心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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78話「テロリストとの戦い」

 ──帝都北西のサンクト地区にあるヘイムダル大聖堂。

 帝都最大級の教会であるこの場所は、本来ならば皇族も参加する行事が盛大に行われている筈であった。

 しかし途中でシャドウ事件が発生した事で聖堂内の状況は一変。

 この大聖堂は市民を守るための緊急避難場所となっていた。

 

 混乱する市民を誘導する帝都憲兵隊。

 それとは別に、皇族を守護する近衛軍の兵士が安全を守るために皇族達の待機部屋へと足を踏み入れる。

 

「セドリック皇太子、オリヴァルト皇子! 緊急時につき失礼します! 外は危険ですので、今しばらくこちらで待機を──、──!?」

 

 室内へと入った近衛兵の指示が途中で止まる。

 何故なら、待機室にいるであろう護衛対象の内、1人の姿がどこにも見当たらなかったからだ。

 

「セ、セドリック皇太子……。誠に恐縮ですが、オリヴァルト皇子は……?」

「えぇっと、兄上はちょっと用事があるからって、ミュラーさんと2人で出ていきました」

 

 申し訳なさそうに頬をかく弟のセドリック。

 

 護衛対象の不在。

 何時もの事とは言え、よりによってこのタイミングでの放蕩行為。

 それを知った近衛兵は口を大きく開けて、

 

「な、なな、何ですって!?」

 

 と、叫ぶのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 大聖堂の近衛兵を愕然とさせていた放蕩皇子。

 オリヴァルトは今、護衛のミュラーと共に、灯が揺れる地下道の中でテロリストのギデオンと対峙していた。

 

「どういう事だ……? 何処だ? 何処に見落としがあった!?」

 

 ギデオンは理解できない状況を前に混乱する。

 彼は今回の襲撃に対する準備は入念に行ってきた。ペルソナ使いを保有するVII組への対応策は当然として、顧問であるサラや鉄道憲兵隊のクレアと言った実力者の把握、更には外部から入ってくるイレギュラーを見つける為に出入口を監視するなど、日常の裏側で様々な対策を講じていた。

 

 しかし、場所が明らかな皇族の監視は流石にしていない。

 彼らは夏至祭の主役だ。近衛兵等の戦力を分散させる為に役立つことはあれど、こうして障害となるなど想定外にも程がある。

 

「フフッ、そこまで驚かれると説明しない訳にはいかないね。実は学院のOBとして後輩達に頼まれたのさ。この通路をテロリストが通るから、そこでちょっかいをかけて欲しいってね」

「後輩──まさか、VII組か!?」

 

 今まさに地上のシャドウ掃討に追われているトールズ士官学院の生徒達。

 自身の計画に沿って動いていた筈の子供達が、逆に罠を仕掛けていたとでもいうのか? と、考えるギデオンの脳裏に浮かんだのは、先日の同志《C》が言っていた言葉だった。

 

《奴らを学生と甘く見ないことだ。並みの感覚でいると足元を救われるぞ》

 

 ギデオンは苦々しく歯を噛みしめ、オリヴァルトに反論する。

 

「だが、奴らは計画について何も掴んでいなかった筈だ」

「それについては否定しないよ。シャドウを使った襲撃のパターンは余りに多い。その上、キミたちはそれを特定させない為に、決行までの痕跡を可能な限り消していたみたいだからね。──けど、撤退ルートだけは話が別さ」

 

 撤退ルートと言う単語。

 その言葉を聞いたギデオンは、自身の計画にあった唯一の穴に気がついた。

 

「──華麗なる大舞台の前には相応の準備が必要と言うもの。どこかの怪盗が言っていたようだけど、それは今回のテロだって同じこと。何せグノーシスを飲んだ人間は昏倒、最悪廃人になってしまうみたいだかね。彼らを連れて撤退するルートは限られていた筈だよ」

 

 そう、グノーシスを用いた襲撃は決行前こそ秘匿しやすいものであったが、飲んだ後の対処には制限があった。

 昏倒した同志たち。彼らを野放しにしていては他のメンバーへと繋がる手がかりを残してしまう恐れがある。しかも正規軍は裏の出入口を発見次第塞ぐように行動していた。こうなっては、テロリスト達は正規軍が知らない脱出路を事前に確保しておかなければならなくなる。

 

「彼らはその事に気づいていたのさ。故に帝都の外へと繋がる地下道を前日に調査し、キミたちテロリストの痕跡を発見した。後は悟られぬよう、自らは当初の予定通りに警備していたと言う訳さ。彼らもキミたちにマークされている事を理解していたみたいだからね」

 

 ギデオンはVII組を一方的に監視していたと思っていたが、それこそが罠だった。

 今までの事件からペルソナ使いが警戒されている事は想定できる。だからこそ、あえて自分達は動かずに、テロリストが想定していないであろう実力者をこの地下道へと配置した。ギデオン達テロリストは、学生達の罠にまんまとハマったのだ。

 

「……不服だが、認識を改めねばならないらしい」

「悪いがそういう事だ。貴様らは国家転覆の罪で拘束させてもらう。我がヴァンダールの剣を前に、逃れられるとは思わぬ事だな」

 

 身構えるギデオンに対し、オリヴァルトの横にいたミュラー・ヴァンダールが剣を構えた。

 

 大剣を片手で軽々しく扱うヴァンダール流剣術の1つ。

 代々皇族を守護する役目を負った武の噂は関係のないギデオンにまで届くほどだ。

 道具を取り出す時間など与えない。

 常人の反射神経では対応不可な速度で振るわれた刃が、致命傷にならない部位へと繰り出される。

 

 ──刹那、衝突する3種の武器。

 

 大剣の剣筋を塞ぐようにして構えられた蛇腹剣と大型のガトリング砲。

 通路の奥から登場した2人のテロリストによって、ミュラーの一撃はギデオンの目前で停止した。

 

「……助かった。同志《S》、同志《V》」

「あらあら、あれだけ自信満々だったのに追い込まれてるじゃないの?」

「《G》の旦那。この先で同志達が捕まっていた罠は解除しておいたぞ」

 

 ミュラーの攻撃を防いだのは眼帯をつけた妖艶な女性《S》と、熊のように頑強な巨体を持つ男《G》の2人だ。

 

 唐突な加勢により一旦距離を取るミュラー。

 戦局は2対3になったが特に焦る様子は見せない。

 逆に、数では優勢な筈のテロリストの方が劣性な様相を醸し出していた。

 

「ねぇ《G》。加勢しといてなんだけど、あの2人が相手じゃ3人がかりでも少し厳しいわ」

「分かっている!」

 

 猶予を手に入れたギデオンは懐へと手を伸ばす。

 ノルドで珍妙な道具を扱っていたとの報告を受けていた為、最大限の警戒を行うミュラー。

 しかし、今回ギデオンが手にした道具は、取り出す必要すらないものだった。

 

 何かを手に取った微かな音。

 ギデオンの目が一瞬青く輝いたその瞬間、周囲の地面から黒い水が噴き出した。

 

「──現れよ」

 

 ギデオンの周囲に出現した3体のシャドウ。

 例え比類なき武を修めた者であっても、ペルソナ使いでなければ討伐不可能なテロリストの切り札だ。

 

「長きに渡り研究を重ねたこの力。その身で存分に味わうが良い」

 

 ギデオンの周囲に現れた獣型のシャドウ達が一斉に襲いかかる。

 

 牙の奥から溢れ出す3色の魔法。

 決して倒す事の出来ない敵。

 一転して窮地に陥るミュラー。しかし、彼の後方からお調子者の声がギデオンの言葉を否定する。

 

「──その言葉、そっくりお返しするよ」

 

 ミュラーの後ろから放たれた光。

 それは6本に分かたれてシャドウの周囲に着弾。魔法陣を形成する。

 ──シルバーソーン。幻属性の導力魔法がシャドウに命中したその瞬間、3体のシャドウは動きを止めた。

 

「……馬鹿な」

 

 静止する戦場。

 その中で、導力魔法を放ったオリヴァルトは、1人無邪気な笑みを浮かべていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「オイオイ、どう言うこった。何故シャドウにアーツが効いてやがる」

「キミたちがシャドウを研究していたように、ボクらもまた努力を重ねていたって訳さ。……力として使うためではなく、制すべき敵としてね」

 

 オリヴァルトが放ったのは精神に影響を及ぼす導力魔法だ。

 そして、地下道故に分かりにくいが、この空間には"淀んだ空気"が滞留しており、以前ルーレで実験した状況が再現されていた。

 

 特定状況下では精神に対する状態異常が有効となる。

 ペルソナ使いではないオリヴァルト達がテロリストに対抗する為、昨夜の内にライが用意した策だ。

 代償として、ライの胃が再びにがトマトで満たされる事になったが、必要な犠牲だったと言えるだろう。

 

「倒す事は叶わなくとも、"混乱"させる事くらいなら出来るんだ。さて、お手並み拝見ってところかな?」

 

 シャドウ達にかけられた状態異常は混乱。

 敵味方の区別が不可能になる状態にさせられたシャドウは、近場にいたテロリスト達へと襲いかかる。

 

「──チッ!!」

 

 これによりテロリストの切り札は一転、自らを追い込む強敵となった。

 迫りくるシャドウの牙を剣で止める《S》。

 その横で《V》が火薬式のガトリングを放つが、シャドウを傷つける事は叶わない。

 

「《G》の旦那ァ! セントアークで使ったというアレは使えねぇのか!?」

「悪いが、この帝都には異世界は形成されていない。脱出経路としての使用は不可能だ!」

 

 崩壊寸前の戦線。

 傷を負い、追い詰められたテロリスト達の頬に汗が滴る。

 

 ──その時である。

 この場にいない筈の、6人目の声が地下道に響き渡った。

 

「……やはりこうなったか」

 

 加工されたくぐもった男性の声。

 直後、天井を蹴った黒い影が一瞬にして《S》の近くに着地。

 その手に持った両剣で作り上げた斬撃によって、周囲のシャドウが飛沫となり蒸発した。

 

「シャドウを倒した、だと?」

 

 無視できない異変を目撃したミュラーは、新しく加わったテロリスト側と思しき男へと剣先を向ける。

 

 黒い装束を身にまとい、同じく黒いフルフェイスのマスクで顔を隠した不審な男性。

 表情を窺い知る事は出来ないが、その佇まいに隙はなく、明らかに他の3名よりも強敵だ。

 恐らく、奴こそがテロリストのリーダー。先の異変も踏まえ、ミュラーは男の一挙一動に神経を張り巡らせた。

 

「作戦の第二段階は既にこちらに向かっている。これ以上、ここで余興に付き合う必要はないだろう」

「しかし、ヴァンダールが相手ではいくら同志《C》と言えど──」

「ならば同志《G》、”あれ”を俺に使え」

 

 男の言葉を聞いたギデオンが驚きを露わにする。

 

「──! まさかあの推論を試すつもりか!? しかし、我が鍵にはかの世界と繋げる程の力は……」

「問題ない。覚醒の儀式なら既に済ませてある」

 

 奴らは何か逆転の一手を隠し持っている様子。

 ブラフによる誘い込みの可能性もあったが、このまま好き勝手させる訳にもいかない。

 ミュラーは懐に忍ばせていた小刀をギデオンへと投擲する。

 

 ──ミラージュエッジ。

 相手の行動を妨害する魔法が籠められた刃であったが、それは同志《C》と呼ばれた男が繰り出した飛ぶ斬撃によって叩き落される。

 同時に、ギデオンは先ほども使用した道具を掴み、今度は取り出して使用する。

 

(青い、鍵……?)

 

 その手にあったのは、まるで月の光を閉じ込めたかの如き青い鍵であった。

 ところどころ欠けているようだが、異様な気配を放つアイテム。

 それを見たオリヴァルトは嫌な予感を感じつつも、導力銃で援護射撃を行う。

 

 高速で銃弾を放つクイックドロウ。

 だが、銃弾が着弾する寸前、ギデオンの鍵が光を放ち、同志《C》の周囲に青い旋風が巻き起こった。

 

「切り裂け。──ジークフリード」

 

 男の前方に現れたのは青い甲冑を身に纏った巨大なペルソナ、ジークフリード。

 報告書で見たリィンのペルソナ《シグルズ》と似た形状をしたその騎士は、オリヴァルトの弾丸を全て粉砕し、同時に部屋の天井までも粉々に切り裂いた。

 

 壊された天井が崩落する。

 その位置は正しくミュラーとテロリスト達の中間。

 ミュラーは後方への撤退を余儀なくされ、テロリストの間に瓦礫の壁が築きあげられた。

 

 顔一つ分程の隙間から覗く同志《C》の仮面。

 今も尚崩落を続ける中、彼はオリヴァルト達に向けてこう言った。

 

「我らが名は《帝国解放戦線》。耐え難き怒りをその身で燃やし、この帝国を蝕む独裁者を打ち破らんと立ち上がった集団だ。……もしこの場を無事に切り抜けたなら、地上を駆け回っている者達にも教えてやると良い」

 

 その言葉を最後に、崩壊の向こうへと消えていくテロリスト達。

 

 均衡を崩した地下道は今も崩落を続けている。

 オリヴァルトとミュラーの2人は、巻き込まれないようこの場を後にするのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ……

 …………

 

 地下道の崩落から逃げ延びた2人は、静かになった地下道の曲がり角にて一息ついていた。

 石造りの壁に背を預けて座り込むオリヴァルト。

 今まで走って来た道を見返してみると瓦礫で完全に塞がれており、思っていたより危ない状況だったと空笑いが止まらない。

 

「……ははは。やれやれ、まさか向こうにもペルソナ使いがいたとはね」

 

 シャドウを倒した時から察してはいたが、テロリスト側にもペルソナ使いがいると言うのは悪いニュースだ。

 ペルソナは言わばコントロールされたシャドウのようなもの。

 シャドウよりも扱いやすい分、今後は一層の注意が必要だろう。

 

「呆けている場合ではないぞ。早く地上に作戦を伝えねば」

「ああ、そうだった」

 

 オリヴァルトは座ったまま導力端末を取り出す。

 ここは地上との連絡ができない地下だが、幸いな事にオリヴァルトは例外だ。

 彼が持つ古代遺物(アーティファクト)は距離に関わらず通信が可能になると言うもの。

 その力を用いて、オリヴァルトは地上の総合司令部へと通信を行った。

 

「もしもし? ちゃんと繋がってるかな?」

『──その声はオリヴァルト殿下!? なぜこの司令部に連絡を!?』

「細かい話はあとあと♪ それより、テロリストの計画について耳よりの情報があるんだけど、聞いてくれるかな?」

『は、はい! 今、リーヴェルト大尉にお繋ぎします!』

 

 通信に応じた通信士は狼狽えた様子で司令部のトップへと繋げる。

 

『……変わりました、殿下。それで情報と言うのは?』

「さっき野蛮な人達と武器を交えてのお茶会をしててね。そこでちょっと気になる話をしてたんだ」

 

 ──作戦の第二段階は既にこちらに向かっている。

 オリヴァルトの脳裏に浮かんだのは、先ほど《C》と呼ばれた男が言っていた単語だ。

 

「テロリストの本命は”外”からやってくると言っていたよ」

「外から、ですか? ……まさか!」

「ああ。シャドウの襲撃はバルフレイム宮から目線を逸らす陽動じゃない。ボクらの意識を帝都内に限定させる事こそ、奴らの狙いだったのさ」

 

 帝国解放戦線の本当の狙いは、このシャドウ騒動と事前の情報によって正規軍の目を帝都内に向けさせる事だった。

 帝都全域を巻き込む襲撃によって憲兵隊達の目をそちらに向け、クレア等の大局を見れる者達に対しても、あえて目的を晒す事でバルフレイム宮周辺に意識を集中させる。そうして薄くなった監視の穴、即ち帝都の外側から本命の一撃を加える事こそ、彼らの言う”計画の第二段階”なのだろう。

 

 そんな情報をクレアに伝え終えたオリヴァルト。

 彼は通信を切ると、眉間に皺をよせたミュラーと顔を見合わせて肩の力を抜く。

 

「ふぅ、ボクらの役目はどうやらここまでのようだね」

「……ああ、実に口惜しいが、後は地上の者を信じる他ないだろう」

 

 今から地上に出たとて、本命とやらに間に合うとは思えない。

 それに、テロリストは捕まえられなかったとは言え、オリヴァルトの目的は既に達成していた。

 

「ボクのノルマは無事達成。後はキミの頑張り次第だよ。……ライ君」

 

 先ほどから持っていた薔薇に手を伸ばすオリヴァルト。

 その中には、非常に小さなビデオカメラが仕込まれていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ──目まぐるしく動き回る帝都司令部内。

 オリヴァルトから情報を受け取ったクレアは戦局を見つつ、本命とやらの特定を急いでいた。

 

「観測班! 帝都周囲の上空に不審な影はありませんか!?」

『いえ、例のペルソナ使い以外は何も見当たりません!』

 

 空は快晴だ。

 仮に空からの襲撃があったとして、見落としている可能性は低い。

 

(だとしたら可能性が高いのは陸路。でも、帝都を囲う城壁を突破する兵器を隠し通すのは……)

 

 帝都の外から来るであろう攻め手を考察するクレア。

 幾つもの手を推測し、その果てに1つの解へとたどり着く。

 

「……なるほど、あえて私たちの主戦場を選んだ訳ですか」

 

 クレアが行き着いた答えとは、鉄道憲兵隊の主戦場である鉄道路線を用いた襲撃であった。

 

 鉄道網は元々鉄血宰相であるギリアス・オズボーンが強行的に整備していったものだ。

 その道中にあった土地は半ば強引に接収したものであり、テロリストからしてみれば現政権の罪の象徴だろう。

 

 鉄血宰相が作り上げた鉄道網が彼自身に牙を剥く。

 テロリスト達が好みそうな筋書きだと思いつつ、クレアは自身の憲兵隊へと連絡を取った。

 

『──こちら鉄道憲兵隊所属ミハイル・アーヴィング大尉だ』

「アーヴィング大尉! 帝国各地に展開中の兵に連絡を。鉄道路線をテロリストに利用されている可能性があります」

『なんだと? ……分かった。至急確認する』

 

 無視できない可能性を聞いたミハイルが一旦通信を切る。

 スピーカーを耳にしたまま返答を待つクレア。

 緊張する沈黙。彼女が待つ返答は意外とすぐにやって来た。

 

『当たりだ、リーヴェルト大尉。この混乱に乗じて外部との連絡網が遮断されていた』

 

 今回の騒動の影で、ヘイムダル中央駅にある鉄道憲兵隊の通信機に工作がされていたらしい。

 シャドウ騒動への対応に追われ発見が遅れてしまったのだろう。だが、判明した今となってはいくらでも対応策はある。

 

「それで、外部からの報告は──」

『緊急報告が届いている。クロスベルからの列車が1つ暴走状態にあるようだ』

 

 暴走状態の列車。

 もしや、それがテロリストの本命だと言うのだろうか。

 クレアは疑惑を深めつつ、ミハイルに問いかける。

 

「運転手からの応答は? クロスベルからであればレグラム方面への路線変更も可能な筈です」

 

 偶然の事故である可能性を追求するクレア。

 だが、次なる返答を聞いた彼女は、そんな思考を全部停止してしまう。

 

『応答はない。路線変更は、その、何と言ったらいいか。……ジャンプして躱した、そうだ』

「…………え?」

 

 ジャンプした?

 列車が?

 

『分岐点に到達した瞬間、先頭列車に影らしきものが融合し、車輪が足のように変形したらしい。それどころか、ありとあらゆる障害を破壊しながら帝都へと向かっているそうだ。──にわかに信じがたいが、この報告が真実なら可能性は1つしかない』

 

 テロリストの切り札。

 現実ではあり得ない変形。

 クレアもまた、その信じられない可能性を理解する。

 

「そんな……、シャドウが、列車と融合しているとでも……!?」

 

 物質とシャドウの融合。

 今まで1度も聞いたことがない事例だが、シャドウは未知数である以上、否定はできない。

 

 それよりも今は暴走列車への対処が急務だ。

 このままだとヘイムダル中央駅は確実。いや、報告が確かなら、駅を無理やり突破して直線のヴァンクール大通りへ、そのまま全速力の質量を用いてバルフレイム宮へと突撃するだろう。

 

『──この帝都への到着予測はおよそ16分後。それまでに対処せねば手遅れになるぞ』

 

 ヘイムダル中央駅からバルフレイム宮までを直線で繋ぐヴァンクール大通りは避難先の1つだ。

 推測できる被害規模は優に100人を超える。

 

 ペルソナ使いを終結させたとて、列車の大質量を止められる保証はない。

 

 迫りくる鋼鉄の銃弾を止める術を探すクレア。

 帝都の命運を賭けた戦いは今、最終局面へと移ろうとしていた……。

 

 

 




運命:ジークフリード
耐性:???
スキル:???
 ドイツの叙事詩《ニーベルンゲンの歌》に登場する竜殺しの英雄。黄金の柄を持つ剣バルムンクを振るい、邪竜を討伐して強靭な肉体を獲得した。北欧神話に登場する英雄シグルズとその根源を同じくする。


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実はジークフリードの設定はリィンのシグルズが決まった段階で決定してたんですよね。閃の軌跡IIIの情報出た時にめっちゃビックリしました。



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