心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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80話「タイムリミット」

「──答えて。あなたたちは何者なの?」

 

 暴走する列車の最後尾にて、突入したライ達へと銃口を向ける銀髪の女性。

 彼女は今までヘンリー議長を始めとした乗客をシャドウ相手に守って来たのだろう。

 そんな中、ライとユーシスはペルソナによる突撃と合わせて侵入してきた。警戒するのも当然だ。

 

(どうする? 彼らの安全を確認できた以上、ここに用はない。けれど……)

 

 女性は武器を降ろす気配はなく、特にライに対して警戒している様子。

 

 恐らく例の異変が原因か。

 何時もの事とはいえ、時間がない状況では最悪だ。

 下手に刺激しては逆に時間を取られてしまいかねない。

 

 そんな中、警戒されているライに代わり、ユーシスが女性に説明を始めた。

 

「俺達は帝国からの依頼でこの列車を止める為に来た者だ。そういう貴女は?」

「……私はエリィ・マクダエル。クロスベル警察特務支援課の1員です」

 

 ユーシスからの歩み寄りでやや警戒を解いたのか、銀髪の女性──エリィは銃を降ろして返答する。

 

(特務支援課? 確か、サラ教官が言っていた……)

 

 彼女が言ったクロスベル警察の部署について、ライは1度聞いた事があった。

 テロリストも使用している《グノーシス》を扱っていた組織を壊滅させた立役者。

 以前、ライも協力を仰げないかとサラに相談した組織の1員が、幸運にも目の前にいる。

 

 ──だが、今はそんな事を話している場合ではない。

 ライは協力を仰ぐという欲求を切り捨て、目の前の危機に意識を集中した。

 

「エリィ・マクダエルさん、乗客はここにいる方で全員ですか?」

「え? ええ、その筈よ」

「分かりました。そちらは引き続きこの場の護衛をお願いします。先頭車両の怪物は俺達が討伐しますので」

 

 ここは無用なパニックを起こさない為、あえてタイムリミットの話しないでおくべきか。

 ライは単なる救助者としての外面を装いつつ、彼女らに対し指示を行う。

 

「あなた達だけであの魔物を倒すつもりなの? だって、あなた達はまだ学生なんじゃ……」

 

 ライ達の制服を見て心配するエリィ。

 異変による根源的嫌悪感があるにも関わらず気遣いができるという事は、彼女が人として良くできた人間なのだろう。

 

「心配無用です。俺達はどうやら、専門家らしいので」

 

 ライはそんな彼女に一言残し、ユーシスと共に前の車両へと続く扉をくぐって行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──残り、4分10秒。

 

 1つ前の車両に辿りついたライとユーシス。

 もうここまで来たら外面を取り繕う必要もないだろう。

 

「ユーシス、まずは……」

「フン、後顧の憂いを断つ、だろう? 出番だ、──オーディン!」

 

 ユーシスの背後に現れた統治者が、人が扱えない程に巨大な槍を大きく回転させる。

 雷を纏った薙ぎ払い。その切っ先が向かうは列車の連結部だ。

 

 甲高い金属音。

 分厚い連結部へと槍が深々と突き刺さり、その衝撃で全体に亀裂が生じる。

 そして遂に分断される金属。先ほどまでライ達がいた車両が段々と離れていった。

 

「ミハイル大尉、マクダエル市長を乗せた車両を切り離しました」

『分かった。引き続き、任務を進めてくれ』

 

 そう、ライ達は初めから彼らを切り離す予定でいた。

 機関車を持つ列車は、基本的に機関車が他の車両を牽引する形になっている。

 故にこうして連結部を切り離せば、後部車両は自然と減速していく。

 

 これで国際問題に陥る可能性はなくなった。

 後は、手段を問わず、この列車を止めれば任務完了だ。

 

「巻きで行くぞ、ユーシス!」

「言われるまでもない!」

 

 後ろを気にする必要がなくなったライ達は、急ぎ前の車両へと駆け出すのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──残り、3分50秒。

 

 車両の中には行く手を阻む馬に乗った騎士姿のシャドウ。

 それを前にしたライは足を止める事なく召喚器を取り出す。

 

 “我は汝、汝は我……。汝、新たなる絆を見出したり。汝が心に芽生えしは隠者のアルカナ。名は──”

 

「──アラハバキ!!」

 

 ライの前方から射出されたのは土偶型のペルソナ。

 車両内の半分を占める巨大な弾丸を前に、その手の槍で対抗しようとするシャドウ。

 しかし、槍がアラハバキに衝突しようとした瞬間、衝撃が180度反転して槍が粉々に砕け散った。

 

 物理反射。

 その名の通り、物理的衝撃を丸ごと反射する恐るべき特性だ。

 

 槍を持ったシャドウは己の力で武器を失い、直後アラハバキの突撃を受けて四散する。

 黒い水しぶきが飛び散る中、ライ達は次の車両へと向かうのだった。

 

 

 ──残り、3分40秒。

 

 3両目。

 今度は聖典を頭上に浮かべたシャドウが溢れかえる程の数で待ち構えていた。

 

「どうしても先には進めたくないらしいな。……だが、強引にでも通させて貰うぞ!」

 

 ユーシスが剣先をシャドウ達へと向ける。

 それは号令だ。ユーシスの背後に出現したオーディンはその指示に従い、辺り一帯にマハジオンガを解き放った。

 

 車両内に満ちた電撃がシャドウ達の体を引き裂いていく。

 その中をホクトセイクンに切り替えたライが跳躍。

 電撃を逃れたシャドウを剣で両断し、そのまま次の車両へと進んでいった。

 

 

 ──残り、3分20秒。

 

 外から断続的に轟く砲撃音。そして反撃の爆音。

 融合したシャドウの注意を引いている鉄道憲兵隊の戦いを揺れとして感じつつ、ライ達は邪魔な雑魚を蹴散らし踏破する。

 

 

 ──残り、3分10秒。

 

 そして、衝突まで3分を目前に迫った状況下。

 ライとユーシスは遂に先頭車両へと続く第2車両へと辿り着いた。

 

 先頭車両は狭い運転席があるのみで、その先は人が入り込めないエンジンが格納された先端部となる。

 故に融合したシャドウがいるとすれば運転席だと推測していたが、その考えは間違っていなかった。

 開きっぱなしになった運転席から伸びる生物的な配線の山。

 それらは中央にいるシャドウと繋がっており、更にシャドウは脈動する黒い球体を抱えている。

 

『アノ列車メ、邪魔ヲスルナ……。コノ子ハ私タチノ怒リダ。絶対、絶対二、アノ男ノ元ヘ……!!』

 

 装甲列車に苛立ちを隠せないシャドウ。問題なのは、奴が抱き着いている球体だ。

 球体の切れ目から漏れる異常な程のエネルギー。

 明らかな危険物。恐らくそれは──、

 

「爆弾か……」

「クレア大尉の推測が当たっているなら、バルフレイム宮を崩壊させる程度の火力があると見ていいだろう。……どうする? ここで爆破させたら俺達どころか鉄道憲兵隊すらタダじゃ済まないぞ」

 

 巨大な建造物すら破壊する危険な爆弾。

 下手な手を打てば大惨事は免れない。が、手をこまねいている時間がないのもまた事実。

 

「見たところあの爆弾もシャドウの一部だ。本体のみを攻撃し、爆発する前にかたをつける」

 

 幸いシャドウは鉄道憲兵隊へと意識を向けている様子。

 装甲列車の攻撃へと顔を向けるシャドウはライ達の接近に気づいていない。

 ライは依頼で培った技法を用い、音もなく刃を滑らせる。

 

 だが、その時、ユーシスの叫びが木霊した。

 

「──下がれ! ライ!!」

 

 その言葉を耳にした瞬間、ライは地面を蹴ってバク転でシャドウから距離を取る。

 直後、地面と天井がプレス機のように伸び、ライがいた場所周辺が一瞬にして潰された。

 

(ッ、列車の変形か!?)

 

 装甲列車とやり合っていた際に見せた物理構造の変更能力。

 シャドウは外の対応で忙しいが故に、ライ達を物理的に遮断する手段を取って来たのだ。

 

 更にこちら側の天井と地面が黒く変色していく。

 再度、跳び引いて変色の範囲外へと脱出するライ。

 次の瞬間。多数の柱が無秩序に生え、ライ達の行く手を遮る障壁となった。

 

「くっ、この期に及んで時間稼ぎか……。厄介な真似を」

 

 シャドウもこの状況を正確に把握しているらしい。

 後たった数分、外の砲撃とライ達の攻撃をしのぎ切るだけで、本懐を遂げられるという事を。

 

 ──残り、2分40秒。

 

 タイムリミットが刻一刻と迫る中、2人の顔に焦りの色が見え始めるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──残り、2分30秒。

 ライとユーシスの2人は立ちふさがる柱の障壁に総攻撃を叩き込んでいた。

 

「タイミングを合わせるぞ!」

「ああ! ──ヘイムダル!!」

 

 ヘイムダルが豪快な横薙ぎで前面の柱を蹴散らした瞬間、オーディンが追撃の雷撃を放つ。

 迸る雷鳴。大きく抉れた障壁。

 更に止めと言わんばかりに、ユーシスが魔力を込めた剣でドーム状の結界を形成する。

 

「これで、どうだッ!!」

 

 ──クリスタルセイバー。

 剣で結界を切り刻み、崩壊の衝撃で内部の柱を四散させる。

 これがユーシスが出せる最大技だ。しかし、障壁の3分の2程を削り取ったと認識した次の瞬間、それを上回る速度で再び柱が伸び始め、即座に障壁は元の形に戻ってしまった。

 

「……チッ、何だこの再生速度は」

 

 攻撃は失敗した。

 同時に揺れる車体。

 どうやら砲撃がまた迎撃されてしまったらしい。

 

「ユーシス! 攻撃を続けるぞ!」

「ああ、承知した!」

 

 再生速度が減衰する事に一縷の希望を託し、攻撃を続けるライ達と装甲列車。

 激しい戦闘音が轟く中、ライは剣を振るいながら思考を加速させた。

 

(考えろ)

 

 考えなければ未来はない。

 ライ達だけじゃなく、駅、大通り、バルフレイム宮の命がかかっているのだから。

 僅かな道筋も見逃さないよう、ライは可能性を探し求める。

 

 ──残り、2分00秒。

 ライ達の攻撃で再度抉られた障壁。

 視認できる速度にはなったが、壁は再び修復してしまう。

 

(俺達の側を柱で塞いだという事は、同時に2方向の敵を相手取る事が難しいという事だ)

 

 柱の再生速度は僅かながら遅くなってきている。

 削られては再生する壁。本来ならば、敵としてもあまり頼りたくない手段の筈だ。

 しかし、それに頼らざるを得ない理由は、外の装甲列車にある。

 

(シャドウには通常兵器は効かないが、押し出す事は出来る。奴にとって砲撃は無視できない攻撃)

 

 ──残り、1分40秒。

 柱を削ったユーシスが、その再生速度を見てその突破時間を予測する。

 

「ライ、悪い情報だ。確かに再生速度は遅くなっているが、どう見積もっても後2分はかかる」

「……分かった」

 

 もはや正攻法での突破は不可能。

 最適解を考える時間すらない以上、今考えた状況から導く他ないだろう。

 列車の窓から隣の路線を見るライの脳裏に、1つの策が浮かび上がる。

 

(現状での突破は難しい。なら、構図そのものを変えてしまえば……!)

 

 成功率、安全性など考えている余裕はない。

 とある覚悟を決めたライは、ARCUSの通信を用いて装甲列車へと連絡を取った。

 

「ミハイル大尉、被弾を装って砲撃を止めて下さい」

『正気か? それでは、シャドウの注意がそちらに向くぞ』

「ええ、分かっています」

 

 ライはユーシスを交え、手短に策の内容を伝える。

 内容を聞いて了承するミハイル。

 通話が切れた後、ライはユーシスへと視線を向けた。

 

「……ユーシス、成功の成否はお前にかかっている。頼めるか?」

「フン、誰に言ってると思ってる」

 

 ユーシスに緊張の色は見られない。

 これなら行けるかもしれない。

 

 ──残り、1分10秒。

 帝都が刻一刻と近づいていく中、最後の攻勢が始まろうとしていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 シャドウが何発目かのメギドラを装甲列車を当てた時、戦局に変化が起きた。

 

『……止マッタ?』

 

 煙を上げて砲撃を止める装甲列車。

 これでバルフレイム宮へと向かう為の速度維持が容易になった。

 1つ憂いを断ったシャドウは、次なる障害を排除する為、障壁越しにライ達へと狙いを定める。

 

 一方、壁の向こう側にいるライはと言うと、車両の中心で魔方陣を展開していた。

 

 “我は汝、汝は我……。汝、新たなる絆を見出したり。汝が心に芽生えしは皇帝のアルカナ。名は──”

 

 ──トート。

 本を持ったヒヒの姿が描かれたタロットカードを浮かべるライ。

 更に、隣に魔術師ザントマンのカードを並べ、ペルソナ合体の儀式を執行する。

 

「現れろ、ヘカトンケイル!!」

 

 ──2身合体(ノーマルスプレッド)

 2体のペルソナを混ぜ合わせて召喚されたのは、幾多の顔と腕が不気味に融合した巨人ヘカトンケイル。

 しかし、召喚した時には既に、列車と融合したシャドウが攻撃を開始していた。

 

 ライ達の周囲に現れる恐ろしいほどのエネルギー。

 例え壁の向こう側であったとしても、車両と融合しているシャドウは攻撃可能なのだろう。

 ヘカトンケイルが行動に移すよりも先に、収束したエネルギーが膨大な力となってペルソナ使いを蹂躙する。

 

「──ッッ!!」

 

 粉々に消滅する車両の椅子。

 全ての窓ガラスが粉々に砕け散るとともに、攻撃を食らった苦痛な声が車両内に木霊する。

 命中した。そう確信するシャドウ。

 

 ……故に、見落としてしまったのだろう。

 

 依然として並走する装甲列車。

 その側面に捕まり、窓の外からシャドウに狙いを定めるユーシスの存在を。

 

 刹那、青き光の嵐とともに滑空するオーディンが、その神槍をシャドウへと投げつけた。

 

『──ギ、ァァァァ!!』

 

 正確にシャドウの体へと突き刺さる槍。

 一瞬遅れ、投擲が巻き起こした暴風が車両内の残骸を丸ごと反対側の外へと吹き飛ばした。

 

『ァ、ァァ…………!』

 

 そんな一撃を受けたシャドウの体から黒い血潮が噴き出す。

 致命傷を負い、消滅していく黒い柱。

 だが、シャドウはそれでも尚、己が怒りに従い気力だけで動こうとしていた。

 

『…………イ、ヤ。……コレハ、コノ怒リダケハ、無駄ニ、サセナイ……!!』

 

 光を強める爆弾。

 バルフレイム宮には辿り着けなくとも、せめてここ一帯は消し飛ばしてみせると言う最後の足掻き。

 車両内を満たすほどの爆発的エネルギーが解き放たれようとしたその瞬間、2つの影がシャドウへと殺到する。

 

「「──させるか!!!!」」

 

 シャドウの仮面に突き刺さる2本の剣。

 ライとユーシスが放った刃を受けたシャドウは、爆弾を解き放つ事もできずに消滅。

 合わせて彼の一部であった爆弾も水のように虚空へと溶けていった。

 

 カラン、と地面に落ちる剣。

 シャドウを倒したライの体が崩れ落ち、その体をユーシスが支える。

 

「おい、大丈夫か!?」

「……ああ、何とか”食いしばった”からな」

 

 ライが召喚したヘカトンケイルには、食いしばりと言うスキルが備えられていた。

 万能属性の魔法は、いかなる耐性や障壁を突破する文字通り万能の一撃だ。

 故に、致命傷を受けても辛うじて耐えきれるスキル《食いしばり》を用いて、全身をハンマーで殴られたような強烈な痛みを耐え、シャドウの意識を逸らさない為のデコイ役を全うしたのである。

 

 まさに肉を切らせて骨を断つ作戦。

 成功する確信はなかったが、まぁ何とかなったと、ライはボロボロの体でホッと息をついた。

 

 ……しかし、そんな彼らの元に緊急の放送が鳴り響く。

 

『──大尉! これ以上の並走は危険です! 緊急停止します!!』

『おい! お前達!! 呆けている余裕はないぞ! 早く列車のブレーキを!!』

 

 そうだ。

 まだ、列車は止まっていない。

 

 ──残り、30秒。

 ミハイルの警告を聞いたライ達は列車の運転席へと向かう。

 緊急停止する装甲列車。こちらも列車を止めなければこのままヘイムダル中央駅に衝突してしまうだろう。

 

 だが……、

 

「なっ、壊されているだと!?」

 

 運転席のブレーキはテロリストによって破壊されてしまっていた。

 根元から折れてしまっているブレーキレバー。

 直そうにも、最早そんな時間は残されていない。

 

 ──残り、20秒。

 

 もう、帝都がすぐそこまで迫ってきていた。

 2人を乗せたまま、暴走を続ける列車。

 

 最後の最後で、絶体絶命の状況に陥ってしまったこの状況下。

 その時、大きな叫びがライ達の脳内に突き刺さる。

 

《2人とも! 1歩後ろに下がれ!!》

 

 反射的に1歩後退するライとユーシス。

 刹那、側面の窓ガラスを割って、フレスベルグを纏ったガイウスが突入して来た。

 

「掴まれ!」

 

 ──残り、10秒。

 

 ライ達はガイウスの手を取って、そのまま列車を離脱する。

 その直後、無人となった列車の行く先で、1人の青年がARCUSを構えた。

 

「吹き飛ばせ、──フォルセティ!!」

 

 それは、線路の横で待機していたマキアスだ。

 彼の後方に悠然と現れた裁判官が、無数の光球を周囲へと浮かべる。

 そして列車が横切ろうとするその瞬間、解き放たれた雨が如き弾丸が列車を真横に吹き飛ばした。

 

 横倒しになって線路の外へと投げ出される旅客列車。

 それは地面をガリガリと削りながら突き進み、帝都の外壁に衝突。

 轟音と共に外壁が崩れ、その瓦礫に埋もれるようにして列車は停止した。

 

 

 ……

 …………

 

 

「終わった、のか……?」

 

 スクラップとなった列車を上空から眺めながら、ユーシスが呟く。

 

 衝突まで残り約5秒。

 危機一髪の状態ながら、危険な爆弾を消し去り、駅への衝突も辛うじて回避できた。

 その事実が、今になってようやく実感となって体に染みわたって来る。

 

 羽ばたくガイウスによって地上に降ろされるライとユーシス。

 緊張が解けたライ達の体にどっと疲労が押し寄せる。

 特に体力が1のライは重症で、その場から1歩歩くのも億劫な状況であった。

 そんなライに代わり、ユーシスがガイウスに質問する。

 

「助けてくれた事に礼を言おう。しかし、何故お前たちがこの場所に? 帝都はどうした?」

「ああ、それならば既に収束へと向かっている。皆の尽力のおかげだな。それで、マキアスがこの場に向かうべきだと提言してくれた」

「そうか、マキアスが……」

 

 ガイウスから話を聞いたユーシスは、やや遠くで列車の被害状況を確認しているマキアスの元へと歩いていった。

 

「おい」

「む? ああユーシスか」

 

 振り返ったマキアスはユーシスの姿を見て姿勢を正す。

 普段の関係を考えれば、憎まれ口の1つでも言われるかと思ったのかも知れない。

 だが、ユーシスの口から出たのは、それとはまるで正反対の言葉であった。

 

「お前が提言してくれたと聞いてな。正直なところ、助かった」

 

 素直な感謝の言葉。

 思わずマキアスの目が丸くなる。

 

「……何かおかしな事でも言ったか?」

「い、いや、何でもない。別に僕は、チェックメイトの状況を作り出すために必要だからやったまでで……その…………いや、やっぱり何でもない」

 

 調子が狂い、取り留めのない言い訳を並べた上で撤回するマキアス。

 彼は気恥ずかしいのか、頭を軽く掻いて、そのままユーシスに背を向けてしまう。

 

「……僕たちは、やり遂げたんだよな」

「ああ」

 

 帝都知事の息子としての義務。

 四大名門の子息としての義務。

 そして、VII組の仲間としての義務。

 

 それぞれが抱えた重荷に負ける事なく、己が役目を果たしたマキアス達は、ほっと肩の力を抜いて空を仰ぎ見た。

 

 夕焼け空には鮮やかな雲がのび、小さな鳥達がのんびりと飛んでいる。

 こうして、今回の薄氷を踏むような騒動は無事、静かな終わりを迎えるのであった。

 

 

 

 




隠者:アラハバキ
耐性:物理反射、火炎・氷結弱点
スキル:金剛発破、マハラクカオート、恐怖防御
 日本の東北地方を中心に縄文時代から信仰されていた客人神。文章による記録がなく、口承により伝わっていたため、今だ出自などの詳細は分かっていない。その名前から足の神だと捉えられ、旅人に崇拝された事例も存在している。

皇帝:トート
耐性:電撃・祝福無効、疾風・呪怨弱点
スキル:メギド、マハジオンガ、ミドルグロウ
 古代エジプトにおいて知恵を司る神。ヒヒもしくはトキの姿をしており、ヒエログリフの開発や時の管理、病を癒すなど、その逸話は多岐に渡る。その為、神殿で発見された古代エジプトの書物はトートの書と呼ばれた。

刑死者:ヘカトンケイル
耐性:呪怨無効、物理耐性、祝福弱点
スキル:電光石火、中治癒促進、食いしばり、メギド、ドルミンラッシュ
 ギリシア神話に登場する百腕巨人。ウラノスとガイアの息子達であるとされ、あまりの醜さから父によってタルタロスに封じ込められた。後に助け出された彼らは、ティタノマキアにおいてティターン族と戦う神々に加勢し、その後はタルタロスの看守を務めるようになったとされている。


皇帝:征服の騎士
耐性:???
スキル:黒点撃、???
 馬に乗った西洋の騎兵を連想させるシャドウ。皇帝のアルカナは男性権力者のイメージを持つが故、このような姿になっていると思われる。

女教皇:偽りの聖典
耐性:???
スキル:???
 女性の頭の上に本を浮かべたシャドウ。女教皇はカトリック教会において存在しない役職の為、頭上に掲げる聖典も偽りという事なのだろう。かつて暴走するモノレールを止めようとしたペルソナ使いに対し、足止めをせんと現れたシャドウの1体でもある。

女教皇:テロリストのシャドウ
耐性:???
スキル:メギドラ、コンセントレイト、???
 クロスベルから発車した列車と融合したシャドウ。分かりにくいが、元は女性だったと思われる。女教皇が示す暗示は秘密である事から、恐らくは内なる怒りを表に出すことができず、シャドウにまで昇華してしまったのだろう。ライ達にその詳細を知る術はない。


食いしばり(RPG作品全般)
 神スキル。即死する攻撃をHP1で耐える事ができる。高難易度のゲームや対戦などでお世話になった人も多いはず。


────────
合体と全書が解禁されたので使用するペルソナが増える増える。

本来ならば、この話で4章最後まで書ききる予定だったのですが、切りが良いのでこの形に。
次話は話を膨らませて日曜日ごろに公開するかと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします!


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