心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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76話「共に戦う意志」

 帝都ヘイムダルの路上に現れたユーシスの影。

 地面に落ちていた剣を拾い上げたライは、母親人形に抱かれた不気味な子供人形とにらみ合いの状況に陥っていた。

 

(何だ、この状況は……)

 

 突如出現したシャドウを前にして、ライは現状把握に思考を巡らせる。

 あのシャドウは恐らくユーシスから現れたものなのだろう。

 出現の仕方は以前見たシャドウ様と酷似していた。しかし、ユーシスがグノーシスを飲んだ可能性はほぼ0と言っていい。

 

(可能性があるとすれば、俺のARCUSか?)

 

 ライは密かに己のARCUSへと視線を動かす。

 先ほど感じた戦術リンクの違和感。それが原因だと把握した次の瞬間、ライの周囲に突如として影が広がる。

 

「──ッ!」

 

 それは路肩に停まっていた筈の導力車だった。

 母親人形の長髪がまるで腕のように動き、ライに向け投擲された鉄の塊。

 ライは間一髪で横に跳び、それを辛うじて回避する。

 

『あはは! よそ見は良くないよ!』

 

 散らばる残骸。笑い声をあげるユーシスの影。

 ライは地面を転がりながら、刹那の間で思考を固める。

 

(ユーシスの意識はまだ戻らない。なら今は……!)

 

「──ザントマン!」

 

 片方の手足で体制を整えつつ、ライは三日月頭の怪人ザントマンを召喚する。

 

 砂が詰められた大きな袋を背負ったザントマン。

 飄々とした足取りで地を駆ける怪人は、子供人形の死角となる位置からユーシスの影に接近する。

 見たところ自意識があるのは子供人形の方だ。ならば、母親人形の方から攻めれば良いとライは考えた。だが──、

 

『ははっ! そんな小細工が通用するとでも?』

 

 母親人形の顔がぐるりと、人ではあり得ない角度に回った。

 金色の長髪に隠れていた両眼が露わとなる。

 

 ──イービルアイ。

 禍々しい眼光がザントマンの体を貫いた。

 貫通した光線が石畳を吹き飛ばす。その余波が頬を掠める中、ライはその眼を細めた。

 

(全身兵器か。……だが、射程距離には入った)

 

 青い結晶となり消えゆくライのペルソナ。

 しかし、消滅する前に、ザントマンはその手にあった袋の中身を全て子供人形へとぶちまけた。

 

『わぷっ! こ、これは睡眠魔法(ドルミナー)? そんなものが、僕に効く訳……、……!!』

 

 砂に含まれていた睡眠魔法の効果は不発に終わる。

 だが、砂が舞い落ちるまでの間、影の注意はその魔法へと逸らされていた。

 その隙こそライが狙っていたものだ。ユーシスの影が周囲へと意識を取り戻したその時、ライとユーシスの姿はどこにもなくなっていた。

 

 左右に作り物の顔を揺らし、その事実を確認するユーシスの影。

 すると、子供の顔から感情の色が消えうせた。

 

『……へぇ、そう。逃げるんだ』

 

 正しく人形の顔となった影から無機質な声が響く。

 そんな子供の言葉に応じるが如く、母親を模した人形もまた、がたりと体を揺さぶるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──ユーシスを担いで戦線を離脱したライ。

 彼は今、建物に挟まれた路地裏にてアリサへと導力通信を行っていた。

 

「アリサ、聞こえるか?」

『どうしたの? こんな時に連絡なんて』

「俺のARCUSに何か仕掛けられた可能性がある。できれば知恵を貸してほしい」

『ARCUSに仕掛け? ……分かったわ。ちょっと待ってて』

 

 アリサは一旦ARCUSから耳を離したようで、声が遠のく。

 

『──ラウラ! 少しこの場を任せてもいい!?』

『ああ、仔細承知した』

 

 スピーカーの向こうから聞こえる戦闘音。

 どうやらバルフレイム宮近辺もシャドウ襲撃の対応に追われているらしい。

 ラウラの鋭い斬撃音が響く中、アリサは再びARCUSを通して話しかけて来る。

 

『お待たせ。それじゃあ詳細を教えてもらえるかしら?』

「ああ、戦術リンクを行った時なんだが──……」

 

 ライは先ほどあった違和感の件を手短に伝えた。

 

『……なるほどね。大体分かったわ。それなら多分、導力波を発生させる場所に補正用の部品が仕込まれているんだと思う。ライ、今から言う手順でARCUSの内部を確認してみて』

 

 アリサから一通りの手順を聞いたライは、ARCUSのカバーを剣で無理やりこじ開ける。

 完成されたアーキテクト。まるで芸術品のように組み合わされた導力回路が中から姿を現した。

 

 しかし、よく見るとアリサが指摘した箇所に、まるでノイズの様なチップが外付けされてる。

 位置もまさに導力波の発生個所。恐らく基幹回路に細工が出来なかった為、ここに増設させたのだろう。

 

(このチップが原因か)

 

 ライは外付けのチップを取り外し、絶縁テープを巻いてカバーを固定する。

 無理やりチップを外したせいかARCUSの通信が不安定になったが、この程度なら問題はない。

 ライはその眼を青く輝かし、異世界をも繋げるという《鍵》の力を用いて強引に通信を安定させた。

 

 これでユーシスの時と同じような異変は起きないだろう。

 

 ARCUSを懐に戻そうとするライ。

 その途中、突然ライの肩が何者かに強く掴まれる。

 

「おい、状況を説明しろ」

 

 それは、いつの間にか目覚めていたユーシスであった。

 彼からしてみれば、ライと戦術リンクをしたと思ったら狭い路地裏で寝ていたのだ。混乱するのも無理はない。

 

「ああ、実は──」

 

 説明しようと振り返るライ。

 しかし、ユーシスの方へと視線を向けた途端、ライは目を見開き口を閉ざす。

 ライの視線が向かうはユーシスの後方だ。ユーシスもまた自身の後ろに何かがある事に気づき、1手遅れて後方へと顔を向ける。

 

 ──ユーシスの後方、即ち路地裏の出口。

 そこには2体の巨大な人形がべったりと張り付き、ライ達を見下ろしていた。

 

 

『……見ぃつけた』

 

 

 作り物の目がライとユーシスを捉え、簡易な造形の口元がニタリと笑う。

 

「ユーシス! 掴まれ!!」

「あ、ああ」

 

 ユーシスの両手がライの肩を掴む。

 直後、棘状になり伸ばされる人形の髪。まるで剣山が如く殺到する棘を前に、ライは自身の頭を召喚器で撃ち抜いた。

 

 “我は汝、汝は我……。汝、新たなる絆を見出したり。汝が心に芽生えしは正義のアルカナ。名は──”

 

「──パワー!」

 

 現れたるは赤き甲冑を身にまとった黒羽の天使。

 パワーは迫りくる髪の棘を片手に持った盾で受け流すと、ライ達を背に乗せて飛翔。

 人形の真上を通り抜け、通りの反対側に位置する建物の屋上に降り立った。

 

 役目を終えて消滅するパワー。

 屋根に足をつけたユーシスがライに詰め寄る。

 

「おい! なんだあの人形は!」

「ユーシスから出てきたシャドウだ。俺のARCUSに罠が仕掛けられていた」

「俺のシャドウ、だと……?」

 

 ユーシスは懐疑的な目つきでシャドウを睨みつける。

 

 頭上を通り抜けた為か、ライ達を見失ったと思しき2体の人形。

 2階建ての建物ほどの大きさを誇る母親型の人形と、母親の手に抱えられた子供の人形。

 その内、子供の方を正確に認識したその瞬間、ユーシスは突如頭を押さえ、その場に崩れ落ちた。

 

「ぐっ、ぁ……」

「大丈夫か?」

「……ああ、僅かだが、思い出した」

 

 頭痛があるのか頭を押さえながらも、ユーシスはふらふらと立ち上がる。

 どうやらARCUSで繋がっていた際の記憶を取り戻したらしい。

 ユーシスは忌々しそうに歯を食いしばり、己が剣を抜いた。

 

「ライ。貴様はさっさと帝都解放の任務に戻れ」

 

 責任を感じているのか、ユーシスは剣を構えたままライに命令する。

 

「1人で戦うつもりか?」

「時間稼ぎくらいならできる。……それに忘れたのか? 貴様には果たさなければならない義務があった筈だ」

 

 ライが果たさなければならない義務。

 力を持つ者として、この事件を打開しなければならない責任。

 ユーシスから指摘された事は忘れていない。だからこそ、ライは──。

 

「そうだな。俺は、俺の果たすべき義務を全うする」

 

 ユーシスの隣に立ち、己が武器を構えた。

 

「……どういうつもりだ、ライ」

「悪いが、現状最も危険なシャドウは奴だ。壁のシャドウは召喚に注力してる影響か個々はあまり強くない」

「だが、それだとテロリストの思い通りになる。分からないのか!? 奴らの狙いは──」

「俺の足止め、だろ?」

「──ッ、分かっているのなら!」

 

 意見を変えようとしないライに対し、苛立ちを露わにするユーシス。

 彼の意見は間違っていない。テロリストがライのARCUSに仕掛けた目的は、VII組最高戦力をその場に留めておく事なのだろう。

 

「分かってたとしても、あのシャドウを無視はできない。……それにユーシス。お前の杞憂は無用だ」

 

 しかし、テロリストと、ついでにユーシスは1つ思い違いをしている。

 

 確かにライは特別な力を持ったペルソナ使いなのだろう。

 だが、今までの事件を解決したのは、何もライ1人の力ではなかった。

 

「VII組なら、きっと俺がいなくてもこの帝都を解放してくれる」

 

 彼らなら大丈夫だ。

 ライはそう確信し、通りに鎮座する巨大な人形へと駆けて行くのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ……一方その頃。

 避難誘導に当たっていたガイウスは、エマの指示のもと帝都の北側へと走っていた。

 

 取り残された住民を見つけたら安全な憲兵隊の元へと案内しつつ、トーマ達家族がいるであろう場所に最短距離で向かっていくガイウス。しかし彼の内心は今も尚、2つの心で揺れ続けていた。

 

(本当に、これで良いのか?)

 

 家族の安全は何としても確保したい。

 しかし、同時にこの危機的状況の帝都も見捨てられないと心が訴えていた。

 今のガイウスでは両者を取ることは難しい。そんなガイウスを追い立てるように、エリオットの通信を介してVII組の報告が飛び交っていた。

 

《オッケー! お願いされてた壁をぶっこわしたよ!》

 

 元気に障壁突破の報告をするミリアム。

 次いで、エマの指示が虚空から聞こえてくる。

 

《ミリアムちゃんはそのまま前進してください! 次にリィンさん! フィーちゃんがいるアルト通りにシャドウが集結しています! 至急応援をお願いします!》

《ああ! 今すぐ向かう!》

《ん、助かる》

 

 彼らは今、全身全霊をかけてシャドウ襲撃に立ち向かっている。

 ガイウスとてそれは同じ筈なのだが、どうしても後ろ髪を引かれる思いに駆られてしまう。

 

 本当にこのまま家族の元へと向かって良いのか。

 今すぐにでもリィン達と合流し、僅かでも手助けをするべきではないのか。

 だが、仮に逆の行動を取ったとて、家族を見殺しにするのかと、同じく後ろ髪を引かれてしまうのだろう。

 

 ノルド高原や家族への愛情。

 ガイウスの根幹を成す想いが今、降ろす事のできない”重石”となってガイウスの心に圧し掛かっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 …………

 

 ……ガイウスは内心の悩みを抱えつつも、トーマ達がいるであろう地区に到着する。

 

 戦火に巻き込まれる可能性は少ないだろうと思われていた地区。

 紙吹雪が地に落ちており、恐らくは盛大に夏至祭が開かれていたであろうこの場所にも、今は混乱と恐怖の悲鳴が木霊していた。

 

 遠方にはやはりシャドウの壁が存在し、再召喚によってまるで津波のようにゆっくりと迫って来ている。

 何も知らない一般市民からしてみれば絶望的な状況だろう。

 事実、周囲の人々はシャドウを見て慌てふためいており、憲兵隊がその対処に追われていた。

 

(トーマ達はどこだ?)

 

 ガイウスは混乱の最中を走り抜けながら、来ているであろう家族の姿を探し求める。

 

 民衆が集まっている広場。

 水路が流れる煉瓦の橋。

 そして、奥の曲がり角に差し掛かった時、ガイウスは道の隅で身を寄せる家族たちの姿を目撃した。

 

「あ、ガイウスあんちゃん!!」

 

 家族の内、最年少のリリがガイウスを見つけて駆け寄ってくる。

 どうやらとても怖かったようで、リリの大きな瞳は涙で滲んでいた。

 ガイウスは抱き着いてくるリリの頭を撫でながら、安心させるために優しく声をかける。

 

「リリ、もう大丈夫だ」

「うぅ……う゛ぅぅ~…………」

 

 頭を撫でられ、唸るように泣くリリ。

 そんな彼女とは対照的に、保護者としてついてきた母親のファトマが落ち着いた声でガイウスに話しかける。

 

「ガイウス、あなたも無事で良かった」

 

 ファトマは母としてガイウスの心配をしていた。

 そして、彼女の後ろには次女のシーダ、次男のトーマ、そして近所の子であるコタンが不安げな視線を向けてきていた。

 

「ガイウスお兄ちゃん。助けに来てくれたの?」

「……ああ、そうだ」

 

 僅かな望みに縋るようにして聞いてくるシーダに対し、ガイウスは一瞬の間をおいて返答する。

 その言葉に安堵するシーダとコタン。

 

 しかし、トーマだけは別の反応を示していた。

 

「……あんちゃん。もしかして、迷ってる?」

 

 まるでガイウスの内心を見透かしているように問いかけるトーマ。

 普段見ない弟の表情を前に、ガイウスは言葉をなくす。

 

「あいつらってさ。ノルド高原であんちゃん達が戦ってた奴らだよね」

「……そうだな」

「だったら、あの時みたいにVII組の皆さんも戦ってるんでしょ?」

 

 そう、トーマ達はあのノルド高原での戦いを目撃していた。

 シャドウに立ち向かうリィンやアリサ達の姿。リリはまだ理解できていなかったようだが、トーマはその危険性を十全に理解していたのだ。

 

「あんちゃんは戦わなくっていいの?」

「俺は……」

 

 答えに迷い、目を伏せるガイウス。

 それを見たトーマは、兄が迷っている理由にたどり着く。

 

「……あんちゃんが迷ってるのって、僕たちが、原因なのかな」

「それは違う」

「違わないって。僕らがいるから、あんちゃんは動けないんでしょ」

 

 トーマは壁に立てかけてあった鉄の棒を拾い上げる。

 そして1回転させると、まるで槍を持つかの如く両手で構えた。

 

「行って、あんちゃん……」

 

 それは、覚悟を決めた弟の言葉だった。

 

「僕だってノルドの民の一員だよ。……まだ、あんちゃんほど上手じゃないけど、それでも皆は守るくらいなら!」

 

 ガイウスを前に威勢を張るトーマ。

 その手は震えており、シャドウに立ち向かうには力不足である事は本人も分かっている。

 それでも兄の迷いを消し去るため、トーマは虚勢を止めはしない。

 

「だから行って! あんちゃんが背負っているもの半分は、僕が背負うから!!」

 

 その意志は、確かにガイウスの元へと届くのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ──ガイウスは今、迫りくるシャドウの壁へと全速力で走っていた。

 片手に握った槍に迷いは一片もなく、正確に敵の方へと槍先を向けている。

 

 そして、もう片手にあるのは通信を起動させたARCUS。

 スピーカーからは戦闘音と共に、ライの声が聞こえてくる。

 

『どうした?』

「ライよ、1つ頼みがある」

 

 ガイウスはライに向け願いを告げる。

 

『……大丈夫か?』

 

 それを聞いたライから確認の言葉。

 何やら心配しているようだが、ガイウスには最早不要な心配だ。

 ガイウスは笑みを浮かべ、ライに対しこう答えた。

 

「案ずるな。──俺は既に、答えを得た」

 

 光を放つARCUS。

 ライが持つ《鍵》の力を介し、2人は再び繋がった。

 

 

 ──

 ────

 

 

 光に包まれる視界。

 気がつくと、ガイウスは白き世界に足を踏み入れていた。

 

 地と空の境界すらもあやふやな世界。

 その中で、途方もなく巨大な扉の向こう側をガイウスは見つめる。

 

『ああ、重い……。重い、なぁ…………』

 

 そこに存在していたのは、巨大な岩に押し潰されたもう1人のガイウスだ。

 巨岩には人の像が彫られており、トーマやリリといった家族の姿が象られている。

 

 ……まるで、彼らこそガイウスを苦しめている原因だとでも言わんばかりに。

 

『何故、何故こんな重荷を背負わなければならない……。ノルドの未来など、俺の肩には重すぎる』

 

 もう1人のガイウスは心底恨めしい表情で重石を睨みつける。

 その眼には、故郷や家族への愛など何も意味をなさない程の、深い怨みが満ち溢れていた。

 

「……それは、俺が決めた道の筈だ」

『だからどうした。誰が決めたからと言って重さが変わる訳じゃない。彼らが負担になっているは、紛れもない……事実、なんだ……』

 

 今にも圧死しそうな状況で、もう1人のガイウスは苦しげに声を絞り出す。

 

『いっそ、ノルド高原など戦争でなくなってしまえばいい。そうすれば俺は……この重荷から解き放たれる』

 

 故郷の破滅を願うもう1人のガイウス。

 それを見たガイウスの手は、いつの間にか固く握りしめられていた。

 

 ……そう、これこそかつて、ガイウスが否定してしまった影だ。

 自らが選んだ道である筈なのに、勝手にそれを負担に感じ、果ては逃れたいと考えてしまう自暴自棄な心。

 あまりに身勝手な感情だ。正当性など何処にもない。

 

 だが、今のガイウスは、以前とは異なる答えをその身に宿していた。

 

「……そうだな。お前の言う通り、俺は負担に感じていたのかも知れない」

 

 ノルド高原では知る事の出来ない外の世界を知ることで、1人ノルド高原に迫る脅威に備えようとしたガイウス。

 前回の特別実習を終えた後は、より現実味を増した脅威に対処するため、過去の事例を死に物狂いで探し回っていた。

 そこに重荷を感じなかったかと言えば、ないと断言する事は難しい。

 

「だが、それは重くて当然だ。愛する故郷、失いたくない家族……。それらが俺にとって大切であればある程、この身にかかる重さは増していくのだからな」

 

 ならば、ガイウスにとって必要だったのは、負担である事実を受け入れる事だった。

 負担や重荷になっている事を否定するのではなく、それ自体をあるべきものとして歓迎する。

 

 かつて早朝の教会にてライが言っていた「重いだけだ」という言葉は、ある意味真に迫っていたと言えるだろう。

 

『ならば、この重荷はどうすればいい……! 重い……重いんだ。このままだといずれ、潰されてしまう……』

「重さを分け合えばいい。幸い俺は、友人や家族には恵まれている」

 

 家族の元に連れていく為に行動してくれたクラスメイト達。

 先のトーマやノルド高原にいる父ラカンだって、ガイウスの重荷を分かち合おうとしてくれていた。

 

 1人では押し潰されてしまう重荷でも分かち合えば支え切れる。

 ガイウスはそれを証明すべく、もう1人のガイウスを押し潰そうとする巨岩の下に手をかけ、全力で持ち上げた。

 僅かながら隙間ができる巨岩。

 苦痛が薄れたもう1人のガイウスは、地に伏したままガイウスを見上げる。

 

「俺よ。この重荷を共に背負おう」

 

 ガイウスから伸ばされる手。

 それにもう1人のガイウスが応じた時、世界に再び光が満ち溢れる。

 

 

 ──自分自身と向き合える強い心が、”力"へと変わる…………。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 帝都の街中へと戻って来たガイウス。

 前方から迫りくるシャドウの波を前にして、彼は片手を前に伸ばす。

 

「飛び立て、──フレスベルグ!」

 

 刹那、ガイウスの後方から巨大な白き翼が広がった。

 現れたのは雄大な翼を生やした鳥人。人の箇所は薄い布のようなシルエットになっており、表面にはノルドの文様が描かれている。

 

 背後に召喚された隠者《フレスベルグ》はガイウスの体を包むようにして両手を回す。

 

 ガイウスと一体化したその姿はまるで聖職者や賢者の衣。

 翼を得たガイウスは地を蹴り、雪崩れ込むシャドウの上空へと飛翔した。

 

「風よ、薙ぎ払え!」

 

 フレスベルグの翼が一際大きく振るわれる。

 

 ──全体疾風魔法(マハガルーラ)

 発生した緑色の暴風がまるで嵐のように荒れ狂い、シャドウの波を丸ごと飲み込んだ。

 辺り一帯で蒸発する黒い液体。シャドウだった残骸をその眼に収めたガイウスは、帝都の上空で滞空しながら周囲を見渡す。

 

(この場は押さえた。ならば次の一手は……)

 

 一番近い戦場はガイウスのいる地点から東、マキアスがいるであろう場所だ。

 微かに聞こえてくる銃撃音。その位置を目視で確認したガイウスは、大きな翼をはためかせ、重力という名の重石から解き放たれたかの如く空を駆けた。

 

 空の冷たい風が体を横切る。

 下方の景色はまるで流れるように後方へと流れ、地上を走るマキアスの姿をその眼に捉えた。

 急降下するガイウス。その姿を見たマキアスは口を開けて驚く。

 

「な、なっ、ガイウス!? 何だねその翼は!?」

「これは俺のペルソナだ。それよりマキアスよ。遠距離射撃の心得は持っているか?」

「射撃? まあ、大型導力ライフルなどを扱った事はあるが……」

 

 ガイウスの問いを疑問に思うマキアス。

 だが、フレスベルグの翼を改めて見た事で、すぐにその意図を理解した。

 

「──なるほどそう言う事か。ああ問題ない。狙撃手の役目ならば任せたまえ!」

「では行くぞ」

 

 ガイウスはマキアスの体を抱え、そのまま上空へと急上昇する。

 

 低層の雲を超えて、更にその上へ。

 建物が小さく見える高度に達したガイウス達は、地上からはまず不可能な数のシャドウを一望できた。

 そんな彼らの耳に、クレアの声が木霊する。

 

《高高度からの狙撃ですか。ならば、射弾の補正計算は私にお任せを。マキアスさんは狙撃に集中してください》

「はい!」

 

 足場となるガイウス。

 観測手を引き受けたクレア。

 そして、狙撃手として、フォルセティを召喚するマキアス。

 

 狙撃に必要な3要素はここに揃った。

 フォルセティの周囲に出現する光弾。それらは正確な軌道を描き、遥か下方に存在するシャドウの群れを殲滅する。

 

 ──アイオンの雨。

 地上のシャドウからは正しく天からの攻撃にほかならず。

 成すすべもなく、一方的に消されていった。

 

 高々とそびえる壁を、更なる高みから叩き潰す。

 帝都の解放を賭けた戦いは今、ペルソナ使い達の方へと大きく傾くのであった。

 

 

 




魔術師:ザントマン
耐性:疾風耐性、電撃弱点
スキル:ドルミナー、ドルミンラッシュ、睡眠率UP
 ドイツの民間伝承に登場する睡魔。眠気を誘う魔法の砂が入った袋を背負っており、人の目に砂を投げ込んで眠らせるという。夜更かしをする子供を窘める習慣としても使われていた。

正義:パワー
耐性:祝福無効、火炎耐性、電撃・呪怨弱点
スキル:電光石火、ハマオン、スクカジャ
 キリスト教における能天使、別名エクスシア。天使の階級(ヒエラルキア)において第6位に位置している。最初に生み出された天使だと言われており、神の掟を正しく実行し、地獄の悪魔達との戦いにおいても最前線で戦う役目を負っている。

隠者:フレスベルグ
耐性:疾風耐性、火炎弱点
スキル:ガルーラ、マハガルーラ、アサルトダイブ、疾風ブースタ、火炎見切り
 北欧神話に登場する鷲の形をした巨人。ユグドラシルの頂き、天の北端から世界を見渡しており、フレスベルグが広げた翼から全ての風が生まれると言われている。

隠者(ガイウス)
 そのアルカナが示すは思慮や崩壊。正位置では思慮深さや思いやりを表すが、逆位置になると閉鎖性や悲観的な要素となってしまう。描かれているのは杖を携えた老人。反対の手には灯りを持っており、今だ旅を続ける後輩に向け、先人の導きを与えているとされている。ガイウスの学びもまた、いずれはノルドの人々を導く灯となる事だろう。


絶縁テープ(軌跡シリーズ)
 感電による導力魔法の使用不可状態(封魔)を直すために使用されるテープ。
 状態異常を治すアイテムを一通り揃えておく事は、実際大切。


────────
ガイウスの影を考えるのが個人的に1番難しかったです。
なんせ、寛容さが高すぎて普通に受け入れそうなんですもの、彼。

後、ペルソナ5に登場した真と双葉のペルソナはある意味革命だったと思います。
バイクになったり、UFOになって中に入れたり、一応人要素がある事は辛うじて残していますが、ペルソナの在り方についてより自由になったのは間違いない筈。


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