を強い子にしてみせる。肉体的にはもちろん、精神的にもな」

 

 落ち着いた様子でクレイルが言うと、彼の手にセシルが手を重ねる。

 

「貴方がそういうのなら私は止めません。でも、これだけは約束して。絶対に無理はしないで」

 

「ああ、わかった。……そのうちあの子にも帝国の現状を話しておくとするよ」

 

「そうね。そのほうが良いかもしれないわ。でも、後一つだけ言わせて。決してあの子を貴方みたいなガチムチのマッチョにはしないでね?」

 

「えッ!? ダメ!?」

 

 クレイルは本気で驚いていたようだが、セシルはただ頷く。

 

 ……まぁいずれにせよあの子が軍人にならないって言っても鍛えるつもりではいたんでしょうが。

 

「やっていいのは細マッチョね」

 

「えー……。やっぱり俺のようながっちりした方がよくないかぁ?」

 

「嫌よ。あの子イケメンになるし、それなのに身体はそんなにがっちりしてるなんて」

 

 結局、深夜までこの話は続いた。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、クレイルはリヒトを起こし、家族三人で食卓に着いた。

 

「なぁリヒト。やっぱり、まだ帝国の軍人になりたいか?」

 

「うん」

 

 リヒトの目は真剣そのものであり、半端な気持ちでなりたいと言っている訳ではないと理解できた。

 

 彼の覚悟を見極めたクレイルはセシルに視線を送る。セシルもまたそれに答えるようにコクッと頷く。

 

「よし、それじゃあリヒト。軍人になりたいならまずは身体を鍛えないといけない。だから、今日から俺がみっちりお前を鍛えてやる」

 

「きたえる?」

 

「ああ、お前を強くするんだ。安心しろ、これでも俺は元帝国の軍人だ。まぁ今は怪我の影響で軍には所属していないんだけどな」

 

 半袖を少し脱いでクレイルが肩を見せると、そこには痛々しい傷跡と、手術のあとのようなものがあった。

 

 傷口を見てリヒトはゴクリと生唾を飲み込んだが、すぐに被りを振る。

 

「もちろん、軍に入ればこんな傷を負うこともある。それだけ危険なんだ。だからこれが最後の確認だ、本当に軍人になりたいか?」

 

 鋭い眼光でリヒトを見るクレイル。

 

 しかし、リヒトは決してそれに臆することなく頷くと、

 

「うん、オレはそれでも軍人になりたい。そんで皆を守れるようになったり、悪いやつをやっつけられるようになりたい」

 

「……わかった。じゃあ、今日から鍛錬を始めるぞ! 覚悟しろよ」

 

 そして、クレイルによる鍛錬が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして八年後。

 

 帝都近郊に存在する山、フェイクマウンテンにて、十三歳になったリヒトはクレイルとの鍛錬に今日も明け暮れていた。

 

「結構霧が濃くなってきたけど大丈夫かな、父さん」

 

「なんだ? 怖くなってきたのか?」

 

「違うって。ただ、こうも濃いとやっぱりあいつ等が出るんじゃないかなって――」

 

 瞬間、リヒトは前に前転した。

 

 そしてそんな彼の頭上を太い木の枝のようなものが風を巻き込みながら通過する。

 

「――やっぱり出たか。木獣に石獣」

 

 すぐさま態勢を立て直して腰に下がっている剣に手をかける。

 

「父さんは肩あがらねぇんだから喰われない様に隠れてろよ」

 

「まだまだ自分の子供に負けるわけにはいかねぇよ。特級は無理かもしれんが、一級くらいまでなら何とかなる。それに木獣は雑魚だからな」

 

 クレイルも背負っていたリュックを下ろすと、剣を抜いた。

 

 そうこうしているうちに、周りにあった殆どの樹木が木獣に変わり、転がっていた石も石獣に変異した。

 

「死ぬなよ?」

 

「どっちが!!」

 

 言いながらクレイルより先にリヒトが駆け出し、木獣達を狩りに向かった。

 

 

 

 

 

 数分後、積み上げられた木獣の屍骸に座り込みながらリヒトがため息をついた。

 

「あー……弱いくせに数は多いんだよなぁ」

 

「まぁそう言うな。木獣も食えるし、今日の夕飯はこれにしよう」

 

 木獣を捌きながら肉を取り出したクレイルは捌く用の小刀を放ってきた。

 

「お前もやれ、働いた分夕飯が増える」

 

「へーい」

 

 面倒くさそうに木獣の屍骸の山から下りると、調理しやすい大きさに切り分け始める。

 

 ある程度木獣やら石獣を捌き終えた二人はフェイクマウンテンから下山し、川原の近くでテントを張った。

 

 その後林で薪を拾い、リヒトは火を起こす。焚き火が完全に燃え上がったところで、リヒトは夕焼けと夜がちょうど交わりあう、群青色の空を見上げながら息をついた。

 

「この鍛錬も明日で終わりかー、結構早かったな」

 

「まぁ一週間くらいだからな。軍に入ったら辺境に送られることもある。これが終わったらまた別の場所で鍛錬だ」

 

「次は何処ですんの?」

 

「そうさな……出来れば寒冷地がいい。寒い地域の気候にも慣れておくのも大切だからな」

 

 木獣の肉を串に刺して焚き火にくべながらクレイルにリヒトは納得したように頷く。

 

「やっぱり父さんはすごいな。軍に入ってたときもいろんな所に行ってたんだっけ?」

 

「ハハ、まぁな。よく言えばいろんな経験を積んだ、悪く言えば辺境にすっ飛ばされてただけだけどな。……でも、戦地で異民族の人たちの命を奪ってきたのも事実だ。何人殺したのかもわからない。そのうち人を殺すことに何の躊躇もしなくなっちまった。

 人間ってのは恐ろしいよなぁ。それが習慣になっちまえば何の躊躇もしなくなって、恐怖すらも磨耗して行っちまう」

 

 目の前でゆらゆらと揺れる炎を見ていたクレイルの双眸は酷く悲しげで、後悔も入り混じっていた。

 

 この話自体はリヒトからすればもう何百と聞かされた話であったが、彼はこの話をいつも真剣に聞くようにしている。

 

 軍人になるために修行が始まってからというもの、リヒトはセシルとクレイルからこの国の政治面的な話と軍事的な話を教わった。

 

 今現在、帝国を纏め上げていた皇帝は病床についている。けれど、余命幾ばくもないらしい。今は何とか大臣のチョウリが管理をしているものの、その裏では副大臣であるオネストが暗躍しており、帝国は腐敗の一途を辿っている。

 

 リヒトも帝国の暗い影が濃くなってきたのはわかってきていた。待ち行く人々は暗い顔をしているし、強盗も頻発するようになっていた。

 

 さらには官僚たちの汚職、警備隊の中には賄賂をもらっている者もいるとのことだ。富裕層ではその財力で地方出身者を遊び道具にするなんということもあるらしい。

 

 軍事面から見ても、皇帝が病床につく前よりも異民族との戦争が増えている。更には罪のない人々を殺すなんていうこともざらにあるようだった。

 

 しかし、これらを聞かされてもリヒトの帝国軍に入るという夢は変わらなかった。いや、むしろ幼年期よりも強くなったといっても良いだろう。

 

 それはリヒトの中で夢が軍人になって悪いやつをやっつけるというだけでなく、もう一つ増えたことだ。父と母、二人の話を聞いてリヒトは腐敗する帝国を内側から変えたいという夢が出来たのだ。

 

 そのことを親友であり、幼馴染でもあるルークに話すと、彼もまたそれに同意した。そして二人は誓った、リヒトは軍事面で、ルークは政治面でこの国を変えて見せると。

 

 ……でも、それにはもっと力が必要だ。

 

 グッと拳を握り締めるリヒトの瞳には覚悟の炎が光って見えた。

 

 すると、彼の鼻先に焼けた肉がずいっと出された。

 

「ホラ、明日に備えて食っとけ」

 

「うん。それで明日はなにをするんだ? 今日と同じ感じ?」

 

「いいや、明日は少し試験のようなことをする。なぁに、今のお前ならなんとかなるさ。それ食ったら少し勉強して、そこの川で軽く水浴びをした後に寝るからな」

 

「えー、勉強すんのー?」

 

「ったりめぇだろうが。軍人になるには多少勉強も出来ないといけないんだよ。ただ強いだけじゃ、いろいろ見落としちまうこともあるしな。ほれ、さっさと食え」

 

 言いながらクレイルは肉にかぶりつくが「かてぇなこれ」などと愚痴を零しながら咀嚼した。

 

 勉強という言葉に辟易した様子のリヒトも、串に刺さった肉を口に入れる。

 

「かてぇ……」




はい、一話を投稿してみました。
とりあえずはリヒトの生まれからですが、原作に絡むのはもうちょい先ですね。あと二、三話ですかね。
木獣ってうまいんだか不味いんだか……まぁ危険種は食えるものもいるらしいですし……。
話中で色々独自の解釈はありますが、果たしてそれが合っているのかはわかりません。設定資料を読みましたが、載っていないことも多々ありましたので。
どこか変だと思われましたらお気軽にお申し付けください、修正いたします。

では、感想などありましたらよろしくお願いします。

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